CRYSTAL GATE

  -The Goddess of Light-

 

 

 第一夜 創世の魔法使い 17

 

 

 

瞬間、モルジアナの声が響いた

 

 

 

 

 

   「ご友人は、死んでしまいましたよ……っ」

 

 

 

 

 

衝撃の言葉に、アラジンが大きく目を見開く

 

アリババくんが……死んだ……?

 

信じられなかった

つい、先程まで一緒に迷宮(ダンジョン)を“冒険“していたのに

そのアリババが死んだのだと、目の前のこの少女は言う

 

エリスティアはこの事を知っているのだろうか

気になって、思わずエリスティアの方を見る

 

が―――、当のエリスティアは何故か上の方を見て笑っていた

 

「…………???」

 

エリスティアの不可解な行動に、思わずアラジンが首を傾げる

 

エリスおねえさん……?

 

アリババが、死んだという報告を受けている真っ最中なのに 何故エリスティアは笑っているのだろうか

しかも、上の方を見たまま

 

不意に、エリスティアがアラジンの視線に気付きこちらを見た

すると、アラジンを見るなりエリスティアは、にっこりと微笑んだ

 

「エリスおねえ……」

 

声を掛けようとした瞬間、しっとエリスティアが口元に指を当てた

慌ててアラジンが自分の口を塞ぐ

すると、エリスティアは上を見る様に指さした

 

「???」

 

不思議に思い、アラジンがその指先を見る

そこには――――……

 

 

え”………?

 

 

「ご友人は……死んでしまいましたよ……っ」

 

そう訴えるモルジアナとは裏腹に、そこにはアリババがいた

気まずそうに苦笑いを浮かべて、手を上げてくる

 

え……!?

 

思わず声が出そうになるのを、慌てて手で押さえる

アラジンはエリスティアとアリババを交互に見比べた

エリスティアは、知っていたかの様ににっこりと微笑むともう一度口元に指を当てた

 

はっとして、モルジアナを見る

モルジアナは気付いていない

 

「えっと………」

 

アラジンが困った様に声を洩らしたのを、アリババが死んだ事による困惑と受け取ったのか…

モルジアナは、もう一度強く

 

「だから……死んでしまったんです……っ!!」

 

一瞬、アラジンがビクッとする

 

「え?……あ…うん……そう、かい」

 

死んだというモルジアナと、生きているアリババに戸惑いの色を見せながらアラジンは 今度はアリババとモルジアナを見比べた

 

モルジアナは死んだという

だが、エリスティアも笑っているし、実際アリババがすぐ真上にいる

 

アラジンは反応に困った様に、苦笑いを浮かべて立ち上がった

だが、モルジアナはアリババの存在に気付いていなかった

 

「“立場もわきまえず”領主様の気分を害したから……ご友人は……っ。貴方も、“立場”に気を付けないと死んでしまいます」

 

その時だった

 

 

 

 

   「そうでもねえよ!!」

 

 

 

 

不意にアリババの声が響いた

ぎょっとしたのはモルジアナだった

 

慌てて振り返ると――――そこには、上から蔓を使って飛び降りてきたアリババがいたのだ

 

「どうして……!?」

 

あの時、炎に巻かれて死んだと思っていた筈のアリババが目の前にいたのだ

あの状態で生き残るなど、絶対にあり得ない

そう思っていたのに―――

 

だが、そんなモルジアナとは裏腹にアリババはニッと笑みを浮かべると

 

「俺は不死身だからな!」

 

その時だった

 

「うわああああ~~~!!!」

 

突然、どこからともなくジャミルの叫び声が聴こえてきた

思わず、エリスティアとアリババ達が顔を見合わす

 

瞬間、足をもつれさせながらジャミルが慌てて駆け寄ってきた

 

「マギ! ルシ! お願いです!! どうかあの化け物を――――……っ」

 

ジャミルがアラジンとエリスティアに泣きつく様に叫んだ瞬間――――

目の前に居る筈のない人物を見つけて、驚愕の声を上げる

 

「お前――――っ」

 

その反応に、アリババがニッと笑みを浮かべる

 

「悪いな、あの翻訳は嘘だったんだよ、な?」

 

そう言って、エリスティアを見る

アリババのその言葉に、エリスティアがにっこりと微笑んだ

 

「なにっ……!?」

 

まさかの言葉に、ジャミルが驚きのあまり声を上げた

その反応に、今度はエリスティアがくすりと笑みを浮かべた

そして、一歩前へと歩み出る

 

「正しくは―――“竜巻と踊れ、竜の顎門の中に真実はある 全ては竜の尾に至る前に”と書かれていたのよ。読めていなかったのね…領主さん」

 

