CRYSTAL GATE

  -The Goddess of Light-

 

 

 第一夜 創世の魔法使い 15 

 

 

アリババは、ジャミル達の先頭を歩きながら、ちらりと後ろのエリスティアを見た

エリスティアはこの先に、この迷宮の一番重要な仕掛けがあるといっていた

 

だが、歩けば歩けども、光る苔に、ずっと先まで続く岩肌しかなかった

 

エリスティアの見せてくれた映像では、この岩肌が終わる頃、不思議な門と碑文があるという

本当にそんなものがあるのだろうか……?

 

別に、エリスティアを疑う訳ではないが…

この状況では、俄かに信じられがたかった

 

ジャミルは、笑いながら必死にエリスティアに話し掛けている

が、当のエリスティアは完全無視

一切、取り付く島もないとはこの事だ

だが、それすらもジャミルは気にしていない様だった

 

ジャミルの前後にいるゴルタスという巨漢の男と、赤髪の奴隷の少女は一言も話そうとはしなかった

 

アラジンとエリスティアが人質同然の今、従ったフリをするしかない

せめてアラジンが笛を吹けるぐらいまで回復すれば、転機は見いだせるかもしれない

もしくは、エリスティアの体調が戻れはあの力も使えるかもしれない

 

だが、今は駄目だ

迂闊に動く事も出来ない

 

隙を見て、アラジンの笛だけでも取り戻そうとは考えるが

それを読まれているのか、ジャミルは面白そうにアラジンの笛を吹きながら遊んでいる

だが、その笛からはやはり音はしない

 

「何だこの笛、音がしないなぁ~」

 

などと言いながら、ヒューヒューと風の音だけが聴こえている

 

「ねぇ、ルシの君ならの笛 吹けたりするのかな?」

 

ジャミルは、懲りずにエリスティアに話し掛ける

だが、エリスティアは、一度だけアクアマリンの瞳を瞬かせた後、サラリと、ストロベリーブロンドの髪を横に流した

 

やはり、完全無視

だが、ジャミルはそれすら気にせずに、にやにやと笑みを浮かべながらアラジンの笛をアリババに見せる様にチラつかせた 

 

「持ち主が眠っていては落としそうで危ないなぁ…これは僕があずかっておこう…」

 

そう言って、にやりと笑みを浮かべた

完全に読まれている

恐らく、アラジンが笛を使って力を使う事を知っているのだ

 

何処でだ?

ジャミルの前で“ウーゴくん”を出した事は無い

なのに、このジャミルの行動は、明らかに知っているからだ

 

何処かで見てやがったのか

はたまた、最初から知ってたのか……

 

それは、アリババには分からない

だが、分かっている事はひとつ

 

ジャミルは、知っている―――という事だ

 

その時だった

何も無かった岩肌に燭台がぽつぽつと現れ始めた

 

燭台……?

今まで、そんなものなかった

 

よくよく見ると、あれほど続いていた岩肌の下にレンガの板が見え始める

その風景には見覚えがあった

 

あのエリスティアが視せてくれた風景と一緒だった

という事はまさか……

 

アリババの足が先を求める様に早くなりだす

 

この先に、あの門が――――

 

そう思うと、走り出したくてたまらなかった

だが、ジャミルがいる手前、走る訳にもいかない

 

アリババは、ごくりと息を飲み前を見た

瞬間、目の前から光が溢れだしていた

 

「なんだ?迷宮(ダンジョン)の造りが変わって……?」

 

ジャミルは、不思議そうに、前に躍り出た

そして、その光の先を見た瞬間、歓喜の声を上げた

 

「おお~~~~!いよいよ、迷宮(ダンジョン)らしくなってきたじゃないかー!」

 

ジャミルが行った先には、不思議な門があった

 

エリスティアが見せてくれたあの門だ

そして、その先に炎の柱が無数に立っていた

 

そして、その門の目の前には石の碑文

――――エリスティアの言ったとおりだった

 

じゃあ、これがこの迷宮の重要な仕掛け……?

