紅蓮の炎 揺れる鳥籠
      ~夢幻残宵~

 

 第1話 紅々莉姫 1

 

 

 

—――――菊理姫くくりひめ

 

それは、遙か昔―――ずっと昔の神話時代

この地は、最初“土地”も“国”もなかった

 

そこに在ったのは、高天原の造化の三神と呼ばれた神

 

至高の最高神―――――――――――――天之御中主神あめのみなかぬしのかみ

天の生産・生成の「創造」の神―――――高御産巣日神たかみむすひのかみ

地の生産・生成の「創造」の神―――――神産巣日神かみむすひのかみ

 

そして、海に少しの国土が現れた時―――・・・・・・

時を同じくして

 

活力の神―――――――――——————宇摩志阿斯訶備比古遅神うましあしかびひこぢのかみ

天の永久性を象徴する神―――――天之常立神あめのとこたちのかみ

 

が、創造される

 

これら五柱の神を、天津神の中でも特別な存在として「別天津神ことあまつかみ」と呼ぶ

 

彼らは、独神として身を隠す際、その地に“国”を造るように

伊邪那岐いざなぎ伊邪那美いざなみの二神に命じ、天沼矛あめのぬぼこを与えた

 

伊邪那岐、伊邪那美の二神は、天浮橋あめのうきはしに立ち、天沼矛で渾沌とした地上を掻き混ぜた

すると、不思議な事に

矛から滴り落ちたものが積もって淤能碁呂島おのごろじまとなったのだ

 

淤能碁呂島の降り立った二神は、「天の御柱みはしら」と「八尋殿やひろどの」を見立てると

伊邪那岐は左回りに、伊邪那美は右回りに

天の御柱を巡り、出会った所で相手の魅力を褒めあい、この島で成婚をしたのだ

 

最初は失敗したものの、その後、別天津神の教えもあり、次々と”国“を産み落としていった

淡路島をはじめ大八洲(本州・四国・九州等)の島々を生んだ後

石・木・海(大綿津見神)・水・風・山(大山津見神)・野・火など森羅万象の神々を産み落としていく

 

しかし―――すべてが順調にはいかなかった

伊邪那美が、火の神である火之迦具土神(軻遇突智)を産んだために陰部に火傷を負って亡くなってしまったのだ

嘆いた伊邪那岐は、伊邪那美に逢いたい一心で、黄泉の国へと行く

しかし、既に黄泉の火で調理した料理を食べてしまった伊邪那美は地上に戻ることは叶わず、夫である、伊邪那岐に帰るように言う

それでも、伊邪那美を諦めきれなかった伊邪那岐は一緒に帰ろうという

困った伊邪那美は、「絶対に地上に出るまでは振り向かないでください」という約束の元に、伊邪那岐の手を取った

 

だが、地上への道のりは長く、伊邪那岐は我慢しきれずついに振り返ってしまう

そこにいたのは、美しかった伊邪那美の姿はなく、あるのは醜い変わり果てた伊邪那美の姿だったのだ

 

怖くなった伊邪那岐は、その手を振りほどき逃げ出した

だが、黄泉比良坂でついに伊邪那美に追いつかれてしまい、口論となる

 

そこに現れたのが菊理姫だった

菊理姫はそれぞれの言い分を聞き、伊邪那岐と伊邪那美を諫めた

菊理姫の言葉に、納得し、伊邪那美は黄泉へ、伊邪那岐は地上へと還っていったのだった

 

それも相まって、菊理姫は縁を結ぶ神として認知されるようになる

また、死者(伊邪那美)と生者(伊邪那岐)の間を取り持ったことから巫女の女神シャーマンではないかとも言われ、穢れを払う神としても崇められた

 

 

 

 

 

 

 

これは、そんな“菊理姫”の生まれ変わりと称される“少女”の物語である―――・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    ◆     ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―——―――あの世には、天国と地獄がある

 

地獄には、八大地獄と八寒地獄の二つに分かれ

更に二百七十二の細かい部署に分かれている

 

戦後の人口の爆発

悪霊の凶暴化

 

あの世は、前代未聞の混乱を極めていた

 

