CRYSTAL GATE

    -Episode ZERO-

 

 

 太陽の彼方 2

 

 

シンドリア国内は多忙を極めていた

数日前、突如「海宴祭(シーヴァーハ)」と それに伴ってビーチ解放が国内に公表された

 

国民は新たな宴だと喜んだ

 

だが、それと同時にやらなければいけない準備が山盛りだった

特に海と海へと続く道の整備は急務を要し、スパルトスとシャルルカンの指示のもと急ピッチで行われていた

それだけではない

 

黒秤塔の魔導士も総動員でヤムライハの指示のもと、海域調査を行っているし

勿論、警備体制も万全を期さなければいけない

ドラコーンとヒナホホの指示のもと、シフトがどんどん組まれていく

だからと行って、王宮の警備を薄くするわけにもいかず、中々難攻中だった

 

中でも、財政とスケジュールを見ているジャーファルなどはここ数日殆ど眠る事が出来ていなかった

次々と来る、新たな要望

経費の計算

人員確保と大忙しだ

 

勿論、通常業務もこなさなければならない

 

だが、皆楽しそうだった

新しい祭りが楽しみで仕方ないのだった

その為、準備にも力が入る

 

国民達も嬉しそうだ

 

そうこうしている内に、海宴祭(シーヴァーハ)は数日前に迫っていた

我ながら、発案より1週間でよくもまぁここまで出来たものだと感心する程の急ピッチだった

 

「そうですか、分かりました。では、そちらはそれでお願いします」

 

「おう!じゃぁ、スパルトスにも言っておくぜ」

 

そう言って、海と海へ続く道の整備完了の報告に来ていたシャルルカンが政務室を出て行く

ジャーファルは、はーと溜息を洩らしながら、上がって来た報告書を眺めた

これなら、問題なさそうだ

 

ヤムライハからも異常無しとの報告を受けているし

後は……

 

と、その時だった

突然、コンコンとと政務室の扉をノックする音が聴こえてきた

 

「はい、どうぞ」

 

ジャーファルが声を掛けると、シンドバッドに付いていた筈のマスルールが現れた

もしもの為に、シンドバッドとエリスティアの身辺警護を任していたマスルールが一人で来るなど…

まさか、何かあったのではと嫌な予感が浮かぶ

 

マスルールは政務室に入って来るなり開口一番に

 

「ジャーファルさんすみません……」

 

その言葉で、全てを察したのかジャーファルが、はぁぁぁ~~~~~と重い溜息を付いた

 

「まさかとは思いますが……」

 

嫌な予感が、ひしひしと伝わってくる

 

「はい、シンさんとエリスが消えました」

 

わなわなとジャーファルが震えだす

あの人は……!!

 

「ふ、ふふふふ…この忙し時にエスケープですか……っ!!」

 

最早、怒りしか浮かんでこない

シンドバッドだけならいざ知らず、エリスティアまで消えたとなると

間違いなく、シンドバッドに強制的に連行されたの間違いなし!!

 

「マスルール!直ぐにドラコーン殿とヒナホホ殿に連絡を!総動員で探して下さい!!」

 

と、ジャーファルにしてはいつもの倍…いや、3倍近くのご立腹

最早、誰にも止められそうになかった

流石のマスルールも…「…っす」と頷くしか出来なかったのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいのかしら……」

 

エリスティアは、ぼんやり岩場に座ったままそう呟いた

 

「んー?何がだ!」

 

目の前で楽しそうに海と戯れているシンドバッドが振り返る

言わなくとも分かっているであろうに…

あえて、それを聞く辺り やはり大物なのかもしれない

 

「だから、お仕事。 私達今、サボっているのよ?」

 

「違うぞ、エリス!」

 

何故か、全否定された

シンドバッドが海から上がって来てエリスの横に座る

 

「サボっているんじゃない。休憩しているんだ」

 

「休憩なら、マスルールくんに居場所言うべきじゃない?」

 

