CRYSTAL GATE

    -Episode ZERO-

 

 

 太陽の彼方 4

 

 

 

―――――海宴祭(シーヴァーハ)・当日

 

シンドリアは、これまでにないぐらい賑わっていた

それもその筈

 

今まで誰もが思いつかなかった、ビーチが一般開放されるというのだ

誰しもが、心躍らせ今か今かと待ち望んでいた

 

勿論、国外からの観光客もこの日に合わせてやってきていた

 

皆、祭りを楽しんでいる様だった

その様子を、上座に設置された王室用のテントの下でシンドバッドほか、八人将の男性陣は女性陣の登場をまっていた

 

「まだか、ジャーファル」

 

「まだです」

 

という会話が先程から何度も繰り返されている

 

皆、水着という衣を着せらせ、そわそわしているのか

シャルルカンなどは、早く泳ぎたくてうずうずしていた

ヒナホホと、ドラコーンは普段と変わらない様な格好に近いが、ちゃんと軽装にしている

が、剣は手放さない

スパルトスに至っては、無理矢理着せられた水着が嫌なのか、上からパーカーなる物を羽織ってしまっている

マスルールは、平然と水着姿で立っていた

我らが王は、堂々と水着姿を披露する様に、どかっと椅子に座り エリスティアの登場を今か今かと待ち望んでいた

 

「しかし、ジャーファル……」

 

不意に、シンドバッドが呟いた

しかし、ジャーファルは平然としたまま

 

「なんですか?」

 

「何故、お前は水着を着ていない」

 

「仕事ですから。そもそも、水着など持っておりません」

 

そう―――ジャーファルはというと、いつもの官服を着たままだったのだ

まさかの伏兵に、流石のシンドバッドもそこまで気が回らなかった

 

エリスティアに水着を着せる事で頭が一杯で、ジャーファルまで思慮に入れてなかったのだ

 

「ジャーファル殿、ずるいですよ」

 

と、不本意ながら着せられたスパルトスがぼやくが、ジャーファルは全然気にした様子もなく

 

「皆が浮かれていては困りますからね」

 

と、至極当然の様に言い切った

 

「むぅぅ……」

 

ジャーファルにどうにかして着せられないものかと、考えあぐねている時だった

 

「王、エリス様達が到着致しました」

 

一人の侍女が、そうシンドバッドに告げた

 

「そうか、来たか!」

 

待っていました!とばかりに、シンドバッドが立ち上がった

すると、向こうの方から女性陣が歩いて来ていた

 

「「おおおおお~~~~」」

 

シャルルカンとヒナホホが歓喜の声を上げる

と、同時にピスティが大きく手を振った

 

「あ、皆―!お待たせー!!!」

 

そう言って、ぱたぱたと駆け寄ってくる

 

「ピスティ!遅いじゃないか!!」

 

シンドバッドの言葉に、ピスティがぺろっと舌を出した

 

「ごめんね、王サマ。エリスが最後まで渋っちゃってー」

 

「ま、まさか、着てないんじゃ………っ!?」

 

まさかの発言にガーンっとショックを受けた様にシンドバッドが固まるが

ピスティはチッチッチと人差し指を揺らした

 

「そこは、任せて下さい!ばっちりです!!」

 

「そうか!よくやった、ピスティ!!」

 

ピスティのその言葉に、シンドバッドがほっと胸を撫で下ろす

 

「で?馬鹿女と、エリスはどうしたよ?」

 

「え?二人なら後ろに―――って、あれ?」

 

シャルルカンの言葉に、ピスティが首を傾げながら振り返るが――――

後ろには誰もいなかった

 

が、ピスティには見えていた

後ろの岩陰に隠れる二人の姿が

 

「もー何やってるのよ!」

 

ピスティが、ぷんっとご立腹という風にそう言うと、スタスタとその岩陰に近寄った

 

「ちょっと、ここまで来て何渋ってるのよー」

 

「で、でも……ピスティ…っ!