その碑文を見た瞬間、ジャミルは興味津々という風に、碑文を眺めた

 

「おやおや、何か文字が掘ってあるね……古代文字か何かかな?」

 

そう言って、碑文をなぞる

アリババには、その文字が何の文字なのか直ぐに分かった

 

トラン語じゃねえか……

 

それは、はるか昔、トランの民が使っていたという言語だった

今も、南部の少数部族が使われている

 

なんで、トラン語が……

 

エリスはこの事を言っていたのか……?

ちらりと、エリスティアを見る

エリスティアが小さく頷いた

 

つまり、これを上手く使えって事か……

 

じっと、トラン語を見る

だが、ジャミルには分からないのか……

 

「ん?なんだ?これは確か――――」

 

そこから先の言葉が出てこない

分からないのだろうか?

 

「……トラン語っすね」

 

思わず言葉が出た

アリババのその言葉に、一瞬ジャミルが驚いた様に目を見開く

が、次の瞬間にっこりと微笑んで

 

「やるねせ~君ィー!平民で文字が読めるだけでも珍しいのに!」

 

そう言って、いつも奴隷達に褒美で配っているトウモロコシの粒を渡してくる

アリババは苦笑いを浮かべた

これをどうしろというのだ

 

ここは、穏便にいった方がいい

そう思って、素直にそれを受け取る

 

瞬間、微かにジャミルの表情が疑惑に変わる

 

「トラン語は、よっぽど高い教育を受けないと読めない筈なんだけど……?」

 

一瞬、アリババがぎくりを顔を強張らせた

が、何事も無かったかのようにへらっと笑って見せると

 

「あ~古い神殿や迷宮にはつきものだって聞いたんで…その、独学で…」

 

なんとも苦しい言い訳だ

だが、今はそれで乗り切るしかない

 

ジャミルは「ふーん」と声を洩らした後、どうでもよさそうに

 

「でも、僕は先生にちゃんと習ったけどね…えっと…“この道は……竜の…踊る…真実点……、………?」

 

おいおい

アリババは飽きれて思わずため息が出そうになった

 

ジャミルのその訳は殆ど合っていなかったのだ

はっきり言って、まったく読めていないのと一緒である

 

エリスティアは、この”仕掛け(・・・)“を使えと言った

その”仕掛け“とはこの碑文にし記されている事なのだろう

 

「………………」

 

賭けに出るか……

 

アリババは、息を飲むと―――

 

「“竜巻と踊れ、竜の顎門を越え真実に辿り着け すべては竜の尾にあり―――”じゃないっすかね?」

 

そう言った瞬間だった―――

 

ブシュ……

 

「いった……!」

 

突然、左腕に激痛が走った

見れば、ジャミルの剣がアリババに突き刺さっていた

 

だが、ジャミルはさも当然の様に

 

「今、言おうと思っていた所だったのに―――ああ、でも丁度いいか」

 

そう言って、アリババを見た

 

「訳が正しいか、自分で証明してもらおうか」

 

そう言って、自分達は一歩下がると、アリババだけを、炎の柱の前に立たせた

ごくりと、アリババが息を飲んむ

 

ちらりとエリスティアとアラジンを見た

 

アラジンもエリスも俺の為に身体を張ってくれたんだ…

今度は、俺の番だよな

 

そして、エリスティアをもう一度見る

 

普通に考えれば、エリスティアのあの力でこの炎は消せるんじゃないかと思う

だが、訳はそうは言っていなかった

“竜巻と踊れ”

つまり、この何処からいつ吹き出て来るか分からない炎の柱の壁を抜けなければ意味は無いのだ

 

と、その時だった

エリスティアが小さくまるで呟く様に「風浮(リーフ・ダリア)」と呟やいた

瞬間、アリババの身体がふわりと宙に浮いた様に軽くなる

 

これなら、いける!

 

アリババは、一気に跳躍すると炎の柱の中に突き進んでいった

進む先から先からどんどん、無数の炎の柱が出現する

 

アリババは、軽くなった身体で、それを必死に避けて進んだ

 

“竜巻と踊れ!”

 

それが今、この事だ!!

