CRYSTAL GATE

    -Episode ZERO-

 

 

 太陽の彼方 3

 

 

シンドバッドが、海宴祭(シーヴァーハ)を開催すると言ってからあっという間に、2週間経ってしまった

その間、皆準備に追われてバタバタと忙しそうに走り回っていた

特に、ジャーファルなどは全体を取り締まる役割もしていたので、特に忙しそうだった

 

そして、気が付けば当日の朝になっていた

 

「エリス」

 

眠りを呼び起こす様に優しく耳元で囁かれる

 

「ん………」

 

エリスティアが、もそりと身体を動かす

こんな風にエリスティアを呼び起こすのは1人だけだ

 

「シン……?」

 

愛しいその名を呼ぶと、直ぐ傍から「なんだ?」という声が返って来た

ゆっくりと重い瞼を開けると、目の前にシンドバッドの姿があった

 

「おはよう」

 

「う…ん……おはよう、早いのね……」

 

エリスティアが、少しだけとぼけた様にそう問うと、シンドバッドはくすっと笑みを浮かべて優しく、エリスティアのストロベリーブロンドの髪を撫でた

 

「エリスはお寝坊さんだな」

 

「……誰のせいなのよ……」

 

正直、昨夜はシンドバッドが寝かせてくれなくて、寝たのは明け方だった

眠くて当たり前である

 

「俺は元気だぞ?」

 

と、艶の良さそうな顔色のシンドバッドがにっこりと微笑む

 

それは、シンドバッドは元気かもしれないが、毎夜相手する方の身にもなって欲しい

だが、それとは別にシンドバッドの腕枕が心地よくて、またうとうとしてしまいそうになる

 

「今日、海宴祭(シーヴァーハ)だね……」

 

エリスティアの言葉に、シンドバッドは嬉しそうに「ああ」と答えた

やっと、待ちに待った祭りの日なのだ

シンドバッドとしては、直ぐにでも飛び出したいぐらいうきうきしているのかもしれない

 

だが、シンドバッドはエリスティアの身体を労わる事を忘れはしなかった

自身の腕に頭を預け、気持ちよさそうにするエリスティアをみながら、愛おしそうに髪を撫でる

それが、酷く心地よくてまた眠ってしまいそうだ

 

「エリスは、もう少し休んでいていいからな」

 

シンドバッドはそう言ってくれるが、そういう訳にもいかなかった

エリスティアは、小さく首を振るとすりっと、シンドバッドにすり寄った

 

直に触れるシンドバッドの肌の温もりが心地よい

 

「私も、起きるわ……シンの支度手伝わなきゃ……」

 

毎朝、基本的にはエリスティアがシンドバッドを起こす側である

たまに、こうして逆転するのだが

その後、シンドバッドの支度を手伝うのも、エリスティアが毎朝やっているのだった

 

甘える様にすり寄って来たエリスティアに、シンドバッドが優しく瞼に口付けた

 

「馬鹿、そんな風に甘えられたら、またお前を抱きたくなるだろう?」

 

「……朝から何言っているのよ、もう……」

 

冗談めかしてそう言う、シンドバッドに半ばエリスティアは呆れにも似た溜息を洩らした

これ以上、甘えていたら本当に朝から抱かれかねないと思ったのか、エリスティアはゆっくりと起き上がると、シーツで身体を隠しベッドから這い出てしまった

そして、何事も無かったかのように、夜着を羽織るとシンドバッドの支度の用意を始めたのだ

 

「エリス、そう急がなくてもいいぞー?」

 

もう少し、ベッドで触れ合っていたかったシンドバッドが、エリスティアをベッドへ誘おうとするが、エリスティアはもうすっかり起きてしまったのか、てきぱきと衣などの用意をしていく

 

一通り用意を終えると、未だベッドで寝っころがっているシンドバッドの側にやってきた

 

「シン、支度しましょう」

 

そう言って、シンドバッドを起こすとさっさと背を向けてしまった

が、次の瞬間それは起きた

 

突然、シンドバッドがぐいっとエリスティアの腕を掴むと自身の方に引っ張ったのだ

 

「きゃっ……」

 

余りにも、突然だった為受け身を取る事も出来ず、そのままエリスティアの身体がシンドバッドに抱き寄せられる形となった

 

「ちょっ……何?」

 

瞬間的に、頬に熱を帯びるが分かる

いきなりは、勘弁して欲しい

心臓に悪い

 

だが、シンドバッドは当然の事の様に、エリスティアの腰をそのままぐいっと抱き寄せると

 

「エリス、朝の挨拶がまだだぞ?」

 