 

「やっぱり、恥ずかしいわ……」

 

尚も渋る二人に、ピスティがイラっとする

そして、二人の手をぐいっと引っ張ると

 

「もー往生際が悪いよ!!」

 

そう言って、そのまま岩陰から二人を引っ張り出した

 

「きゃっ……」

 

いきなり引っ張り出され、 エリスティアとヤムライハが躓きそうになりながら出てくる

と、同時にどんっと背中を押された

 

「ちょっと、ピスティ!!」

 

ヤムライハが、前のめりになりながら皆の前に躍り出る

 

瞬間、男性陣から「おお~」という歓声が上がった

 

エメラルドグリーンの水着を着たヤムライハは、いつもの彼女とはまったく違っていた

 

「へぇ~馬鹿女にしては、いいじゃねぇか!」

 

シャルルカンが、マジマジと見ながらそう言うが

 

「あ、う……」

 

恥ずかしさのあまり、シャルルカンの罵声にすら返せない始末だ

何か羽織る物を―――と思うが、目ぼしいものが全くない

 

「ヤムライハさん、お似合いですよ」

 

マスルールも、素直に褒めてくる

だが、やはりその言葉に返答うする余裕もないのか…ヤムライハは顔を真っ赤にして身体を隠す様に両手で包み込んだ

 

瞬間、スパルトスがすっと羽織っていたパーカーを差し出した

手で目隠ししたまま

 

「羽織るがいい」

 

「スパルトス君…」

 

じぃぃん、と感動にうちひしがれながらヤムライハは素早くそのパーカーを受けとると、思いっきり被った

 

「おい、スパルトス!余計な事するなよ!」

 

「そうだぞ、スパルトス」

 

と、シャルルカンとシンドバッドから抗議の声が来るが、スパルトスは「いや、困りますので」と、答えながら尚も視線を反らした

 

その時だった

 

「ほらーエリスも早く!」

 

「ま、待って、ピスティ!私、やっぱり――――」

 

「諦め悪いよ?ほーら行った!」

 

という声と共に、 エリスティアの「きゃぁ!」という声が聴こえたかと思うと、どんっとシンドバッドに何かがぶつかって来た

 

慌ててそれを受け止めると―――それは エリスティアだった

 

「エリス」

 

シンドバッドが嬉しそうにその名を呼ぶ

ぴくりと、 エリスティアの肩が揺れた

 

「あ、の……ごめんなさい、シン……っ」

 

慌ててそう言い募るも、シンドバッドから離れようとしない

どうやら、恥ずかしくて顔が上げられない様だ

 

にやにやと周りがにやつくなか、シンドバッドは平然としたまま エリスティアの肩を掴むと

 

「エリス、俺に見せてくれないのか?

 

「……………っ」

 

また、 エリスティアの肩がぴくんっと揺れた

見れば、耳まで真っ赤だ

 

よほど、恥ずかしいのだろう

だが、それでは納得しないのがシンドバッドである

 

「エリスー?」

 

もう一度、 エリスティアの名を呼ぶ

それで観念したのか、 エリスティアがそっと顔を上げた

 

「シン………」

 

「俺に、見せてくれるんだろう……?」

 

優しくそう問うと、 エリスティアが顔を真っ赤にさせたまま小さくこくんと頷いた

そして、少しだけシンドバッドから離れる

 

その姿を見た瞬間、皆が「おお~~」と歓声の声を上げた

 

白地に、先に行くほど薄紫のグラデーションでかたどられビキニに、流れる様なパレオを身に付けた エリスティアは、他の誰よりも美しかった

 

あのスパルトスすら、口を開けたまま固まっている

 

「凄くいいじゃないか!エリス、似合っているぞ」

 

シンドバッドの嬉しそうな顔にほっとしたのか、 エリスティアが少しだけ表情を和らげて「ありがとう…」と呟いた

 

すると、一気に他の八人将もわっと エリスティアの回りに集まった

 

「二人ともいいじゃないか!」

 

「そうだな」

 

