CRYSTAL GATE

  -The Goddess of Light-

 

 

 第一夜 創世の魔法使い 8 

 

 

第七迷宮 「アモン」

 

10年もの間、挑戦者をすべて退けてきた難攻不落の迷宮ダンジョン

それが、今、エリスティア達の目の前にそびえ建っていた

 

ゆっくりと、ここまで乗せて来てくれた“ウーゴくん”から降りると、アモンの入り口となる鏡のような膜の前に立った

 

アリババは、一度だけ夜の中光を灯すチーシャンの街並みを見た

そして、小さく息を吐く

 

「アモンの入り口だ…とうとう来ちまった」

 

そう言って、一瞬だけその膜に手を伸ばすが

直ぐに、その動きを止めた

 

「これが、アモンの聖門なのね」

 

不意に、横からエリスティアが一歩前に出た

 

「エリス?」

 

聴きなれない言葉に、アリババが首を傾げる

 

「“聖門“。 各迷宮ダンジョンに必ず一つだけあると言われている入り口の事をそう呼ぶの。 大体、どの迷宮ダンジョンも同じで、半円柱形のゲートに黄金色に発光する薄い粘膜の様なものが張られているのよ」

 

そう言って、エリスティアが聖門に手をかざした

瞬間、ふわりとその膜が波紋の様に波打つ

 

「どうするの?アリババくん。行くの?」

 

エリスティアの言葉に、アリババは一度だけ息を飲んだ

 

「指一本でも触れたら最後、迷宮に引きずり込まれるわ。そして、殆どの者は帰ってこない……。まさに、死への入り口ね」

 

「ああ…分かってる」

 

アリババは、そんな事百も承知だった

だが、迷宮ダンジョンに入ると決めたのだ

今更、引き返せない

 

それに、今はアラジンやエリスティアもいる

1人ではない

 

「エリス! 俺は―――――」

 

「入る前に、一つだけ良いかしら」

 

アリババが決意の表明をしようとした時、急にエリスティアが話の腰を折った

突然折られたアリババは、一瞬言葉を飲む

 

「な、なんだよ…急に――――「勘違いさせている様だから訂正しておくけれど、私迷宮ダンジョン攻略者じゃないから」

 

 

 

……………

……………

……………………

「…………………………は?」

 

 

突然のエリスティアの告白に、アリババが一瞬その動きを止めた

 

今、彼女は何と言ったか…

 

ダンジョンコウリャクシャ じゃない……????

 

………………

………………

………………

 

 

 

「はあああああああああああ!!!!?」

 

 

 

まさかの、エリスティアからの告白にアリババが素っ頓狂な声を上げた

アリババが、手をバタつかせながら慌てた様に叫びだす

 

「え? ええ!? だっ…だだだだだって、お前…っ、迷宮ダンジョン入ったことあるっぽい事言ってたじゃないか!!?」

 

「それは、間違っていないもの」

 

エリスティアが、しごく当たり前の様に答えた

 

「だったら……っ!!」

 

「ストップ」

 

更に言い募ろうとしたアリババを、エリスティアが手で制す

 

「落ち着いて聞いて欲しいの」

 

エリスティアの言葉に、アリババが一瞬黙り込む

エリスティアは小さく息を吐くと、少しだけ頭を下げた

 

「勘違いさせてしまった事に関しては、ごめんなさい。 でも、嘘は言っていないわ。 私は確かに何度も迷宮ダンジョンに入った事があるの。 でも、攻略者となったのは私の連れであって、私じゃないのよ」

 

「つ、連れ……?」

 

「そう――――私達は、“彼”と一緒に攻略……ううん、冒険を楽しんでいただけであって、その過程で “彼”が攻略者としてジンの金属器に選ばれていたに過ぎない

 

「彼……?」

 

「そう、“彼”」

 

そう言って、エリスティアはにっこりと微笑んだ

じゃぁ、エリスのその連れってやつはジンの……あれ?

 

そこまで考えて、アリババはふとある事に気が付いた

エリスティアは何と言ったか……

 

“何度も迷宮ダンジョンに入った”

 

そう言わなかっただろうか……

 

まてよ……それってつまり……

 

「エリス…1つ良いか…」

 

アリババの問いに、エリスティアがにっこりと微笑む

 

「どうぞ、答えられる範囲でならば答えるわ」

 

「……お前、その“彼”ってやつと何度迷宮ダンジョンに入ったんだ……?」

 

アリババの問いに、エリスティアが一瞬だけそのアクアマリンの瞳を大きく見開いた

が、次の瞬間 にっこりと微笑むと

 

「そうね……7回…かしら。8度目は弾かれてしまったから入れなかったもの」

 

7回……

 

つまり、その男は7人のジンを従えているという事だ

その男にアリババは心当たりがあった

 

いや、アリババでなくとも気付くだろう

 

7人のジンを従えている、世界に3人しかいないとされる複数攻略者であり

初めて出現した第一の迷宮 「バアル」を攻略したと言われている、“伝説の迷宮ダンジョン攻略者”

“七海の覇王”と呼ばれ“七海連合”を束ねるシンドリア国国王

 

その名は――――……

 

「シン―――――」

 

その名を口にしようとした瞬間、エリスティアの手が伸びてきてアリババの口を指で押さえた

 

「その名は口にしないで。どこで誰が聴いているか分からないもの」

 

そう言って、自身の口にも人差し指を当てる

慌てて、アリババが自分の口を塞いだ

そして、辺りをきょろきょろと見回す

 

見る限り、エリスティアやアラジン以外は誰もいなかった

その事に、ほっとすると同時にエリスティアに詰め寄った

 

「お、脅すなよ!誰かいるのかと思ったじゃないか」

 

