紅蓮の炎 揺れる鳥籠
      ~夢幻残宵~

 

 第1話 紅々莉姫 6

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

ごりゅ、ごりゅ・・・・・・という不可解な音が耳に響いてくる

 

何の音・・・・・・? と、思うも怖くて目が開けられない

よくよく五感をフル活動させると、音以外に、謎の匂いもしていた

 

なんというか、こう・・・・・・

毒々しというか、鼻にツーンッと来ると言うか・・・・・・

 

そう―――つい最近嗅いだような・・・・・・

 

そこまで考えてはっと目を開けた

 

「うさぎ!!!!」

 

がばっと起き上がり、いるであろうあの二足歩行のうさぎを探す

が――――・・・・・・

 

「え・・・・・・」

 

先ほどまで、真っ白な病室の様なベッドの上だったのに―――――

今寝かされていたのは、薄暗い部屋に不気味な飾りが所狭しと並んでおり、

そして、大きな釜でなにか毒々しくボコボコいているものを巨大なヘラで回している男が一人

 

いた

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

な、なに、ここ・・・・・・

とてもじゃないが「天国」には見えない

むしろ――――・・・・・・

 

そこまで出かかった単語をぐっと呑み込む

 

これはきっと夢なのよね・・・・・・?

そうだ、きっと夢だ

 

だから、うさぎが二足歩行したり、変なものに襲われたり、骸骨の山に居たりしたのだわ

 

ああ、なんだ、そういうことね

 

と、伽耶は一人納得すると

ちゃんと起きる為に――――と、もう一度布団をかぶった

 

後ろの方で、ボコボコ釜の中が煮立つ音が聞こえるが

これが幻聴 これが幻聴

と、自分に言い聞かす

 

その時だった

 

「あ、鬼灯君! いたいた~~~!!」

 

と、やたら野太い大きな声が聞こえてきた

 

鬼灯・・・・・・???

 

初めて聞くその名に、伽耶が首を傾げそうになる

が、寝たふりをする事に決め込んだ

 

何やら先ほど声を掛けてきた野太い声の男と、鬼灯と呼ばれた男がニ・三言葉交わした後だった

突然 どしん、どしん、と、地響きのような足音・・・・・・と言っていいのか分からない音が近づいてくる

 

「も~~鬼灯君、部屋片づけなよ。 足の踏み場ないよ~?」

 

そう言いながら、声どんどん近くなってくる

伽耶は、ごくりと息を呑むと心の中で「早く目が覚めてっ!!」と祈った

 

その時だった

 

びゅん!!! という音と共に“何か”が飛んできた

思わず伽耶が肩をびくっと震わす

 

チラリと片目だけそっと開けると―――――

伽耶の頭上に金棒が びよん びよんと、音をたてながら壁に刺さっていた

 

「・・・・・・・・・っ」

 

少しずれていたら、自分の頭に直撃だった

ぞっとして、思わず叫び声を上げそうになるのを手で口を押さえて必死に耐える

 

すると、背後からあの野太い声が

 

「ほ、鬼灯君! 危ないよ!! 死んじゃうじゃないか!!」

 

と、必死に何かを訴えていたが―――――・・・・・・

背後に、何かの気配を感じて、伽耶がびくっとする

 

どくん、どくん・・・・と、徐々に心臓の音が酷くなる

後ろが・・・・・・怖い!!!

 

未だかつて味わった事のない、ただならぬオーラを感じる

 

「・・・・・・まだ、寝たふりをするのですか? 紅々莉 伽耶さん」

 

 

 

ぎくううううううう!!!!

 

 

 

名前をフルで当てられ、伽耶がびくりと肩を震わせた

何故だか、振り返ってはいけない気がした

 

あの時と同じだ――――・・・・・・

 

今ならば全て夢で終わらせられる!!!

でも、振り返ったら・・・・・・

 

知らず、冷や汗が流れ落ちた

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ」

 

背後にいるであろう声の持ち主が長~~~い溜息を付いた

 

「貴女は、命の恩人に礼も言えないのですか?」

 

「・・・・・・?」

 

命の恩人・・・・・・?

