CRYSTAL GATE

  -The Goddess of Light-

 

 

 第一夜 創世の魔法使い 12

 

 

ボゥ…と光る岩が微かに灯りをともす

 

アリババはそっとアラジンの口元に持っていた水を注いだ

アラジンが、微かにごくりと飲み込む

 

少しでも、足しになればいいが やはり水だけではアラジンを回復してあげる事は出来なかった

 

エリスティアは、岩肌に寄り掛かったまま少しの間ぐったりしている

が、不意にゆっくりと身体を起こしたかと思うと、そのままアラジンとアリババの側に近寄ってきた

 

「エリス?」

 

エリスティアが何やらまたアラジンの額に手をかざす

何かをしようとしているのか

 

だが、エリスティアも明らかに消耗していた

無理はさせられない

 

アリババはエリスティアの手をそっと止めようと手を伸ばした

 

「エリス、お前も無理するなって。万全じゃないんだろ?」

 

だが、エリスティアはその言葉に小さくかぶりを振った

 

「私は、平気……それよりも、アラジンの魔力(マゴイ)が減っているの……ルフを集めるだけの体力が無いのよ……」

 

魔力(マゴイ)?」

 

また、聴きなれない言葉が出てきた

 

さっきといい 今といい

 

「なぁ、魔力(マゴイ)とかルフとかって……」

 

アリババの言葉に、エリスティアが一度だけそのアクアマリンの瞳を瞬かせた

そして、小さく息を吸うと

 

解除(レリフラージ)

 

彼女がそう唱えた瞬間、彼女の右手に付けられていた指輪がパキン…と音を立てて割れた

その瞬間だった

 

ピイイイイイイイイイイ

 

一斉に、エリスティアの中からあの白い鳥が溢れだしてきた

 

「なっ……!?また、あの鳥……!?」

 

それは、“ウーゴくん”が光を集めた時と同じ現象だった

あの鳥の様な何かがエリスティアからアラジンへと集まっていく

 

ピイイイイイイと集まっていくそれは、アラジンのを包み込む様に光りだした

 

「お、おい、エリス!一体何を――――」

 

「ルフを分けているのよ」

 

「は?分ける?」

 

アリババにはエリスティアの言う意味が分からなかった

だが、分かっている事がひとつ

エリスティアの顔色がどんどん悪くなっていっていたのだ

 

「おい、エリス!もうやめろって!!」

 

慌ててアリババがエリスティアを止め様とするが、エリスティアは止めなかった

どんどん、光る鳥がアラジンの中に入っていく

 

次第にアラジンの顔色がよくなっていった

だが、それと同時にエリスティアの顔色はどんどん悪くなっていった

 

「エリス!!」

 

アリババが耐えかねて、無理矢理エリスティアをアラジンから引き離した

瞬間、バランスを崩しそのまま二人して倒れ込んだ

 

「うわっ……!」

 

まさか、そこまでエリスティアが耐えられないとは思わなかったのか

アリババは思いっきりエリスティアを押し倒す様に乗っかってしまった

 

「いって……」

 

倒れた瞬間、横の岩に頭をぶつけたのか

額がズキズキする

 

アリババは頭を押さえながらゆっくりと起き上がり――――

 

「わ、悪いエリス、だいじょ―――――――っ!!?」

 

「大丈夫か?」と問おうとして、今、自分が置かれている体制にぎょっとした

アリババの真下にはエリスティアの綺麗な顔があったからだ

 

「え……?」

 

一瞬、自分が何をしてしまったのか理解出来ずアリババがその琥珀色の瞳を瞬きさせる

 

えっと……

今、俺は今…

 

その時だった

エリスティアが一言

 

「アリババくん、重いです」

 

「はっ…!わっ…悪い!!!」

 

エリスティアの「重い」の一言で我に返ったアリババは、顔を真っ赤にさせながら慌てて飛び退いた

そして、ズザザザザ!と後ろへ後退しながら「違う!違うんだ!!」と大声で大否定しだした

その様子がおかしかったのか、エリスティアが起き上がりながらきょとんと小首を傾げた

 

え?えええ!

お、俺…今、エリスを押し倒し………っ!!?

