CRYSTAL GATE

    -Episode ZERO-

 

 

 七海の闇と光 1

 

 

 

「ねぇ、知ってる?」

 

それは、ピスティの一言から始まった

 

「なんか、あるらしいよ……」

 

「え?」

 

一瞬、何が?

という風に、傍でピスティの淹れたチャイを飲んでいたエリスティアが、そのアクアマリンの瞳を瞬かせる

すると、ピスティはずずいっと身を乗り出し

 

「だから、あるんだって! このお城!!」

 

「えっと……」

 

何があるというのだろうか…

ますます意味が分からず、エリスティアが首を傾げているとピスティが「も~!!」と叫んだ

 

突然叫ばれたので、思わずごっくんとチャイを飲み込んでしまう

すると、ピスティが地団駄を踏みながら

 

「だからね! 七不思議!! あるんだって!!」

 

「な……」

 

七不思議……?

まさか…それはよくある心霊現象のあれの事だろうか…?

 

すると、ピスティは雰囲気たっぷりに

 

「夜な夜な、赤子の鳴き声が聴こえる廊下とか…誰も入った事のない開かずの間とか…後…」

 

ごくりとエリスティアが息を飲む

嫌な汗が背中を伝っていくのが分かった

 

だが、ピスティの話はそれだけでは済まなかった

 

「誰も居ないのに、後ろからひたひたと音が……」

 

「いやあああああ!!!!」

 

思わず、エリスティアが叫んだ

そして思いっきり、耳を塞ぐと今にも泣きだしそうな顔で

 

「じょ…冗談…なの、よね……?」

 

恐る恐るそう尋ねてくる

すると、ピスティは真顔でエリスティアに近づくと小声で

 

「それが、どうやら本当の話らしいの…」

 

「………………っ」

 

「私が聞いた話だと、その人は夜一人で寝てたんだって。そしたら、急にトイレに行きたくなって廊下に出たの。すると、真っ暗な廊下の向こうから誰も居ないのにひた…ひた…って音が――――……」

 

「いやぁ!!」

 

最後まで聞かずにエリスティアがカップを置いて立ち上がった

そしてやはり思いっきり耳を塞いでくるっと後ろを向く

それを見たピスティは、にやりと笑みを浮かべて

 

「あっれ~エリスって、こういう話駄目なんだっけ?」

 

と、とぼけた様に尋ねてきた

一瞬、ぎくりとエリスティアの顔が強張る

 

だが、それを否定する様に

 

「そ、そんな事は無いけれど―――……」

 

「じゃぁ、問題ないよね!」

 

にこ~と笑みを浮かべたピスティがそう言ってくる

そう言われたら、言い返せない

 

ピスティに着席を促されて、エリスティアは仕方なくまたイスに腰掛けた

震える手でチャイのカップを取ると、落ち着かせる様にこくんっと呑みこむ

 

すると、ピスティの話が再び始まった

 

「後ね…これも聞いた話なんだけど…、この城の何処かに紅い扉の部屋がひとつだけあって、そこはずっと誰も入った事が無いんだって。いつも施錠してあって誰も立ち入った事ないの。でも、ある日、鍵が開いてて兵士の一人が中を覗いたら―――――」

 

ガタン…!!

 

突然、エリスティアが立ち上がった

顔面蒼白になり、瞳に涙さえ浮かんで見える

 

「エリス?」

 

ピスティがきょとんと首を傾げる

すると、エリスティアは苦笑いを浮かべながら早口で

 

「わ、私ちょっと用事が――――……」

 

「ええ!! 今日は、隙だって言ってたじゃん!!」

 

そうなのだ

今日の執務は終わったのでこうしてピスティとお茶をしていたのだが…

まさか、こんな話になるとは思わず

はっきり言って、想定外すぎる

一刻も早くこの場を去りたかった

 

「お茶、ご馳走様。じゃぁ、ピスティ また後で」

 

それだけ言い残すと、そそくさと部屋を出ようとした

瞬間―――

 

「エリス? それ、誰?」

 

「………え?」

 

一瞬、何を言われているのか分からず、エリスティアが振り返る

だが、そこには誰も居ない

 

しかし、ピスティはエリスティアの側を指さし

 

「だから、そのエリスの後ろの――――」

「うし、ろ……?」

 

ごくりと息を飲み、恐る恐る後ろを見るが

そこには誰もいなかった

 

