CRYSTAL GATE

  -The Goddess of Light-

 

 

 第一夜 創世の魔法使い 13 

 

 

「ねぇ、ヤム…いいのかなぁ……」

 

突然話を振られ、廊下を歩いていたヤムライハはピタリとその足を止めた

 

「ピスティ?」

 

横を見ると、彼女にしては珍しく難しい顔をしたままう~~~んと唸っていた

だが、直ぐにピスティが何の事に付いて言っているのかはピンときた

 

ヤムライハは小さく息を吐くと

 

「仕方ないでしょ?エリスに口止めされてるんだから」

 

「そうだけどさ~」

 

ピスティ的には納得いかないのか…

ヤムライハの言葉に、ますます顔を難しくさせる

 

ピスティの悩む気持ちも分かる

何故なら、エリスティアは目的については王であるシンドバッドにすら言っていないと言っていた

表向きは、王との喧嘩で出て行った

――――という事になっている

だが、実際は違った

 

3か月前、突然エリスティアは黒秤塔のヤムライハの部屋を訪ねてきた

そして、告げたのだ

 

『気配を探しに行く』 と

 

数日前、突然不思議なルフの気配を感じ取ったという

それは、今まで感じた事のないルフで、もしかしたら新たなマギかもしれないと彼女は言った

 

だが、既に世界には3人のマギが存在しており

今まで3人以上のマギの出現は過去、一度として事例がなかった

 

もし、これが本当に”マギ“だとしたら、史上初めての4人目となる

 

それは、吉事なのか凶事なのか判断付かないと彼女は言った

だから、調べに行く―――と

 

勿論、一人で行くという彼女をヤムライハは止めた

だが、エリスティアはどうしても一人で行かせてほしいと言った

 

判断が付かない今、シンドリア―――ひいては、シンドバッドにどう影響を及ぼすかは分からない

それなのに、確認もせずその者をシンドバッドと接触させる訳にはいかないという

 

ヤムライハは、せめて王には理由を言うべきだと言った

だが、やはりエリスティアはそれも拒否した

 

言えは必ず自分も行くと言い出すと

だが、シンドバッドにどのような影響が出るかも分からない相手と接触させる訳にもいかないし、

第一、シンドリアの王をいつ帰れるかもわからない旅に連れて行ける訳もなく、それに長期間政務を放って国を空けさせる訳にはいかない――――と

 

なら、ヤムライハは自分も行くと言い出した

だが、それはエリスティアによってやんわりと断られた

 

八人将にはそれぞれ役目がある

特に、ヤムライハはこのシンドリアの結界の要だ

有事の時は、ヤムライハが居なくては結界を保てなくなる

 

だが、それはエリスティアにも言える事だった

 

このシンドリアに何重にも張られている結界は、シンドバッドとエリスティアの力をベースにヤムライハが作り上げた物だ

エリスティアがいないだけで、効力は半減する可能性があるし、有事の時張り直す事が出来ない

 

それでも、エリスティアはその可能性の為にこれを残していくと、一つの水晶をヤムライハに渡した

その水晶には、エリスティアの力を結晶化させた物を圧縮しているという

有事の際はこれを割れば、結果を張る事は可能だという

 

他の八人将もそうだ

皆、役目を担っている

誰か1人抜けても、シンドリアには大打撃だ

 

それに、有事の際は彼らこそがシンドリアを護る要となる

 

幸い自分は八人将ほど役目を持っている訳ではない

自分一人なら自由に動ける

第一、自分でなければこの不思議なルフの気配を追えない

 

彼女はそう言って、頑なに誰かの同行も伝える事も拒否した

 

彼女の言いたい事も分かる

なによりも、シンドリアを――――シンドバッドを第一に考える彼女の事だ

自分で確認するまでは納得いかないのだろう

 

「でもさ…エリスにとって、王サマが大事な様に、王サマにとっても、エリスはすっごい大事なんだよ?なのに、そのエリスに黙って出て行かれたら王サマ可哀想だよー」

 

「それは―まぁ、そうだけど……」

 

「でしょー? あの時の王サマの落ち込み様すごかったよねー」

 

エリスティアが置手紙一枚残してシンドリアを出た日

シンドバッドの焦心具合は半端なかった

 

それを、ちゃかしてピスティとシャルルカンが怒りの制裁を食らったのは言うまでもない ジャーファルに

 

「でもエリスはさ、自分はそれほどの役目を持っていな言ってたんでしょ?そもそも、そこ違うじゃん」

 

