CRYSTAL GATE

  -The Goddess of Light-

 

 

 第二夜 ルシとマギ 10

 

 

 

――――シンドリア・白洋塔

 

「………………」

 

これ以上ない位 難しい顔をしたシンドバッドが、顎の下で腕を組み考え込んでいた

目の前に積み重なった書類には、一切目もくれずに唸っている

 

なんとなく…その内容が手に取る様に分かり、ジャーファルはあえて聞かずに、政務を続けていた

 

見て見ぬ振り

とも言う

 

だが、「どうしました?シン」などと聞いたが最後、つらつらとシンドバッドのうっぷん晴らしに付き合わされるのは目に見えていた

そうなれば、政務は停止間違いなし

仕事は溜まり、政務に支障が生じるのは火を見るよりも明らかだった

 

今の所、シンドバッドの仕事自体はそこまで遅れていない

これもそれも、昨晩エリスティアと会話出来た事が大きい

お陰で、今日は政務が滞りなく進める事が出来た…が

 

それとは裏腹に、エリスティアの反応から何かを感じ取ったのか…

シンドバッドは暇さえあれば考え込んでいた

 

だが、あえてそこで誰も「どうしたんですか?」と聞かないのは、ジャーファルと同じ理由だろう

シンドバッドの考えている事など、分かりきっている

特に、昨日その場に居たジャーファルとヤムライハには手に取る様に分かった

 

あの時の、エリスティアの明らかな挙動不審な反応

あれをみて、不審に思わない筈が無い

 

彼女は、明らかに何かを隠していた

それは、シンドバッドでなくともピンときた

 

問題は、隠し事…というよりも、あのシンドバッド第一のエリスティアが、シンドバッドに隠し事をしていた という事実なのだ

 

彼女の中で、シンドバッドは唯一無二の存在の筈である

一にも、二にもシンドバッドを優先する彼女が、まさかそのシンドバッドに隠し事する事が今まであっただろうか…いや、ない

 

少なくとも、ジャーファルが二人に初めて会った時から、一度だって無かった筈だ

 

そのエリスティアが、隠し事…ただ事ではないのは明らかだった

しかも、隠すという事は、イコール「知られたくな事」であり、あのエリスティアがシンドバッドに「知られたくない事」と言ったら考えられるのは……

 

「……………」

 

まさか、エリスに限って…あり得ませんよね

 

あのエリスティアだ

シンドバッド第一のエリスティアだ

 

そのエリスティアが、まさかシンドバッド以外の――――……

 

「………………」

 

いやいやいや、そんな筈…!

 

だが、ジャーファルが気付いている時点で、シンドバッドがこの可能性に気付いていない筈が無い

勿論、ヤムライハもだ

彼女は、エリスティアの友人でもある

きっと、この疑問に気付いている筈だ

 

だからなのか

今日は、彼女は黒秤塔から一歩も外に出てこない

恐らく、シンドバッドから追及されたら誤魔化しきれないからだろう

 

ジャーファルは、政務の関係上 執務室に篭る訳にもいかず…

こうして、シンドバッドの側にも何度も足を運ぶ羽目になっている

 

が…何度見てもシンドバッドは顎の下で手を組んで考え込んでいた

 

「……………シン」

 

そろそろ、観念して話し掛けるべきか…

いい加減、話を進めないと政務に支障をきたしてしまう

 

ジャーファルは、はぁぁぁぁぁ~~~~と重い溜息を付きながら、観念した様にシンドバッドに向き直った

 

「ああ、もう!いい加減にして下さい、シン!昨夜の件が気になるのは分かりますが――――」

 

そこまで言い掛けた時だった

突然シンドバッドが、至極低い声で「―――ジャーファル」とだけ呟いた

その声が、あまりにも覇気がなくジャーファルが思わずたじろぐ

 

「な、なんですか?」

 

瞬間、シンドバッドが「はぁぁぁ~」と溜息を付いた

 

「どう思った?」

 

「は?」

 

一瞬、何が?と問いそうになり、思わず息を飲みこむ

 

「どうとは……昨夜のエリスですか?」

 

“エリス”という言葉に、ぴくりとシンドバッドが反応する

それから、エリスティアがいつもいるであろう政務机の斜め前を見る

 

エリスティアがシンドリアにいた時、いつもこの位置に立ってシンドバッドにお茶を淹れてくれていた

そうして、にっこり笑って「シン」と呼んでくれるのだ

 

そのエリスティアがいなくなって、早3か月

てっきり、目的も達して戻ってくると思いきや、まだ帰れないと言う

 

なんでも、煌帝国で世話になった人に礼をしたいとかなんとか…

だが、どうにもエリスティアの反応がおかしい

 

とてもじゃないが、それだけには思えなかった

あれはまるで……

 

「男…が、関係しているんじゃないのか?」

 

「はい?」

 

突然の言葉に、ジャーファルが素っ頓狂な声を上げる

 

