CRYSTAL GATE

  -The Another Side 紅-

 

 

 黄昏の乙女 4

 

 

朝早く

紅炎は村から外れた一軒の家の近くに来ていた

 

報告を聞いた時は、疑ったが

実際目の当たりにして、それが真実なのだと認めるしかなかった

 

ここまで来る道中、幾人もからエリスティアの噂話を聞いた

村人が口を揃えていうのは

 

「あの外れた家に、見た事も無い綺麗な女が最近いる」

 

という話だ

それが、エリスティアだという事は直ぐに分かった

だが、誰もその家には近づかないのだと言った

 

一瞬、何故?

という疑問が浮かぶが、それは直ぐに解決した

 

なんでも、その家には病を抱えた女がいるというのだ

しかもその病はうつるらしく、村人は皆その家を遠巻きに見ているのだという

 

紅炎がその家へ行くというと、皆してやめた方がいいと口を揃えて言った

だが、紅炎は知っていた

その病がうつるというのは、迷信だというのを

 

実際は、病名を聞けばすぐに分かった

少し知識のあるものなら分かる事だ

 

だが、それだけでこの付近には“医者”と呼べるものが居ないのだと直ぐに理解した

だから、エリスティアは桔梗を採っていたのだ

 

桔梗は、強い薬効を持つ生薬として利用される事が多い

しかし、強い毒素も持つので長期間での服用はよくない生薬だ

 

エリスティアは桔梗以外も取っていた

恐らく、桔梗は必要最低限に抑えているのだろう

 

ふと、目の前の家から若い女が出てきた

桶を持った少女は、水を汲みに井戸に向かおうとしていた

 

この家の住人だろうか

そういえば、村人が言っていた

 

あの家には、若い娘と病気の母親がいるのだと

あの娘が、その若い娘なのだろう

 

話し掛けてみるか…

 

紅炎は、馬を降りるとその娘に近づいた

 

「少しいいか」

 

「え!?」

 

いきなり話かけられて、その少女はびくっと肩を震わせた

が、次の瞬間 話し掛けてきたのが紅炎と気付くなりぎょっとして慌てて平伏してきた

 

「………………」

 

もう、平伏される事に慣れてしまった

自分に頭を下げる少女を見ても何も感じなかった

 

紅炎は小さく息を吐くと

 

「娘、あの家にエリスティアという者がいないか?」

 

突然聞かれたその名に、少女が「え?」と声を洩らす

その大きな目を瞬きさせながら

 

「エリス…ですか……?」

 

不思議そうにそう尋ねる少女に、紅炎は核心した

やはり、エリスティアはあの家にいるのだ

 

「娘、案内しろ」

 

「は、はい!」

 

少女は慌てて立ち上がると、バタバタと家の中に入って行った

紅炎は、少し考えた後その少女の後に続く事にした

 

少女の家は紅炎には信じられないぐらい、小さな家だった

家具も敷物も、ずっと使い古された物ばかりだ

 

エリスティアは、こんな所に世話になっているのか…

とさえ思ってしまった

 

その時だった、ふと扉の向こうからエリスティアの声が聴こえてきた

自然と口元に笑みが浮かぶ

 

紅炎は、そのままその部屋の扉を開けた

 

「エリス」

 

そう愛おしいものを呼ぶ様に声を掛けると

ぎょっとしたエリスティアの表情が視界に入った

 

「こ……紅炎さん!?」

 

驚いたエリスティアの手元には、袋に包まれた薬が用意してあった

どうやら、薬の調合をしていたようだ

 

だが、それもどうやら終わっているのだと思った瞬間、早くエリスティアに触れたくなった

触れて彼女を感じたい

 

紅炎は、傍にいた娘を無視する様にエリスティアの前に歩み寄ると、優しげに微笑みながら

 

「迎えに来た」

 

「え……? 迎えって……」

 

一瞬、何の? という風にエリスティアが首を傾げる

だが、紅炎はさも当然の様に

 

「…………? 今日も、桔梗を採りに行くのだろう?」

 

「え? え、ええ…行くけれど……」

 

紅炎がここにいるのが分からないという風に、エリスティアはその大きなアクアマリンの瞳を瞬かせた

 

「あの…どうして、紅炎さんがここに……?」

 

その言葉で、エリスティアが言いたい事が紅炎には直ぐに分かった

紅炎はその柘榴石の瞳を一度だけ瞬かせると、「ああ…」と声を洩らした

 

「………調べれば直ぐに分かった。エリス、お前は存外目立っている様だぞ。そこら中噂の中心だった」

 

「え……そう、なの?」

 

紅炎の言葉が予想外だったのか

思わずエリスティアが隣にいる少女を見る

すると、少女は少しだけ困った様に苦笑いを浮かべて

 

