紅蓮の炎 揺れる鳥籠
~夢幻残宵~

 

 第1話 紅々莉姫 5

 

 

 

(前回のあらすじ)

 

茄子のワンセグから逃げ出したという、“悪霊 サダコ”

この“サダコ”が、伽耶の知る映画の人物かは別として

どうやら、地獄ここは、“亡者・サダコ”がいたようだ・・・・・・

 

で、あっさり最新のブルーレイ内蔵の62型4Dのテレビに誘き出されて、あえなく御用となったのだが・・・・・・

 

それだけでは、サダコは諦めなかった

事もあろうことに、伽耶に攻撃を仕掛けてきたのだった

が――――――・・・・・・

 

突如現れた、勇者・シロによりあえなく撃沈(もとい噛まれて)したのだった

 

 

 

 

――――――で

 

 

ずるずると、獄卒に連れていかれるサダコを遠目に、伽耶の目の前では鬼灯とシロが和気あいあいとしていた

 

「よくやりましたよ、シロさん。 B級ホラー洋画の狼男みたいで素敵な登場でした」

 

「はいっ! 鬼灯様!」

 

と、褒めているのか、貶しているのかよく分からない鬼灯からのお褒めの言葉と、頭なでなでに、シロが嬉しそうに尻尾を千切れんばかりに振る

 

え・・・・・・?

それでいいの・・・・・・?

 

と、思わず突っ込みそうになるが、あえて黙っておく

だが、それを見逃す鬼灯ではなかった

 

「伽耶? 言いたい事があるのなら、はっきりと―――――」

 

「あ、え、えっと・・・・・・、シロちゃん! 不喜処地獄には、もう慣れた?」

 

と、とっさに、話を挿げ替えようとするが・・・・・・

 

「伽耶・・・・・・」

 

ぬうっと、シロの頭にあったはずの鬼灯の手が伸びてきたかと思うと、ぐわしっと伽耶の頭を鷲掴みにされた

 

「あの、ちょっ・・・・・・鬼灯さ――――、って! 痛い痛い痛いいいいい!!!」

 

ギリギリとこめかみを締め上げられる

 

「なにするのですかぁ!!」

 

伽耶が、思わずその手から逃れようと、払おうとするが――――

そんな事で、鬼灯の手から逃れられる訳でもなく・・・・・・

 

今度は、後ろから首に腕を廻された

 

「くぅ・・・・・・っ」

 

これでは、身動きが取れない

 

「伽耶、人間 素直になった方が身の為ですよ? あ、私は人間じゃありませんけどね」

 

「いや、あの、私はただ・・・・・・」

 

「“ただ”、なんですか?」

 

徐々に後ろから迫ってくる鬼灯から視線を逸らすように

 

「だから、その・・・・・・B級ホラーの狼男って、ダサ・・・・・・「うん?」

 

 

 

 

「―――――ナンデモアリマセン」

 

 

 

身の危険を悟ったのか

伽耶が、さっと口を閉じる

 

だが、それで引き下がる鬼灯ではなかた

 

「伽耶・・・・・・」

 

突然、優しく微笑んだ

 

え・・・・・・?

 

まさかの、鬼灯の反応に一瞬どきっとするが、それは気の迷いだとすぐに悟った

笑顔が逆に怖い!!!!!!

 

「貴女は、自分の立場という物を―――――」

 

「わ・・・・分かっています!! なので、ご安心を!!」

 

自分で最早何を言っているのか分からない

だが、それで鬼灯に通じたのか・・・・・・、すっと片手に持っていた金棒が降ろされる

 

あれで殴る気だったのかと思うと、ぞっとする

流石、この地獄で逆らってはいけない鬼、No.1

 

あんなので、殴られたら生者の伽耶など死んでしまう

 

私は鬼灯様の下僕下僕下僕・・・・・・

と、心の中で100回唱える

 

 

そんな事をしている間に、シロが鬼灯におねだりしていた

 

「ねーねー、鬼灯様~~、これ、なぁに?」

 

そう言って、シロが指した方向には、この場(地獄)には似つかわしくない

しかし、伽耶には大変懐かしいシロモノがあった

 

飲料水の自動販売機である

 

前々から、気になっていたのだ

あの自動販売機は・・・・・何なのかと

何故、こんな所にあるのか・・・・・・全くもって謎である

 

すると、鬼灯が小銭を入れてボタンを押していた

ガコン! という音と共に、つぶつぶブドウの缶ジュースが出てくる

 

あ・・・・お金は入れないと駄目なのか・・・・・・

 

などど、呑気に考えていた時だった

 

「伽耶」

 

不意に、呼ばれる

伽耶が顔を上げると、自動販売機の横にある椅子に腰かけた鬼灯が手招いていた

シロも椅子の上に座って、買ってもらったのか・・・・つぶつぶブドウの缶ジュースを上手い具合に加えて んぐんぐと飲んでいる

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

伽耶は小さく息を吐くと、鬼灯達の方へと歩いて行った

傍まで行くと、鬼灯から缶コーヒーを渡される

 