 

アリババは、はたから見ればまるで踊っている様にも見えた

そのぐらい、アリババのさばき具合は凄かった

 

「やるじゃないか!」

 

ジャミルの声が聴こえるが、今はそれ所では無い

 

アリババは、どんどん炎の柱を飛び越えると、最後の最後で一気に飛び越えてそのまま炎の柱を通り抜けきる

 

「さぁ!早くスイッチを!!」

 

アリババは立ち上がると、目の前にある竜の口の石碑を見た

ごくりと息を飲み、その中に手を差し込む

 

ガチャリ

 

何かが外れた音と共に、今までアリババが通り抜けてきた炎の柱次々と消えていく

全部消えたのを見計らうと、ジャミルは安心した様に「今だ」と言いながらその道を渡り始めた

瞬間、アリババがにやりと笑みを浮かべる

手は、竜の口の石碑の中にあり

そのまま――――

 

瞬間、ボウッっとアリババの周りを炎が包み込んだ

 

「うわあああああ」

 

アリババの叫び声が聴こえる

だが、エリスティアは何も反応を示さなかった

それが さも当然の様に―――

 

そして、ジャミルはそれに気付かなかった

燃え上がるアリババを見てにやりと笑みを浮かべると、そのまま横を素通りしていく

 

「あーあ、可哀想に」

 

まったく、思っていないのは明らかだった

エリスティアは、アリババの消えた場をじっと見つめたまま静かに何かを呟いた

だが、それは誰の耳にも届かなかった

 

ふわりと、赤髪の少女の頬に、アリババの燃えカスが落ちてくる

少女は、ぐいっとその燃えカスを拭き取ると、手に付いたそれを見た

 

と、その時だった

 

「ん……」

 

「アラジン?」

 

不意に、アラジンがピクリと反応した

エリスティアが駆け寄ると、アラジンがゆっくりと目を覚ます

 

「お目覚めですか?マギ」

 

ジャミルが、アラジンに気付き アリババとはまったく真逆の態度でアラジンに話し掛ける

アラジンは事態が掴めないのか、きょろきょろと辺りを見渡した

エリスティアはいる

だが、肝心のアリババの姿が見当たらなかった

 

「あれ?アリババくんは?」

 

アラジンの言葉に、エリスティアが小さく笑みを浮かべた

そして、優しくアラジンの頭を撫でる

 

「エリスおねえさん?」

 

アラジンは、エリスティアのその行動の意図が読めず、首を傾げたのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ****    ****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ…じゃぁ、お兄さんが僕を助けてくれたのかい」

 

そう言いながら、アラジンはジャミルの用意していたホブスを食べながらそう言った

アラジンのその言葉に、ジャミルがにっこりと微笑む

 

「そう、君の笛を持って先に行ってしまった、君の友達も必ず探し出してあげるからね」

 

そう言って、また優しげに微笑んだ

だが、アラジンにはその微笑は嘘くさく感じ、「ふーん」と言いながら後ろに控えている赤髪の少女を見た

そして、隣に座るエリスティアを見る

 

エリスティアは何を答える訳でもなく、目の前に出されたチャイにも手を一切伸ばさなかった

 

なんだが、エリスティアの様子もおかしい気がして、アラジンはますます首を傾げた

そうして、もう一度あの赤髪の少女を見る

それは、あの市場(バザール)商隊(キャラバン)で見た奴隷の少女だった

一瞬、目が合うが…少女はふいっと視線を反らした

 

アラジンの視線に気付いたジャミルが「ああ」と声を洩らした

 

「2人は僕の奴隷だよ。大きい方がゴルタス、北方の遊牧民族なんだ。…傷のせいで口はきけないけど、とても丈夫で怪力だ。小さい方がモルジアナ、あの“暗黒大陸”に住んでいたという狩猟民族の末裔だ。とっても鼻が利くし、強靭な脚力も持っているんだ。2人とも高かったんだよ」

 

「……ふーん」

 

何とも、同意し辛い内容だ

アラジンには、「そうなんだ」などという台詞は微塵も浮かんでこなかった

 

「ルシ、僕のお茶のお味は如何かな?」

 