「あーうん…エリス、綺麗だし…異国の人じゃない?それで色々目立つみたいで――――」

 

少女の言葉に、エリスティアが恥ずかしそうに頬を赤らめる

そんな姿の彼女が可愛らしく思えて、紅炎はその口元に微かに笑みを浮かべた

 

そう思った瞬間、早く彼女に触れたくなった

 

紅炎はその手を頬を赤らめているエリスティアに伸ばすと、そのままぐいっと腰を引き寄せた

 

「ちょっ……紅炎さ―――っ!」

 

ぎょっとした、エリスティアが抵抗しようとした時

紅炎は、さも当然の様に

 

「炎と呼べと言っただろう」

 

紅炎のその言葉に、エリスティアが更に顔を赤く染める

 

「いえ、あの……だから、それは―――」

 

エリスティアが顔を真っ赤にして紅炎を押しのけようとしてくるが、紅炎は離す気はさらさらなかった

腰をがっちり掴み、エリスティアを更に抱き寄せる

 

紅炎は、そのまま顔を近づけると

 

「“炎”だ」

 

「紅炎さん……っ」

 

エリスティアがますます顔を赤らめる

きっと恥ずかしいのだ

だが、紅炎は止める気はなかった

 

恥ずかしそうにしているエリスティアも、紅炎にとっては愛おしくてたまらなかった

もっともっと、エリスティアの色々な顔がみたい

その表情を自分が引き出しているのだという事が、またたまらなく高揚感に浸ってくる

 

「エリス、炎と呼べ」

 

「………………っ」

 

最後の念押しだった

 

エリスティアが、口をぱくぱくさせて今までにない位顔を真っ赤にする

エリスティアは、観念した様にゆっくりと口を開くと

 

「え……炎……」

 

ようやく、その言葉を口にした

その言葉に満足する様に、紅炎はふわりと優しく微笑んだ

 

やっと、彼女の口から聴けた

今までにない位の嬉しさが込み上げてくる

 

こんな高揚感、戦の時でも感じたことがない

やはり、エリスティアは他の女とは違うのだ

 

紅炎はぐいっとそのままエリスティアを抱き上げると、自身の乗って来た馬に乗せた

 

「え……!? ちょっ……」

 

エリスティアが抗議しようとするよりも早く、自身もその馬にまたがると

 

「娘! エリスを借りるぞ」

 

「は…はい……」

 

顔を真っ赤にして ぽかんとしていた少女は、その言葉にただただ頷いていた

 

「ちょっとあの、紅炎さん…!!」

 

戸惑った様にエリスティアが声を上げる

だが、紅炎はその声を聞き流すと大きく手綱を引っ張った

愛馬の炎隷が大きく嘶くと、そのまま一気に加速し始めた

 

「ちょっ……ちょっと、紅炎さ―――」

 

「炎だと言っているだろう」

 

エリスティアを乗せた馬は、失速すらせずにそのまま走り続けていた

まるで拉致る様にエリスティアを攫った紅炎に抗議する様に、どんっと紅炎の胸を叩いてくる

が、その程度では紅炎はびくともしなかった

 

「もぅ―――!紅炎さんってば――――!!!」

 

「炎だ」

 

「~~~~~~~っ」

 

エリスティアが顔を真っ赤にして睨んでくる

それもそうだろう

 

殆ど抱きしめる形になっていて、きっと恥ずかしいのだろう

だが、それと同時に恐らく疾走する馬が恐いのか、抗議しつつも紅炎にしがみ付いている

その姿が、またたまらなく可愛らしいく思えて紅炎は また新たな一面を見たと嬉しくなった

 

「炎、炎……っ!お願い、止め――――」

 

すると、観念したようにエリスティアがやっと「炎」と呼んできた

 

もう少しこのまま見ていたいとも思っていたが、エリスティアからの初めての「お願い」だ

聞き届けない訳にはいかない

 

紅炎は、馬の手綱をひくと速度を落とした

そのまま、ゆっくりした歩調に変える

 

失速した事に、ほっとエリスティアが胸を撫で下ろした時だった

ふと、乱れた彼女の美しい髪が気になった

 

乱れて当然だろう

かなり速度をだしていたのだ、彼女の長くて美しい髪が揺れる様はとても綺麗だったが

やはり、整っている方がもっと美しい

 

紅炎はゆっくりとエリスティアのストロベリーブロンドの髪に触れた

そして、乱れた髪を直すかのように優しく撫でる

 

「あ、あの……?」

 

突然の反応にエリスティアが困惑した様にそっと顔を上げてきた

その仕草が愛らしくて、紅炎の表情が自然と柔らかくなる

 

