CRYSTAL GATE

  -The Goddess of Light-

 

 

 第一夜 創世の魔法使い 19 

 

 

 

アリババとアラジンが嬉しそうに顔を見合わせた

 

「なら……!」

 

そう言って、2人してその手形に右手を当てる

 

そして―――……

 

 

 

 

  「「ひらけゴマ!!」」

 

 

 

 

 

瞬間、門の八芒星が光った

と同時に、八芒星の周りを囲っていた古代文字も光りはじめる

そして、ギギギギギ……という音と共に、扉ゆっくりと開き始めた

 

 

「……………っ」

 

 

その瞬間、周りの風景は一変した

遺跡の様な真実の扉のあった部屋はなくなり、視界に入って来たのは何処までも続く青い空

一瞬、外に出てしまったのかと錯覚を覚える

 

3人の立っている扉の場所は、地上よりもずっとずっと高い位置にあり 降りる手段など何もなかった

そして、その横に、広がる無数の炎の篝火

 

アリババと、アラジンは、目の前に広がる光景に目を奪われた

 

言葉を発する事すら忘れ、その光景に釘付けになった

真実の扉の先に広がっていたのは、巨大な古代都市だったのだ

だが、見た事も無い様な造りのその都市には人の気配は一切なかった

 

「外に出ちまったのか……?」

 

そう思ってもおかしくなかった

だが、違う事をエリスティアは知っていた

 

ここは、まだ迷宮(ダンジョン)の中だ

宝物庫へ続く“死者の街(ネクロポリス)

 

それがこの古代都市の名前だった

 

「あれ、見て」

 

不意に、アラジンが何かに気付いたかの様に天井を指さした

そこにはドーム状にかたどられた、紋様が描かれていた

それは、ここが外でない事を示している

 

「それじゃぁ、やっぱりここは……」

 

「ここは、まだ迷宮(ダンジョン)の中よ」

 

エリスティアは、一歩前に出る地上を見た

こうしてネクロポリスを見るのは久しい

何年ぶりだろうか……

 

真実の扉もそうだったが、またこうしてこの都市を見る日が来るとは夢にも思わなかった

 

本当に、シンが見たら喜びそう

そう思うと、自然を笑みが浮かぶ

 

「アラジン、あそこまでターバンで飛べるかしら?」

 

そう言ってエリスティアがある方角を指さした瞬間だった

その方向から突然、炎の柱が舞い上がった

 

「あれは……?」

 

アリババの問いに、エリスティアがにっこりと微笑む

 

「アリババくんが求めていた場所よ」

 

そう――――

そここそが、この「第七迷宮・アモン」の眠る神殿の場所だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      ◆      ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわあああ!」

 

ジャミルが思わず後退る

だが、突然絶壁の上に放り出されて身動きすら取れない

 

目の前には、どろどろした炎の塊のような迷宮生物

後ろは、突如現れた都市の広がる断崖絶壁

 

前にも後ろにも動く事が出来ず、ジャミルは無我夢中で剣を振りまわした

 

「何が起こったんだ!?」

 

さっきまでは、普通のレンガと岩肌の迷宮(ダンジョン)の中だった

なのに、気が付けばいつの間にか、こんな場所に放り出されていた

 

「何なんだここは!!?」

 

「………分かりません」

 

ジャミルの叫びに、モルジアナがぽつりと呟いた

その言葉が、余計癪に障った

 

カチンと来たその言葉に反応する様に

瞬間、ジャミルは思いっきりモルジアナを蹴飛ばした

 

「分かりませんじゃねーよ!!この、能無しがぁぁぁ!!」

 

ドカッドカッと、何度も何度も、モルジアナを蹴り飛ばす

モルジアナは、叫ぶこと泣く事もせずただ必死に耐える様に、頭を押さえた

 

「このゴミくずがぁ!!大体、てめぇのせいだろうが!! 僕があんな平民に騙されるなんて……っ!!」

 

そう叫びながら、ぐいっとモルジアナの胸ぐらを掴み上げる

モルジアナは声の一つも上げなかった

ただ、悲しげな眼でジャミルを見つめた

 

ジャミルの手は、ガタガタと震えていたのだ

だが、ジャミルにはそんなモルジアナの気持ちは伝わらなかった

 

 

 

「くそぉおおおおおおお!!!」

 

 

 

そう叫びながら、何度も何度もゴルタスの背に剣を突き立てる

その瞬間だった

 

 

「……ノウナシガ……ノウナシ、ガァ………」

 

突然、何処からともなく気持ちの悪い声が聴こえてきた

ぎょっとして、声のした方を見るとあのバケモノが、どろどろと融けながら喋っていた

 

「てめえのせいだろーこの、ノウナシがァ~~~~~~~」

 

そう叫びながら。ジャミルに襲い掛かってくる

 

「ひいいいいいっ!!!」

 

何で、なんで僕がこんな目に………っ!!

