CRYSTAL GATE

    -Episode ZERO-

 

 

 七海の闇と光 2

 

 

 

「……七不思議って…一体、何を調べるって言うのよ……」

 

白洋塔の一室

円卓に八人将全員が集合している中、シンドバッドの隣に座っているエリスティアは、むす…としまたままそうぼやいた

 

エリスティアらしからぬ、その反応にピスティ以外の八人将が皆顔を見合わせる

 

「どうしたんだ? エリスのやつ」

 

ひそひそと、隣のヤムライハにシャルルカンがそう囁く

が、ヤムライハは若干顔を顰めながら

 

「さぁ…知らないわよー」

 

「知らないって、お前ら親友なんだろ?」

 

“親友”という痛い所を突かれて、ヤムライハがうっ…と口籠る

 

すると、そこに助け船の様にピスティがくすくすと笑いながら

 

「エリスはねーどうやら、おばけとか苦手らしいの」

 

「………マジかー!!!!!」

 

その言葉を聞いた瞬間、シャルルカンがゲラゲラと笑い出した

そして、そのままエリスティアの方を見て

 

「エリス―! お前、幽霊とか信じてんの!?」

 

シャルルカンの反応に、思わずエリスティアが慌てて立ち上がりながら

 

「し、信じていないわよ! 怖く何てないし!!!」

 

と、虚勢を張る様に声を大にしてそう言い放つが…

その態度では、最早 肯定している様なもので…

 

シャルルカンがますます、お腹を抱えて笑い出した

 

「怖いのかよー!!!! 傑作だなぁー!」

 

ゲラゲラと大笑いするシャルルカンに、ついにエリスティアが切れた

目の前のカップを持ったかと思うと、思いっきりシャルルカンめがけて投げ放ったのだ

 

スコ――――――ン

 

「うわ…あつっ!!」

 

なみなみと熱いチャイの入ったカップが、シャルルカンにヒットする

流石のシャルルカンも、これには黙っていなかった

 

「何しやがる!!」

 

そう怒鳴ったが……

 

今にも、泣きだしそうなエリスティアを見てぎくりと顔を強張らせた

そして、今度は慌てた様に

 

「な、何も泣く事ねぇだろぉ!」

 

「泣いていません!!」

 

エリスティアはそう言い放つが、どう見てもそのアクアマリンの瞳に思いっきり涙を浮かべている

シャルルカンが、困った様に「あー」と声を洩らした

 

すると、その横でヤムライハが はぁ…と重い溜息を付いて

 

「やっぱり、デリカシーゼロ男ね」

 

「なんだとぉ!」

 

「なによ、本当の事でしょう!! この筋肉バカ!!」

 

「うるせー! オタク女!!」

 

「なんですってぇー!!!」

 

と、いつものやり取りが始まった所でバンッ!と大きく机を叩く音が響いた

びくっとして、シャルルカンとヤムライハが音のした方を見ると…

般若顔のジャーファルが、にっこりと微笑みながらこちらを見ていた

 

「ジャ…ジャーファルさん……」

 

余りにもどす黒いオーラを放つジャーファルに、シャルルカンも流石にたじろいだ

 

「シャルルカン、ヤムライハ。喧嘩なら外でやっていただけますか?」

 

にっこりそう微笑みながら丁寧語でそう言うジャーファルが恐い

が…それだけではすまされなかった

 

「シャルルカン」

 

不意に、シンドバッドに名を呼ばれシャルルカンがぎくっとする

その声が絶対零度にも近しい程低かったからだ

 

「お…王サマ……?」

 

シャルルカンが、ギチギチギチとなりながらシンドバッドの方を見ると…

シンドバッドは、満面の笑みを浮かべたままこちらを見ていた

 

そして、シャルルカンを見て更に笑みを深くすると

 

「誰が、エリスを泣かせていいと言った……?」

 

「…は、はい………」

 

ブリザードでも吹きそうなその声に、シャルルカンがごくりと息を飲んだ

 

「ほらーエリスを泣かすからー」

 

「そうだな、どう見てもシャルルカンが悪い」

 

ピスティとスパルトスがそう言うが、最早シャルルカンの耳には届いていない様だった

シンドバッドから放たれる、冷気に完全に固まっている

 

その様子をはたから見ていたヒナホホは、はっはっはと笑いながらぽんぽんとシンドバッドの背を叩いた

 

「シンドバッド、許してやれよ。あいつにだって悪気はなかったんだからさ」

 

「あったら悪いな」

 

「まぁ、そう言うなって。お前に睨まれたら、流石のシャルルカンもビビるだろう?」

 

ヒナホホのその言葉に、シンドバッドがふぅ…と小さく溜息を付いた

そして、横に座って顔を手で覆って俯いているエリスティアにそっと手を伸ばすと、そのまま腰を掻き抱いた

 