「どうした?エリス」

 

「………………っ」

 

瞬間、エリスティアは、思わず息を飲んだ

突然微笑んだ紅炎に驚く様にその大きなアクアマリンの瞳を見開いた

 

次第に、エリスティアの頬が高陽していくのが分かった

自分が見つめられただけで赤くなっている事が恥ずかしくなったのか、エリスティアが思わず顔を押さえて視線を反らす

 

その反応に、紅炎がくすりと笑みを浮かべた

 

「どうした?」

 

そう言って、するりと自然な動作でエリスティアの顎をなぞる様に触れると、そのまま上を向かせる

 

「あ………」

 

微かに、彼女の愛らしい声が洩れた

 

「何故、視線を反らす」

 

「そ、れは――――」

 

エリスティアが口籠った

 

分かっていて、こう聞く自分は随分と意地悪になったものだと自分でも思った

だが、その反応がたまらなく愛おしく感じた

 

きっと恥ずかしいのだ

紅炎の言動や行動が、エリスティアにとっては恥ずかしくてたまらないのだろう

 

そう思わせている事が、逆に紅炎の嗜虐心を煽ったのか微かにその口元に笑みが浮かんだ

もっと、そう思わせたい――――

 

そう思う己がいる事に、気付くのに時間は掛からなかった

もっと、彼女の色々な顔が見たい

 

自分の行動が、彼女を一喜一憂させている事が、たまらなく嬉しかった

 

「エリス」

 

彼女の耳元で優しく囁く

瞬間、エリスティアが肩をぴくっと揺らした

 

だが、紅炎はそんなエリスティアに構う事なく、くいっと彼女の腰を引き寄せた

 

「あ………」

 

不意に腰を抱き寄せられ、また彼女がびくりと肩を震わせた

 

「あ、あの…炎……っ」

溜まらず、エリスティアが声を発してくるが紅炎は止めなかった

そのまま彼女を胸に掻き抱くと、ゆっくりとそのまま顔を近づける

 

「どうした? 何故黙る。はっきり言わねば何も伝わらぬぞ?」

 

「………………っ」

 

目の前にある紅炎の顔を直視出来きないのか、エリスティアがぎゅっとそのアクアマリンの瞳を瞑った

そして、今にも口付けが出来るんじゃないかという位、間近に迫った紅炎の気配に、小さく抵抗の様に首を振ってくる

 

小さな消えそうな声で「お願い……これ以上は……」と呟くが、紅炎にはまるで通じなかった

むしろ、その行為は紅炎を更に煽った

紅炎はその口元に笑みを浮かべると

 

「仕方ない…ならば、このまま俺の部屋に連れて行くか……女を吐かすには閨が一番早いからな」

 

「……………っ!」

 

冗談交じりにそう言うと、流石のエリスティアもその言葉にはぎょっとしたのか慌てて抵抗の意思を見せてきた

 

「な……っ、何言って―――――」

 

慌てて抗議してくるエリスティアの反応が新鮮だった

今までの女たちは、我こそはという風に紅炎に言い寄って来ていた

半分呆れつつも、閨へ誘えば喜んでいた

 

だが、彼女は―――エリスティアは違う

それを喜ぶ所か、抗議してきた

 

その反応が紅炎には新鮮過ぎて、くっと笑いが込み上げてきた

 

「くくっ……ははははは!」

 

その反応でからかわれていたのだと分かりエリスティアが、かぁーと顔を真っ赤にさせる

 

「もぉ! 炎の馬鹿!! からかうなんて酷いわ!!」

 

腹ただしそうに叩いてくるエリスティアの反応がまた新鮮で、紅炎はくつくつと笑いながら

 

「いや? 半分は本気だがな」

 

彼女は他の女とは違う

彼女を―――エリスティアを抱きたい

 

そう思うのは、自然な事だった

 

こんなにも、触れたくて触れたくて仕方ない女は初めてだった

 

だが、エリスティアが尚も顔を赤く染め ぷいっとそっぽを向いた

 

「だったら、なお悪いです!」

 

そう言って むすっとするエリスティアが、何故かたまらなく可愛らしく思えて仕方なかった

 

今まで紅炎の周りにいたどの女達とも違う反応

 

きっと彼女は知らないだろう

その反応が逆に紅炎の興味を惹いていたのだという事に

 

彼女が欲しい

エリスティアが、たまらなく欲しい

 

この手に、抱きたい

他の女などに興味はない

 

 

エリスティアだけが…彼女だけが欲しかった―――――………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

殆ど、本編と一緒になってしまったよww

仕方ない…この辺は、仕方ない

 

次回はきっと、眷属の定期報告会があるんじゃね?(笑) 

 

2014/02/21