「あ・・・・・・」

 

てっきり、つぶつぶブドウの缶ジュースを差し出されるかと思って“覚悟”していたのだが・・・・・・

不覚にも、差し出されたものが“缶コーヒー”で、思わずほっとしてしまう

 

「・・・・・・? どうしました? 伽耶」

 

「あ、いえ・・・・・・」

 

実の所、粒の入ったジュースは苦手だった

鬼灯は好んで飲むようだが、伽耶はどちらかというとジュースよりも紅茶やコーヒーの方が多かった

まぁ、別にジュースが飲めない訳ではないのだが・・・・・・

 

それを知ってか知らずか、鬼灯が渡してきたのは、“缶コーヒー”だったのだ

 

だから、憎めないのよね・・・・・・

 

こういうさりげない気遣いをされると、嫌いたくとも嫌いになれない

最初の頃、あんな仕打ち・・・・・・を受けたのに、だ

 

そう――――

全ては、あの赤い月の日に始まった

 

あの日の夜の事は、忘れたくとも忘れられない

あの夜は、不気味な赤い満月が昇っていた

今思えば、あれは“あの世”と“この世”が繋がっている印・・・・・・・だったのかもしれない

 

―――地球が太陽と月の間に入り、地球の影が月に全てにかかることによって月が異なって・・・・見える皆既月蝕

 

フランスの天文学者アンドレ・ダンジョンが20世紀初頃に、月蝕の明るさを分類するために独自に尺度を決めた

一般的に「ダンジョン・スケール」とも呼ばれるものである

 

尺度は0から4段階に分かれて分類される

本来、尺度が4の場合、月の縁は青みがかって非常に明るい

逆に、尺度が0の場合、暗い月蝕で月面の中心は見えない

 

そして――――――

尺度が2の場合――――月の中心はとても暗く、周辺部はやや明るく

暗い赤もしくは、赤錆色の月蝕になるのだ

 

それは、不気味で血の様な赤だという―――――・・・・・・

 

だんだんと欠けていった月は皆既食になると赤銅色に見え、そのミステリアスな雰囲気も人気となる天体ショーだと言われているが・・・・・・

その夜の皆既月蝕は違っていた

 

もっと、不気味で

何か“よくない事”が起きそうな――――

そんな夜だった

 

伽耶は、何故か「その月を見てはいけない」気がした

見れば、何かが変わってしまう――――

そんな気がして、空を見上げないようにしながらバイト先から自宅に急いだ

 

そう―――――そのはずだった

 

 

 

キィ・・・・・・

 

 

 

その鳴き声が聴こえるまでは―――――・・・・・・

 

「え・・・・・・?」

 

一瞬、この世の生き物ではない「なにか」の鳴き声が聞こえた様な気がした

どくん・・・・・・と、心臓が嫌な音を立てる

 

後ろに、何か・・・・・・

 

 

 

ミ・・・・・・ツケ、タ・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「――――――――っ!!!?」

 

 

その後の事は、よく覚えていない

気が付いたら、彼岸花の咲く大きな赤い河のほとりにいた

 

「・・・え・・・・・・?」

 

な、に、ここ・・・・・・

 

見たことのない風景

空は薄暗く、空気は淀んでいて、立っているだけで、頭がくらくらしてくる

自分の身に、何が起きたのか

 

理解できるわけがなかった

 

確かに、自宅に向かって帰っていた筈だ

そう――――帰って・・・・・・

 

 

・・・・・・生者、ダ・・・・・・・・・・

 

 

からん・・・・という音と共に、「なにか」の声が聴こえた 気がした

どくん・・・・・・と、心臓が鳴り響いた

振り返ってはいけないと、伽耶の中の「なにか」が「警告」する

 

なのに―――――・・・・・・

 

身体が・・・・、かって、に・・・・・・・・・・・・

 

振り返りたくもないのに、身体が言う事を利かない

そして、視界に入ってきたのは―――――人、成らざるモノ――――・・・・・・

 

 

 

「いっ・・・・・・」

 

 

 

無数の・・・・・・黒い・・・・バケモノ・・・・・・・・・・

 

言われなくても瞬時に伽耶の中の「なにか」が、囁く

アレは――――“生者ではない”と

 

いや、死人でもない

もっと、別の・・・・・・

 

にげ、なくて、は・・・・・・

 

そう思うのに、足が動かない

からん・・・・・・と、何かが足に当たった

恐る恐るそれを見ると、それは――――――

 

 

 

 

「――――――――っ!!!」

 

 

 

 

声にならない、悲鳴が上がる

そこには、無薄の人骨があったからだ

いや、そこだけではない

この場、全て人骨の山で出来ていたのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後の事はよく覚えていない

誰かが来たような、気がしたが・・・・・・

 