 

伽耶が何の事を指しているのか分からず、心の中で首を傾げる

すると、例の野太い声の男が口を開いた

 

「ね~鬼灯君。 どういうこと? 儂、何も聞いてないよ?」

 

「ああ、言っていませんので」

 

しれっと、男がそう答えた

 

「言ってよ!!? 儂、君の上司だよ!?」

 

「・・・・・・ああ、一応そうでうすね」

 

「一応って何!!?」

 

半泣きになりながら、訴えているのがものすご~~~く可哀想に思えてきた

伽耶がそろりと、後ろを見ると・・・・・・

優に2メートルは超えているであろう巨漢の男が、細身で三白眼の男に泣きついていた

 

え、えっと・・・・・・

 

ふと、三白眼の男と目が合った

瞬間、男は自分の足にしがみついていた巨漢の男をぺしっと蹴り飛ばすと、そのまま伽耶のいるベッドまで歩いてきた

 

伽耶がぐっと毛布を手繰り寄せて、壁際に逃げるが―――――・・・・・・

ぬっと伸びてきた手が伽耶の頭をぐわしっと鷲掴みにしたかと思うと

 

「痛っ! 痛い痛い痛い!!!」

 

ぎりぎりぎりっと、締め上げてきたのだ

流石の伽耶もこれには抵抗した

 

「ちょっ! やめ・・・・・・っ」

 

そう言って、男の手を掴む

すると、三白眼の男が更に締め上げてきた

 

「~~~~~~~っ!!!!」

 

声にならない悲鳴が上がる

それを見ていた巨漢の男が、はらはらしながら

 

「鬼灯君、相手は女の子だよ? もっと優しく―――――・・・・・・」

 

瞬間、ぎろっと三白眼の男がその巨漢の男を見た

 

「・・・・・・この礼儀の知らない小娘に、そこまで情けを掛ける理由はありません」

 

「な、何の事ですか!!?」

 

伽耶が思い余って叫ぶ

すると、三白眼の男はしれっとしたまま

 

「貴女、先ほど芥子さんが誤って調合してしまった物を飲んでうっかり“こっちの人”になりかけたんですよ。 ・・・・・・覚えていらっしゃらないようですが」

 

「芥子・・・・・さん?」

 

ふと、脳裏に「てへ」っと誤魔化していた二足歩行のうさぎが浮かんだ

 

 

「あああああああ!!!!! あのうさぎさん!!!」

 

 

伽耶がそう叫んだのを見て、三白眼の男が「はぁ・・・・・・」と溜息を付いてその手を離した

 

「うさぎではなく、芥子さんです。 貴女、どうみてもあれは“毒”でしょう? 何故、飲んだんですが?」

 

至極当然な質問である

あの、ボコボコと唸っていた毒々しい「薬」と言って差し出された“あれ”の事だろうか

 

「わ、私だって好き飲んだわけではありませんよ!? でも、あのうさぎさんが・・・・・・こう、逆らってはいけないオーラが・・・・・」

 

思いだしただけで身震いがした

もはや、あれを「うさぎ」と言っていいのかすら怪しまれる

 

そんな伽耶の様子を見た三白眼の男は、「はぁ~~~~~~~~」と

重~~~~~い溜息を付いた後、頭を抱えて

 

「まったく・・・・・・芥子さんにも困ったものですね・・・・・・彼女には注意しておきますが――――・・・・・・」

 

そこまで言って、伽耶の方を見た

 

「ですが、出されたものを疑いもせず、ほいほい飲んだ貴女にも責任はあります」

 

「なっ――――!!!」

 

余りにも理不尽な言葉に、思わず抗議しようとした瞬間――――・・・・・・

 

だん!!! という、激しい音と共に壁際に追いやられた

 

「・・・・・・・・っ」

 

伽耶が思わず、顔を顰める

すると、三白眼の男はすっと、真っ直ぐに伽耶を見て

 

「ひとつ、忠告しておきますが・・・・・・」

 

「な、何を・・・・・です、か」

 

なんとかその言葉を絞り出すと

三白眼の男はしれっとしたまま

 

 

 

「貴女、“ここ”の物を口にした時点で、もう“現世”には戻れませんよ」

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・はい?」

 

突然、謎の言葉をふっかっけられ伽耶が首を傾げる

目の前の男は何を言っているのだろうか?

“ここ”って?

“現世”・・・・・・?

 

頭の処理が追い付かないのか・・・・・・

伽耶の脳内には、クエスチョンマークが溢れかえっていた

 

言葉を理解していない、伽耶を見て三白眼の男がまたなが~い溜息を付いた

 

「貴女・・・・・・、本当に何もわかっていないんですね」

 

「は・・・・・・?」

 

まったく彼が意図する言葉が理解出来ない

 

「仕方ありません。 私も忙しい身ですので“3つ”だけ貴女の質問に答えましょう」

 

「え・・・・・・」

 

「ああ、時間が惜しいので、問いと問いの間は、10秒でお願います。 10・9・・・・・・」

 

と、いきなりカウントダウンが始まった

「待って!!」と言いたいところだが、迂闊に言えば「質問」にされてしまう

かといって、10秒でこの場の事をいち早く知る質問を考える事など不可能だ

 

「6・5・4・・・・・・」

 