はっきり言って、無断で来ている時点でアウトである

だが、当のシンドバッドは気にした様子もなく

 

「仕方ないだろう? 最近は忙しくてエリスと二人っきりの時間もあまり取れなかったからな」

 

「それは――――そうだけれど……」

 

シンドバッドの言いたい事も分かる

海宴祭(シーヴァーハ)が決まってからずっと、バタバタしていた

エリスティアも、シンドバッドばかりに構っている訳にもいかず、あちらこちらへと駆り出されていた

 

だが、それもこれも

 

「シンが、海宴祭(シーヴァーハ)やるって言ったのが原因でしょう? 仕方ないじゃない。 それに―――その、夜はいつも一緒にいたでしょう?」

 

現に昨夜だって、一緒に居た

それだけじゃ、駄目なのだろうか……

 

その時だった、不意にシンドバッドの手が伸びてきたかと思うと、ぐいっと抱き寄せられた

 

「ちょっと……」

 

流石に、急だった為心の準備が出来てない

瞬間的に、頬が熱くなるのが分かった

慌てて離れようとするが、がっちり掴まれてびくともしない

 

だが、そのままシンドバッドはエリスティアの肩に顔を埋めるとゆっくりとその琥珀の瞳と閉じた

 

「シン……?」

 

少し様子のおかしいシンドバッドに、エリスティアが心配そうに覗き込む

すると、ぎゅっとそのまま抱きしめられ

 

「補充」

 

「………………」

 

何の補充なの?と、問いたくなるのを飲みこみ、エリスティアは少し諦めにも似た溜息を洩らした

そして、ゆっくりとシンドバッドの背に腕を回すと

 

「仕方ないですね、我が王は……少しだけですよ?」

 

そう言って、抱きしめ返した

エリスティアの反応が嬉しくて、シンドバッドは顔を綻ばせると、そのまま「エリス…」と愛おしそうにエリスティアの名を紡いだ

それが何だか気恥ずかしくて、エリスティアが微かに頬を赤く染める

 

「もう…シンの甘えん坊」

 

そう憎まれ口を叩いてしまうが、実際シンドバッドはここまで頑張っていた

そのご褒美だと思えば、少しぐらいいいのではないかとさえ思ってしまうのは惚れた弱みとういやつだろうか

 

エリスティアは、目の前に広がる海岸線を眺めた

何処までも続くその先にはなにがあるのだろうか

 

ザザーンと波打つ音が、酷く心地よいものに聴こえる

もしかしたら波の音は癒しの効果があるのかもしれない

 

だからだろうか……

酷く疲れた時や、朝などシンドバッドがここを息抜きの場所として使うのは

 

考え過ぎかしら

 

もともと、船乗りだって言っていたし…海が単に好きなのかもしれないわ

 

初めて出逢った第一の迷宮・バアル

それは、今は弱体化したパルテビアにあった

シンドバッドの生まれ故郷だ

その国で生まれたシンドバッドは船乗りをしていたという

 

きっと、海を見ると思い出すのかもしれない

亡くなった母や父の事を

だから、シンドリアを南海の孤島に建てたのだろうか…

 

きっと、泳ぎも上手なんでしょうね

 

そう思うと、思わずくすりと笑みが浮かんだ

不意に笑い出したエリスティアに気付き、シンドバッドが顔を上げる

 

「なんだ? どうかしたのか、エリス」

 

シンドバッドの問いに、エリスティアは小さく首を振った

 

「何でもないわ。ただ、シンは泳ぎが上手だろうなぁって…」

 

「んーそうだな。マスルール程じゃないが得意だと思うぞ?だが、ヒナホホには負けるな」

 

はっはっは、と笑いながら言うが、まぁそれは致し方ない

ヒナホホはイムチャックの出身でイムチャックの民族は狩りが得意な部族だ

勿論、海にも精通している

あれは、別格と言っていいかもしれない

 

