CRYSTAL GATE

  -The Goddess of Light-

 

 

 第一夜 創世の魔法使い 6 

 

 

「は――――― 楽しかったねぇ~」

 

店から出た後、アラジンが先程の光景を思い出しつつうっとりと声を洩らす

半強制的に連れられたエリスティアにとっては、まったくもって楽しくない

 

ピスティではないが、どうせ行くならばイケメンのいる逆の店の方がマシだ

とは言っても、誘われても行った事は無いが…

 

そもそも、あの人がそれを許す筈がなかったのもあるし

それ以前に、エリスティアがさほど興味が無かったのもある

とはいえ、だからと行って綺麗どころのいる店にはもっと興味ない

アラジンがしがみ付いていなければ、速攻 宿に帰っていた所だ

 

が、アラジンはしっかりと堪能した様である

テレテレと照れつつ

 

迷宮ダンジョンから戻ったら……また来ようねっ!おにいさんっ!!」

 

と、満面の笑みでそう言うが……そこにいたのは

 

ボロッボロのアリババの姿だった

衣服は破れ、乱れ、髪はバッサバサになり、いたる所に口紅の跡が…

 

一部始終を見ていたエリスティアとしては、あの姿のアリババは見るに耐えなかった

というか、あの惨劇は凄まじかった…

一応、アレでも軽傷で済んでいると…思う ……多分

だが、いくらなんでもアリババが可哀想過ぎた

 

とりあえず…

 

助けられなくて、ごめんなさいアリババくん……(合掌)

 

その時だった

 

「探させやがって…遊ぶ金があるなら、賠償金を返してもらおうか!」

 

また、あの聴きたくない豚を圧し潰した様な声が聴こえてきた

振り返ると、部下を連れたブーデルがそこの立っていた

 

アリババは息を飲むと、剥けていた衣服を整え、頬に付いていた口紅を腕で擦った

 

「……今は、ない」

 

「あん?」

 

アリババのその返答に、ブーデルが眉を寄せた

だが、アリババはその意思を貫かんと、きっぱりと

 

「でも、俺は迷宮ダンジョンに入るって決めた!!攻略したら、すっぱり払ってやるよ!!」

 

「………………攻略?」

 

ブーデルが、ぽかーんと目を瞬きさせた後、ぶっと吹き出した

後ろの部下も、ぷっと吹き出す

と、一斉に大笑いしだした

 

「ぶははははははははは!!!そんな口約束だ~れが信じる」

 

ひとしきり笑った後、不意にブーデルの表情が険しくなった

まるで、アリババを射ぬく様な目をしたまま一言

 

「逃げてみろ、近くの都市全部に指名手配してくれる」

 

「……………っ」

 

「さぁ、選べ!今、ここで逮捕されるか、それともワシの下で死ぬまで働くか!」

 

「………………」

 

アリババが、アラジンとエリスティアを見る

2人は小さく頷いた

 

「ん~~~?」

 

ブーデルが、脅しとも取れる様に部下に剣を抜かせる

だが、アリババは怯まなかった

キッとブーデルを睨みつけると――――

 

 

「……………馬鹿にすんな……そんなもん、聞かれるまでもねェ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ****    ****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――翌日・夕方

 

「で?荷物は何で御座いましょう?ダンナ様」

 

「ブドウ酒だ。ジャミル様が、隣町の領主に送る超高級品だぞ。ありがたく働け」

 

「は! 喜んで~」

 

へらへらと笑いながらブーデルの後ろを歩くアリババの姿があった

 

アラジンは御者台に座ったまましらーとしらけた風に手をぶらぶらさせていた

エリスティアは、一応 荷台側に座ってはいたが、アリババの様子を見て、小さく溜息を付いていた

 

そこへ、アリババがはぁ…と息を洩らしながら御者台に腰を下ろす

 

「ブドウ酒かよ…命がけじゃねぇか」

 

そうぼやきながら、ラクダの手綱を握る

 

その言葉に、エリスティアが首を傾げた

 

「命がけ?」

 

