CRYSTAL GATE

  -The Goddess of Light-

 

 

 第一夜 創世の魔法使い 3

 

 

「はむ、むしゃむしゃ。はむ、むしゃ……」

 

「………………」

 

「はむ、むしゃむしゃ……」

 

「………………」

 

こ・れ・は……

 

目の前でもりもりと、ひとの買い置きの林檎を食べる子供が一人……

青い髪に白いターバンの10歳ぐらいの……

 

瞬間的に、昼間ブーデルの商品をもりもり食べていた謎の子供が脳裏を過ぎった

 

「………………」

 

何故か、その子供(※頭)を持つ手に力が篭る

瞬間、無意識的に思いっきり横に投げ飛ばした

 

ボスッ!!という音と共に、子供が傍にあった布団に頭から突っ込む

 

その子供には見覚えがあった

 

こいつは……

 

「お前……っ!! あの時の、ガキ!!」

 

それは、忘れる筈もない

昼間、ブーデルの商品を食い散らかした少年だった

 

瞬間、アリババは重大な事に気付いた

慌てて、買い置きの林檎が入ってたであろう籠を覗き込む

 

「全部食ってやがる……!!」

 

その籠の中には、林檎ひと欠片すら残ってなかった

見えるのは、悲しい位 籠の底だけだ

 

だが、投げ飛ばされた当の少年は意味が分からないという風にきょとん…としたまま

 

「どうして? さっきも、くれたじゃないか」

 

と、まるで悪意のない様な純粋な目をぱちくりさせながらぼやいた

が、そんなものに騙されるアリババではない

 

「やってねえ!!」

 

渾身の力を込めて、大否定した

瞬間――――ぎゅるるるるる

 

お腹に力を入れたせいか、また腹の虫が鳴った

 

「はぁ~~~~~~」

 

アリババは、がくっ とうな垂れる様に籠に突っ伏した

 

「こりゃぁ、マジで迷宮ダンジョン落とさないと干からびちまう……」

 

ターバンを呑気に直す少年を余所に、アリババはよろめきながらその横を素通りした

そして、上に干してあった干し肉を引きちぎると口に運んだ

 

ふと、その時だったその少年がその大きな瞳を瞬かせて

 

「……? 迷宮ダンジョンってなんだい?」

 

「ああ?」

 

いまどき、迷宮ダンジョンを知らない人間がいたのか

むしろ、その事実に驚いたぐらいだ

だが、そんな事で体力を消耗したくない

 

アリババは、小さく溜息を付くと 机の巻物を取った

 

「ったく…そんな事も、知らねえのかよ…」

 

そういいながら、その少年の前にその巻物を広げて見せる

そこには、不思議な絵が描かれていた

 

迷宮ダンジョンってのは、14年前 世界のあちこちに現れた謎の遺跡群の事さ」

 

そう、それは突如現れた物だった

 

「そこを攻略した者には、莫大な富と権力が与えられるんだ。金銀財宝や不思議な魔法のアイテムとかがな」

 

「魔法………」

 

少年が、巻物を見ながら呟いた

 

「ああ…まだ、本物の魔法使いもどっかにはいるって噂もあるけどよ…」

 

そういってアリババは目を擦った

話ながら、どんどん疲労で眠くなってくる

 

「でも、迷宮ダンジョンにあるのはマジもんさ……空飛ぶ布…酒の湧く壺…究極なのは、魔人の宿る金属の器ってやつ……」

 

そこまで言い掛けて大きく欠伸をする

 

だが、少年はその言葉を聞いた瞬間、何かに気付いた様に身を乗り出した

 

「おにいさん、その迷宮ダンジョンってのはどこにあるんだい?」

 

が、アリババは答える事もなくそのままパタリと眠りに落ちてしまった

 

「……………」

 

少年は、じっとアリババを見つめた後、自分も傍にあった布団にぱふっと寝転がる

そして、大切そうに首に抱えていた金色の笛を撫でだ

 

「やっと、きみの仲間がみつかるかもしれないよ………お休み、ウーゴくん」

 

そして、そのまま大事そうにその笛を抱きかかえると、ゆっくりと目を閉じた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

****   ****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何、寝てんだ!てめえ!!」

 

朝靄の晴れぬ早朝

アリババの怒鳴り声と共に、少年が思いっきり扉から投げ飛ばされて正面の壁に激突する

 