ヒナホホと、ドラコーンまでもが褒めてくれる

 

「おお、似合ってるぜ!!すげーいい」

 

シャルルカンなどは大はしゃぎだ

 

「そうですね、お二人ともお似合いですよ」

 

「流石はエリスさんです。凄くお似合いです」

 

というジャーファルとマスルールの後ろで、スパルトスが必死に視線を反らしている

と、その時だった

 

「ちょっとぉー!皆、私の事忘れてない!!」

 

と、一人残されていたピスティがむぅ…と頬を膨らませながら抗議する

一瞬、「あ」という空気に包まれるが、そこはシンドバッド

さらっと、自然に

 

「そんな事は無い、ピスティも似合っているぞ」

 

シンドバッドの言葉に、他の皆も「可愛い」と言ってくれる

すると、まんざらでもないピスティも気分を良くしたのか「まぁねー」と笑いながら答えだした

 

 

 

 

 

 

 

 

「よーし!全員そろったし、海宴祭(シーヴァーハ)の始まりだー」

 

「「おお―――――――」」

 

と、皆の歓声が下から聴こえてくる

 

民たちが皆、王の言葉を今か今かと待ち望んでいた

シンドバッドは杯を持つと一歩前に出て

 

「皆、今日までよく準備に力を注いでくれた!こうして無事、海宴祭(シーヴァーハ)を開けるのも皆のお陰だ!今日は楽しんでくれ!!!」

 

 

わあああああああ―――――――――――

 

と、歓声が聴こえてくる

 

「我らが、王とルシ、そして八人将に―――――乾杯!!!」

 

「「「「かんぱーい」」」」

 

一気に、祭りがにぎわいを見せる

 

皆、思い思いに海に入り泳いだり、遊んだりしている

八人将も、シャルルカンとピスティを筆頭に、ヤムライハやスパルトスにマスルール、果ては官服姿のジャーファルまで引っ張っていってしまった

ヒナホホと、ドラコーンは向こうの席で部下と酒を飲んでいる

 

二人っきりになり、 エリスティアは少し恥ずかしそうに先程貰った表着を少しだけ深く被った

いつもなら、シンドバッドの側に群がる女性達も今日ばかりは、何故か来なかった

 

むしろ、今日は来てほしいぐらいなのに、こういう時に限って来ないとはどういう事なのだろうか……

 

エリスティアに遠慮しているのだろうか

それなら、早々に退出させて貰うのに――――

 

それをシンドバッドが許す筈もなく

がっちりと、腰に回された手に今までにない位力が入ったかと思うと、ぐいっと引っ張られた

 

「きゃっ……」

 

不意に引っ張られたせいで、体制を崩してしまう

ぽすんとシンドバッドの膝に乗る形となり、 エリスティアが慌てて立ち上がろうとする

が、それはシンドバッドが許さなかった

 

「あ、あの、シン……っ!」

 

たまらず、 エリスティアがそう叫ぶと、シンドバッドは「んー?」と、酒を飲みながら面白そうに返事をする

 

「あの……手をどけて欲しいのだけれど……」

 

何とか逃れようと、そう言うが更に、力を込められた

 

「何故だ?」

 

「何故って………」

 

恥ずかしからに決まっているのに、シンドバッドは直ぐに言わせようとする

だが、直ぐ答えてしまうのが何だ癪で エリスティアは、むぅっと頬を膨らませた

 

「もぅ……シン、酔っているでしょう?」

 

「いや?まだ、酔っていないぞ?」

 

と、そう言うが…どう見ても酒に酔っている風だった

エリスティアは、はぁ…と溜息を付くと、そのまま離れようと身体を起こそうとする

が、それはやはりシンドバッドによって阻まれた

 

「もぉ、離して!お水、貰ってくるから――――」

 

「水など要らん」

 

そう言って、ぐいっと空になった杯を差し出してくる

エリスティアは、はぁ…と溜息を付くとその杯に酒を注いだ

 

その時だった

突然、シンドバッドがとんでもない事を言いだした

 

