CRYSTAL GATE

  -The Goddess of Light-

 

 

 第一夜 創世の魔法使い 14 

 

 

アリババは、己の目を疑った

だが、そこにいたのは紛れもなくチーシャンの領主であるジャミルという男だったまさか、俺達を追い掛けて来たのか……

 

ごくりと息を飲む

 

アリババは、さっと身を屈めるともう一度エリスティアを見た

瞬間、エリスティアが何かを叫ぶ様に口を開いた

 

「え……?」

 

ジャラ………

 

不意に、背後から何か鎖の様な音が聴こえてくる

 

「アリババくん!!」

 

エリスティアの声が木霊するのと同時に、アリババがそれを見てぎょっとして後退さったのは同時だった

 

「なっ……!」

 

驚きのあまり、声も出ない

そこには、いつの間に現れたのか―――

足に鎖を付けた赤髪の少女が鋭い眼でアリババを見下ろしていたのだ

 

気付かなかった……っ

 

背後を取られる瞬間などなかった

人の気配も感じられなかった

 

だが、その赤髪の少女はそこにいた

スゥ…と、少女の赤い瞳が一瞬鋭くなる

 

アリババは、咄嗟にアラジンとエリスティアを庇う様に身構えた

と、その時 ふとある事に気が付いた

 

「あれ……?」

 

その赤髪の少女には見覚えがあった

市場(バザール)や、商隊(キャラバン)であったあの赤髪の奴隷の少女だった

 

この娘……

 

「なんで、ここに……?」

 

赤髪の少女は、答えなかった

無言のまま、じっとその赤い瞳を鋭くさせたままアリババを睨みつけていた

 

その時だった

不意に、少女の後ろから誰かの手が伸びてきた

かと思うと、そのまま少女を押しのける

 

「こんな所にいたのか…」

 

「……っ!?」

 

それは、先程見たあの領主―――ジャミルだった

ジャミルはそのまま、横穴の洞窟に入ってくると、こちらに向かって歩き始めた

その後に、あの巨漢の男と赤髪の少女も続く

 

「!?」

 

アリババが咄嗟に腰のナイフに手を掛ける

が――――ジャミル達はそのままアリババを まるで存在しないかの様に素通りすると そのままアラジンの眠る前で膝を折った

 

 

 

「お待ちしておりました、マギよ」

 

 

 

そう言って、うやうやしく頭を下げた

 

「10年間待ったよ、君が僕の目に現れるのをね」

マギ……?

なんだそれ……

 

それは、アリババには初めて耳にする言葉だった

 

それはアラジンの事を指すのか

それとも、何か別の意味を持つのか

今のアリババには判断しがたかった

 

その時だった

ふと、ジャミルが奥に居るエリスティアの存在に気付いた

瞬間、驚いた様にその瞳を見開かせると歓喜の声を上げた

 

「君は……はは、僕は付いてる!まさか、こんな所で君にまで会えるとはね!」

 

そう言って、アラジンの横を通り過ぎると、奥に居るエリスティアの前に膝を折った

 

「エリスティア・H・アジーズ嬢とお見受けする。僕の名はジャミル。こうして君に会うのは何年ぶりだろう」

そう言って、ジャミルが嬉しそうの顔を綻ばせる

だが、アリババには意味が全く分からなかった

 

知り合い…?なのか???

 

ジャミルの口ぶりから察するに、エリスティアを知っている様だ

だが、当のエリスティアはジャミルの言葉に、小さく息を吐いた

 

「……どこかでお会いした事がありましたかしら?」

 

エリスティアの言葉に、ジャミルが小さく頷いた

 

「ああ、君は僕を直接見た事はなかったかもしれないね。でも、僕はあの日から1日たりとも忘れた事ないよ」

 

そう言って、何かを思い出す様に小さく頷いた

 

「あのシンドリア王国であった建国式典の日。君は王の隣に美しく着飾っていたよね。あの姿を見た時、僕がどれだけ嘆いたと思う?」

 

「……………」

 

エリスティアは何も答えなかった

 

「世界唯一の”ルシ“である君が、僕ではない誰かを既に主に決めていたなんて…!それが、あのシンドバッドだなんて、僕は悲しかったよ!!」

 

何、言ってんだこいつ……?

 

アリババは、ジャミルの言う意味がまったく理解出来なかった

そもそも、”ルシ“というまた謎の言葉も出てきた事もあるが、何よりもさも自分が選ばれる筈だった的な言い回しが、理解に苦しかった

 

だが、ジャミルはアリババの存在など無いように

 

「だけど君はここにいる!つまりは、もうシンドバッドのルシではなくなったという事だよね!?」

 

「……………」

 

やはり、エリスティアは何も答えなかった

無言を肯定と取ったのか、ジャミルは満足気に頷くと

 

「やはりそうか…、あの男には荷が重いと思っていたんだ。何故なら、君の主に相応しいのは僕だからね」

 

そう言って、エリスティアの前にスッ…と手を差し伸べた

 

「さぁ、ルシよ僕を契約者に選びたまえ!!」

 

「……………」

 

エリスティアは、一度だけそのアクアマリンの瞳を瞬かせた後、小さく息を吐いた

そして、ゆっくりと横に流れていたストロベリーブロンドの髪を耳に掛ける

 

「…………手を」

 

そう言って、ゆっくりとジャミルの手に自身の手を乗せた

その反応にジャミルが満足そうに笑みを浮かべる

 

「!?」

 

アリババはぎょっとした

まさか、エリスティアがジャミルの手を取るとは思わなかったのだ

なのに、彼女はジャミルの手を取った

 

どうしてだよ!?