突然の抱擁に、エリスティアがぎょっとして顔を上げる

すると、シンドバッドがエリスティアの涙を浮かべている瞳に口付けを落としながら

 

「お前を泣かせていいのは、俺だけだからな…?」

 

「シ、シン……っ」

 

流石のエリスティアもこれには驚いたのか、どんどん顔を高揚させていった

 

「ん? どうした?」

 

シャルルカンの時とは、打って変わった優しげな声音にエリスティアが益々顔を赤らめ

 

「あ、あの……離して…欲しいのだけ、れど……」

 

やっとの思いでそう言うが、それはシンドバッドの「駄目だ」という言葉で却下された

それどころか、更に抱き寄せるとそのままシンドバッドの真横に座らせられた

 

「シン~~~~っ」

 

抗議しようにも、一向に相手にすらして貰えない

だが、それで引き下がるエリスティアではなかった

 

シンドバッドをキッと睨みつけると

 

「もぅ! シン! 今は会議中でしょう!!」

 

だから、離して! と続ける筈が、それはシンドバッドの言葉で遮られてしまった

 

「安心しろ、会議と言っても七不思議に付いてだからな」

 

そう言って、にっこりと無邪気に微笑まれて、エリスティアがう…っと、押し黙る

 

確かに、今は国の重大な案件を決める様な会議じゃない

この城にあるという、七不思議に付いて意見交換しているだけだ

 

そこを突かれると、強く言えずに

ついに、エリスティアが観念した様にそのままこつんとシンドバッドに寄り添った

それで満足したのか、シンドバッドは嬉しそうに微笑みながら皆の方を向いた

 

「それでだ、この城に七不思議があるという話なんだが……」

 

「あ、それなんですけど! いくつか知ってます!!」

 

はーいと、事の発端のピスティが手を上げた

 

「聞いた話ですけど、城の東の塔の最上階に青い扉の部屋があるらしいんです。そこは、誰も開けた事がない“開かずの間”だそうで…見回りをしていた兵士の話によると、ある日その“開かずの間”が開いてて…不審に思って近づいたら……」

 

びくっとエリスティアが肩を震わせた

思わず、シンドバッドの腕にしがみ付く

 

それを見たシンドバッドは、安心させる様にエリスティアの手に自身の手を重ねた

 

「大丈夫だ、エリス」

 

「で、でも……」

 

「俺がついている」

 

「……………っ」

 

ぎゅっと、エリスティアが目を瞑ってこくりと頷く

それを見たシンドバッドはピスティに続ける様に促した

 

「えっと、続けますね。近づいたら…突然誰も居ないのにギギギギって音を立てて閉まったんですって! その後、開けようとしてもやっぱり開かなくて…結局、何故開いていたのか、勝手に閉まったのか分からないままで……」

 

その時だった

 

「誰かいたんじゃねぇのか?」

 

と、シャルルカンが茶々を入れてきた

それを聞いたピスティはキッ!とシャルルカンを睨みつけ

 

「だから! 誰もいなかったんだってば!! 人の気配も、音もな~んにもしなかったのにだよ!?」

 

「確かに、それは不審っすね…」

 

「うむ……」

 

そう頷くマスルールとドラコーンという仲間を得て、ピスティが「でしょー!」と叫んだ

 

「どう思います? シン」

 

ジャーファルの問いに、シンドバッドがうーん…と考え込む

 

「そうだなぁ…とりあえず、行ってみるしかないんじゃないのか?」

 

「行くの!!?」

 

シンドバッドのその言葉に、一番に反応したのはエリスティアだった

がたんっと立ち上がり、思いっきり千切れんばかりに顔を横に振る

 

「私、行かないから!」

 

「駄目だ」

 

「どうしてよ!?」

 

「当然、俺が行くからエリスも行くんだ」

 

「意味がわからないわ!!」

 

エリスティアがそう抗議するが、シンドバッドは頑として譲りそうになかった

見かねたジャーファルが助け船を出す様に

 

「シン、エリスも怖がってますし…ここは我々だけで……」

 

と、その言葉に反論したのは何故かエリスティアだった

慌てて口を開くと

 

「ちょっ…ちょっと! 誰も、怖いなんて言ってないでしょう!? べ、別に、行くぐらい平気よ…!!」

 

そう言って、がたんっと立ち上がるとスタスタと、扉に向かって歩き始めた

 

「もう! 行くんだったら、さっさと行きましょう!」

 

そう言って、一人部屋を出て行ってしまう

それを見たジャーファルは、にっこりと微笑み

 

「だ、そうですよ? じゃぁ、我々も行きましょうか」

 