普通に考えたら、自然災害や盗賊など、ブドウ酒に限った事ではない

そこを、あえてブドウ酒は命がけだとアリババは言ったのだ

 

エリスティアの問いに、アリババが「ああ…」と小さく声を洩らした

 

「砂漠には厄介なのも存在するんだよ。特に酒は――――」

 

「あ………」

 

その時だった、不意にアラジンが声を洩らした

何かと思い、2人してそちらの方を見る

 

そこには――――

 

「……鎖のおねいさん…」

 

そこに居たのは、昨日市場バザールでぶつかった赤髪の奴隷の少女だった

彼女だけではない

何十人という奴隷の人達が柵の張ってある荷台に乗せられている

 

「なによ、あれ……」

 

エリスティアが、不審げにそう呟いた

 

それはそうだ

あそこだけ、異様なほど空気が重苦しい

 

それ以前に、あんな人数の奴隷の人達を一体どうするつもりなのか……

 

「…ブーデル様、あれは……?」

 

アリババが、エリスティアの代わりにブーデルに尋ねた

だが、ブーデルは何でもない事のように

 

「ああ、鉱山に運ぶ奴隷だ」

 

「鉱山って……」

 

まだ小さな子供もいる

それなのに、皆鉱山で働かせる気なのか?死ぬまで…?

 

最悪だわ……

 

エリスティアの国では、考えられない事だった

 

こんなの、あの人だったら絶対許さないわ

 

いっその事、ここでブーデルをぶっ飛ばしてしまおうか

とさえ思ってしまう

だが、それではアリババの立場が悪くなる一方だ

余計な事は出来ない

 

太陽が西の空に沈もうとしている

ブドウ酒と奴隷を連れた商隊キャラバンの一行は、赤く染まる砂漠の中へゆっくりと進みだした

 

「人間、分不相応な夢を見てはならんのだ。ネズミはネズミ、奴隷は奴隷。そう生まれたからには、一生ゴミクズの価値しかない人生を送るのだから……そうは思わんか?」

 

ガリッという音と共に、ブーデルが林檎をかじる

その言葉に、エリスティアは何も答えなかった

答えない代わりに、ふいっとこっちを向いていたブーデルの汚らしい顔を避ける様に外を見る

 

エリスティアのその対応に ふんっと鼻息荒くしたブーデルは、今度はその矛先を御者台に座るアリババへ向けた

 

「お前は、そう思うだろう?」

 

アリババは、振り返らなかった

ただ、前を向いたまま言い返したいのを我慢する様に小さな声で

 

「……そう、すね…」

 

「んん~~~~?聴こえんなぁ?」

 

聴こえていない筈が無い

エリスティアにも聴こえた

アリババが、声を押し殺した様に呟くその言葉を

 

だが、ブーデルははっきり言わせたいのか

にやりと笑みを浮かべると、大きな声で

 

「どうした~?聴こえんぞ?」

 

ぐっと、手綱を持つアリババの手に力が篭る

堪えているのが分かる

本当なら、否定したいのも分かった

 

ブーデルは間違っている

人の人生をそんなもので決められてたまるものか!!

 

そう言ってやりたい

だが、アリババの取った行動は違う物だった

 

ぱっと明るく笑うと

 

「本当に、そうっすよねぇ!いや~流石、ダンナ様!」

 

「であろう?がははははははははは!」

 

アリババの答えに満足したのか、ブーデルは高笑いを浮かべた後、また林檎をしゃくりとかじった

 

その様子を見ていたエリスティアは、小さく息を吐いた

そして、御者台に座るアリババを見ると

 

「アリババくんは、嘘付きなのね」

 

「え………?」

 

不意に、アリババが振り返った

だが、エリスティアはアクアマリンの瞳を真っ直ぐに向けたまま

 

「そうやって嘘を付き続けていると、その内 誰も、自分自身の事すらも 自分の事を信じられなくなってしまうのではないの」

 

「……………」

 

ぐさりと突き刺さる様なエリスティアの言葉に、アリババが息を飲んだ

あのアクアマリンの瞳が訴えている

 