不意に、ジャミルが一口もチャイを口に付けないエリスティアに話し掛けた

エリスティアは、一度だけそのアクアマリンの瞳を瞬かせると、小さく息を吐いた

 

「申し訳ないけれど、今 喉は渇いていないのよ」

 

エリスティアがそう謝罪の言葉を述べると、ジャミルは至極残念そうに

 

「そうか、とっておきの茶葉なんだけどな…すごく高級なものなんだよ。一口だけでも飲んでくれると嬉しんだけどな」

 

そう言って、嘘くさそうな笑みを浮かべた

エリスティアはまた溜息を洩らした後、仕方なしにティーカップに手を伸ばした

そして、一口だけ口を付ける

 

すぅっとチャイ独特の香辛料の香りが鼻に付く

はっきり言って、淹れ方がおかしい

どれだけ、香辛料を入れたのかと問いたくなる

 

が、あえてエリスティアはその事に触れなかった

笑うでもなく、顰めるでもなく、ただ無表情のまま静かにティーカップを置いた

 

無言を肯定と取ったのか、ジャミルは満足気に「おいしいだろう」と嬉しそうに微笑んだ

 

と、その時だった

 

「領主さん」

 

不意に、エリスティアが口を開いた

エリスティアから話し掛けられたことが嬉しいのか、ジャミルがぱぁっと満面の笑みを浮かべる

 

だが、エリスティアは無表情のまま

 

「ここから先、三つの道に繋がる様だけれど、貴方はどの道をいくのかしら?」

 

そう言ってエリスティアが指した先には3つの横穴があった

 

ジャミルは、考えた

出来る限り、安全な道を行きたかった

 

アリババの訳が正しければ、宝物庫は“すべては竜の尾に存在する”筈である

だが、肝心の罠避けがいない

 

どうする?

翻訳によれば、この先が宝物庫で間違いないが……

正しい道をどうやって探そうか?

 

モルジアナを使うべきか?

彼女ならが死臭から、罠を避けられる

だが、入った先に死体すらなければ彼女の鼻は使えない

 

逆にゴルタスでは何を見つけても声が出せない

なんて、どいつもこいつも使えない奴らなんだろう

 

そう思った時だった

すっと、エリスティアが中央の道を指さした

 

「あの道から空気の流れが感じられるわ―――領主さん、行って確かめて下さらないかしら?」

 

そう空気は感じられる―――それがいい物かは別として

だが、エリスティアの言葉を正解の道と思ったのか、ジャミルはほっとした後、ごほんっと咳払いをした

 

「流石は僕のルシだ。よし、この先は僕が直々に調査してくる。女子供はここで待っていたまえ」

 

そう言って立ち上がると、すっと赤髪の少女の横を通り過ぎる瞬間――――

 

「見張っておけ」

 

そう小声で言い残すと、ゴルタスを連れて中央の道へ入って行った

 

見張る…ね

 

アラジンには聴こえなかったかもしれないが、エリスティアにははっきりと聴こえていた

だが、どうでもよかった

見張りなど、どうとでもできる

 

それに―――……

 

エリスティアは、中央の穴を見た

私は、嘘は言っていない

確かに、あの穴からだけ空気の流れを感じる ただし、良いものではないけれど

それはつまり――――そこに何かいるという証だ

 

少なくとも、シンドバッドならまず真っ先に避けるであろう道だ

いや、そもそも彼ならここへ至る前に答えを見つけている

 

アリババくん……

アリババは正しい道を見つけられただろうか

 

あそこで嘘の翻訳をした彼は、正しい道へ行っている筈だ

多分、彼なら見つけられる

 

だから、それをアリババに託した

 

そして――――

 

あの領主はシンドバッドを侮辱した

絶対に許すわけにはいかない

 

まずは、その入った先で迷宮生物の餌食になるといい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やっと、モルさんの名前が出たー\(T^T)/

ここまで地味に長かったなww

 

後、ジャミルがいい感じに罠にハマっていっておりますww

誰も正解の道なんて言ってないし、そもそもそこに正解ないしな!

 

さて、このまま次へどうぞー

今度はシンドリア組出て来るよvv

 

2013/07/30