「だから、昨日のエリスだ!あれには、男の影があると俺の勘が言っている!!!」

 

「はぁ……」

 

ジャーファルは、驚くでもなく呆れた様に、生半可な返事をした

そのジャーファルの反応に、シンドバッドがダンッと政務机を叩いた

 

「ジャーファルは何とも思わなかったのか!?」

 

「思いましたけど…あえて、黙っていました」

 

と、あっさり答えるジャーファルにシンドバッドがぷるぷると震えだす

そして、いきなり腰の剣を構えると

 

 

「この身に宿れ、バア―――― 「ちょっとぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

 

いきなり、バアルの全身魔装をしようとしたシンドバッドをジャーファルが慌てて止めに入る

 

「何やってるんですかぁ!!貴方は!!!」

 

「離せ、ジャーファル!!俺は、エリスに言い寄っている男を粉砕しに行く!!!」

 

「あんた!自分の事棚に上げて何言ってるんですかぁ!!!」

 

散々、女遊びをしているシンドバッドに対し、エリスティアがちょっと男と仲良くするとこれだ

この人は、本当にエリスティアの事に対してだけは、心が狭い!!

 

と、ジャーファルが思ったのは言うまでもない

 

「とにかく、落ち着いて下さい!!!」

 

「む……」

 

何とか、全身魔装して今にも飛んでいきそうなのを抑え込むと、ジャーファルは、はぁ…と息を吐いた

 

「とりあえず、男の影があるかどうかはまだ確定した訳ではありません。そう焦らないで下さい」

 

「しかしだな……」

 

「とーにーかーく!貴方は一国の王なのですよ!?もっと、冷静になって下さい!!」

 

ジャーファルに諌められ、シンドバッドが不服そうに顔を顰めた

はぁ…と、またジャーファルが溜息を付く

 

「とりあえず、その件に関しては調べてみますから…シンは少し大人しくしていて下さい」

 

「……納得いかん」

 

「………………」

 

ジャーファルは、また何度目か分からない溜息を付くと、トン…と、シンドバッドの前に水晶石を置いた

それを見たシンドバッドが、バッと顔を上げる

 

「今日もいいのか?」

 

「仕方ありません。ただし、少しだけですよ?もう、夜も遅いですし…ヤムライハを呼んできます。今日はそれで我慢して下さい」

 

それだけ言うと、ジャーファルはヤムライハを呼びに行ったのだった

シンドバッドはただ、じっとその水晶石を見つめていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      ◆      ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――東の平原・煌帝国陣内

 

練 白瑛は、目の前でお茶を飲む少年をじっと見つめていた

不思議な少年だった

 

突然、空から現れやって来た

空飛ぶ布

 

あれは紛れもなく……

 

「君は、あの村の子供ではないのですか?」

 

白瑛の問いに、少年―――アラジンはにっこりと微笑みながら

 

「そうだよ。旅人だからね」

 

やはり――――

 

ますます、白瑛の中で“核心“が強くなる

白瑛は、アラジンを警戒させない様に、そっと話を持ち出した

 

「先程の…不思議な布ですね」

 

「これ?いいでしょ!僕のお腹の力をあげるとゆっくりだけど飛べるんだよ」

 

「……………」

 

お腹の力……

それが、何を意味するのか

少なくとも、普通の布ではないのは確かだった

 

間違いない

 

白瑛はじっと、その布を見つめた後、核心めいた様に口を開いた

 

「それは“迷宮道具(ダンジョンアイテム)”ですね?」

 

迷宮道具(ダンジョンアイテム)?」

 

その言葉に、一瞬アラジンがきょとんっとした様に目を瞬かせる

白瑛は、小さく頷くと

 

「我が国にもいくつか存在する魔法の道具です。天を駆け、大地を穿つ。人知を超えた力を宿す不思議な道具。そして、それが手に入るのは―――“迷宮(ダンジョン)”から生還した者のみ」

 

まさか…と思う

だが、それ以外に考えられなかった

迷宮道具(ダンジョンアイテム)”を持っているという事は――――

 

「まさか…君の様な幼子が、“迷宮(ダンジョン)”でそれを手に入れたと……?」

 

だが、白瑛の考える“答え”とは反対に、アラジンは小さく首を横に振った

 

「ううん、違うよ。これはもとから持っていたものだよ」

 

「え………?」

 

もとから……?

 

「“がんじょうな部屋”を出る時から持ってるんだ」

 

「それは……“迷宮(ダンジョン)”ですか?」

 

「さぁ―……分からないよ」

 

それは、どういう事だろうか……?