この世でも、あの世でも

統治に欲しいのは、冷静な後始末係である――――が

そういう陰の傑物は、ただのカリスマよりもずっと少ないのだった

 

 

 

 

 

―――――地獄・閻魔庁 閻魔大王謁見室

 

「閻魔大王!!!」

 

「阿鼻地獄で川が氾濫しています!!!」

 

「天国から要請書が・・・・・・」

 

「黒縄地獄は財政破綻しそうです!!!」

 

次々と押し寄せてくる鬼たちからの問題が閻魔大王に襲い掛かっていた

 

「大王―――――!!! また、亡者がドッと・・・・・・」

 

 

「うわー―――、今、一杯だよ!!!」

 

 

官吏の鬼が裁こうとするが、まったく裁ききれてなかった

もう、閻魔大王の目の前は、阿鼻叫喚と化していた

 

閻魔大王は閻魔大王で、判断に困るのか「あ―――、えっと、え~と」と、唸っている

もう、大王ですらパニック状態だった

 

「も~~~こんな時に、鬼灯君も紅々莉くくりちゃんもどっかいっちゃうんだから・・・・・・」

 

などと、ぼやいているが、二人とも仕事である

 

その時だった

 

 

「大王様、人を遊びに行っている様な言い方をするのは、いささか関心いたしません」

 

 

ずばっと、どこからともなく本音の槍が飛んできて、閻魔大王に刺さる

はっとして、声のした方をみると―――

 

そこには、一人の少女が立っていた

長く艶やかな髪を赤い結い紐でひとつに束ねた美しい少女だった

見るからに優そうでお淑やか 大和撫子という言葉が似合いそうな美少女だ

だが、そこに違和感が一つ

 

彼女の瞳は、燃える様な紅蓮の瞳だったのだ

あの瞳で見られたら、蛇が蛙ににらまれた時のように、硬直してしまう

西洋府に言うと、メデューサを思い出された

髪が蛇で、人を石に変えてしまうという、あの――――

 

「く、紅々莉ちゃん・・・・・・帰ってたんだ」

 

閻魔大王が冷や汗を垂らしながら言う

紅々莉と言われた少女は、「ええ」とだけ答えると、ばさっと閻魔大王の机に大量の書類の束を置いた

 

「え、っと・・・・・・これは?」

 

「追加の書類です、1時間以内にお願いします」

 

「え、えええええ~~~~無理だよぉ~~~~」

 

まさかの彼女からの、言葉に閻魔大王が絶句する

すると、彼女はにっこりと微笑み

 

「大丈夫ですよ、ぱぱっと見て判を押すだけです」

 

それだけ言うと、さっと軽やかに閻魔大王の教台から降りる

 

「それが終わったら、お茶・・・・・・お出し致しますので、頑張ってください」

 

「え~~お茶菓子とかも付けてくれる?」

 

閻魔大王が、そう“おねだり”すると、彼女はにこっと微笑み

 

「大王様の好物の栗羊羹をひと箱用意していますよ? 今、冷蔵庫で冷しています」

 

それを聞いた閻魔大王がぱぁっと顔を明るくさせる

 

「ほんと!? よ~~~し、頑張っちゃおうかな~」

 

と、突然やる気を出したように腕をまくった

最初から出せよ・・・・・・と、皆が思ったのは言うまでもない

 

「えっと・・・・、それで?」

 

白地に赤い刺繍の入った着物の裾を直しながら、彼女が鬼たちの方へとやってきた

 

「紅々莉さん!!!」

 

わっと鬼たちが彼女に押し寄せる

が、彼女は閻魔大王の時とはと違い、次々と捌き始めた

 

「阿鼻は政令指定地獄なので、管轄はあちらに。 後で大王様に紹介状書かせます・・・・・

 

「・・・・・・紅々莉ちゃん、今さらっと仕事増やしたでしょ?」

 

そう閻魔大王が突っ込むが、彼女は完全スルーだった

 

「天国の事は、そうですね・・・・・・、一度、鬼灯様に。 烏天狗警察署指名手配リストはこちらで預かります。ご苦労さまでした」

 

「早い・・・・・・」

 