 

全部、全部あいつのせいだ………!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      ◆      ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリババと、アラジンとエリスティアの3人は、アラジンのターバンに乗ってあの、炎の神殿を目指していた

 

アリババは、下に広がる巨大都市を眺めながら、はぁ~~~と息を吐いた

 

「人っ子一人いねえ……ここは何なんだろうな……」

 

そう言いながら、辺りを見渡す

これだけ大きな都市なら誰かいてもおかしくない筈なのに、その都市には誰一人いなかった

人の気配というものが、まるでしない

 

だが、エリスティアは さも当然の様に

 

「ここは“死者の街”だもの。誰も居ないわ」

 

「“死者の街”?」

 

「そう―――“死者の街・ネクロポリス”。簡単にいうと、とある時代に栄えた今はもう誰も居ない古代都市とでも言えばいいかしら。迷宮(ダンジョン)にある真実の扉の先は、必ずこのネクロポリスへと繋がっているのよ」

 

エリスティアの言葉に、アリババが「へぇ……」と興味津々で頷く

 

そう、今までの迷宮(ダンジョン)もそうだった

全て真実の扉の先はこのネクロポリスだった

 

確かに、最初は驚いたが

流石に8度目となると、もう驚きも感じない

 

いや、最初からエリスティアの中には驚きは無かった

むしろ、懐かしいとさえ感じた

 

初めてシンドバッドに出逢い、一緒に攻略した、「第一迷宮 バアル」

そこで初めて見たであろうネクロポリスを見て感じたのは、“驚き”ではなく、“懐かしさ”だった

 

胸が締め付けられるほど、心が揺さぶられた

 

だが、何度も見ていく内に、その気持ちも忘れ去られていった

けれど、こうして何年振りかに見たネクロポリスは、エリスティアの知っているネクロポリスと寸分なき姿でそこにあって、それが酷く懐かしく感じた

 

こんな感覚、久しく忘れていた

心が、記憶が揺さぶられる程の感情

 

私は、この都市を”知っている(・・・・・)

 

ずっとずっと昔に、見た

人で溢れ、栄え、輝かんばかりの王が――――………

誰しもが、彼をそう呼んだ――――「――――王」と

 

瞬間、ザザザ…と、記憶の糸が途切れた様に、映像がぶれる

ああ…あれは何という名前の人だっただろうか……

 

 

皆がいて、彼がいて、そして――――………

 

「そういえば、ウーゴくんに聞いた事があるよ」

 

「…………っ」

 

瞬間、エリスティアは、ハッとした

ふいに、聴こえたアラジンの声で現実に引き戻されたのだ

 

見れば、アラジンがアリババに話し掛けていた

 

「”頑丈な部屋”の外には、“死者の街・ネクロポリス”が広がっている―――って。これって、そういう所なのかな……?」

 

「“頑丈な部屋”……」

 

れは、以前アラジンが言っていた、元いた場所の事だろうか

その先には、ネクロポリスが広がっていた……?

 

 

どういう事……?

 

 

エリスティアは、何だか腑に落ちない気がして、心の中で首を傾げた

 

アラジンは間違っていなければ“聖宮”にいた筈だ

その“聖宮”の場所は、何処かは分からない

だが、その外にはネクロポリスが広がっているのだとしたら、それは―――……

 

 

ちらりと、アラジンを見る

どうみても、普通の男の子だ

少々、普通というには、アレだが……

それを除けば、普通の何処にでもいる男の子だ

 

 

だが、決定的に違う

彼の持つルフは、他とは異なっている

 

やはり、彼が4人目なのだろうか……

実際、ジャミルもアラジンを「マギ」と呼んでいた

 

だが、過去「マギ」が3人以上同時に現れた事は無い

そして、既に「世界」には「3人のマギ」が存在する

 

だから、判断付かなかった

この“不思議な気配”の元が「マギ」なのかそうでないのか

だが、アラジンに会って核心する

彼の持つ“それ”は、「マギ」と同等の…いや、下手をするとそれ以上のものだ

もし、これが何のトリックもなく事実だとしたら、史上初の「4人目のマギ」となる

それは、吉事なのか凶事なのか……今のエリスティアには判断出来ない

 

だが、アラジンと会って会話して、害にあるものには見えない

少なくとも、シンドバッドやシンドリアに害をもたらす存在には思えなかった

けれども、少しでも“可能性“があるなら、会わせられない

 

どうするべきか――――……

 

そう考えあぐねている時だった

 

 

「だから、エリスもな!」

 

 

「え……?」

 

不意に、話を振られてエリスティアがきょとんとする

その反応に、アリババがむぅっと頬を膨らませた

 

「何だよ、エリス。聴いてなかったのか?」

 

「エリスおねえさん、ちゃんと聞いててよ」

 