マスルールはファナリスなので、あの強靭な脚力でどこまで泳いで行けるのだ

あの2人は、飛びぬけてそういった面には強かった

 

だが、シンドバッドは違う

そういうのを抜きにして上手いと思う

 

その時だった、シンドバッドが飛んでもない事を言いだした

 

「そうだ、エリスも海に入ってみないか?」

 

「え……」

 

瞬間的に、エリスティアの顔が引き攣る

と、同時に思いっきり首を左右に振った

 

「遠慮します」

 

きっぱりそう断った

筈…なのだが

 

「よし、決まりだな!」

 

と、勝手に決定されてしまった

ぎょっとしたのはエリスティアだ

生まれてこのかた、海など一度たりとも入った事など無い

 

エリスティアは全力で否定する様に、首を思いっきり振る

 

「無理! 無理だから!」

 

あまりにも全力で否定して来るので何かピーンと来るものがあったのか、シンドバッドはにやりと笑みを浮かべて

 

「エリス、さては泳げないな?」

 

ぎくり……

 

一瞬にして、エリスティアの顔が引き攣った

だが、それを誤魔化す様に慌てて弁解する

 

「お、泳げないとかじゃないわ! ただ、海なんて入った事一度も―――」

 

「それはいかん」

 

突然、シンドバッドに遮られた

と、思った瞬間、突然ひょいっと横抱きに抱き上げられた

 

「シ、シン!?」

 

ぎょっとしたのは、他ならぬエリスティアだ

いきなり抱きあげられる意味が分からない

 

海宴祭(シーヴァーハ)では、皆で海に入るんだ。今から練習しよう」

 

「……え!?」

 

ぎょっとしたのもつかの間、シンドバッドはエリスティアを抱き上げたまま海の方へと歩き出した

 

「ちょっ…ちょっとシン! 服濡れるし―また今度で―――シン!!」

 

なんとか回避しようと叫ぶが、シンドバッドはどんどん海に近づいて行く

そして、ついに目の前にまで迫っていた

 

エリスティアは、ごくりと息を飲み、シンドバッドにしがみ付いた

すると、シンドバッドは嬉しそうに笑みを浮かべながら

 

「よし、入るぞ」

そういって、ザブザブと音を立てながらドンドン海へ入っていく

シンドバッドの腰のあたりまで来た時点で、その動きを止めた

 

チャプチャプと波の音が間近で聴こえる

エリスティアはそろりと下を見た

直ぐ真下に海面がある

 

ごくりと…音が出るぐらい、息を飲んだ

と、その時だった

 

「この辺りでいいか―――」

 

「―――――え」

 

その瞬間、それは起こった

突然、シンドバッドが手を離したのだ

 

「きゃあああ!!」

 

突然手を離されて、驚いたのは勿論エリスティアである

急に無くなった支えは、エリスティアを真っ逆さまに海へ突き落とした

 

「いやあああ!!!」

 

落ちる寸前、エリスティアは必死にシンドバッドにしがみ付いた

首に思いっきり手を伸ばすが、バシャン!!という音と共に、身体が海へ落ちてしまう

どうしていいのか分からず、エリスティアはぎゅうっと思いっきりシンドバッドにしがみ付いていた

 

その様子を見ていた、シンドバッドが突然笑い出した

 

「笑い事じゃぁ―――――!!!」

 

抗議しようとした時だった

ふわりと身体が宙に浮いたかと思うと、そのまま抱き上げられた

 

なんとか海から脱出したものの、生きた心地がしなかった

 

エリスティアは、ガタガタと震えながらそれでもシンドバッドに伸ばした手は放さなかった

思いっきり、首にしがみ付く

 

「そんなに怖いか?」

 

「……………っ」

 

“怖い”というのが悔しくて、エリスティアはキッとシンドバッドを睨みつけた

そのアクアマリンの目には薄っすら涙すら浮かんでいた

 

それを見たシンドバッドは、ふわりと優しく笑みを作り、その瞳に口付けを落とした

 