「ふぐぅ!」

 

壁に当たった衝撃で少年が悲鳴を上げたが、アリババはそれをスルーすると何事も無かったかのように家の鍵を閉めて歩き出した

 

少年は、顔を摩りながら慌ててアリババの後を追う

 

「いきなり投げるなんて、酷いじゃないか」

 

と、もっともらしく言うが、アリババはそれも流す様にきっぱりと

 

「付いて来るな」

 

と冷たく言い放ち、無視してスタスタと歩いて行く

だが、少年も負けじとアリババの後を付いて行った

 

「ねぇ、おにいさん。昨夜言ってた迷宮ダンジョンってどこにあるんだい?」

 

少年の問いに、小さく息を吐いた後、アリババは街の中心にある巨大な塔を指さした

 

「あれだよ。あれが迷宮ダンジョンさ」

 

それは、とても大きな塔だった

 

「10年前に現れた第7迷宮 「アモン」」

 

「………………」

 

迷宮という物を初めて見たかのように、少年は大きく口を開けたままその塔を見上げた

 

「俺はこのアモンも、世界中に残ってる迷宮ダンジョンも誰よりも早く完全攻略クリアして、“世界一金を持ってる男”になってやるのよ」

 

そういって、また歩き出す

 

「だから、お前なんかに関わってる暇なんてないんだ!分かったか、ガキ」

 

「……僕は、アラジンだよ?」

 

少年がもう一度最初に会った時の様に名乗った

だが、それすらもどうでもいい様にアリババはスタスタと歩いて行く

そして、そのまま階段を上がると市場バザールの広がる道へと出た

 

少年―――アラジンは、そのままアリババの後を追いながら

 

「おにいさんは、お金が好きなのかい?」

 

「ああ、俺は金が必要なの!……それこそ、国が買えるぐらいのな」

 

そういった時のアリババの顔はよく見えなかったが、何か感じるものがあったのか…

アラジンは、大きく目を見開くと、じっとアリババを見つめた

 

と、その時だった

 

「だから、迷宮ダンジョン攻略したいの? …いいんじゃないかしら? 目的は人それぞれだものね」

 

「ん?」

 

何処からともなく聴こえた声に、ハッとしてアリババが顔を上げると

階段の一番上の柵に寄り掛かる様に、昨日別れた筈のエリスティアがにっこりと微笑みながら手を振っていた

 

「エリス!?な、なんでこんな所に!?」

 

アリババは、自分の家の位置など教えていない

なのに、これは完全に待ち伏せだ

 

だが、当のエリスティアは何でもない事の様に

 

「だって、アリババくん絶対 宿には来ないと思ったんだもの。だから、市場バザールへ続くここで待ち伏せしてみたの」

 

そういって、にっこりと微笑む

その時だった

 

 

ピイイイイイ

 

 

エリスティアの周りのルフ達がざわめきだした

 

え?何……?

 

そこまで考えてはっとする

そのルフ達が示す先は―――……

 

「……アリババくん…? 後ろに誰かいるの……?」

 

まさか……

この気配――――……

 

昨日、広間で残っていたルフの名残りを思い出す

 

そこにいるのは――――……

 

問われて、アリババがはぁーと溜息を付いた

 

「ああ、昨日のガキが――――……」

 

と振り返った先に、アラジンの姿が無かった

 

「あれ?さっきまでここに――――……」

 

不思議に思い、辺りを見渡した瞬間――――正面を見てぎょっとした

エリスティアのあの柔らかそうな胸の谷間に顔を埋める小さな影が一つ

 

「きもちいいねぇ~やわらかいねぇ~」

 

もみもみもみとこれ見よがしにアラジンがエリスティアの胸に顔を埋めて歓喜の声を上げる

 

「おい!こらぁ!!なに(羨まし事)やってんだ!!」

 

ぎょっとしたアリババは、慌ててアラジンを引っ張った

だが、がっちり掴んでいる腕はエリスティアから離れない

 

一方、エリスティアの方は硬直していた

 

え???何……????揉まれてる……????

 

何故!?