白瑛には、考えがまるで及ばない話をされている様で、理解出来なかった

 

不思議な少年……

君は、一体………

 

「おねえさんこそ、誰だい?」

 

「え?」

 

「“軍”の“将軍”さんなのかい?あの村を“侵略”する人なのかい?」

 

「……………」

 

「もし、そうならやめて欲しいんだ。おばあちゃんが泣いてしまうよ。僕に“家族”を教えてくれた、大好きなとってもいい人達なんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「殺さないで」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………っ」

 

アラジンのその言葉に、白瑛は息を飲んだ

何処までも真っ直ぐで真実を見ぬく様な瞳――――

 

この少年に、嘘はいけない

 

そう思った

 

白瑛は、すっと拱手の構えを取ると、真っ直ぐにアラジンを見据え

 

「殺しなどしません。決して」

 

アラジンが大きく目を見開く

白瑛は、真っ直ぐにアラジンを見たまま真実のみを告げる様に、自身の思いを口にした

 

「安心して下さい、少年。これは侵略戦争ではありません。今、世界はとある異変が起き、危険と戦に満ちています。……私は、正しい力と心で世界を一つにまとめ……誰も死なぬ世の中を作りたいのです……っ。どうか、信じて下さい!」

 

瞬間、アラジンは白瑛の周りに満ち溢れるルフを見た

真っ直ぐで真っ白な、純粋なルフを―――――

 

それだけで、アラジンには十分だった

 

アラジンは嬉しそうに微笑むと

 

「おねえさんのまわりのルフは、痛い程迷いが無いね」

 

「え……?」

 

「分かたよ、おばあちゃん達に話してみるね」

 

それだけ言うと、アラジンは瞬く間に空飛ぶ布を広げ上空に飛び上がった

 

突然の出来事に、白瑛が声を失った様にその瞳を瞬きさせる

 

「またね!僕、おねえさん事凄く気になるから…また会えると思うんだ!」

 

それだけ言うと、アラジンはそのまま東の方へ飛んで行ってしまった

白瑛は、その様子をただ見送る事しか出来なかった

だが、その口元には微かに笑みが浮かんでいた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      ◆      ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――煌帝国・禁城

 

練 紅覇は、自室の寝台でごろごろと考え事をしながら転がっていた

 

先程の、紅炎の反応

紅覇の「何か、楽しい事ありました?」という問いに、返って来た反応

 

あんなに柔らかく微笑む紅炎など見た事など、生まれてこの方一度だってなかった

誰が、紅炎にあんな顔をさせているのだろう…

 

紅覇の興味はその相手に向いていた

 

「ねぇ…3人はどう思う?」

 

と、お付の侍女の麗々、純々、仁々に問う

3人は顔を見合わせると

 

「やはり、女性ではないかと…私は思います」

 

「や、やややや、やっぱりそうなのでしょうか!!?」

 

「紅炎様に想い人発覚……」

 

麗々の言葉に、純々と仁々も頷く

純々などは、それはもう興奮気味に鼻息荒く叫んだ

 

「3人はそう思うんだ?」

 

3人の答えに、紅覇はうーんと、唸った

すると、麗々が少しだけ首を傾げながら

 

「紅覇様は、そうは思われないのですか?」

 

麗々の問いに、紅覇が「え?」と答える

それから、「うーん」と少し考え

 

「僕も、女じゃないかと思うんだよねぇ~やっぱり」

 

「ですよね~~ですよねぇ~~~!!!や、ややややっぱり紅炎様に想い人が……!!」

 

と、興奮気味の純々に紅覇も乗って来るように

 

「やっぱり、そう思うよね!たださ、相手はまがりにも炎兄だよ?あの炎兄が惚れる相手ってどんな人だろうって思うじゃん?」

 

「はい~~~!すっごく気になりますー!!!」

 

興奮気味の純々とは裏腹に至極冷静に、仁々が一言

 

「多分、すっごい美人……」

 

仁々の言葉に、紅覇もうんうんと頷く

 

「そうだよね、やっぱり炎兄に相応しい人って言ったら、まずは容姿は重要だよね!」

 

「後、性格もいい……」

 

「それもあるねぇ~悪女は、あの女だけで十分だしー」

 

「頭もいい」

 

「うんうん、やっぱり炎兄の相手なら知識も重要だよね!」

 

「後々、すっごくいい人なんだと思います~~~~~~」

 

と、純々が割って入ってくる

その言葉に、紅覇がぷはっと吹き出した

 

「美人で、性格もよくて、頭もよくて、凄くいい人? どんな仙女だよー」

 

「でも、それ位の人なら皆も納得するのでは?」

 

麗々の言葉はもっともだ

そこまで3拍子揃っていれば、誰もが納得するだろう

 

だが、そんなのでは無い様な気がした

 

「確かに、それも大事だけど―――やっぱり、炎兄を一番に想ってくれる人なら僕は良いかなー?」

 

一体、何処の姫があの炎帝の心を射止めたのだろうか

 

「会ってみたいなぁ……」

 

紅覇が彼女を会うまで、後もう少し―――――………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、話が少しづつ進みますよー

つか、シンドバッドにばれてるwwww

 

後、紅覇ってピンだと動かしやすいなーうん 

 

2013/11/28