「おにいさん」

 

不意に、アラジンが真っ直ぐな瞳でアリババを見た

アリババは、ハッとしてアラジンを見た

 

「おにいさんは、本当はどうしたいんだい」

 

一緒だった

エリスティアの瞳も、アラジンも瞳も 同じだった

 

アリババに訴えている

 

 

「それでいいのか?」と

 

 

アリババは、2人の眼差しに耐えかねる様に、小さく息を飲んだ

本当は、どうしたいのか

自分の意思は、どう思っているのか

 

本当は…本当は俺だって…………っ

 

ぐっと、手綱を持つ手に力が篭る

と、その時だった

不意に、ぐらりと馬車が揺れた

 

瞬間、西日が沈みかける中 数メートル先の地盤が突然クレーターの様にボコッ!と沈んだ

 

ぎょっとしてそちらの方を見たと思った瞬間、そのクレーターはどんどん広さを増して、こちらの馬車へ向かって来たのだ

 

「砂漠ヒヤシンスだ――――!!!」

 

商隊キャラバンの者達が口々にそう叫んだ

 

「きゃぁ!」

 

急に、ガタガタと馬車が揺れ、エリスティアは思わずその場にしがみ付いた

が、直ぐに身を乗り出して近づいてく砂漠ヒヤシンスをそのアクアマリンの瞳に捉える

 

なに、あれ……

 

エリスティアの国の傍にいる南海生物とは全然違う

見た事のない生き物だった

 

 

「やっぱり、来やがった!!」

 

ブーデルが身を乗り出してそう叫んだ

アリババには、そんなブーデルに構っている余裕は無かった

必死に鞭を鳴らし、ラクダを走らせる

 

「ブドウ酒なんか、運ぶからだよ!!」

 

なんとか、逃げ切らなければならない

捕まれば、一貫の終わりだ

 

バシッバシッと、鞭を鳴らす

馬車がどんどん加速していく―――が

 

ガシャン!という音と共に、加速に耐えられなかったのか片側の車輪が外れた

と、同時に砂漠ヒヤシンスの触手が馬車に襲い掛かって来たのだ

 

 

ズザザザザザという音と共に、馬車が横転していく

 

 

瞬間、蕾の様に閉じていた“ヤツ“の花が開いた

 

”食虫植物”

 

恐らく、そう呼ばれるものの類だろう

それは“ヤツ”を見る限り、明らかだった

 

 

緑色の触手が鞭の様にしなり、他の馬車を襲っていく

 

 

「馬車を捨てて逃げろ――――!!!」

 

 

「荷物をおろせ――――!!!」

 

商隊キャラバンの人達が、慌てて荷物をおろしていく

アリババも、ラクダを逃がす為に手綱を外そうと金具に手を伸ばす

 

「アリババ!いいから、酒を運べ!!」

 

「あ、はい」

 

言われて、慌ててブドウ酒の樽に手を伸ばした

 

「お前達も手伝え!金は弾むぞ!!」

 

柵から逃がしてもらっていた奴隷たちにもそう声を掛けると、ブドウ酒を砂漠ヒヤシンスの手の届かない所へ運ばせていく

 

と、その時だった

 

バシィ!!という音と共に、砂漠ヒヤシンスが触手を大地にしならせた

瞬間、クレーターの側の大地が音を立てて崩れだす

そこには―――――

 

 

 

「リイダ―――――!!!!!」

 

 

小さな女の子が一人、クレーターの中へ落ちようとしていた

エリスティアがハッとして、駆け寄ろうとした瞬間、ドンッと慌ててブドウ酒を運んでいたブーデルとその部下に押し退けられた

 

 

「……………っ」

 

 

そのまま、前へ進む所か後退させられる

 

「邪魔だ!ぼーとするな!!」

 

目の前で、小さな女の子が砂漠ヒヤシンスの中へと落ちようとしている

それなのに―――――

 

 

間に合わない……っ!

