CRYSTAL GATE
-The Goddess of Light-
◆ 第一夜 創世の魔法使い 21
ピイイイイイイイイ
ルフが一斉にざわめきだす
瞬間、ジャミルは背後に気配を感じ慌てて振り返った
そこには、杖を持ったアラジンが立っていた
「何だ……?お前、何かしたのか!?」
どう考えても、ジャミルには今何が起きたのか理解出来なかった
だが、アラジンはジャミルには目もくれずのそのまま横を通り過ぎる
そして、モルジアナの横もそのまま素通りしていくと、アリババとエリスティアの前に歩み寄った
アリババの目にも見えるぐらいのたくさんの白い鳥がアラジンの周りを踊っていた
エリスティアの時とは違う
もっと、別の存在の様な――――
アリババは言葉を失った様に、アラジンを見た
ピイイイイイイイ
また、ルフが鳴きながら飛んでいく
アラジンはゆっくりとしゃがみ込むと、アリババの身体をそっと抱き起した
「大丈夫かい?アリババくん、エリスおねえさん」
「あ、ああ……」
「アラジン…目覚めたの……?」
まさか“マギ”として目覚めたのだろうか
そんな考えが、エリスティアの脳裏を過ぎる
だが、アラジンには何の事か分からなかったのか、小さく首を傾げるとすっと立ち上がった
そして、ジャミルの方を見るとゆっくりと手を差し出す
「僕の笛、返してよ」
「悪いね。でも、こうでもしないと君ィ、その小物ばかり贔屓するだろう?この僕を、ゴールへ導いてくれたら返そう」
「………僕の笛、返して」
だが、ジャミルの言葉など耳に入っていないのか
いつものアラジンとは思えないぐらい淡々とした言葉で、もう一度そう訴えた
それが、ジャミルに癪に障ったのか
僅かに顔を顰めると
「なら、力づくで奪ってみろよ。笛なしじゃ何もできないなら、こっちだって君になんか用は無いんだよ……」
「…………」
スゥッ…とアラジンの纏う空気が一変した
ゆっくりと杖を前に指し出す
そして
「返して!」
そう口にした瞬間だった
アラジンは大きく息を吸うと―――
「エリスおねえさん、借りてもいいかな?」
その言葉に、エリスティアが小さく 「分かったわ」 と頷いた
瞬間、アラジンとエリスティアの身体が白く光る
そして、アリババの目にも見えるぐらいの無数の真っ白な鳥がエリスティアの身体から溢れ出てきた
と、同時に何処からともなく、白い鳥がアラジンの周りに集まりだす
ピイイイイイイイ
鳥が一斉に鳴きだした
アリババには見覚えがあった
それは、あの迷宮生物の虫に襲われた時、“ウーゴくん”が放った一撃に良く似ていた
白い鳥たちは、一斉にアラジンに集まっていくとそのまま大きな力となって溢れ出てきた
本能的に、まずいと思ったのか
モルジアナが、一気にアラジンに攻撃を仕掛けようと飛び出す
だが、数歩前に出た瞬間、突然白い鳥がモルジアナに襲い掛かって来た
ズン……と、重力の様に重みが一気に圧し掛かり、モルジアナは動きを封じる
何とか、持ちこたえるが立っているので精一杯だった
だが、徐々に押しつぶされていく
それを見た、ジャミルは言葉を失った
一緒だった
先生がジャミルに言った通りだった
先生が、言った通りだ…!
彼こそが、王を導く者――――偉大なる創世の魔法使い “マギ”!!!
『いいですか?坊ちゃん、人には“上・下”があります。 使われるものと使う者……そして、坊ちゃんは…“使う者”です。 貴方には王になる素質があります』
先生の言葉に心躍った
僕は王になれる
王になる素質がある
『そうそう、情けは無用ですよ…奴隷こそは“物”です。王たる貴方の“力”なのです。しっかりしつけて下さいね』
先生のいう事は正しい
奴隷は、僕にとって“物”であり、“使われる物”なのだ
『貴方の両親はいなくなりました。当然ですよね……王より目上の存在など不要ですからね…』
はい、先生
僕より、上の者など要らない
僕が、一番偉いんだ
『坊ちゃん、良く聞いて下さい。私が去った直ぐ後、迷宮が現れ10年後とある少年達がやってくるでしょう。彼らこそが――――』
いいぞ…
君こそが……先生が予言した、“僕の力“なんだな…!
ルフたちの使役
やはり、彼こそが”マギ“なのだ
僕を王にしてくれるものなんだ!!