 

頭が混乱して考えが上手くまとまらない

だが、押し倒された当の本人は 何でもない事の様に乱れたストロベリーブロンドの髪を押さえると、ゆっくりとそのまま岩肌にもたれかかった

 

「あ、あのさ、エリス!い、いいい、今のは――――」

 

何とか、言い繕おうとするが上手く言葉が出てこない

アリババのその様子に、エリスティアが微かにくすりと笑みを浮かべた

 

「大丈夫、分かっているから。不可抗力でしょう?」

 

エリスティアの言葉に、アリババが激しく頭を縦に振った

その様子がおかしかったのか、またエリスティアがくすりと笑みを浮かべた

 

「そんなに大否定されると、逆に傷付くかも。アリババくんにとって、私ってそんなに魅力ないのね」

 

「え……」

 

一瞬、何を言われたのか分からなかった

エリスティアが、サラリとストロベリーブロンドの髪を撫でる

 

魅力って……

 

「そ、そんな訳ねえだろ!!あり過ぎるから、逆に困ってるんだよ!!」

 

と、ぼろっと本音で出てしまったが…

言った瞬間、自分がかなり恥ずかしい事を言っている事に気付き、アリババがかぁーと顔を真っ赤にさせる

その反応に、一瞬エリスティアがそのアクアマリンの瞳を瞬きさせた

が、次の瞬間くすっと笑みを浮かべると「ありがとう」とだけ答えた

 

絶対、冗談だって思われてる!

 

アリババが複雑な気持ちでむぅっと頬を膨らませた

 

エリスティアは綺麗だ

今までアリババが会ってきた人の中でも、飛びぬけて綺麗だった

こんな綺麗な人が目の前にいたら、一瞬で心奪われても仕方ないとさえ思える

 

あの神秘的なアクアマリンの瞳も、絹の様なストロベリーブロンドの髪も 透き通る様な真っ白な肌も 形の良い桜色の唇も すべて魅力的だった

 

だからこそ思う

きっと彼女はもう“誰か”の物なのだろうと―――

 

そして、その予感は恐らく合っている

あの時、アモンに入る前に彼女が言っていた

 

「ずっと一緒にいた」という「あの人」の話を

 

きっと、彼女は「あの人」のものなのだろう

 

勝てる訳ねえよな……

 

相手は、七海の覇王と呼ばれる伝説の迷宮(ダンジョン)攻略者だ

レベルが違い過ぎる

 

「あの人」の話をするエリスティアの顔は、今まで見た中で一番綺麗だった

だから思った

ああ、「あの人」の事すごく大切に想ってるんだな……と

 

でも、だったらなんでエリスは1人でこんな所に来てるんだ?

 

それが謎だった

普通に考えたら、「あの人」と一緒に来るか、「あの人」の国にいるんじゃないだろうか?

なのに、彼女は「1人」でこのチーシャンに来ていた

 

何か理由があるんだろうか……?

 

その時だった

 

「アラジン、少し顔色戻ったかしら?」

 

言われてアリババはハッとした

慌てて、アラジンの様子を覗き込む

 

「……ああ!さっきよりずっとマシになってる」

 

アリババのその言葉に、エリスティアがほっとした様に肩を下ろした

 

「そう―――よかった……。ごめんなさい、ちゃんと力を解放できればもっと与えられるのだけれど……誓約があるから。それに、正しく解除しないと力の半分も解放されないの」

 

申し訳なさそうに言うエリスティアに、アリババは小さくかぶりを振る

 

「そんなことねえよ。エリスのお陰でアラジンも大分よくなったし。悪いな、力…本当は使っちゃいけないんだろ?」

 

アリババの言葉に、エリスティアはにっこりと微笑んだ

 

「緊急事態だから……でも、ごめんなさい。これ以上は解除出来ないと思うわ…3つも外してしまったから、これ以上外すと気付かれてしまう―――……」

 

「気付かれる?」

 

そういえば、エリスティアの身に付けている制御装置は彼女自身を守る為に「あの人」の力で付けられている物だと言っていた

何から、守る為なのだ……?

