CRYSTAL GATE

  -The Goddess of Light-

 

 

 第一夜 創世の魔法使い  2  

 

 

エリスティアは、はっとした

 

このルフの名残りは……

 

それは、ここ3か月の間、ずっと探していた“それ”に近かった

いや、近いなんてものではない

この気配は……ずっと引っかかっていた“疑問“

それと、同じものだった

 

まさか……ここにいるというの……?

 

このチーシャンに――――……

 

もし、そうだとしたら この少年はその人物と接触した事になる

だが、少年はそんなエリスティアの気を知る由もなく、ぱっぱっと、残りの砂を叩きながらこちらを見る

 

「俺は、アリババって言うんだ。 一応、このチーシャンで色々仕事してるんだけどさ。 あんたにさっき立て替えてもらった金は必ず返すから! あ~、とりあえずなんだけど…あんたの名前聞いておいていいか?」

 

アリババと名乗った少年が少し照れたような仕草を見せながら手を差し出した

一瞬、エリスティアがアクアマリンの瞳を瞬かせた後、にっこりと微笑んだ

 

「アリババくんね。私は、エリスティアというの。エリスで構わないわ」

 

そう言って、ゆっくりとした仕草でその手を取った

それは、働いている者の手だった

 

……あの人の手も大きかったけれど、アリババくんの手も思ったよりもずっと大きい

 

今まで、“労働”といわれる仕事をした事のないエリスティアにとって、その手は不思議な手だった

 

シンとも、八人将の誰とも違う……

もっとずっと、苦労してきた者の手だ

 

「エリス?」

 

ふと、固まってしまったエリスティアを不思議に思ったアリババが首を傾げた

瞬間、エリスティアは はっとして慌てて首を振る

 

「あ、ううん、なんでもないわ」

 

そうだわ……

 

アリババくんは“探しもの”に接触したかもしれない重要人物

なんとか、その人の事聞きださないと……

 

だが、どう聞いたら良いものか…

 

先程の会話から察するに好意的な人物では無さそうであった

でも、なんとかして聞きださないと……

 

と、その時だった

荷物を片付けながら、アリババが問いかけてきた

 

「そういやぁ、エリスはチーシャンの人じゃないよな?」

 

「え?え、ええ……さっき着いたのよ」

 

そう答えると、何かに納得した様にアリババが頷いた

 

「あーやっぱりそうか!いや、見かけた事ない顔だなぁ~と思ったからさ」

 

そう言いながら、散らかった荷物を荷台へ乗せていく

 

「エリスぐらい綺麗な子がいたら、絶対街で噂になってると思うし。第一、領主の―――あ~これはもう駄目だな」

 

そう言い掛けて、荷馬車の中を見た瞬間アリババが溜息を付いた

 

「…………?」

 

何がどう駄目なのか気になって、そろりとアリババの後ろから中を覗いた

瞬間、「うっ……」と、エリスティアが口を押えた

 

荷馬車の中は、悲惨な状態になっていた

 

果実であろう品が、無残にも食い荒らされ

その赤い果実が血の海の様に中で飛散している

 

「こ、これ………」

 

流石に、ここまでは予想していなかったのか

エリスティアは、苦い顔をしながらおそるおそるアリババを見た

アリババは、荷馬車の中を掃除しながら無事な果実を分別していた

 

「これ……アリババくんが……???」

 

この惨劇具合は、流石にあの豚の様な男が怒っても本当に仕方ないかもとさえ思ってしまう

が、当のアリババは掃除しながらすかさず

 

「だから、俺じゃねえって!! バックレた、クソガキが勝手に食べ散らかしてたんだよ!!」

 

と、反論してきた

 

「………………」

 

考えたくはないのだが………

その、食い逃げ犯が”探しもの“なの…だ、ろうか……?

 

え……そんな人なの……?

 

「いや、まさか」という思いと、「そうだったら、どうしよう…」という相反する思いが頭の中をぐるぐるとする

 

で、でも、会って真相を確かめた方がいいわよね……

 

どちらにせよ、その人物が“探しもの”なのかどうかは会ってみないと分からない

判断はそれからでも遅くは無い

 

エリスティアはそう思うと、傍にあったころがった果実を一つ持った

 

「っ………」

 

予想より重くて、思わずよろけかける

 

「ばっ……!危ねぇ!!」

 

倒れる―――と思った瞬間、前から伸びてきた手に引っ張られ

はっとして顔を上げると、手を伸ばしたアリババがはーと呆れにも似た溜息を洩らした

 

「ったく、エリス!何やってんだよ!」

 

「あ、何って……手伝った方がいいかと思って……」

 

正直、この様な物を丸々とか持ったことは無い

だが、流石にアリババが片付けをしているのに、ただ突っ立っているだけというのも気が引けたので手を出してみたのだが――――

 