 

明らかにジャミルは自分達にとっては敵なのに

なのに彼女は、その手を取ったのだ

 

「エリス―――――」

 

アリババが叫ぼうとした時だった、瞬間エリスティアと目が合った

 

え―――――?

 

エリスティアが何かを呟く

 

え……?

なんだ……?

 

エリスティアが何を言おうとしていたのか

アリババには分からなかった

だが、彼女の行動は何か思う所があってなのかもしれない

 

「ゴルタス!」

 

不意に、ジャミルが顎をしゃくった

すると、ゴルタスと呼ばれた巨漢の男が、アラジンの身体を軽々と掴んだ

そして、ひょいっと肩に担ぎあげる

 

「行くぞ」

 

そう言って、ジャミルがエリスティアを連れて歩きはじめる

ジャミルの言葉に、ゴルタスと赤髪の少女も後に続く

 

「ちょっ……何だよ!?」

 

いきなり連れて行かれそうになったエリスティアとアラジンにぎょっとして、アリババが慌てて引き止めに入った

しかし、ジャミル達はやはりアリババの存在など無視した様にそのまま素通りしていった

 

と、その時だった

エリスティアが何かを呟いた

 

しかし、今のアリババには聴こえていなかった

 

また、無視された

アリババはギリッと奥歯を噛み締めると、再度ジャミル達の前に躍り出た

 

「待てってば!何のつもりだよ!!」

 

目の前に出てきたアリババに、ジャミルははぁ…と、面倒くさそうに溜息を付いた

 

「……それは、こっちのセリフだよ。君こそ、何故僕らに付きまとうのかな?一体何のつもりだい?」

 

「は?」

 

ジャミルが意味の分からない事を言いだした

 

付きまとう?

この男は、勝手に出てきて何を言っているのだろうか?

 

「……そいつら、俺の連れなんで、勝手に連れて行かないで欲しいんですが」

 

アリババがジャミルを睨みつけながらそう言う

すると、ジャミルは何かおかしなものを見た様に、笑い出した

 

「え?彼らが君なんかの連れ?ハハハ!」

 

突然笑いだしたジャミルに、アリババがむっとする

だが、ジャミルはさも当然の様に

 

「いいかい君? 僕らは、今から一般平民などは及びもつかぬような大業を果たしに行くんだ。悪いけど、君と僕らじゃ住む世界が違うんだよ」

 

そう言って、ぽんっとアリババの肩に手を乗せると

 

「君はもういらないから帰りなさい」

 

そのままアリババの横を素通りしていく

再三に渡る、その扱いにアリババの堪忍袋の緒が切れかかる

 

「待てつってんだよ!!」

 

そう叫ぶな否や、がしっと横を通りすぎていくジャミルの肩を掴んだ

瞬間、ジャミルが煩わしそうにアリババの手を払う

そして、呆れにも似た溜息を洩らすと

 

「殺れ、ゴルタス」

 

「え……殺……?」

 

その瞬間、あの巨漢の男が、アリババの背後に立っていた

ぎょっとして、アリババが距離を取る

 

ゴルタスの仮面の下に見える目が、血走った様に充血して、アリババを見下ろしていた

フシュ―という息をする音だけが聴こえる

 

瞬間、ゴルタスが持っていた剣を高く振り上げたかと思うと、そのままアリババに向かって振り下ろしてきた

 

「―――――っ」

 

アリババは、サッと構えると紙一重でその剣を避けた

ガシャンと、ゴルタスの剣が岩に突き刺さり動きが止まる

アリババはその瞬間を見逃さなかった

そのまま背後に回るとゴルタスの浮いていた右腕を掴むと、首元にナイフを突きつけたのだ

 

「いきなり何すんだよ」

 

一瞬、辺りがシーンとする

が、次の瞬間ジャミルは面白いものを見た様に顔を綻ばせて手を叩いた

 

「すごいじゃないか君ィ!子供が今のを避けるなんて…見直してしまったよ!」

 

「え………」

 

いきなり、手のひらを返した様に褒められて 一瞬アリババが動揺の色を示す

瞬間――――

 

ドシュ……!

 

「に比べて、お前……使えないね」

 

そう言って、ジャミルはゴルタスの腹に自身の剣を突き刺した

 

なっ……

 

まさかの、諸行にアリババがぎょっとする

だが、ジャミルのその行為は止まらなかった

 

何度も、何度も剣を突き刺しながら

 

「労働は人間の責務だよ……。ましてや、ヒト以下の存在の奴隷が、働き損なうなんて……どう罰すれば、罰しきれるのかな?」

 

そう言って、何度も剣を突き刺すとそのまま抉り出した

 

「このくらいかな?このくらいかなぁ?」

 

アリババは信じられない者を見る様に、言葉を失った

 

何だコイツ……

 

普通じゃなかった

エリスティアは、これを感じ取ったから従っていたのだろうか……?