エリスティアの言葉に、ジャミルがぐっと言葉を詰まらせる

すると、また一歩エリスティアが前に出た

 

「迷宮生物は、どうだったかしら? 私、少しは貴方のお役に立てたなら良かったけれど」

 

そう言って微笑むエリスティアの表情は、怖い位綺麗だった

思わず、その笑顔にアリババの背筋がぞくっとする

 

エリスは怒らせないでおこう……

 

心底、そう思ったのだった

 

だが、言われたジャミルは違った

はは…と、困惑した様に笑みを浮かべると エリスティアの袖を掴んだ

 

「何を言っているんだい? 僕のルシ。 君が、あの道が正しいと言ったんじゃないか」

 

すがる様なジャミルの言葉に、エリスティアは一度だけそのアクアマリンの瞳を瞬かせた

そして、また極上の笑みを浮かべると

 

「正しい道……? “空気の流れを感じる”としか、私は言っていないと思うけれど…?」

 

「なっ……!?」

 

エリスティアの言葉に、今度こそジャミルはショックを受けた様にその瞳を見開かせた

だが、エリスティアは益々その笑みを深くさせると―――

 

「ああ、でも、きっとあの迷宮生物の先は何処かへ繋がっているわよ? 抜ければ宝物庫への道も開けたかもしれないわね。 抜けられれば―――の話だけれど」

 

そう言って、今までで一番綺麗な笑みを浮かべた

エリスティアのその反応に、ジャミルがわなわなと震えだす

 

「ふ……ふざけるな!! 君は僕のルシだろう!!? ならば、僕の言う事を――――」

 

 

 

 

「勘違いも甚だしいわね」

 

 

 

 

瞬間、周りの空気が凍りつく様な冷たい声が響き渡った

ぎくりと、ジャミルの表情が凍りつく

 

一瞬、目の前にいるのは誰なのかと錯覚する

 

先程まで笑っていたエリスティアはそこには居なかった

氷の様な冷たいアクアマリンの瞳と、表情という物が一切消えた“誰か”しかいなかった

 

「“いつ”、“誰が”、“誰のルシ” になったというのかしら? 私の契約主となるのは過去にも未来にも、シンドバッド王ただ一人よ。 貴方じゃないわ」

 

「――――――………っ」

 

ジャミルが、大きく目を見開くと震える手でエリスティアの袖を更に引っ張った

 

「でも、でも先生は言ったんだ! 10年後、僕の前に “僕を王にしてくれる者” が現れると!! そして、君達は現れた!!」

 

「…………そう」

 

「そうだよ! だから、マギもルシも僕が選ばれるべきなんだ!!」

 

「………………」

 

呆れた様に、エリスティアは溜息を付いた

そして、パシンッと大きく音が出るぐらいジャミルの手を払いのけると、そのまま踵を返す様に背を向けた

 

一瞬、ジャミルが声を失った様に立ちすくむ

 

「貴方のお陰で、アリババくんは正しい道を見つけられたもの。ありがとう、領主さん」

 

そう言って、そのままアリババの傍まで戻ってくると

 

「アラジン」

 

エリスティアの声にアラジンが小さく頷く

そして、バサッとターバンを大きく広げた

 

瞬間、3人を乗せた魔法のターバンはふわりと浮きあがると上昇を始めた

 

「いいのかよ? エリス」

 

アリババの言葉に、エリスティアは平然としたまま

 

「全然足りないわ」

 

と、さも当然の様に言い切った

あれだけバッサリ切っておいて“足りない”とは、何って恐ろしい……

と、アリババが苦笑いを浮かべた

 

下を見ると、ジャミルが唖然としたままこちらを見ていた

 

「ごめんね、おねいさん。 でも、また会おう! 見えない鎖が切れる頃、一緒に太陽を見に行こう!」

 

「…………っ」

 

モルジアナがハッとした様に、大きく目を見開いた

 

雲一つない真っ青な空

その中に浮ぶ、明るい太陽

先の見えない大草原

大きな動物 大きな植物

 

風が、頬を撫で

髪を揺らす

 

そんな光の下に―――――

 

鎖なんてない

 

 

   “自由”

 

 

自由なのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「モルジアナ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

瞬間、ガシャーンいう音と共に鎖の感触が蘇る

領主である、ジャミルの声が脳裏に響き渡った

 

痛い

痛い痛い痛い痛い

 

いやだいやだいやだいやだ

 

誰も、誰も助けてくれない―――――っ

 

ギリッと、モルジアナが唇を噛み締めた

 

「知った風な事を言わないで………」

 