「シン……っ、シン……っ」

 

情けない位、弱々しいエリスティアの声に、シンドバッドはぽんぽんと抱きついてくるエリスティアの背を撫でる

 

「そんなに怖がるとは思わなかったんだ、悪かった」

 

そう言って、もう一度優しく髪に口付けを落とす

すると、ようやくエリスティアが顔を上げた

 

「やっとこっち見たな」

 

そっと彼女の頬に触れ、前に流れていた髪を避けてやる

 

「シンの馬鹿……」

 

本当に今にも泣きそうなエリスティアに、シンドバッドは自身の額を彼女に額に こつんっと当てた

 

「悪かった」

 

「本当に思っているの?」

 

涙ぐみそうになりながらそういう彼女に、シンドバッドは微笑んだ

 

「思ってるさ、だから泣くな」

 

「な、泣いてなんて……」

 

そう言う先から、ついにぽろりと涙が零れた

シンドバッドは優しく指でそれを脱ぐってやると、そのまま彼女の頬に触れた

 

涙を拭いてもらった事と、泣いてしまった事が恥ずかしかったのか、エリスティアの頬が微かに桜色に染まる

 

「シ……」

 

“シン”と呼ぼうとして、それはシンドバッドの唇によって塞がれた

 

「ん………っ」

 

突然のキスに戸惑いながらも、エリスティアは、ぎゅっとシンドバッドに回した手に力を込めた

 

「シ……ン……っ、ぁ…ん……」

 

最初は軽かったキスが、どんどん深くなることに付いて行けず、知らず声が漏れた

 

「エリス……」

 

シンドバッドの名を呼ばれるだけで、頭がとろけそうになる

眩暈を興しそうなほど、くらくらしてきて酔ってしまいそうだ

 

不思議だった

シンドバッドとは何度もキスを交わしているのに、未だにこうしてどきどきと心臓が止まらない

心臓だけじゃない、喉元から指の先まで全身で彼を感じている

 

触れられるたびに、幸せが込み上げてきて

熱を帯びた箇所が、酷く熱く感じる

 

ああ、やっぱりこの人を愛している

この人の為に、私はここにいる――――……

 

ようやく離された唇を、名残惜しそうに見つめる彼女に、シンドバッドは優しげに微笑んだ

 

「馬鹿、そんな顔で見るな。押さえられなくなるだろう? 続きはまだ今夜な」

 

そういって、もう一度軽くキスを落とす

ぴくりと微かにエリスティアが反応して、ほのかに頬を朱色に染めた

 

「もう……何言って……」

 

そう言って、シンドバッドを睨んだ

その様子が可笑しかったのか、シンドバッドが笑い出した

 

「だが、今度の海宴祭(シーヴァーハ)は、楽しみにしている! お前の水着姿をな!!」

 

ん……?

今、この男は何と言った…?

 

水着……?

 

「………着ないわよ?」

 

着る予定など、まったくもってなかった

いつもの恰好で出るつもりだったのだが…

 

それはシンドバッドによって一刀両断にされる

 

「駄目だ、これは命令だぞ? それが一番の楽しみなんだからな!」

 

「いや…だから」

 

「俺としては、やっぱりビキニだな! 色は…そうだな、白なんてどうだ?」

 

「お願い、聞いて」

 

「お前の髪に似合う、薄桜色が混じっててもいいなぁ~」

 

「あの……」

 

シンドバッドは決め手に極上の笑みを浮かべると、そっとエリスティアの耳元に唇を当て

 

「待ってるからな」

 

そう言って微笑んだのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

その後――――

びしょ濡れで城に戻った2人が、般若の顔をしたジャーファルにこっぴどく叱られたのは言うまでもない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海宴祭、準備中ー

という名の、たんなるいちゃいちゃしてるだけですww

 

本編で殆ど関われてないので、こっちではまぁいいか…という感じでww

 

2013/09/12