慣れない事はするものではないとは、この事である

案の定、迷惑を逆に掛けてしまった

 

「エリスって、あれだろ?どっかのお嬢様か何かなんだろ?今まで、こういうのとか持った事ねえんだろ。第一、こいつは意外と重たいからな、女の力じゃ無理だって」

 

そう言われて、一瞬ぎくっとする

 

「ど、どうして……っ」

 

いきなり言い当てられて、一瞬にして動揺が走る

正確には違う、別にお嬢様でもなんでもない

ただ、普通とは違うと言われれば違うとしか言えない

 

だが、服装も国に居る時よりも略装だし、装飾だってかなり抑えている

身に付けているのは、あの人に貰った髪飾りと それとお揃いの耳飾り

そして、ルビーの付いたチョーカーと腕輪・指輪の一式だけだ
外せないもの・・・・・・
以外は付けていない

 

どうして気付かかれたの……!?

 

一瞬にして、どっと汗が出る

まさか、自分の正体に気付かれてしまったのではないだろうか?

そんな不安が押し寄せる

 

だが、当のアリババは何でもない事の様に

 

「いや、普通に見れば分かるって」

 

「ど、どうして?」

 

納得いかない

何故かと問うと、アリババは少し考えた後

 

「そうだなぁ~まず仕草とか言葉使いとか? 後は、手だって綺麗だし服装もそうだけど…やっぱ一番は雰囲気かな?」

 

「……ふ、いん、き……??」

 

と、言われてもいまいちピンとこない

だが、それを言うなら――――………

 

「それならば、アリババくん。貴方だって普通とは違う気がするのだけれど…?」

 

そう、なんと言い表せばいいのか分からない

だが、苦労している中にも、一瞬の仕草などで感じる 一般市民とは思えない雰囲気

どちらかというと――――……

 

エリスティアの言葉に、一瞬アリババが表情を固まらせた

が、それは本当に一瞬だった

すぐに今までと同じ様にはははと笑いながら

 

「な~に言ってんだよ!俺はそんなお偉い人でもなんでねえよ。毎日 日銭を稼いでる様な身だぜ?」

 

ないない!という風に片手を振った

 

「………………」

 

なんだか、釈然としない

モヤモヤとしたものが頭の中を支配しようとしたその時だった

 

「あ!やべぇ!!エリス!!逃げろ!!!」

 

「え? え!?」

 

いきなり、ぐいっと押されて裏路地に押し込まれる

 

「ちょっ……、ちょっと何!? いきなり―――――」

 

「ブーデルの野郎の手下が来た!!」

 

「え!?」

 

ブーデルというのは、恐らく先程の豚の様な男の事だろう

その男の手下が戻って来たというのだ

 

「お前、さっき大金渡しただろ? また、変な難癖付けられて ぼったくられねぇとも限らねえし、逃げた方がいいって!」

 

そう言って、ぐいぐいと路地に押し込まれる

 

「え?じゃ、じゃぁ、アリババくんも――――」

 

「一緒に……」と言い掛けたが、その言葉はアリババによって遮られ

 

「俺は、あいつに頼まれた仕事が終わってねえから駄目だ。最低でもあの荷物はどうにかしねえと」

 

そう言って、エリスティアだけを路地へ押し込むと、広場へ戻っていく

 

駄目……

このままじゃ、折角の“探しもの”の目撃者を逃してしまう

 

そう思った瞬間、エリスティアは叫んだ

 

「私、この街で一番大きな宿に泊まっているから!!明日、街を案内してくれない!?」

 

何とか、恥ずかしいのを我慢してそう叫ぶ

すると、アリババは一瞬だけ振り返ると

 

「時間あったらな!」

 

それだけ言い残し、広場へ戻って行った

 

「時間あったらって……」

 

それでは困るのに……

 

はぁ……と、小さく溜息を付く

 

このまま、ここに居ても仕方ない

むしろ、ブーデルに見つかったらアリババの好意を無下にしてしまう

エリスティアはそのまま、その場を後ろ髪惹かれる思いで去るしかなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

         ◆          ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ…………」

 

宿で宿泊手続きをして部屋に案内された後、真っ先に向かったのは風呂だった

流石に砂漠越えしてきたので、あっちもこっちも砂だらけだ

気持ち悪くて仕方ない

 

ようやくすっきり出来て落ち着く事が出来た

 

部屋に戻ると、カンテラに火が灯されており いつの間にか外が暗くなっていた事に気付く

窓の外を見ると、下に見えるオアシスの向こうに広がるバザールに軒並みランプが灯っており、キラキラと輝いていた

 

こう見ると、国が懐かしくなる

 

エリスティアは小さく息を吐くと、そのまま窓辺に腰を下ろした

 

こうして、一人で宿に泊まるのは何度目だろうか

大概、こういう場合は彼と同室か続き部屋だった為、“一人”というのが不思議な感じだ

 

だが、これはこれで楽でいいとさえ思える

 

サァ……と、風が吹いてくる

サラサラと、エリスティアのストロベリーブロンドの髪が揺れた

 

「時間があったら、ね………」

 

今日の昼間の出来事を思い出す

アリババとの出会い

それは、“探しもの”へのヒントとなるかもしれない

 

と言っても、話が聴けるような雰囲気でもなかったのだが……

 

「はぁ………」

 

エリスティアは、小さく息を吐いた

 

「3か月かけて、ようやく見つけたかもしれないヒントなのに……」

 

もしかしたら、このまま見つける事は出来ないのだろうか……?