「エリスも飲むか?」

 

「え――――んんっ」

 

突然そう問われたかと思った瞬間、ぐいっと顎を引っ張られる

が、次の瞬間思いっきり唇を塞がれたのだ

 

「ちょっ……シ、ン………んっ……」

 

ごくんっと、何かが喉の奥を通って行った

 

「………っ、げほ……げほ……っ!」

 

突然、喉が焼ける様な感覚に襲われ、思いっきり咽せ返った

その様子に、シンドバッドがくすっと笑みを浮かべる

 

「そういえば、エリスは酒は飲んだ事はなかったんだったな?」

 

「な、なに…を………けほ…っ」

 

喉がじんじんする

焼ける様に痛い

 

尚を咽る エリスティアに、シンドバッドは今度は傍にあった水差しの水を口に含むと

 

「こっちを向け、口を開けろ エリス」

 

「え―――――」

 

今度も有無を言わさずに顎を持ち上げられたかと思うと、そのままぐいっとシンドバッドの唇が重なって来た

 

「シン……っ、ん……」

 

ごくりと、今度は冷たい水が喉を通って行く

瞬間、あれだけ焼けた様に痛かった喉が落ち着きを取り戻していく

が、やはり無理矢理飲まされたので咽てしまう

 

「けほ、けほ……っ、シン、もう――――」

 

「いい」と言おうとしたのだが、それはシンドバッドの唇によって遮られた

 

「んぁ……はっ………んん……」

 

「エリス――――」

 

そのままぐいっと腰を抱かれ、慈しむ様に何度も何度も角度を変えて口付けが降り注いでくる

 

「シ、ン……みん、な見て………っ、はぁ……ん」

 

皆が見ている

皆、シンドバッドと エリスティアの口付けを交わす行為に、顔を真っ赤にして口をあんぐり開けたまま凝視している

ヒナホホなどは「やるなぁ~」と口笛を吹く始末だ

 

「放っておけ、見せつければいい」

 

そう言うと、シンドバッドは尚も深く口付けた

 

だが、エリスはいっぱいいっぱいだった

皆に見られている恥ずかしさと、シンドバッドからの口付けの激しさに応えるので精一杯で、頭が真っ白になっていた

意識が遠のきそうにすらなる

 

ようやく解放された時には、もう疲労困憊状態だった

 

じわりと、浮んできた涙を呑みこもうとするが、そのままぽろりと零れてしまう

だが、そんな事構わずどんっとシンドバッドの胸を叩いた

 

「シンの馬鹿!人前は嫌だってあれ程―――――」

 

「そうか?俺的には、全然足りないんだがな」

 

はははははと笑いながらそう言うシンドバッドに、何だかどんどん苛々が募ってくる

 

「もう、知らない!」

 

ぷいっとそっぽを向いた エリスティアに、シンドバッドがよしよしよ頭を撫でてきた

その手が優しくて、また涙ぐみそうになる

 

「もう~~~シンなんて嫌いよー」

 

「そうか!俺は好きだぞ!!」

 

そんなやり取りをしている二人を見て、ヒナホホとドラコーンが 「お前ら、もうさっさと結婚しろよー」 と笑って言っていたのは言うまでもなかった

 

そんな二人の会話をみながら部下達がこんな話をしていたのは知る由もない

 

「なぁ、なんで王とエリス様は結婚されてないんだ?」

 

「さぁ?でも、実際 事実婚状態だろ、あれ」

 

「だよなぁ~。あのお二人の関係は、それでこそこのシンドリアの七不思議の一つだからなぁ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海宴祭編、終了でーす

気が付けば、4話も使ってしまいましたww

 

当初の予定では1話で終わらすつもりだったんだがなぁ…・はっはっは

 

さて、もう11月ですが海編が今更終わったのは…まぁ、気にするな!

次なる短編は、部下達の話していた七不思議についてですww

 

※追記:マスルールの存在忘れてましたので追加しました…

すまん、マスルール! 

 

2013/11/28