「“マギ”よ、さぁ、僕を選ぶというんだ!さもないと………」
ビシビシビシ…と、モルジアナの足元に亀裂が入る
重力に押さえつけられても尚、モルジアナはその力に反発する様に構えた
「さぁ行け、モルジアナ!奴隷こそ僕の“力“。戦ってその強さを見せつけろ!!」
瞬間、モルジアナが跳躍した
そして、そのままアラジンの腕めがけて強烈な蹴りを撃ち放ってくる
「アラジン!!」
アリババが叫んだ
しかし、ぐいっとエリスティアに腕を掴まれ制される
「ちょっ…!エリス!?アラジンが―――」
まさかのエリスティアからの制止にアリババが戸惑いの色を見せる
だが、エリスティアは小さく首を振り
「大丈夫だから、手は出さないで」
そう―――アラジンが“本物”ならば、大丈夫な筈だ
私は、それを見極めなければならない
アラジンが”マギ“なのか、そうでないのか
そして、それは“シンドリア”に―――ひいては、“シンドバッド”に何をもたらす者なのか
常識で考えれば、”4人目のマギ“など、あり得ない
どんな世界にも法則はある
例外など“あってはならない”のだ
あの世界ですら、”マギ“は3人だった
“4人目“など、あり得ない
だが、もし本当にアラジンが“4人目のマギ”ならば……?
それは、何を意味するのか
世界の生んだ“奇跡”
のちの“大王”となりうる存在
“彼”以外の、“例外”が存在するのだとしたら――――
モルジアナの蹴りがアラジンに炸裂する
だが、アラジンはそれを杖を振りかざして防ぎきる
ギリッとモルジアナが奥歯を噛み締めるのが手に取る様に分かった
だが、アラジンは表情一つ変えずに、そのまま杖をぐいっ前に押しやる
瞬間、杖から熱球が飛び出したかと思うと、一気にモルジアナめがけて解き放たれた
ぎょっとして、モルジアナが後方に下がる
それを見ていた、ジャミルはくっと口元に笑みを浮かべた
「”マギ”よ…君がいけないんだよ?中々僕を認めようとしないから。 君はモルジアナには勝てない…。 モルジアナはね、あの伝説の戦闘民族“ファナリス”の末裔なんだよ!!」
モルジアナが、ゆらりと構える
ファナリス……
「やっぱり、そうだったのね……」
エリスティアの言葉に、ジャミルが微かに笑みを浮かべた
「へぇ、流石はルシ、ファナリスを知っているのか…」
「……………」
エリスティアはその問いには答えなかった
知っていて当然だった
エリスティアの良く知る人物に、ファナリスがいるのだから
彼女は、彼に良く似ている
そうではないかとは思ってはいたが……
だが、ジャミルはエリスティアが知っているという事実に、益々高揚した様に歓喜の声を上げた
「知っているなら、ファナリスがどれだけ凄いか分かるだろう!! あの暗黒大陸に馳せし、最凶な狩猟民族!! どんな攻撃もかわす俊敏さの前には何者も無力!! その蹴りは雷槍のごとく、百獣の王・ライオンの腹を一撃で貫くという……まさに、地上最強の猛獣なのだよ!!」
ピイイイイイという音と共に、白い鳥たちが一斉にアラジンの杖に集まって大きな熱球を作っていく
「さぁ! “マギ”よ!! 君も哀れなライオンになりたくなければ……大人しく、僕の軍門に下れ!!」
瞬間、モルジアナが跳躍した
そして、そのままアラジンめがけて蹴りを撃ち放ってくる
アラジンは、すぅっと杖を振ると、今度は一気に振り上げた
瞬間、物凄い光の渦が辺り一帯に飛び火しだす
その光の渦はどんどん大きくなると、そのまま一気に飛散した
キラキラキラと光の欠片が散らばっていく
一瞬、ジャミルは何が起きたのか分からなかった
何故なら、攻撃した筈のモルジアナの姿がそこには無かったのだから
「な………っ」
ハッとして柱の方を見ると、ずっと高い位置にモルジアナが光の珠に縛られて身動き取れなくなっていた
どんなに動こうとも、びくともしない
アラジンはそのまま何事も無かったかのように、ジャミルに近づいた
ジャミルは、その場にへなへなとへたり込んでしまった
知らず、手足が震えている
「笛、返して」
三度目の問答に、ジャミルは震える手で懐から笛を取り出すと、アラジンに差し出した
そうする事しか出来なかった
アラジンはその笛を受け取ると、踵を返した様にスタスタと歩き始めた
「まっ…待ってくれ!!」
自分をない物の様に振る舞うアラジンに、たまらずジャミルが声を上げる