と、言ってヒナホホやドラコーン・シンドバッドと一緒に部屋を出て行ってしまった

それを見ていた、シャルルカンとピスティは、ごくりと息を飲み

 

「「策士だ…」」

 

と、呟いていたのは言うまでもない

心の中で、「ジャーファルさんにはやっぱり逆らっちゃいけない」と思ったのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ****    ****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここが、例の青い扉の部屋か」

 

東の塔の最上階

通称・“開かずの間”

 

その前に全員で来ていた

話の通り、扉はがっちり閉まっていてびくともしない

 

試しに、ヒナホホ・ドラコーン・マスルールの3人掛かりで引っ張ってみたが、錠がしてある訳でもないのにびくともしなかった

 

「本当に開かないっすね…」

 

マスルールの言葉に、ジャーファルとヒナホホがうーんと唸りだす

 

「そうですねぇ~、どうしますか? シン……シン?」

 

振り返ると、何故かシンドバッドが後ろの方で苦笑いを浮かべていた

不思議に思って、シンドバッドの後ろを見ると……

 

エリスティアが、案の定というべきか…

ガタガタと震えながら、隠れていた

 

「エリス……」

 

シンドバッドが優しくそう名を呼ぶが、当の本人には聴こえていないらしく

 

「開いてないのでしょ? きっと、開かないのよ! ここはもう、終わりよね!? 帰りましょう!! 仕事しなきゃ!!」

 

と、もう半分逃げ腰だった

 

「エリス…俺の後ろじゃ、何も見えないだろう?」

 

「み…見えるわ」

 

そう虚勢を張るが…ぐいっとシンドバッドの前に出された瞬間――――……

 

ビュオ…!と、風が吹いた

その時だった

 

「ねぇ、今 ちょっと開かなかった!?」

 

「「え!?」」

 

ピスティが突然、とんでもない事を言いだした

今、一瞬扉が開いたというのだ

 

その言葉に、驚いたのはシャルルカンとヤムライハだった

見事に声がハモり、お互いにキッと睨みつける

 

が…

驚いたのは、2人だけではなかった

 

「エリス……」

 

「もう、いやぁ~~~~~~~」

 

いつの間にか、エリスティアがシンドバッドにしがみ付いていた

がっちり、首に手を回して離れそうにもない

しかし、離す気もないシンドバッドは、よしよしとエリスティアの頭を撫でながら

 

「そのまま、しがみ付いてていいからな?」

 

と、優しく声を掛ける

その言葉に、エリスティアはこくこくと頷いた

 

どうやら、本気で怖いらしい……

 

ヒナホホと、ドラコーンはお互いに顔を見合わせ

 

「お前らは、ここに居ろ」

 

「そうだな、何があるか分からない」

 

そう言って、2人して扉の方に向かった

その様子を、じっと残りの8人は見守っていた

…約1名を除いて

 

数分もしない内に、2人が戻ってきた

 

「やはり、閉まってるな」

 

「ああ、ビクともしなかった」

 

2人の言葉に、皆が顔を見合わせる

 

「おい、ピスティ。本当に開いたのかよ?」

 

シャルルカンのその言葉に、ピスティがむぅ…!と頬を膨らませた

 

「開いたよー! い、一瞬だけだったけど…!!」

 

キッとシャルルカンを睨みながらそう言うピスティに、ヤムライハとスパルトスが顔を見合わせた

 

「スパルトス君、どう思う?」

 

「ああ…ピスティが嘘を付いているとも思えない」

 

「そうよねぇ~」

 

ピスティだって、悪い子じゃない

エリスティアがここまで怖がっているのに、冗談は言わないだろう

 

となると……

 

「じゃぁ、本当に一瞬開いたって事……?」

 

「……………」

 

 

 

 

し――――――ん……

 

 

と、皆言葉を失った様に静まり返る

 

「シ、シン……っ」

 

今にも泣きだしそうなエリスティアが、シンドバッドの首にしがみ付いたまま名を呼ぶ

シンドバッドは少し考えた

 

「よし、今夜もう一度ここに来てみよう」

 

「ええ!!?」

 

まさかのシンドバッドの発案に、エリスティアが驚愕の声を上げた

 

「シ、シン……っ!!」

 

涙目で訴えるが……

シンドバッドは逆に生き生きしていた

 

「エリスをこんなに怖がらせる場所があったら、困るからな! ここは はっきりさせておいた方が、今後の為だろう?」

 

そう言って、にっこり微笑んだ

が……

 

どう見ても、楽しみで仕方ないという顔だ

そうなのだ

この男、こういった冒険が大好きな男だった

 

今夜ここに来るの……?

 

じょ…冗談でしょう………っ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、七不思議一つ目は、開かずの間です

しかし、夢主の怖がりようは尋常でないのに、強がるww

 

2014/05/04