という疑問符と共に、投げ飛ばしてしまいたい!!という衝動に駆られる

しかし、相手はもしかしたらあの”探しもの“かもしれない

もし、そうだとしたら、ここで投げ飛ばすのは失礼にあたるのではないか…

いや、しかし、これは女として許せるものではないし

何よりも、あの人以外にこんな仕打ち受けた事ないし、させる気もなかったのに……

 

という、何重もの葛藤が頭の中をぐるぐると駆け巡る

が……次の瞬間

 

べりっと、アリババよりも素早くそれを引っぱがすと、そのまま ずべしぃ!という音と共に地に叩きつけた

 

 

「ちょっと……次やったらただじゃおかないわよ……

 

 

何とも言えない、禍々しいオーラがエリスティアを包んでいた

失礼かも…という考えは、あっさり消去されたらしい

 

流石に、すさまじいオーラにアラジンがカタカタと震える

 

「おねえさんは…怖い人かい?」

 

「失礼な事言わないでよ!!」

 

エリスティアが吠えると、アラジンが慌ててアリババの影に隠れた

 

「おにいさん、たすけてくれよう」

 

と、アラジンが言うが、アリババはさも当然の様に

 

「いや、今のはお前が悪いだろう」

 

と、どきっぱりと言い返した

もっともな意見である

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

****  ****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3人は市場バザールに入ると、そのまま歩き出した
エリスティアにとっては、ここの品揃えへは大変珍しいらしく辺りをきょろきょろしている

 

すると、アラジンも興味をしめしたのか、市場バザールに並ぶ果実に目をキラキラさせて

「おいそうだねぇ~」とうっとりしていた

 

「……欲しいの?」

 

「え? 買てくれるのかい!?」

 

エリスティアの申し出に、アラジンが嬉しそうに歓喜の声を上げた

別段、高い物でもない

エリスティアは、その果実をいくつか買うと、その袋をアラジンに渡した

 

「わーありがとう!おねえさん!!」

 

アラジンが、嬉しそうに顔を綻ばせる

それを見て、思わずエリスティアも顔を綻ばせた

 

スケベな子供なのは間違いないが、恐らくこの子か……

 

とにかく、どうも根は良い子みたいだし、一部を除いては悪くい子では無いわよね

そう、一部を除いて

 

ただ、若干ものを知らない気もするが…

まあ、それは許容範囲だろう

 

エリスティアから買ってもらった果実を嬉しそうに頬張るアラジンを見て、アリババはくっと喉の奥で笑った

 

「金があれば何でも手に入るんだぜ? そんな果実だけじゃない、美味いメシも食い放題だ」

 

「わぁ!おいしいごはん!?」

 

ぱぁっと、アラジンが話に食いついて来た

 

「後、キレーな女とかな」

 

「わぁ、キレイなおねいさん!」

 

「ああ!金さえ持ってりゃ、男はモテる!!」

 

「うわぁ~~!!!」

 

ガッツポーズをするアリババに、アラジンがうっとりとした様に目をキラキラと輝かせた

 

確かに、金があるとモテるのは確かだ

実際に、生きた実例を目の当たりにしている身としては、大変説得力がある

が……

 

だからって、これとそれは別よね

 

だが、アリババの話はどんどんエスカレートしていく

 

「でかくてやわらかいムネの女が、大挙して押し寄せてくるんだぜ…『アリババ様、好きにして!!』ってな!!」

 

「わぁ! やわらかいおねいさん!ウフフ 好き!!」

 

「向こうから好きって言ってくるんだぜ!!」

 

「そんなァ、ウフフ…てれちゃうなァ!!」

 

「『好きっっ!アリババ様っグチャグチャにしてっ!!』って!!」

 

と、どんどん話が飛躍しまくりだした時だった

瞬間、アラジンがピタッと止まった

そして、くりっと首を傾げると…・・

 

「グチャグチャ?って……具体的にはどうやるんだい?」

 

「え“…!?」

 

まさかのアラジンの反応に、一瞬アリババが固まる

 

「…………………………それは………アレだよ……入れるんだよ…」

 

こう…という風に、アリババが手を前に出した

 

「入れる?何をだい?」

 

と、純粋無垢な瞳で、聞いて来た

だが、これ以上口で説明しようがない

 

「あーそれは―――……」

 

と、口籠っている時だった 後ろからくすくすくすという笑い声が聴こえてきた

 

はっと気づくと、エリスティアが口を押えて笑っていた

 

「――――……っ!!――――……っ!――――…っ!!」

 

 

今の今まで、エリスの存在忘れてた―――!!