ゆっくりと、その声に反応する様にアラジンが振り返った
先生は言っていた
「待ってくれ!僕を王にしてくれるんだろう!?僕は、待ってたんだ、ずっと、待ってたんだ!君に選ばれる、今日という日を……っ!!」
そう―――待っていた
先生に言われてから10年間、ずっと待ち続けていた
「その為に、努力だってした!無能な親父に代り、人を使い、法を布き、商いを輿し、チーシャンの町を一大迷宮都市に栄えさせた!凄いだろう!!?」
「……………」
確かに、チーシャンの栄ぶりは彼の手腕によるものだろう
それは、ある意味凄いことかもしれない
だが、それだけでは駄目なのだ……
「そうだ、僕は凄い。僕は偉い。僕は出来る男だ!だから僕を、王様に……!!」
「……………王様…」
ぽつりとアラジンが呟いた
「何の事か分からないけれど、僕は……おにいさんのこと、そんなに大した人じゃないと思うよ」
「…………え……」
ジャミルが大きく目を見開く
信じていた
10年後、その少年が自分を“王”にしてくれるのだと
先生は言っていた
自分には”王の資質“があると
”上”に立つ人間で、“使う側”の人間だと
だが―――………
ジャミルは、がくりと力なくその場に崩れ落ちた
アラジンは、一度だけその瞳を瞬かせた後、カラン…との場に杖を投げ捨てた
そして、そのままジャミルから離れていく
すると、徐々にモルジアナを縛っていた魔法も解け始めた
アラジンはアリババに歩み寄ると
「大丈夫かい? アリババくん!」
それは、いつものアラジンだった
さっきまでとば別人のようなその変貌ぶりに一瞬エリスティアは驚くが、ほっともした
それとは真逆に、アリババは歓喜の声を上げる様に
「今、のスッゲーかったな!さっきのはなんだったんだ?魔法か!?お前、ホントなんなんだよ!」
「ちょと、アリババくん、興奮し過ぎよ」
エリスティアが嗜めるのも聞かずに、アリババは嬉しそうに声を上げた
「もしかしたら、俺なんかと全然違う、スッゲー奴なのかもしれねぇなぁ~」
だが、アリババが喜ぶのも頷ける
あんな凄いもの見せられたら、きっと誰しもが驚くし喜ぶ
だが、当の本人はきょとんっとして
「何って…アリババくん、僕は君と“迷宮攻略”に来た君の友だちさ!」
「…………」
その言葉に、アリババが言葉を失う
「エリスおねえさんも、ありがとう」
アラジンからのお礼にエリスティアは何でもない事の様に首を振った
「ううん、アラジンのお陰で私もすっきり出来たし、こっちこそお礼言わないといけないわ」
そう言って、にっこりと微笑む
話の見えないアリババは二人を見比べた後
「おい、エリスにありがとうって……?」
アリババの問いに、アラジンがにっこりと微笑んだ
「エリスおねえさんは、アリババくんの前に力を張ってくれてたんだよ」
「え!?そうなのか!?」
それで合点がいった
何故エリスティアが、モルジアナが剣で襲ってきた時避けなかったのか
エリスティアは、防御壁を展開した上で、かつ攻撃に転じようとしていたのだ
だから、相手がギリギリの所まで近づくのを待っていたのだった
後は、アラジンがどう動くか見極めたかった
アラジンが動くと確信があったから、あえてあそこはアリババを囮に使ってしまったのだ
後で、アリババくんに謝っておかないといけないわね……
「さぁ!冒険の続きをしようよ。ゴールを目指そう!」
そう言って、アラジンがアリババに手を伸ばす
アリババは笑みを浮かべると
「ああ!」
そう頷いて、しっかりとアラジンの手を取った
瞬間――――………
3人の足元に無数の赤い魔法陣が現れた
その魔方陣は部屋中に散らばると、祭壇へ向かってどんどん現れていった
そして、祭壇から光の柱が立ったかと思うと、その周りに炎の柱が無数に立ち上った
炎の柱は宝物庫を埋め尽くさんばかりにあふれかえってく
その時だった
『誰だ?王になるのは……?』
何処からともなく地を穿つ様な声が響いた
瞬間、炎の祭壇の中心に巨大な青いジンが現れたのだ
―――――――それそこ、この迷宮の主・アモンだったのだ
やっと、ここまで来た~~~~\(T^T)/
アモン出現
後、1話ぐらいかなーで、第一夜終わりそうですよww
さぁ、サクサク次行きましょうーww
2013/09/01