「うん……そうなんだけど、エリスにとってそこまでじゃなかったのかなぁ…て」

 

ヤムライハの言葉にピスティは、むぅっと頬を膨らませた

そして、バンッとヤムライハの背を叩く

 

「もう!ヤムしっかり!エリスは世界唯一の“ルシ“であり、王サマの”ルシ“じゃない!重要だよ!ヤムは間違ってない!!」

 

「そ、そうよね!」

 

ピスティの言葉に、ヤムライハがこくこくと頷く

 

「問題は、エリスだよね。う~ん…エリスはルシである事あまり重要視してないのかな?」

 

ピスティの言葉に、ヤムライハも唸りだす

 

「そんな事は無いと思うけど…第一、シンドバッド王を契約者と選んだのはエリスでしょ?ルシは心を許した相手でなければ契約しないって文献で読んだ事あるわ」

 

「そうなの?」

 

「ええ…ルシの力は他とは異なるから、色々誓約も掛かるし…信用できる相手でないと契約は結べないそうよ。無理矢理契約しようとしても契約紋が出ないんですって」

 

「へぇ…じゃあ、王サマはエリスにはちゃんと信用されてるんだ?」

 

「そういう事になるわね」

 

そこまで考えてふとピスティが難しそうに腕を組んだ

 

「ん?じゃあ、なんでエリスは黙って言っちゃったの?知ってるの私達だけでしょ?」

 

「それは、信用してるからこそ…じゃないかしら?」

 

「どういう事?」

 

「だから、信用してるからこそ言えないのよ。未知の物を調べに行くのだから。後は…まぁ、言えば100%シンドバッド王も行くと言うでしょう?だって、終始一緒に居た2人だもの」

 

「あージャーファルさんの怒りの制裁が下るね…」

 

と、食らった事のあるピスティは何とも言えない顔でうなずいた

 

「一応、私とピスティには事情説明してくれたし…」

 

「まぁ、そこは女の子同士だもん!言ってくれなかったら寂しいよ!!」

 

そこまで言って、ピスティはきょろきょろ と辺りを見渡した

そして、今までとは違って、もっと声を落とすと

 

「で?今、エリス何処にいるの?王サマにはバレちゃったみたいだけど」

 

「えっとね……」

 

先程はシャルルカンに媒体が無いと視えないとは言ったが…

実は、ヤムライハは定期的にエリスティアと連絡を取っていた

エリスティアが残して行った、水晶を媒体に

 

ボゥ…と、ヤムライハの出した水晶が光りだす

 

「……チーシャンの…あら…もしかして……」

 

「え?何々?」

 

ピスティも興味津々に水晶を覗き込む

そこには、洞窟の様な所で眠るエリスティアと後、少年が2人

だが、ジジジ…という音と共に映像がずれる

 

「…………あら?」

 

それらしい気配と接触したと昨晩エリスティアからは連絡があった

が、その後連絡は取っていなかった

だが、今見ると……

 

「これって、もしかして迷宮(ダンジョン)の中……?」

 

「ええ!?そうなの!!?」

 

いつもならもっと鮮明に視れる、エリスティアも気付くし会話もする

だが、今眠っているからとしてもエリスティアは気付いていない

それ所は、映像が上手く受信できない

 

それは、魔法を遮断する“何か”が働いているからに他ならない

 

それが、迷宮(ダンジョン内なら納得いく

あそこは、磁場が狂いやすく、こういった手の外部との連絡手段は殆ど使えない

これはルシであるエリスティアの力が結晶化されたものだから受信出来ているのだ

 

瞬間、ぷつ…と、映像が切れた

 

「……これ以上は無理みたい」

 

「ええー」

 

ピスティが納得いかないと言う風に、地団駄を踏む

 

「ねぇ、今エリス他の男の子と一緒に居たよね!?まさか…浮気!?」

 

きゃーと、ピスティが興奮気味に騒ぎ出した

 

「ちょっと、ピスティ!!」

 

慌てて、ヤムライハはピスティの口を塞ぐ

 

「もう!滅多な事言わないでよ!!もし、シンドバッド王とかジャーファルさんに聞かれでもしたら――――」

 

その時だった

 

「俺がなんだって?」

 

突然背後から聴こえてきた声に、ヤムライハがぎくりと顔を強張らせた

 

この声……

ごくりと息を飲み、恐る恐る振り返る

そこには、シンドバッドとジャーファル そしてマスルールがいた

 

