CRYSTAL GATE

  -The Goddess of Light-

 

 

 第一夜 創世の魔法使い 7 

 

 

リイダとエリスティアが砂漠ヒヤシンスに呑みこまれた瞬間、アリババの頭の中が真っ白になった

その場に、力なく崩れ落ちる

 

うそ…だろ……

 

砂漠ヒヤシンスは、肉食植物だ

早く助けなければ2人は“やつ・・”に吸収されてしまう

 

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

リイダの母親が悲壮な叫びが木霊した

母親は身を乗り出し、砂漠ヒヤシンスの方へ行こうとした

それを必死に商隊キャラバンの連中が止る

 

「危ない!!それ以上は……っ!!」

 

 

「リイダ!リイダァァァァァァァァァ!!!!」

 

 

母親が必死に手を伸ばすも、商隊キャラバンの男達が何とか押し留める様に母親を捕まえていた

アリババは、混乱する頭を整理するだけで精一杯だった

 

誰か……

 

助けなければいけない

それは分かっている

 

でも、アリババには“それ”をする勇気がなかった

 

誰か助けろよ……

 

 

「おい、早く酒を運べ!」

 

 

ブーデルの手が、小刻みに震えるアリババの肩に置かれた

 

エリスティアは迷宮ダンジョン攻略者だ

それに、先程も魔法の様なものを使っていた

 

きっと、自力で何とかできる筈だ

 

そう必死に自分に言い聞かせる

 

 

「行かせて!行かせてぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 

「無理だ!!諦めるんだ!!」

 

 

母親の叫び声と、それを止める商隊キャラバンの男達の声がやけに耳に響く

アリババは、目の前で砂漠ヒヤシンスの触手に抵抗しながら、少女を必死に守ろうとしているエリスティアを見たまま動けなかった

 

エリスなら、大丈夫だ

そうだよ、エリスなら……

 

きっと、自力で脱出してくる

 

そう思おうとした

 

だが、エリスティアは抵抗する様にもがくだけだった

 

「やつはエサ・・を食ってる間は動かん!!今のうちに、酒を逃がすぞ!!」

 

 

「お願いです!行かせてください…っ!!」

 

 

母親の悲痛な叫びが響いた

 

「行かせるなよ!勝手に死なれたら賠償金がかさむ!」

 

 

なんで……

どうして、金属器を使わない……っ!!

 

エリスティアはただ抵抗するだけで、迷宮ダンジョン攻略者なら得るであろう金属器を使う気配はなかった

 

このままじゃ、死んじまう……!!

 

 

「リイダぁ―――――!!!!」

 

 

 

 

誰か助けろよ……

 

誰か………っ

 

 

 

瞬間、アリババの脳裏にあの時の光景が蘇った

 

 

 

燃える王宮

 

そのバルコニーから崩れ落ちる人物

 

 

 

 

「リイダァァァァァァァ!!!!」

 

 

 

 

皆、死んじまう……

 

あの時、何も出来なかった自分………

 

誰か………っ

 

見ている事しか出来なかった…自分自身

 

「何をボヤボヤしておる!さっさと運べ!!」

 

再度、ブーデルの手がアリババの肩をドンッと叩いた

 

 

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!リイダぁ――――――!!!」

 

 

 

母親の声が頭に響く

 

『助けてくれ―――――!!!』

 

助けられなかった

あの時も、自分は何も出来なかった

 

 

誰も……

 

 

「女を泣かせるな!ガキどもの代金ぐらいワシが払ってやる」

 

誰も……

 

 

ぐっと、アリババが砂を握り締める様に拳に力を入れた

 

誰も――――――

 

「幾ら欲しい?ん!?」

 

 

「……………っ!!」

 

 

 

 誰――――か、じゃねぇ!!!

 

 

 

 

 

そう思った瞬間、アリババは思いっきりブーデルを殴り飛ばしていた

瞬間、ブーデルが勢いのあまりごろごろごろと馬車の方へ吹っ飛んでいく

 

 

 

 

 

「てめぇの汚ねぇ酒で!! 人の命が買えてたまるか!! バカ野郎!!!」

 

 

 

 

 

それを見ていたアラジンが、大きくその瞳を見開いた

 

アリババは傍にあった酒ダルを掴むと、勢いよく砂漠ヒヤシンスのいるクレーターの中に飛び込んだ

 

くそっ……やっちまった……!!