アリババの言葉に、エリスティアは一度だけそのアクアマリンの瞳を瞬かせた後、にっこりと微笑んだ

 

「あら、そんなの分からないじゃない。世の中には色々な迷宮道具ダンジョンアイテムだってあるのよ?」

 

エリスティアの最もな意見に、アリババがうっ…と口籠る

アリババは、もう一度辺りを見渡した後、今度は声を小さくして

 

「つ、つまり、エリスはあの人の関係者…なのか?」

 

アリババの問いに、一瞬エリスティアは動きが止まる

そして、少し悩む様に首を傾げた後

 

「ただの知り合い」

 

と、きっぱりと言い切った

 

エリスティアのその不自然な答えに、アリババが首を傾げる

 

「え?いや、でも、お前…一緒に冒険したって……」

 

7回という事は、最初の迷宮ダンジョンから同行していた事になる

なのに、「ただの知り合い」としか言い切るのは変ではないだろうか

 

すると、エリスティアは少しだけそのストロベリーブロンドの髪を押さえながら

 

「そうねぇ……なら、一応、関係者で」

 

「一応ってなんだよ!!」

 

思わず、アリババの鋭いツッコミが入った

 

「もー細かいことはいいじゃない。とにかく、諸々の事情があって私、彼のいない所では基本的に力は使ってはいけないの。そういう誓約・・があるから」

 

「は?」

 

また、訳の分からない事を言われた

 

誓約?

誓約ってなんだ?

 

「どちらにせよ、今は制御装置付けているから殆ど力は出せないのだけれど……」

 

そう言って、スッと手や首元を見せた

エリスティアの手や首には腕輪や指輪、チョーカーなど5つの装飾品が付けられていた

そして、その装飾にはどれも宝石の様な石が埋め込まれており5つの色を示している

 

「なんでそんなもの……」

 

仮にも、エリスティアはあの人の関係者だというのに

何故、制御装置などつける意味があるのだろうか

まさか、あの人が無理矢理付けさせているのだろうか

 

今まで、あの人に抱いて来たイメージという物から それは酷く外れた物だった

だが、それを読み取った様にエリスティアが口を開いた

 

「勘違いしないで欲しいのだけれど、これは彼が私を守る為にジンの力で付けてくれた物だから。無理矢理とか、そういうものじゃないのよ」

 

一瞬、心を読まれたかと思いドキッとする

だが、エリスティアはアリババのそんな心境を知ってか知らずか、にっこりと微笑んだ

 

「ごめんなさい、色々と話せない事があって」

 

誰しも事情はある

アリババだって、アラジンにもエリスティアにも話せていない事がある

それは、お互い様だ

 

そう思うと、心がすっと軽くなった気がした

アリババは、小さく息を吐くと、ニッと笑って見せた

 

「分かったよ、あまり深く聞かくのは止めるよ。無理矢理じゃないんなら、それでいいさ」

 

「ありがとう、そう言ってもらえると助かるわ」

 

そう言って、エリスティアはにっこりと微笑んだ

そして、「あ…」と言葉を洩らした後

 

「つまり、何が言いたいかというとね。一緒に迷宮ダンジョンに入っても勝手に力使えないし、制御装置もあるからアドバイス程度しか出来ないのよ。だから、あまり手助けにはならないわ。だから――――……」

 

付いて行っても無意味―――……

 

そう言おうとしたが、その言葉はアリババによって遮られた

 

「関係ねえよ!1人でも居た方が心強いし、いざって時は経験者のアドバイスとかって重要だろ?だから、エリスも一緒に行こうぜ!な、アラジン!」

 

そう言って、エリスティアに手を伸ばすのと同時に、アラジンに同意を求める様に後ろを振りかえった瞬間―――――……

 

アラジンの小さな体がぐらりと揺れた

 

「アラジン……!」

 

慌てて、エリスティアがアラジンの手を掴む

が、それは止まらず――――……

 

そのまま、アリババの身体にアラジンがもたれ掛った瞬間――――

 

 

 

パァァァァァァ

 

 

 

と、聖門が光りだした

 

「え“!?」

 

ぎょっとしたのは、アリババだった

アラジンが倒れてきた瞬間、アリババの手が聖門の膜に触れていたのだ

 

そこから、一気に黄金色の光が眩い位光りだす

 

引きずり込まれる……っ!!

 

そう思った瞬間、3人の身体はそのままアモンの中へ吸い込まれていった――――……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      ◆      ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1人の男がゆっくりとアモンの聖門へと続く階段を昇っていた

腰には剣を下げ、頭にはターバンを巻いている

 

すると、階段の下の方から叫び声が聴こえてきた

 

「領主自ら迷宮ダンジョンへ足を踏み入れるなど……っ!どうか、お考え直し下さい!!ジャミル様!!」

 

ジャミルと呼ばれた男は一度だけ振り返ると、階段の下で心配そうに叫ぶ初老の男の顔を見た

何かを世話を焼いてくる部下の1人だ

 

だが、再び聖門を見上げると

 

「僕はね、ずっと待っていたんだよ―――――“彼”を」

 

そう言って、アモンの塔を見上げる

その口元に細く笑みを浮かべると

 

「やっと…上を目指す時が来た…」

 

「………?」

 

ジャミルが何を言っているのか分からず、初老の男が首を傾げる

だが、ジャミルはもう振り返る事はなかった

 

そして、ゆっくりと聖門へ手を伸ばしたのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれ……( ;・∀・)

アモンに入っただけで終わったよwww

すみません……

予想外に、色々話しちゃった うちの夢主ww

でも、殆ど話してませんけどねー

 

後、今回少し短いです

と言いますのも、キリが悪くて……(-_-;)

ここで迷宮内の話に入ると区切れなくなりそだったんだもん

なので、ジャミル登場で終了ッス

 

2013/06/01