「あ、あは、あはははは、シンドバッド王……なん、のことでしょうか?」

 

明らかに挙動不審になってしまったヤムライハに、ジャーファルが訝しげに顔を顰める

 

「今、エリスがどうとか言っていませんでしたか?」

 

ジャーファルのその言葉に、ヤムライハとピスティが全力で顔を横に振った

 

「えー私達、エリスどしてるかなー?って話してただけだよねー?ヤム」

 

「え!?え、ええ、そうよね!」

 

ピスティの助け船に、ヤムライハがこくこくと頷く

 

「ヤムライハ、ピスティ」

 

ジャーファルの一等低い声に、2人がびくりと肩を震わせた

スゥッと暗殺者時代の様な鋭い瞳が、2人を見た

 

「知ってる事があるなら、吐いたほうが身の為ですよ」

 

「ジャーファルさん、怖いっスよ

 

ぽつりと、マスルールが呟いた

じゃぁ、止めろよ!とヤムライハとピスティが思ったのは言うまでもない

 

「わ、私達は別に……」

 

「ヤムライハ!」

 

「は、はいっ!」

 

ジャーファルが怖い……っ!!

 

ヤムライハと、ピスティが小さくなっていた時だった

 

「まぁ、いいじゃないかジャーファル。2人にも色々と事情があるんだろう」

 

と、まさかのシンドバッドからの助け船が出された

それに驚いたのは、他ならぬジャーファルだった

 

「シン!?一番気にしてる貴方が何言ってるんですか!?」

 

「だからって、2人を問い詰めるのはよくないぞ?」


そう言って、にっこりと微笑む

 

「――――――…っ!はぁ……分かりました…」

 

シンドバッドの言葉に、ジャーファルが観念した様に重い溜息を付いた

そんなジャーファルとは裏腹に、シンドバッドはにっこりと微笑んだまま

 

「2人とも、俺に言えないのは理由があるんだろう?だから、無理に言う事は無い。たが、もし教えてもいいと思ったら教えてくれないか」

 

シンドバッドの心の広さにヤムライハは息を飲んだ

 

本当は一番知りたい筈なのに……

それを無理矢理聞き出そうとはしない

 

なんという人なのだろう……

 

ヤムライハは持っていた水晶をぎゅっと握りしめた

 

「ピスティ…」

 

ヤムライハがピスティを見る

ピスティは、小さくこくりと頷いた

 

「エリス、ごめんね……」

 

本当は口止めされていた

でも――――

 

「シンドバッド王、お話があります」

 

この人には言わなければいけない

そう思ったのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      ◆      ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピチャ―――――ン

 

  ピチャ―――――ン

 

カツン…

カツーン―――

 

 

水の落ちる音とは不自然な音に、アリババはハッと目を覚ました

 

なんだ?

 

カツーン…

 カツーン……

 

その音は、どんどん近づいて来た

 

アリババは、横で眠るアラジンと、エリスティアを見た瞬間、その琥珀色の目を見開いた

エリスティアが今まで見た事もないくらい、険しい顔をしている

 

「エリス?」

 

エリスティアは、しっと人差し指を口元に当てた

そして、洞窟の入り口を指さす

 

アリババはこくりと頷くと、そっと岩の裂け目から外を見た

 

「!?」

 

そこには、見覚えのある男が巨漢の男を引き連れて歩いていた

アリババだけじゃない

チーシャンの者ならだれでも知っている

 

あれは領主!?

なんで、領主がこんな所に……

 

まさか、俺達を追い掛けて来たのか……

 

アリババは、さっと身を屈めるともう一度エリスティアを見た

瞬間、エリスティアが何かを叫ぶ様に口を開いた

 

「え……?」

 

ジャラ………

 

不意に、背後から何か鎖の様な音が聴こえた

 

「アリババくん!!」

 

エリスティアの声が木霊するのと同時に、アリババがそれを見てぎょっとして後退さったのは同時だった

 

「なっ……!」

 

驚きのあまり、声も出ない

そこには、いつの間に現れたのか―――

足に鎖を付けた赤髪の少女が鋭い眼でアリババを見下ろしていたのだった――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ほとんど、ヤムライハとピスティの会話で終わったし…!

この辺りは、出奔理由の詳細だから、まぁ仕方ない

 

どうやら、この2人は事情しってたっぽいですなー(笑)

王サマには秘密なのにww

 

後、モルさん登場ー!

 

2013/07/15