でも、もう見てるだけで後悔すんのは嫌だ……!!

 

アリババは、砂漠ヒヤシンスに駆け寄ると、思いっきりその身体で体当たりをする

 

 

「待ってろ!こいつは酒に酔うんだ…っ!!」

 

 

酒ダルを放り投げると、なんとかして閉じている蕾を開かせようと手を伸ばす

だが、頑丈なその蕾はびくともしない

 

 

 

「とっとと……口を、開けやがれ……っ!!」

 

 

 

その時だった

 

 

 

ピィ――――――――

 

 

笛の音が響いたかと思うと、突然 巨大な首のない青いジンが上空に姿を現したのだ

 

ぎょっとしたのは、ブーデルだけではない

商隊キャラバンの人達もだった

 

だが、アリババにはそれがなにかすぐに分かった

そう―――それこそが、アラジンが友だちだと言っていた“ウーゴくん”なのだ

 

そのジンはアリババの後ろに降り立つと、砂漠ヒヤシンスの蕾をその巨大な手でつかんだ

そして、そのまま無理矢理こじ開ける

 

瞬間、ドバッ中に溜まっていた液体が流れ出てきた

 

「今だよ!アリババくん!!」

 

アラジンの声が響く

 

アリババは、その瞬間を見逃さなかった

 

 

 

「うりゃああああああ!!!」

 

 

 

持ってきた酒ダルを思いっきり砂漠ヒヤシンスに投げつけたのだ

瞬間、砂漠ヒヤシンスの触手が 酒に酔った様にその動きを鈍らせる

 

「おい!早く……!!」

 

アリババは、その隙にエリスティアとその小さな少女に手を伸ばした

 

「アリ、ババ…くん……?」

 

何かで少女を守っていたせいか

意識の朦朧としていたエリスティアが微かに声を洩らした

 

「エリス!!しっかりしろ!!」

 

アリババは、エリスティアの手を掴むと そのまま引き上げようとした

が――――

 

 

再び、砂漠ヒヤシンスの触手が活動を始めたのだ

 

 

「―――――っ!酒が足りてねぇ・・・・・……!!」

 

 

この大きな植物には、1つのタル程度では足りなかったのだ

瞬く間にその触手は、“ウーゴくん”を絡め取るとそのままアリババごと蕾を閉じようとした

 

母親と、商隊キャラバンの人達が叫びだす

 

アリババは力の限りエリスティア達を引っ張り上げると、自分を反動にする様に彼女達を砂漠ヒヤシンスの蕾の外へと投げ飛ばした

エリスティア達がそのまま砂漠ヒヤシンスの葉の部分へ投げ出される

 

が、それと同時にアリババが蕾の中へと落ちていったのだ

触手が、アリババを絡め取り始める

 

投げ出された衝撃で朦朧としていた意識がはっきりしだしたエリスティアは、ハッとして蕾を方を見た

 

「アリババくん!!」

 

駆け寄ろうとするが、自分の腕の中で震える少女に気付きハッとする

 

駄目よ……

ここで助けに戻ったりしては、アリババくんの行為を無駄にしてしまうわ……

 

アリババは、自分の身を顧みずにエリスティアとこの少女を守ってくれた

 

砂漠ヒヤシンスの触手がどんどん“ウーゴくん”を締め上げて行き、その蕾が閉じようとし始める

 

アリババを吸収しようとしているのだ

 

でも……

だからって、放っておけないわ……っ!

 

その時だった

 

 

 

「飛べっ!魔法のターバン!!」

 

 

 

アラジンの声が響いたかと思うと、アラジンの巻いていたターバンが大きく広がった瞬間、彼と残り全てのブドウ酒の入った酒ダルを乗せ、上空へ飛び上がった

エリスティアは、ハッとした

 

あれは、迷宮道具ダンジョンアイテム!?