 

はっきり言って、ジャミルのその行動は狂っていた

普通の人間の感覚では、あり得なかった

 

その時、ふとジャミルが何かに思い付いた様にその血まみれの剣先をアリババに向けた

 

「そうだ、君。僕の為に働かないか?傭兵と奴隷を山程連れて来たんだけどね……罠避けに使ったらどんどん潰れちゃってね」

 

アリババは信じられない言葉を聞いたと思った

 

罠避けに使った?

人を…?

 

「あんた…領主だろ…」

 

「そう僕は領地を任されている(・・・・・・)男に過ぎないんだよ……それって頭に来るよねぇ…」

 

そう言うなり、ジャミルは横に居たゴルタスの傷口を蹴り飛ばした

 

「…………っ」

 

ゴルタスが声にならない叫び声を上げ

 

「だってそうだろう?この僕がさ!こんな木偶の坊の護衛や!下級の地位や!飯で!満足してるなんて…っ!!」

 

そう叫びながら、何度も何度もゴルタスの傷口を蹴り上げる

その度に、ゴルタスが声にならない声を上げた

 

「僕は迷宮(ダンジョン)を攻略して!自分の国を手に入れてやる!!邪魔するものは、全部殺してやる!!」

 

瞬間、狂った様なジャミルの矛先がアリババに向けられた

ヒュンッ…!と剣の切っ先を突きつけると

 

「で?君はどうかな?」

 

「………………」

 

アリババには、最早口にする言葉すら浮かばなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ****    ****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁ、よかったよ~連れて来た奴隷の殆どが入り口抜けたら潰れてしまってて 不便だったんだよねぇ~」

 

そう言って、ジャミルはハハハと笑いながら、前を行くアリババを先頭に赤髪の少女とゴルタスに前後を守らせて迷宮(ダンジョン)内を歩いていた

その横に、エリスティアがいるがジャミルにはあれ以降一切触れさせていなかった

 

ジャミルがどう声を掛けようとも、手をかざそうとも、エリスティアは一切反応を返す事はしなかった

そして、触れる事を一切許さなかった

 

アリババは、拒否する事を許されず仕方なく、ジャミルに従っていた

一番、危険な先頭を歩かされ、罠避けにされている

 

くそ……

アラジンとエリスティアが人質にされている今は、従ったフリをするしかねえ……

 

少なくとも、アラジンが目を覚まさなければ逃げる事も出来やしない

第一、 なんでエリスティアはジャミルの手を取ったのだろうか

どうして、ジャミルに従ったのだろうか

 

アリババには分からなかった

 

と、その時だった

 

“アリババくん”

 

不意に、アリババの頭の中にエリスティアの声が響いた

一瞬、ハッとして振り返りそうになるが―――……

 

“―――そのまま、振り返らないで”

 

また、声が響いた

何故声が頭に響くのか分からない

分からないが、アリババはそれに気付いていないフリをして前を歩いた

 

“聴こえているのなら一度だけ手を頭に当てて”

 

アリババは言われるままに、片手で自然に頭をかくように触れた

瞬間、アリババの中に不思議な映像が浮かび上がった

 

消える岩肌

あやしくかたどられた門の先に何かの文字で書かれた石の碑文

燃え上がる無数の炎の柱

 

なんだ、これ……

 

それは、見た事のない映像だった

 

“それは、ここから進んだ先にあるこの迷宮(ダンジョン)で一番重要な仕掛け(・・・)よ”

 

仕掛け?
罠の間違いじゃないのか?

 

だが、エリスティアは”仕掛け(・・・)“と言った

第一、 何故彼女にはそれが分かるのか……

 

エリス?なんで、分かるんだよ

 

………………

 

アリババの問いに、エリスティアからの返答はなかった

どうやら、これはエリスティアからの一方通行らしい

 

だから、先程合図に動作を指定したのだ

 

一方通行か…やっかいだな

 

そう思うアリババとは裏腹に、エリスティアの声は続いた

 

この先に、炎の柱と竜の尾仕掛けがあるという事

それ(・・)を上手く解けば、真実は見えてくると言う事

 

 

 

そして――――……

 

 

 

 

    “この男は、シンを侮辱した。私は、この男を許さない(・・・・)

 

                      ―――――死ぬのと同じぐらいの屈辱を味あわせるわ”

 

 

 

 

 

 

そう言ったエリスティアの声は、どこまでもアリババの頭の中に響いていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次回、やっと罠のシーンに入れますねぇ~

早く、モルさんの名前を出させておくれw

しかし…存外 ジャミルが煩わしいww

 

そして、あろう事かあの暴言

許すまじ!!

 

次回、ちょこっとシンドリア組入るかも?です

 

ちなみに、隣に居た云々の流れはそのうち分かる

が、別段ときめく話じゃないww

 

2013/03/21