自由なんてない

感情も、心もない

 

「私達、奴隷の人生がどんなものか……少しも知らないくせに……っ!!」

 

奴隷なのだ

 

バキィ!!っという音と共に、モルジアナの足がレンガにめり込んだ

瞬間、ズシャ!ズシャ!という音と共に、モルジアナが駆け出す

 

「おいおいおい!」

 

ぎょっとしたのはアリババだ

モルジアナが物凄い勢いで、壁を縦に駆け上がって来たのだ

 

まさかの状況にアリババが慌てて叫ぶ

 

「アラジン! 上! 上!!」

 

 

 

「待て!!!!!!」

 

 

 

モルジアナが叫ぶと同時に、大きく跳躍した

そのまま魔法のターバンめがけて手を伸ばしてくる

 

が―――その手は届かなかった

宙を切った手は、ターバンに触れる事は叶わなかったのだ

 

「あんな、下賎の奴らに…この僕が……っ!」

 

それを見ていたジャミルはぎりっと唇を噛み締めた

 

何故だ

何故、どいつもこいつも僕に逆らう

 

自分の手を払ったエリスティアも

騙したアリババも

逃げるアリババ達を捕まえられなかったモルジアナも

化け物の盾にしかならなかったゴルタスも

 

全部全部、思い通りにならない

 

モルジアナが壁から目の前に着地してきた

瞬間、ジャミルはモルジアナを蹴り飛ばした

 

「―――――っ!」

 

いきなり蹴られて、モルジアナが両手を地に付ける

 

「くそ……! くそ……っ!!」

 

何もかも思い通りにならない

どいつもこいつも 使えない

 

「殺してやる……っ!! 殺してやる……っ!! 絶対、殺してやる!!!」

 

許さない

絶対に、許さない!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ****    ****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これがきっと真実の扉。お宝はこの先だ」

 

そう言ってアリババが2人を連れて来た場所は、エリスティアにとってよく見覚えのあるものだった

 

今まで7度程、見てきた

あの街へと続く “真実の扉”

 

懐かしい……

ふと、そんな事を思った

 

もう二度と来ることは無いと思っていた場所

彼と、そして彼らと一緒に冒険した場所

 

シンが見たら、嬉しそうに中へ入るわね…きっと

 

そう思うと、自然と笑みが浮かんだ

突然笑ったエリスティアに、アリババとアラジンが首を傾げる

 

「どうしたんだい?エリスおねえさん」

 

アラジンの言葉に、エリスティアは「なんでも」と言いながら微笑んだ

 

「それよりも、開けてみたの?アリババくん」

 

扉はがっちり閉まったまま

あの街も出現していない

 

それは、開けていな事を示す

 

エリスティアの言葉に、アリババは扉のある部分を指さした

 

「いや、あれを見ろよ」

 

言われて扉を見るとそこには手形があった

二つの手形が

 

そして、その上部に八芒星

その周りを古代文字で描かれた呪文が記されている

 

「右手……?」

 

「ああ、しかも両方だ」

 

そう―――その手形は両方とも“右手”だった

 

それはつまり、1人では開けられない事を示している

それを見たアラジンはにっこりと微笑んだ

 

「じゃぁ、僕達3人でよかったね!」

 

「ああ」

 

アリババもその意見に力強く頷いた

 

ただ、エリスティアは何かを知っていたかのように、にこりと微笑んだ

 

「なぁ! 誰が開ける!?」

 

アリババがうきうきした様にそう言いだした

すると、アラジンも楽しそうに

 

「そうだねぇ~やっぱり、アリババくんと――― 「アラジンで開ければいいと思うわ」

 

「「え?」」

 

不意に言われた言葉に、アラジンとアリババがエリスティアの方を見る

すると、エリスティアはにっこりと微笑んで

 

「私は、似た様な場面を何度も見てきているもの。それに、今日の主役はアリババくんとアラジンでしょう?」

 

「……いいのか?」

 

アリババの言葉に、エリスティアが小さく頷く

 

「どうぞ」

 

その言葉に、アリババとアラジンが嬉しそうに顔を見合わせた

 

「なら……!」

 

そう言って、2人してその手形に右手を当てる

 

そして―――……

 

 

 

  「「ひらけゴマ!!」」

 

 

 

 

 

瞬間、門の八芒星が光った

と同時に、八芒星の周りを囲っていた古代文字も光りはじめる

 

そして、ギギギギギ……という音と共に、扉が開け放たれたのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ついに、宝物庫へと続くネクロポリスに入れますよー

次回辺り、宝物庫には入れるかな?

 

後、ジャミルいい感じに鬱陶しいなww 

 

2013/08/09