 

それは、間違いなく迷宮ダンジョンにある道具アイテムの一つだった

空を自在に飛ぶことが出来る代物

 

エリスティアはぐっと、握っていた拳に力を入れると

私には、私の出来る事を……っ!!

 

そう思った瞬間、エリスティアの周りを風たちがくるくると回り始める

エリスティアはふわりとそのまま宙へ浮くと、少女を抱えたまま地上へ向かって飛び上がった

そのまま地上にいる母親に少女を渡す

 

母親は、泣きながら我が子を抱きしめた

 

 

「あんた…一体……」

 

商隊ャラバンの1人がエリスティアは見て、震える声で指さしたが

エリスティアは小さく人差し指を口に当てて、にこりと微笑んだ

 

そして、小さな声で「疾風ハースィハ・リーフ」と唱えると、今度は空高く上空へ舞い上がった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ****    ****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あ~あ…

俺、死んじまうのかな……

 

アリババは、砂漠ヒヤシンスの体液の中で、静かに目を閉じた

 

でも、しょうがねぇか……

 

「ずっと嘘ばっかで…何もしなくて…そりゃぁ、金も力も欲しいさ、でも――――」

 

今までの記憶が、走馬灯の様に蘇る

 

優しかった母

親友との楽しかった日々

憶える事への探求心

そして、忘れられない“あの時”の光景

 

燃える宮殿

聴こえてくる叫び声

消えてゆく命の灯

 

 

そして――――救えなかった―――

 

 

 

でも、本当に欲しいのは――――………

 

 

ぐっと息を飲み、ゆっくりと瞳を開ける

その瞬間、視界に入ってきたものにアリババは大きく目を見開いた

 

 

「やっぱり嘘つきだね、おにいさん」

 

 

そこには、空浮ぶ布に乗ったアラジンがいたのだ

 

アリババは、信じられないものを見様な目でそれを見た

 

「ちゃんと、本当の事言えるじゃないか」

 

アラジンは、にっこりと微笑むと

 

 

「お金でも、お酒でも買えないもの もっと僕に教えてよ!」

 

 

アリババは大きく息を飲んだ

 

 

「やめろォォォォォ!!!!そのガキが千年働いたって買えない酒だ!やめてくれぇ~~~~~~~!!!!」

 

 

ブーデルの叫び声が聴こえてくる

だが、アラジンにとってはどうでもよかった

 

アラジンは大きく手を振り上げると、そのままターバンから酒ダルを真っ逆さまに砂漠ヒヤシンスに向かって投げ落とした

 

 

 

「イヤアアアアアアアアアアアア~~~~~~~~!!!!」

 

 

 

酒ダルの中のブドウ酒はいっきに砂漠ヒヤシンスに降りかかると、その触手はぐにゃりとへたれこんでいった

“ウーゴくん”を締め付けていた触手も、ずるずると崩れ落ちていく

 

その時だった

 

 

水の守神シャラール・パールナ

 

そう聴こえたかと思うと、水の膜がアリババの周りを囲む様張り巡らされた

 

なんだ!?

 

ぎょっとした瞬間

 

 

 

 

炎雷の双龍ヤグラーク・フォラーズ!!」

 

 

 

アラジンの更に上空からエリスティアの声が響き渡った

瞬間――――

 

 

炎と雷の双龍が現れたかと思うと、一気に砂漠ヒヤシンスめがけて襲い掛かって来たのだ

 

「ぎ………」

 

そのまま、ドオオオオオオン!!!という音と共に、砂漠ヒヤシンスが炎と雷に呑みこまれる

 

 

 

 

ぎゃああああああああああああ!!!!!!

 

 

 

 

と、アリババが叫んだのは言うまでもない

 

そして、砂漠ヒヤシンスはその動きを完全に止めたのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ****    ****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ああ…俺、今度こそ死んだわ……

 

アリババは、そう思って静かに目を閉じた

思えば、短い人生だったなぁ……

ぐっと思わず涙ぐみそうになる

 

「……くん」

 

ごめんな、アラジン

一緒にもう、迷宮ダンジョンにいけねぇや……

 

「…バ、くん……」

 

しかも、まさかエリスにトドメをさされるなんて……

くっそ―エリスのやつ、何の恨みが……

 

そう思うとなんだか、むかむかしてきた

 

「……リ、ババくん……」

 

そりゃぁ、エリスには貸しばっかりだけどよ

だからって、殺されなきゃならねぇ理由なんかねえだろう!?