それに、気付かれるとは―――――

 

「なぁ、エリス。お前…さ」

 

そこまで言って、アリババは慌てて口を閉じた

エリスティアがすぅ…と静かに寝息を立てていたからだ

 

アラジンと、エリスティアを見る

 

無理もねぇか……

ずっと2人には助けられっぱなしだもんな……

 

エリスティアは力は使えないと言っていたのに、何だかんだと使ってくれた

アラジンだって―――――

 

ちらりと、アラジンの側に置いていた金の笛を見る

 

この笛、そんなに消耗しちまうもんだったのか……

 

アリババは小さく息を吐くと、そのままアラジンの側に座り込んだ

そして、そっと笛を手に取ると、横や下など笛を眺めてみた

何の変哲もない 普通の笛だ

 

この笛から、あの“ウーゴくん”が出てきたなど

見た物でなければ、誰も信じないだろう

 

「……………」

 

アリババは、ごくりと息を飲むとその笛を吹いてみた

が、音はならなかった

 

「はは……」

 

予想通りと言えば、予想通りだった

 

ふと、その時 笛の八芒星の周りに書かれている文字に目が留まった

 

「……?何語なんだ?アラジンは読めるのか?」

 

そこまで考えて、気付かされる

 

自分はアラジンの事もエリスティアの事も何も知らない事に

でも、当然なのかもしれないと思った

 

実際、アリババは2人に自分の事を何も話していなかった

いや、話せていなかった

親の事とか、目的の事とか

 

確かに、他人にあれこれ話す様なことでもない

 

でも……

 

アラジンとエリスティアを見る

 

アラジンも、エリスも俺の為のこんなに頑張ってくれて……

倒れる程、無茶をして……

 

「……………」

 

やっぱ、喋っておくべきだよな

俺がなんで迷宮(ダンジョン)に入ったのか

 

瞬間、脳裏のあの時の光景が蘇る

燃える宮殿の前に立つ1人の男の後ろ姿が――――

 

 

「―――――……」

 

 

決めた

アラジン、エリス 俺は話すぜ

 

あの事も、自分の事も全て話そう

アラジンやエリスティアならきっと聴いてくれる

 

アリババはそう思った

 

お前達にも色々訊く

迷宮(ダンジョン)攻略」は1人じゃ出来ないもんな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      ◆      ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

——————白洋塔の一室

 

黄色と青色の基調の会議室の円卓を1人の男を囲む様に8人の男と女が座っていた

その中央には紫がかった漆黒の髪の男が1人

そして、その男の真隣りには彼を護る様に8人の中でもっとも大きな体を持つ青色の髪の男と、ドラゴンの姿をした男2人が固めていた

 

その時、紫がかった漆黒の髪の男の真正面に座っていた官服の男が深刻そうに口を開いた

 

「よって、バルバッドとの交易は只今、一時停止状態にあります」

 

ざわりと、周りがざわめく

 

「な、なぁ、ジャーファルさん。それってマズイんじゃねえのか?」

 

褐色に銀髪の髪の男が官服の男に問う

その男の問いに、ジャーファルと呼ばれた男は、しごく当然の様に

 

「まずいに決まってるでしょう!?バルバッドとの交易はこのシンドリアの交易の重要な要のひとつだったのですよ!?それが止められたら、下手したら我が国の交易が一部停止しかねません!!」

 

ジャーファルの言葉に、赤銅色の髪に片目を隠した男が小さく息を吐いた

 

「シャルルカンは、安易に考え過ぎだ」

 

シャルルカンと呼ばれた褐色の男はむぅ~と頬を膨らませながら

 

「お前だって、そこまでかんがえてねぇだろうが!スパルトス」

 

と片目の男―――スパルトスに喧嘩をふっかけるが――――

案の定、スルーされた

 

「もぅ、これだから剣術バカは頭が脳みそで嫌なのよね」

 

と、碧色の髪の女がふぅ…と溜息を付きながらシャルルカンを睨みつけた

その言葉に、シャルルカンがむっとして言い返す

 

「なんだと!?魔法オタクに言われたくねぇ!!」

 

「なんですってぇ!?」

 

「なんだよ、バカ女!」

 

ギチギチギチと2人して睨み合いが始まりそうになった瞬間

 

「んもーヤムもシャルもやめなよー」

 