「な…何言っているの? ピスティ。後ろに人なんて誰も――――……」

 

「え? いるじゃん。赤いドレスの女の人――――」

 

「―――――――っ!!!!」

 

エリスティアが声にならない叫び声を上げた

瞬間、どんっと背中に何かがぶつかった

 

「いやあああああああ!!!!」

 

「うお!? どうした!?」

 

突然、後ろから聴きなれた声が聴こえてきた

ハッとして振り返ると、通りすがりのシンドバッドが驚いた様な顔をして立っていた

その後ろには、ジャーファルもいる

 

「シ…ン………?」

 

「おお…どうかしたのか……?」

 

突然叫ばれたシンドバッドは訳が分からないという風に首を傾げながら、琥珀色の瞳を瞬かせた

瞬間、エリスティアの瞳からポロポロと涙が零れだしてきた

 

ぎょっとしたのはシンドバッドだ

突然泣き出したエリスティアに、シンドバッドが慌てて手を伸ばす

 

「エリス? 何があったんだ?」

 

「シン……っ」

 

すると、エリスティアの方からシンドバッドにしがみ付いて来た

 

その行為に驚いたのは、他ならぬシンドバッドだった

普段、エリスティアはこういう公衆の面前では絶対に甘えてこない

勿論、抱きつくなど論外だ

 

だが、今日のエリスティアは違った

何かに怯える様にぎゅっとシンドバッドにしがみ付くと、ボロボロと泣きだした

 

よほど怖い思いをしたのだろうか…

だが、辺りを見渡してもそういう気配はまるでないし

あるのは目の前で、笑っているピスティだけだった

 

それで、ピーンときたのか…

シンドバッドはにやりと笑みを浮かべると、そっとエリスティアの肩を抱き寄せた

 

そして、今までにない位優しげに

 

「どうしたんだ? こんな所で俺に甘えて来るなんて珍しいじゃないか」

 

その言葉に、エリスティアはただ小さく首を振った

どうやら、言葉を発するのも辛いらしい

 

「エリス……みんな見てるぞ?」

 

シンドバッドがそう言うが、やはりエリスティアは首を振るばかりだった

 

これは益々面白くなってきた

 

シンドバッドはそう思うと、ここぞとばかりにエリスティアの腰に手を回すと優しく抱きしめた

瞬間、ぴくんっとエリスティアの肩が震える

だが、抵抗してくる気配はない

 

シンドバッドはそっとエリスティアの髪に口付けを落とすと

 

「エリス…俺は嬉しいが、ほら、そこで凝視してる赤いドレスの女が――――」

 

「―――――――っ!!!!!」

 

エリスティアが今までにないくらい、声にならない叫び声を上げた

そして、ぎゅ~~~~とシンドバッドに力一杯しがみ付く

その身体はガタガタと震えていた

 

するとその時だった

後ろに控えていたジャーファルが、はぁ…と呆れにも似た溜息を洩らし

 

「シン、ピスティ。冗談が過ぎますよ。どこに赤いドレスの女がいるんですか?」

 

「え……?」

 

一瞬、何を言われているのか分からず、エリスティアが恐る恐る顔を上げる

 

「じょう…だ、ん……?」

 

今、ジャーファルは何と言っただろうか

“冗談”と言わなかっただろうか…?

 

では、赤いドレスの女の話もすべて―――――……

 

瞬間、エリスティアがじわりと瞳に涙をいっぱい浮かべて、キッとシンドバッドを睨んだ

すると、シンドバッドは悪びれた様子もなく

 

「すまない。お前があまりにも可愛かったからな、つい…な」

 

「ごめん、エリス~~~~」

 

ピスティも悪びれた様子もなく、えへへと笑いながらやってきた

 

じゃぁ…じゃぁ……

全部、嘘だったって事……?