 

 

「……アリババくん」

 

 

大体、俺にはまだやらなきゃいけないことが……

こんな所で死んでる場合じゃ……

 

 

 

「アリババくん……!!」

 

 

 

パンッ!という音と共に、アリババがハッと目を覚ました

 

「あ、気が付いた?アリババくん」

 

「え……?」

 

そこには、アラジンと一緒に魔法のターバンに乗ったエリスティアがいた

 

「え…? え!? 俺、生きてる!? なんで!!?」

 

確かに、エリスティアによって炎に巻かれたのに、何故か火傷どころか、傷一つなかった

 

「何、馬鹿な事言っているのかしら? きちんと相反属性の結界張ったのだから、無事に決まっているでしょう」

 

「え?」

 

言われて辺りを見回すと、アリババの周辺だけは一切焼けていなかった

だが、それ以外の箇所はぷすぷす…といい感じに半焼けになっている

 

「……殺しちまったのか…?」

 

確かに、砂漠ヒヤシンスは砂漠越えする者にとっては驚異だ

だが、何も殺す必要は無かったのではないかと思う

 

だが、そんなアリババとは裏腹に、エリスティアはその大きなアクアマリンの瞳を瞬きさせながら

 

「一応、生きているわよ。ただ、当分悪さは出来ないと思うけれど」

 

そういって、にっこりと微笑んだ

そして、今度はエリスティアがゆっくりとアリババに手を伸ばした

 

アリババは小さく頷くと、その手を取った

そして、そのままアラジンの魔法のターバンに乗ると上空へ飛び立つ

 

だから、気付かなかった遠くからその様子を見ていた者がいた事に

 

アラジンは、ゆっくりとアリババの前に立つとその顔を上げた

 

「ねぇ、アリババくん。君に頼みがあるんだ」

 

 『願い事は、それだけなのか』

 

 『うん、いいんだ。僕の君への願い事はたった1つだけさ』

 

ゆっくりと手を伸ばす

 

 『僕の――――』

 

 

「僕の、友だちになってよ!」

 

 

アリババが大きく目を見開いた

そして、小さく頷くと

「ああ!」

 

そう答えると、その手を取って2人して微笑んだ

 

その様子を、エリスティアは微笑みながら見ていた

と、その時だった

 

 

「貴様ら―――――!!降りてこ―――――い!!!」

 

何やら豚を圧し潰した様な声が聴こえてきた

何かと思い下を見ると、激怒したブーデルが必死に叫んでいた

 

 

「よくも、ワシの酒を―――!!!一生かけて弁償させてやる―――――!!!!奴隷にしてやる―――――!!!」

 

 

アラジンは、それを無視する様にふいっと顔を背けると

 

「行くよ、ウーゴくん」

 

「奴隷にして、引きずり回してやるからな――――――!!!!」

 

 

と、叫んだ瞬間――――

 

クレーターの中から“ウーゴくん”がブーデルの前に現れた

かと思うと、そのままブーデル他手下どもまとめてなぎ払ったのだ

 

そして、3人を乗せると、空高く飛び上がった

 

「アリババくんは、おじさんなんかの奴隷になんかならいよーだ!」

 

そう言って、アラジンがあっかんべーと舌を出す

 

「だって、僕らはこれから冒険に行くんだもんね!」

 

「ああ!行こう!!迷宮ダンジョンへ!!」

 

「お―――――!!!」

 

 

エリスティアは、ただじっと何かを見守る様にその様子を見つめていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やっと、アニメ換算1話目終了~~

ようやく、アモンへ行けますねぇ~

 

が…ここにきて、未だに言っていない重要な事が…( ;・∀・)

まぁ、次回確実にその話題がはいりますけれどww

でも、アモンに行くよー!! 

 

2013/05/22