と幼い金髪の少女が2人を止めに入った

 

「でも、ピスティ!!この筋肉バカが!!」

 

「はいはい、分かったから」

 

と、碧色の髪のヤム――ヤムライハの訴えを、ピスティと呼ばれた少女は軽く流すと、シャルルカンをぴしぃと指さした

 

「シャルはヤムに絡み過ぎ!」

 

「俺がかよ!」

 

「あの3人止めなくていいんスか…」

 

短髪の赤毛の男がぽつりと呟いた

 

「う~ん、とめてみるか?マスルール」

 

と、青色の髪の大きな男が言ってみるが…マスルールと呼ばれた短髪の赤毛の男は「いえ…」とだけ答えた

 

「元気があっていいじゃないか」

 

「うむ……」

 

と、青色の髪の男とドラゴンの姿をした男が頷き合う

が……

 

「ヒナホホ殿! ドラコーン殿! 止めて下さい!! そして、そこー!! 喧嘩するなら外でやりなさーい!!」

 

と、ジャーファルが怒った

 

その時だった

それまで、笑って様子を見ていた、紫がかった漆黒の髪の男が何かに気付いた様にふと顔を強張らせた

 

その様子に、他の8人もぴくりと反応する

 

「どうした?シンドバッド」

 

隣りにいた、青色の髪の男―――ヒナホホが、漆黒の髪の男の様子にいち早く気づき声を掛ける

シンドバッドと呼ばれた男は、一度だけのその琥珀の瞳を瞬かせた後、小さく息を吐いた

 

「エリスが、今 3つ目を外した」

 

「え?」

 

その言葉に、一同がどよめきだす

 

「外したって…もしかして、王サマが付けた制御装置の事ですか?」

 

シャルルカンの言葉に、シンドバッドが小さく「ああ」と頷く

 

「ねぇそれって、やっぱりマズイの…?」

 

「まずいっていうよりも、何かあった可能性が高いわよ」

 

ピスティの言葉に、ヤムライハが困った様に息を吐いた

 

エリスティアの制御装置は、シンドバッドのジンの力によって制御されている

つまりは、本来シンドバッド以外には外せない様になっている

が、緊急の場合のみエリスティアの意思で外す事が可能なのだ

だが、その場合 解放される力は半分以下となる

 

「ちょ…ちょっと待って下さい、シン。それは本当なのですか!?」

 

シンドバッドの言葉に、ジャーファルが立ち上がった

だが、シンドバッドは顎の下で腕を組んだまま

 

「……間違いない。俺が間違う筈が無い」

 

あれは、シンドバッドと繋がっている

外せば、それは直ぐにシンドバッドに知れる事となるのだ

 

「つい、数時間前に2つ外したって言ってませんでしたか!?この短時間で3つも外すなど、普通じゃありませんよ!!」

 

今まで、彼女が国を出奔してから早3か月

その間、彼女は一度としてそれを外さなかった

それは、それほどの事態になっていなかっという事と、居場所を知られない為に外していなかったという事に他ならない

外せば、一発でシンドバッドに居場所は知れる

 

だが、この短時間で既に3つ

異常としか言いようが無かった

 

「まさか、エリスに何かあったって事!?」

 

「ピスティ、滅多な事言うものではない」

 

「でもさー」

 

「こういう時こそ、バカ女の魔法で視れねえのかよ?」

 

「エリスは無理よ!!せめて何か媒体がないと視る事なんで出来ないわ。…って、誰がバカ女よ!!」

 

ピスティやシャルルカン達のの声が聴こえる

 

「エリス………」

 

シンドバッドは、ぐっと琥珀の瞳を閉じた

 

 

       お前は、今どうしているんだ……っ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やっと…やっとシンドバッド登場~~~\(T^T)/

長かったな!

と言っても、絡みませんけどー(笑)

 

とりあえず、シンドバッドと8人将出したかったんだよぉ!!

いや、普通に連動してたら気付くよね…と思って入れちまったぜww

 

この後、もう少しシンドリア側が続きます

と言っても、廊下で女子会になるけど

 

そして、アモン側はついに、モルさん来るよ!!(前回も言ったww)

 

2013/07/10