次に意識を取り戻した時は、ベッドの上だった

でも、それはいつも使っている伽耶の部屋のベッドではなかった

 

一体、何が起きて、自分は何処にいるのか

ここは一体どこで、どのくらい時間が経ったのか

 

ぼんやりとそんな事を考えていると、扉をノックする音が聴こえた

 

「・・・・・・?」

 

誰か来たのか

だが、開けに行くにも億劫だった

身体が重い、それに、喉がジンジンと痛む

 

まるで、得体の知れない「なにか」を飲まされたような

不快な気分だ

 

つと、顔を上げると、部屋の扉が開けられた

入ってきたのは、小さなうさぎだった

 

思わず、呆気に取られて伽耶がその瞳を瞬かせる

だが、おかしい

このうさぎ・・・・・・二足歩行をしている

しかも背中に何やら槌の様な物を背負っている

 

そのうさぎは、すたすたと二本足で伽耶の元までやってくると、「よっこらせっと」と言いながら、伽耶のベッドに登ってきて、ちょこんと目の前に座ってきた

 

「きがつきましたか? わたしは芥子と言います、以後お見知りおきを」

 

そう言って、伽耶の方に手を伸ばしてきた

べちっと小さな手が伽耶の額に当てられる

 

「うん、まだ熱が下がりきってないですね。 解熱剤を用意したので、これ飲んでください」

 

そう言って、うさぎ・・・・・もとい、芥子に差し出された器を受け取って中を見る

どっろどろの緑色の、明らかにヤバそうなモノだった

しかも、微妙にボコボコと泡を立てている

 

「あ、あの・・・・・・」

 

伽耶が、思い余って芥子と名乗るうさぎに話しかける

 

「あ、うさぎだとおもって、馬鹿にしてます? これでも、わたし毒を作るのは得意なんですよ?」

 

「・・・・・・えっと、そうではなく・・・・」

 

今、毒とか言ってなかったか?

これは、毒なのだろうか・・・・・・?

 

そう思って、手の中にある器を見る

未だにボコボコ泡が唸っている

 

どこから突っ込むべき?

なぜ、うさぎが二足方向で歩いている上に、人の言葉を話す事?

それとも、毒作りが得意だといううさぎが、飲む様に用意してきたのは、何かという事?

もしくは、ここは何処で、家に帰るにはどうしたらいいかって事?

 

なんだか、頭が混乱してきた

 

伽耶が思わず頭を押さえた時だった

芥子がぴょんっとやってきて

 

「あたまも痛いんですか? とりあえず、それ飲んで。 早く飲んで。 今すぐ飲んで」

 

「あ、いや、その・・・・・・」

 

 

 

「いいから飲め」

 

 

 

「・・・・・・はい」

 

芥子から、一瞬可愛らしい容姿とはかけ離れた殺意を感じ、伽耶は思い切ってそれを飲んだ

瞬間―――――

 

「・・・・・・げほっ! げほ、げほっ」

 

思いっきり咽た

 

な・・・・・なに、これっ!!

 

不味いとか、辛いとか、気持ち悪いとか、色々ミックスされた味が口の中に広がっていく

すると、芥子がちょこんっと首を傾げた後

 

「あ・・・・・・」

 

と、何か意味ありげに言葉を洩らした

 

今、「あ・・・・・・」って言った!!?

伽耶が慌てて芥子を見る

すると、芥子はちょこんと首を傾げた後、しれッとした顔で

 

「からし、入れすぎたかも?」

 

いや、普通 解熱剤に、からしは入りません!!!

と、突っ込みたいが、突っ込んだら色々と知ってはいけない事を知ってしまいそうで言うに言えない

 

「ちなみに原材料は、芥子味噌にハバネロとジョロキア・・・・・・それから~馬頭さんの蹄と、牛頭さんの角と~アジサイの葉、コルチカム、ヒメザゼンソウ・・・・・・あ、これ毒のレシピだった」

 

「え・・・・・・」

 

そういえば、なんか余計に気持ち悪く・・・・・・

視界が、揺れる

 

芥子が伽耶を見た後、「てへっ」と笑った

 

 

 

 

「てへっ」じゃないいいいいいいいいいいい!!!!!!!

 

 

 

 

 

私、しぬ、の・・・・・・?

 

こんな・・・・・・

こんな所で・・・・・・

 

しかも、薬の調合ミスで・・・・・・

 

 

 

そんな、の・・・・・・

 

 

 

    い、や・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

そのまま、伽耶の意識は

 

 

   深く、深く 沈んでいったのだった――――――――・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

超、久々の鬼灯www

ついに、明かされる夢主のここへ来た経緯

の途中でーす(*-∀-)ゞ

早速登場の芥子さん・・・・・・一人称がわかりません!!

「わたし」だったとは思うけど・・・・・・???? ぐらいwww(漢字かもしれん)

 

 

2021.12.26