アラジンにまで言われてしまった

エリスティアは、少し申し訳なさそうに

 

「え、ええ……ごめんなさい。何かしら?」

 

エリスティアの言葉に、アリババは

 

「だから、俺らウーゴくんの事とか、アラジンの事も、エリスの事も、お互いに何も知らねぇじゃん?」

 

「まぁ、そうね」

 

言われてみれば、エリスティアもアリババの事やアラジンの事は詳しく知らない

 

「だからさ、笛取り返したら、ウーゴくん紹介してくれって話。後、ここから出たら、色々とお互いの事話そうって」

 

「………そうね」

 

確かに、それは魅力的なお誘いだった

といっても、こっちの事情はあまり話せないのだが、少なくともアリババやアラジンの事を少しは知る事が出来る

そして、何よりも―――

 

「ウーゴくんは、アラジンの自慢の友達ですものね。そういえば、きちんとお会いした事なかったわ……」

 

“ウーゴくん“には、色々と助けてもらったし、きちとんとお礼も言いたい

ジンに“お礼“というのも、変な話だが……

 

「だろ!だから、笛取り返したら、紹介してもらおうと思ってさ!な、アラジン」

 

アリババの言葉に、アラジンが「うん!」と頷く

 

「ウーゴくん、結構お顔もなかなかハンサムなんだよー」

 

「へぇ……それは、是非お会いしてみたいわね」

 

エリスティアが冗談めかしてそう言うと、アリババがにやりと笑った

 

「いいのかよーエリス、そんな事言って。あの人が怒るんじゃねぇの?」

 

にやにやしながらいう「あの人」とはまぎれもなくシンドバッドの事だろう

だが、エリスティアは、平然としたまま…いや、むしろ開き直った様に

 

「あら、シンだって散々女の人侍らしてるもの、私がかっこいい男の人に惹かれたって文句は言えないわよ。例えば…アリババくんとか?」

 

と、これまた冗談めかして言う

だが、その冗談に顔を真っ赤にさせたのは他ならぬアリババだった

 

「お、俺ぇ!?」

 

びっくりした様に、自分を指さしながら口をぱくぱくさせる

その反応が面白くて、エリスティアはくすくすと笑みを浮かべながら

 

「ふふ、アリババくんも十分かっこいいと思うけれど?ねぇ、アラジン」

 

「うん、アリババくんはかっこいいよね!」

 

と、アラジンまでも嬉しそうに同意しだした

2人の反応に、アリババが口をぱくぱく金魚の様にさせながら

 

「お、おおお前ら何言って……っ!!」

 

顔を真っ赤にしてそう言うアリババに、アラジンとエリスティアがぷっと吹き出し始める

その反応で、アリババはハッと我に返った

からかわれている事に、気付き「お前ら~~~~~~!!」と叫んだのは言うまでもない

 

 

 

 

 

 

そうこうしている内に、炎の神殿の前まで辿り着いた

3人は、ターバンから降りると目の前に広がる宝物庫の扉に目を奪われる

 

「開けるぞ」

 

「ええ…」

 

アリババの言葉に、エリスティアが小さく頷く

 

アリババとアラジンは頷き合うと、宝物庫の扉をギギギギギと押し上げた

ギィィィィィと扉が軋む音を立てながら扉が開いて行く

 

アリババはごくりと息を飲んだ

 

 

この中に“迷宮(ダンジョン)”のお宝が――――………

 

 

そう思って、目の前の宝物庫の中に足を踏み入れた

が―――

 

 

 

 

   そこのあったのは瓦礫の山だった

 

 

 

 

ボロボロの八芒星をかたどった祭壇

折れた剣に、破れた鎧

光を放たない石に、ガラクタの首飾り

 

話に聞いていた、金銀財宝などは何処にも存在していなかった

 

ここが、ゴールなのか……?

 

アリババは、あまりにも予想外過ぎて言葉を失った

アラジンも、きょろきょろと辺りを見渡しながら階段を飛び跳ねながら降りていく

エリスティアだけが、平然と当然の様な顔をして、スタスタと階段を降りて行っていた

 

だが、アリババには信じる事が出来なかった

 

これが、俺達の目指してきた迷宮(ダンジョン)だったっていうのか……?

そんな――――

 

その時だった

 

ジャラ……

 

背後から突然鎖の鳴る音が聴こえたかと思うと

ぐらりと目の前が暗くなった

 

ぎょっとして、アリババとアラジンが振り返るとそこには―――

あのジャミルの奴隷の大男―――

 

 

          ゴルタスが血走った瞳で、片手に剣を持ったまま立っていたのだ―――………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宝物庫に入った所で終わりましたww

案外、ネクロポリスの話で文字食っちゃった…

次回から面白展開なのにねー

 

アモン出るまでに何話使うかな… 

 

2013/08/14