「……?さっき、おはようって言ったじゃない?」

 

確かに、先程挨拶なら交わした筈だ

だが、シンドバッドの言う“挨拶”はそれではなかった

 

「エリス?分かってるんだろう」

 

う………

 

シンドバッドの言わんとする事が分かり、エリスティアが顔を真っ赤に染める

 

「あ、の、ね……シン……どうしても―――やらなきゃ、駄目……?」

 

しどろもどろになりながらそういうエリスティアに、シンドバッドはにっこり微笑むと

 

「約束だろう?俺が起こした時はお前から――――」

 

「ああ、もう!全部言わないで!!」

 

エリスティアが、顔を真っ赤にして叫ぶ

むぅ…と頬を膨らませ、シンドバッドを睨みつけた

 

だが、シンドバッドのしてみれば、不貞腐れた顔も可愛らしく思えて仕方ない

はっきり言って、逆効果だ

 

エリスティアは、半分あきらめたのか…

はぁ…と溜息を洩らすと

 

「もう……絶対、シンより後に起きないわ……」

 

そう言って、顔を赤く染めたまま、シンドバッドの肩に手を置く

そして、そっとシンドバッドに口付けた

 

「おはよう、シン」

 

エリスティアからの挨拶に、シンドバッドが嬉しそうに微笑みながら「おはよう」と答えた

 

「もう、起きてよ?」

 

エリスティアからのお願いに、シンドバッドが「分かった分かった」と答えながら起き上がる

が、すぐさまエリスティアがダウンを肩に掛けた

 

何故なら、シンドバッドは裸で寝る癖があるからだ

案の定、本日も見事なまでに着ていない

 

エリスティアが掛けてくれたダウンを身に付けると、ベッドから起き上がって来た

すると、エリスティアが慣れた手つきで、着付けていく

 

本当なら、こういうのは侍女の役目なのだが……

案の定、シンドバッドは裸で寝るのでまず侍女には見せられない

その上、エリスティアも同じベッドで寝ているので、あまり見られたくないのもある

なので、掃除の時ぐらいしか2人の私室スペースには誰も立ち入らないのだった

 

そういう経緯もあり、シンドバッドの支度はエリスティアの役目となっていた

一通り、シンドバッドの支度を整えると、先に朝議に送り出す

だからと言って、エリスティアが朝議に遅れて良い理由にはならないので、自分の支度もさっさと済ませる

 

普段なら、大概先にエリスティアが支度を済ませた後なので、一緒に向かうのだが

今日の様な場合は、どうしてもエリスティアを後手に回すしかない

 

夜着を脱ぎ、いつものドレスに着替える

メイクをして髪を整える

そして、アクセサリーを付けたら完了だ

 

外に出る時用のベールを用意すると、そのまま部屋を後にした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ****    ****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――白洋塔

 

朝議には、八人将がいつも揃う

シンドバッドは円卓を囲みながら、一つ一つ最終チェックをしていった

 

「大丈夫そうだな」

 

シンドバッドの言葉に、ジャーファルが「ええ」と頷く

 

「何とかするのが、我らの役目ですから」

 

「そうですよ、王サマ!今日は思いっきり楽しんでいいんですよね!?」

 

「海かぁ~楽しみだなぁ~」

 

シャルルカンの言葉に、ピスティもうっとりと心躍らせていた

 

「警備も、問題なく配置してあるからな」

 

「ああ、警備の者もシフト制にしてある、これなら皆 祭りが楽しめるだろう」

 

ヒナホホと、ドラコーンの言葉に、シンドバッドが頷く

 

「街道も、滞りなく完了している」

 

「海の汚染もなかったから、安心して下さい」

 

スパルトスと、ヤムライハの言葉に、シンドバッドが「分かった」と答えた

 

「じゃぁ、後は皆楽しんでくれよ!」

 

「「「はい」」」

 

「私は少し休みたいです…」と、ジャーファルが言っていたのは言うまでもない

 

解散…となった時だった、不意にシンドバッドがピスティを呼びとめた

 

「アレの準備が出来ているか?」

 

”アレ“の言葉に、ピスティがVサインを送る

 

「まっかせて下さい王サマ!ばっちりです!!」

 

「よし、じゃぁ、頼んだぞ?」

 

「はーい」

 

そう言って、シンドバッドが退出していく、その後普段ならばエリスティアが退出するのだが、

 

「エリスー!ちょっと相談あるから待ってー!」

 

と、何故かピスティに止められた

 

「相談?なに?」

 

エリスティアが首を傾げている時だった

今度はヤムライハまで呼び止めだした

 

結局、男性陣だけ退出して、エリスティアとヤムライハとピスティの3人だけが残る羽目となった

 