 

一瞬、そんな弱気になってしまう

が、次の瞬間小さくかぶりを振った

 

「ううん、駄目よね。弱気になっていては!不安な時こそ、しっかりしないと駄目だとシンも言っていたもの!!」

 

そうだ

彼がよく言っていた言葉だ

 

『不安と思うから、不安なんだ。そういう時こそ、意思を強く持て!』

 

そう言った時の彼の顔は、自信に満ち溢れていた

そんな彼を見るのが、好きだった

ルフ達も、凄く喜んでいた

 

そんな彼を見なくなって早3か月

 

「はぁ………」

 

また、小さく溜息を付いた後 エリスティアは小さく膝を抱える様に丸くなった

 

「……寂しいだなんて…思ってなんていないんだから………」

 

そう呟き、ぎゅっと膝を抱える手に力を籠めた

 

ずっと、傍にいた

片時も離れた事は無かった

彼が触れる手が好きだった

 

でも、どうしても許せなかった

気になる事もあった

 

だから――――………

 

「シン…………」

 

 

 

その声は、小さな音と共に風に乗って消えたのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ◆          ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遠くで狼の遠吠えが聴こえる

 

辺りは暗く、灯りひとつない

アリババは、くたびれた身体で何とか自分の家までたどり着くと同時に、マットの上に倒れ込んだ

 

「あーくっそー……ブーデルの野郎…、あのガキもバックレたままだし…最悪だぜ」

 

結局、あの後こんな時間まであのブーデルにタダ働きさせられたのだ

仮にも、エリスティアが立て替えとはいえ弁償したというのに…だ

はっきり言って、理不尽もいい所だ

 

しかも、あの時食べ散らかした少年は逃亡したまま帰ってこない

 

最悪以外のなにものでもなかった

 

瞬間、ぎゅるるるると腹の音が鳴った

流石に、あれだけ休みなしに労働すれば腹も空くだろう

 

アリババはよろめく身体を何とか起こすと、買い置きの林檎が入った筈の籠の中に手を伸ばして取り出した瞬間――――

 

「はむ、むしゃむしゃ。はむ、むしゃ……」

 

「………………」

 

「はむ、むしゃむしゃ……」

 

「………………」

 

思わず、ずぼっと”それ”を籠に押し戻した

 

え……???

見間違い……か?

 

今、一瞬 青い髪に白いターバンの10歳ぐらいの子供が見えた様な…

 

「は、ははは……俺、疲れてんだな…」

 

今日は、いつもの比にならないぐらい働いた

疲れで幻覚を見てもおかしくない

 

そう自分に言い聞かせると、もう一度籠に手を突っ込んだ

そして、引っ張りだすと――――……

 

「はむ、むしゃむしゃ。はむ、むしゃ……」

 

「………………」

 

「はむ、むしゃむしゃ……」

 

「………………」

 

こ・れ・は……

 

目の前でもりもりと、ひとの買い置きの林檎を食べる子供が一人……

青い髪に白いターバンの10歳ぐらいの……

 

瞬間的に、昼間ブーデルの商品をもりもり食べていた謎の子供が脳裏を過ぎった

 

「………………」

 

何故か、その子供(※頭)を持つ手に力が篭る

瞬間、無意識的に思いっきり横に投げ飛ばした

 

ボスッ!!という音と共に、子供が傍にあった布団に頭から突っ込む

 

その子供には見覚えがあった

 

こいつは……

 

 

 

「お前……っ!! あの時の、ガキ!!」

 

 

それは、忘れる筈もない

昼間、ブーデルの商品を食い散らかした少年だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ようやく、アラジン登場ww

しかし、まだ食い逃げ犯のままですwww

しかも、「はむ、むしゃむしゃ」しかしゃべっていないというな!

大丈夫!流石に次は話すよ!

 

夢主は、何だかんだで重いもの殆ど持た事ないと思います←周りが率先して持ってたと思う

でも、別におじょーちゃうけどなw

姫でもなんでもないしー

なんですかね?(笑)

シンドバッドとは、かなり近い位置のようですがv( ̄∇ ̄)ニヤッ

 

2013/04/21