そうこうしている内に、カウントダウンが進んでいく

 

「2・1―――――」

 

 

 

「あ、あの、うさぎさんは何なのですか!!?」

 

 

 

し――――――ん・・・・・・

 

当たりが静まり返る

が、次の瞬間

三白眼の男はまた溜息を洩らした

 

「3つしかない貴重な質問をあえてそれにするんですか? 貴女、馬鹿ですね」

 

「んな・・・・・・っ! 10秒しかないのに浮かぶわけないでしょ!!」

 

思わずカッとのなってそう叫ぶが、三白眼の男は気にした様子もなく

 

「彼女はカチカチ山の“うさぎどん”です。 名前は芥子さんと言いまして、薬や薬物に精通している大叫喚地獄の如飛虫堕処で獄卒を務めている大変優秀な方です。 新人教育の場の“簡易地獄”では特別顧問を務めて頂いております。 モットーは『じわじわ報復する』。 あ、彼女に“たぬき”は禁句ですので、お気をつけて」

 

「・・・・・・は、はあ・・」

 

え? カチカチ山????

日本昔話に出てくる“カチカチ山”の事だろうか・・・・・・?

 

「さて・・・・・・」

 

そう三白眼の男が口にすると

 

「芥子さんの事はこれぐらいにして―――――、次の質問にいきましょうか。 10・9・8・・・・・・」

 

既にカウントダウンが始まっている

伽耶は慌てて

 

「あ、貴方たちは誰なのですか!? どうして、私がここ居るの!!?」

 

「質問が2つありますが・・・・・・? まぁ、ボーナスステージとしましょう」

 

ボーナスステージって何!!?

突っ込みたいが突っ込めない

 

「私の名は鬼灯と言いす。 ここで仕事もせずに転がっている閻魔大王の下で第一補佐官を務めさせていただいている鬼神です」

 

と、ずびしいい!!! と、三白眼の男―――鬼灯が、指さした先には・・・・・・

今にも泣きそうな顔をしている巨漢の男―――改め閻魔大王がいた

 

「鬼灯君、それ酷くない? きみだって、今仕事してないじゃないか!!」

 

「私は本日、有給消化中です。 仕方ないでしょう? 人事部の方から有給を使え使えと煩いのですから」

 

会社・・・・なの・・・・・・?

自分は何か怪しい会社に捕まってしまったのだろうかと不安になるが―――――

 

今、この男は何と言ったか・・・・・・

 

“閻魔大王”

 

そう言わなかっただろうか

 

伽耶の知る限り、“閻魔大王”と呼ばれるのは、ゲームやアニメの世界である場所を統括する偉い人だった様な気が・・・・・・

言われてみれば、その巨漢の男の体格も、髭も冠も

よく“閻魔大王”としてモチーフで描かれるものと一緒だった

 

そんな伽耶の考えを余所に

 

「何故貴女がここにいるのか―――答えは単純です。 芥子さんが“誤って”毒を飲ませてしまったので、“解毒剤”を飲んでいただいたのです。 だから、貴女はここに運ばれました。 ご理解いただけましたか?」

 

「・・・・・・はあ・・」

 

要は、この鬼灯という男が、自分に解毒剤を飲ませて助けてくれたらしい

 

「余談ですが――――貴女、あと一歩遅かったら死んでいましたよ」

 

「怖い事言わないでください!!!」

 

聞いただけで身震いがした

というよりも、「やっぱり―――――!!!」という気持ちの方が大きかった

 

「では、最後の質問タイムです。 10・9・8・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

ここには、今までフィクションや物語でしかいなかった筈の“閻魔大王”や“カチカチ山のうさぎどん”がいて

しかも、なんとか地獄とか、獄卒や鬼人とか、よくわからない言葉のオンパレードで

 

そのうえ、“ここ”の物を口にしたら“現世”には戻れない――――

それは、“ここ”は伽耶のいた世ではないと言う事にならないだろうか・・・・・・?

と言う事は、“ここ”は――――

 

「5・4・3・2・・・・・・」

 

 

「“ここ”・・・・・・って、何処なのですか?」

 

 

伽耶はごくりと息を呑んだ

思い違いで合って欲しい

夢なら覚めて欲しい

 

だって、今までこんな話聞いた事がないのだから――――・・・・・・

 

そう、思っていたのに・・・・・・

 

 

 

鬼灯が、一度だけその瞳を瞬かせると、静かな声で

 

 

 

      「――――“地獄”です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 続

 

 

久しぶりの鬼轍ですね~~~~~スミマセン

そして、やっと鬼灯の名前出せたwww(過去編で)

とりま、鬼畜仕様で進みまーす笑

 

 

2022.09.03