 

「あ、あああああのな!エリス、今のは……っ!!」

 

アリババが、慌てて弁解しようとしたその時だった

 

ドンっ!

 

「あっ!!」

 

慌てて振り返ったので、後ろの通行人にぶつかってしまったのだ

と同時に、ドサドサドサと何かが落ちる音が響いた

 

「わ、悪い!怪我無いか!?」

 

慌てて謝罪の言葉を述べた瞬間、アリババははっとした

それは、可愛らしい赤髪の少女だった

 

少女は、何事も無かったかのように立ち上がると、落ちたレモンを器用に片手でぽいぽいっと頭の上の籠に入れていった

 

「ちょっと、大丈夫!?」

 

後ろに居た、エリスティアが慌てて駆け寄ってくる

エリスティアを見た瞬間、少女の表情が一瞬変わったが、またすぐに元のむすっとした顔に戻る

 

当のアリババは、その子が余りにも可愛い子だった為へらっと笑みを浮かべながら

 

「本当にごめんね!ケガない?荷物、運ぼうか!?」

 

とこれまでにない位猫なで声でいい人の様にへらっとしながら語りかける

が、赤髪の少女はむすっとしたまま

 

「いえ、いいんで……」

 

それだけいうと、そのままスタスタと横を通り過ぎて行った

と、その時だった

ふと、アラジンがある物に気付いた

 

「?何だよ」

 

「うん…あれ……」

 

アラジンが指さした方を見て、アリババはハッとした

彼女の足には鎖がはめられていたのだ

それを見て、エリスティアもはっとした

 

あの鎖……それじゃぁ、あの子

 

それに気付いたのは3人だけではなかった

赤髪の少女も見られたことに気付くと、顔を真っ赤にさせてスカートの端でぐいっと鎖をかくした

が、体制が下を向いてしまった為、頭の上に乗せていた籠からレモンがドサドサドサと全部落ちてしまった

 

だが、今度はアリババは手を貸さなかった

 

「……奴隷か…」

 

「どれい……?」

 

それはアラジンには聴きなれない言葉だった

 

「……ここには、奴隷制度が残っているのね…」

 

エリスティアの言葉に、アリババが小さく頷く

 

『奴隷』

それは、労働力として売買される人間の事である

今の時代、当たり前に存在した『物』であり、富裕層の所有物として酷使されていた

 

正直、エリスティアも知らない訳じゃない

訳じゃないが……

 

私の国にはそんな制度なかった

 

そう、エリスティアのいた国は、そういう理不尽な扱いを受ける民を救うために建てられた国だった

だから、奴隷なんてものは存在しな

だが、実際奴隷が存在する国は多い

その一つがこのチーシャンだ

 

アリババは遠くを見る様な目で、呟いた

 

「腐った世の中だよな。戦争捕虜だろうがなんだろうがよ……一生、金持ちに家畜同然に扱われて終わるなんてよ……」

 

とその時だった

突然、アラジンがパタパタとその赤髪の少女に駆け寄った

そして――――……

 

 

 

プ―――――

 

    ガシャン…

 

 

「……………っ」

 

驚いたのは、赤髪の少女だ

突如現れた少年が自分の鎖を笛を吹いただけで切ってしまったのだ

鎖は、カシャン…という音とと共にそのまま地に落ちた

 

「ハイ、とれたよ!これで、きれいな足を隠さずに歩けるね!」

 

「……………っ!」

 

アラジンがにっこりと微笑みながら、そう語りかける

赤髪の少女は驚いた様に、言葉を失ったまま唖然としていた

 

だが――――………

 

瞬間、辺りがざわめきだした

 

「おい、あれ……」

 

「何やってるのよー!」

 

「どこの奴隷だ?」

 

「何てことしてるのよ、私、知らないよ」

 

ざわざわと、人が集まりだしてくる

焦ったのは、アリババだった

 

そう、この時代

奴隷の鎖を勝手に解く行為は、貴族の所有財産の窃盗にあたり、重罪にあたるのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

立て続けに、3話目です

とりあえず、アニメ沿いで今書いていますが、要所要所に原作も入っています

基本は、原作の流れですけどねー

 

さて、ようやく、名前が出てきましたアラジン

ちゃんと、色々喋ってるよww

 

2013/04/22