 

 

エリスティアが、ぐっと身に付けている腕輪に力を込めた

 

これを、外せば―――――

でも………っ

 

その時だった

あの赤髪の少女が、リイダの腕を掴んだ

そして、その腕をアリババが掴もうとするが―――――

 

 

 

 

「ワシの酒―――――――っ!!!」

 

 

 

 

ドンッと、一緒に落ちそうになっていたブドウ酒をブーデルがアリババを押しのけて掴みにかかった

アリババの伸ばした手は、彼女達に届く事は無く そのまま――――

 

「――――――…………っ」

 

迷っている暇は無かった

 

一瞬、脳裏の彼の言葉が蘇る

 

 


『エリス、いいか?これは、奴らからお前を守る為の制御装置だ。だから、俺がいない所では外しては駄目だからな』

 

 

 

そう言われていた

 

一度外せば、彼以外には付けられない特殊な装飾の一つ

エリスティアの力の暴走を止める為の、制御装置

それと同時に、“奴ら”に気付かれないようにする為の防壁

 

でも―――――…………

 

エリスティアは、腕輪に力を送り込んだ

小さく『解除レリフラージ』と呟く

 

瞬間、パキン…という音と共に腕輪が真っ二つに割れた

 

どくん…と、心臓から指の先へルフ達が集まってくる

 

エリスティアは、ばっと立ち上がるとそのままクレーターに向かって走りながら

 

「ルフ達よ、応えて!! 翔風の双龍リーフ・フォラーズ!!」

 

エリスティアがそう叫んだ時だった

何処からともなく、双璧の風がクレーターの中から上へ向かって吹きあげたのだ

 

 

瞬間、赤髪の少女とリイダという小さな少女は 空高く舞い上がった

 

 

助かった

 

誰もが、そう思った

が――――――

 

赤髪の少女が地上に着くのと同時に、風がふっと消えたのだ

 

 

「え―――――」

 

 

リイダがまだ、空にいる

そのまま、ふっと消えた風と一緒にまたリイダの身体が真っ逆さまに砂漠ヒヤシンスめがけて落ちて行った

 

 

 

 

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

 

 

 

リイダの母親の女性が叫んだ

 

 

「―――――――っ!!!」

 

やっぱり、一つ解除するだけじゃ足りなかった……っ!!!

 

無数に付けている制御装置

1つ解除しただけでは、足りなさすぎたのだ

 

 

「リイダぁ―――――――!!!!」

 

 

エリスティアは、付けていたネックレスを引きちぎると

 

 

解除レリフラージ! 疾風ハースィハ・リーフ!!」

 

 

 

そう叫んだ瞬間、ぎゅんっと一気に加速するとそのままクレーターの中へと飛び込んだ

 

 

「エリス!!!」

 

 

遠くで、アリババの声がする

だが、そちらに構っている暇は無かった

 

あの子を助けなければ……っ!!

 

最早、エリスティアの中にはそれしかなかった

“奴ら”に見つかるとか

彼との約束を破る事になるとか

 

 

そんな事は、どうでもよかった

 

エリスティアは、空を蹴ると そのままリイダの手を掴んで引き寄せた

そして、自分の腕の中に守る様に閉じ込める

 

 

シン……!この子を守って…っ!!

 

 

 

と、同時に―――――

 

 

 

 

  バシャ―――ン

 

 

 

 

 

砂漠ヒヤシンスの体内へと落ちて行った
瞬間、獲物を取得した砂漠ヒヤシンスがその花を閉じたのだった

 

 

 

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!リイダ!リイダァァァァァ!!!」

 

 

 

 

 

母親の泣き叫ぶ声だけが、木霊していた――――……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やっと、砂漠ヒヤシンスの回ですww

しかーし、途中まででした すいません…(-_-;)

 

とりあえず、モルさんではなく夢主に落ちて頂きました

ちなみに、魔法ですが…一応、アラビア語をもじってます

ただ、発音が聴いた音なのでーあってないかもしれませんww

 

というか、この間アラジンみ~て~る~だ~け~

だよな! 

 

2013/05/10