「なんなの?ピスティ、相談って……」

 

ヤムライハも、分からないのか…首を傾げながらそう問う

エリスティアと、ヤムライハがお互いに顔を見合わせて首を傾げる

 

すると、ピスティはにっこりと微笑んで

 

「ねぇ、2人とも今日のお祭りに来ていく服決まってる?」

 

藪から棒に振られ、エリスティアとヤムライハがまた顔を見合わせた

 

「着て行くも何も…このままだけれど……ねぇ?ヤム」

 

「ええ、そのつもりだけど?」

 

エリスティアの言葉に、ヤムライハも頷く

すると、ピスティはチッチッチと人差し指を動かした

 

「駄目だよ、2人とも!この海宴祭(シーヴァーハ)は海開きなんだよ?海と言ったら水着!水着着用義務だから!」

 

そういえば…シンドバッドがそんな事を言っていた様な気がする……

 

あの日「水着姿を楽しみにしているぞ」とか言っていた様な

あれは、本気だったのか……

 

だが、着る気など微塵もなかったので用意していない

 

「えっと、ピスティ……私、水着持ってないし、このままで―――……」

 

「わ、私も持ってないわ、だから――――!!」

 

エリスティアと、ヤムライハがそれぞれそう言おうとした時だった

突然、ピスティがふっふっふと笑い出した

 

「そんな事もあろうかと、ちゃ~んと用意してまーす!」

 

そう言って、ぱちんと指を鳴らした時だった

何処からともなく、侍女が現れ大量の水着を持ち込んできたのだった

 

「え……っ、ちょ、これ………」

 

「じゃじゃーん、どうよー?ピスティちゃん厳選の素晴らし水着の数々は!!」

 

そう言って、ずらっと円卓の上に並べだす

 

そこに並んだ物には、ワンピースという素材は無く、ビキニと呼ばれる品ばかり

というか、この布の少ないものを着て歩くなど、下着を着て歩くのと一緒ではないか

これを着ろと……?

 

「…………………無理」

 

最初にそう言いだしたのは、エリスティアだった

 

「無理!無理無理!大体、これ布地少なすぎるわよ!!足も腕も肩も露出してるし……」

それどころか、お腹も出ている

が、エリスティアのその言葉に、ピスティがきょとんとしたまま

 

「えーエリスが普段着ているドレスも似た様なもんじゃない?」

 

いや、確かに腹や肩、腕や足も一部露わになっているが……

この水着とやらは全体的に、布面積が少なすぎる!!

 

渋るエリスティアに、ピスティがむぅ~と考えた

そして、一着の水着を手に取る

 

白地に、薄く紫がかったビキニだ

 

「これに、このパレオってのを腰に巻くと良いよ」

 

「いや、だから……」

 

尚も断ろうとするエリスティアに、ピスティのダメ押しが入った

 

「もー王サマ楽しみにしてるって言ってたよー?特に、エリスの水着姿」

 

「う………っ」

 

そう言われると、弱い

確かに、シンドバッドにも言われたが……

 

「…………あ~あ、エリスが着なかったら、王サマがっかりするだろうなぁ~」

 

ピスティがわざと大きな声で、そう言う

ぴくりとエリスティアの肩が揺れた

 

がっかり…は、させたくない………

着る…しかない、のか………

 

ピスティに渡された水着を見る

確かに、布面積は少ないがとても綺麗な代物だった

それに、パレオを巻いていいなら少なくとも足は半分隠せる

 

どうしよう……

 

と、悩んでいる時だった、ピスティがはいっとヤムライハに薄碧色の水着を渡す

 

「ヤムはこっちねー」

 

「え…私は――――………」

 

ちらりと、エリスティアを見る

彼女は着るのだろうか……?

 

2人して、水着を持ったまま固まってしまった

すると、ここぞとばかりにピスティはまたぱちんっと指を鳴らした

 

すると、ササッと再び侍女達が現れたかと思うと、2人を半強制的に簡易更衣室へ連行した

 

「ちょっ…まだ、着るとは……っ!!」

 

「ピスティ!!」

 

「しっかり仕上げてねー」

 

2人の抗議の言葉をスルーするかの如く、ピスティは侍女に指示を出すと、自分も鼻歌を歌いながらサクサクと着替えだしたのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝から、いちゃいちゃしてますなー(笑)

まぁ、一緒に寝てるしねー

色々あるだろうよww

 

後半は、水着回です

ピスティにより、強制的に着用決定です

 

さて、そろそろこの話も終わりですな――もう、10月だし…(-_-;) 

 

2013/10/24