 

瞬間、かぁーとエリスティアが頬を赤らめた

そして、慌ててシンドバッドから離れようとする

が…

それをシンドバッドが許す筈もなく

 

がっちり、腰を抱かれていてびくともしなかった

 

「ちょ、ちょっとシン! 離して……っ」

 

辺りの視線を気にする様に、エリスティアがそう言うが

シンドバッドは、にやりと笑みを浮かべて

 

「ん? お前の方から俺にしがみ付いてきたんだろう?」

 

「そ、それは―――――」

 

事実なだけに、否定できない

だが、それとこれとは別である

 

「と、とにかく、離し――――」

 

「あ、緑の髪の女が……」

 

「いやああああああああ!!!!」

 

がしいっと、またエリスティアがシンドバットにしがみ付いた

と、その時だった

 

「エリス?」

 

また聞き覚えのある声が聴こえてきた

恐る恐る振り返ると、そこにはヤムライハがきょとんとして立っていた

 

はっとして、シンドバッドを見る

すると、シンドバッドはにっこりと微笑み

 

「俺は嘘は言っていないだろう?」

 

「う……」

 

確かに、ヤムライハの髪は碧色だが……

それにしたって……

 

完全に、二人に遊ばれている

なんだか、どんどん怖さよりも怒りが込み上げてきた

 

思わず、ドンッとシンドバッドの胸を叩く

 

「シンの馬鹿!!」

 

だが、シンドバッドには痛くもかゆくもなかったらしく

にやにやと笑みを浮かべたまま、「エリス…」と優しげに名を呼んできた

そして、そっと両手をエリスティアの腰に回すと

 

「やはり、エリスからしがみ付いているな」

 

そう言ってにっこりと微笑んだ

ハッとして、慌てて離れようとするが、腰をがっちり掴まれていて離れられない

 

すると、それを見ていたジャーファルが二度目の溜息を付き

 

「シン、エリスを離してあげて下さい」

 

「なんだ、ジャーファル。焼きもちか?」

 

「違います!!」

 

心にも思ってない事を言われて、ジャーファルがすかさず突っ込む

 

「エリスが困っているでしょう」

 

「そんな事は無い。エリスは俺と居る時はいつもこうだからな」

 

そう言ってにっこりと微笑むが、腕の中のエリスティアは顔を真っ赤にして「何言ってるのよ!!」と叫んでいた

 

「えっと…何の騒ぎなんですか?」

 

話しに付いていけないヤムライハが首を傾げながらそう言ってくる

すると、ピスティが「そうそう!」とぽんっと手を叩いて

 

「七不思議の話をしてたの!」

 

「「「七不思議?」」」

 

シンドバッドとジャーファルとヤムライハの声が重なった

 

「なんか、このお城あるらしいよー色々と」

 

ピスティのその言葉に、シンドバッドが「ほぅ」と面白そうに笑みを浮かべる

その反対に、ジャーファルは呆れた様に溜息を洩らした

 

ヤムライハは不思議そうに首を傾げて

 

「七不思議って…あの心霊現象とかでしょう? このお城にそんな場所あるの?」

 

ヤムライハの言葉に、ピスティが頷く

 

「それがあるらしいよー彼氏たちが言ってたし」

 

どうやら、情報の発信源はピスティの彼氏“達”らしい

ちなみに、ピスティは城中に彼氏がいる

エリスティアには、理解出来ない現象だった

 

「面白そうだな。その七不思議とやら解明してやろうじゃないか」

 

突然、シンドバッドが楽しいものを見つけた様にそう言いだした

 

「シン!? 貴方は何を言ってるんですか!?」

 

突然のシンドバッドのその発言に、ジャーファルが抗議する

だが、シンドバッドは「もう、決めたぞ」と言ってエリスティアの肩を優しく叩いた

 

「エリスをこれ以上怖がらせる訳にはいかないだろう? なら、そうそうに解明した方がいいじゃないか」

 

そう言って、ニッと微笑む

どう見ても、楽しむ気満々の笑みだ

 

すると、それに賛同したのはやはりピスティだった

ピスティは、嬉しそうに飛び跳ねながら

 

「さっすが、王サマ! 話がわかるー」

 

「そうだろう?」

 

「はい!」

 

「そうと決まったら、さっそく八人将に――――」

 

なんだか、どんどん話が進んで行っている

エリスティアは慌てて口を開いた

 

「ま、待って! 私は不参加だから!!!」

 

心霊スポット巡りなど、冗談では無かった

断固拒否しなければ、強制参加させられてしまう

 

だが、エリスティアの思いとは裏腹にシンドバッドはにやりと微笑むと

 

「何を言っている、勿論エリスも付きあうんだぞ?」

 

「拒否権は……」

 

にっこりとシンドバッドが微笑む

そして

 

 

「ない」

 

 

 

かくして、八人将総出で”七不思議解明隊“が発足されたのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シンドリアの七不思議の話です

今から、心霊スポットを巡るのです

 

ピスティの彼氏って…何人いるんですかねぇ~? 

 

2014/02/21