誰がどう見ても、仕事がてきぱきとしていて、かつ指示も的確で早かった

まるで、だれかを彷彿させるレベルだ

 

「彼女、誰ですか?」

 

小鬼の一人がそう同僚に尋ねた

すると、聞かれた鬼は信じられないものを見る様に・・・・・・

 

「お前、彼女知らないの!!?」

 

「え・・・・・・? 有名なんですか?」

 

「有名もなにも、あの鬼灯様に付いていける唯一の人だぞ!!?」

 

「ええ!? 鬼灯様に!?」

 

「名前は、紅々莉 伽耶ちゃん。 もともとは人間らしいけど・・・・・、今じゃ鬼灯様とツートップ言われるほどの実力者だぞ!?」

 

「へ、へぇ・・・・・・」

 

小鬼が苦笑いを浮かべながらそう答えるが

内心、そもそも閻魔庁のトップは閻魔大王では? と、思ったのは言うまでもない

 

そこで、はたっと小鬼があることに気づく

 

「アレ・・・・・・そういえば、鬼灯様は?」

 

そう言って辺りを見渡すが、それらしい人物がいない

 

「視察に行ってるよ~この忙しさでさァ、彼もあっちこっち引っ張りだこだよ」

 

と、閻魔大王が答えた

 

それに気づいた、彼女は小鬼を見る

 

「鬼灯様の所に行くのなら、一緒に行く? 丁度、私も今から行くし・・・・・・」

 

そうにっこりと微笑まれて、小鬼は口を開けて顔を真っ赤にする

そしてこくこくと頷き

 

「よ、宜しくお願いしますっ!!!」

 

と、叫んだ

すると、彼女がくすくすと笑いながら

 

「私とは初対面よね? 私は、紅々莉 伽耶と言うの。 貴方、お名前は?」

 

「は、はい!! 唐瓜って言いますっ!!!」

 

しゃきっと背筋を伸ばしつつ、唐瓜がそう名乗る

それを見た、伽耶と名乗った少女は、くすっとやはり笑みを浮かべ

 

「宜しくね、唐瓜くん。 私の事は、伽耶って呼んで?」

 

「え・・・・・・いいんですか?」

 

周りの視線が痛い

明らかな嫉妬の視線・・・・・・

 

「え、えっとぉ・・・・・・紅々莉さん、では、なく・・・・・・?」

 

と、一応聞いてみる

すると、伽耶はにっこり微笑み

 

「どっちでもいいけれど・・・・・・“紅々莉”は元からある苗字でしょう? 伽耶は私の名前だから」

 

「は、はぁ・・・・・・」

 

伽耶の言っている意味の半分も理解出来てない唐瓜だったが・・・・・・

いや、でも、ここは本人もそう言っている事だし・・・・・・

ま、まわりの視線は痛いが・・・・・・

 

「じゃ、じゃあ・・・・・・伽耶さん、宜しくお願いします」

 

 

 

 

 

 

 

(ああああああああ――――――――――!!!!!!)

 

 

 

 

 

 

 

と周りの鬼たちが心の中で叫んだのは言うまでもない

 

そうとは知らない伽耶は

 

「では、大王様? 私は、鬼灯様の所に少し行ってまいりますので・・・・・・書類、片づけておいてくださいね。 そしたら、栗羊羹が待っていますよ」

 

それだけ言うと、伽耶は唐瓜を連れて、閻魔庁を出たのだった

伽耶に手を引かれてうきうきで一緒行く唐瓜を恨めしそうに見ている面々が残っていて、それが後に大王にすべてぶつけられた

という事実が、数秒後に待ち受けるとは思わずに―――・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ****    ****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――針山は特に問題なし」

 

言われて、傍に居た鬼が書類に目を通して、書き記す

 

「不喜処地獄はどうですか?」

 

鬼の隣を歩く、額に1本角の背が高めの黒い衣に鬼灯の紋を背中に記した男がそう尋ねた

隣を歩く鬼は「う~~ん」と唸り

 

「従業員不足ですねー」

 

と、ぼやいた

 

ちなみに、不喜処地獄とは・・・・・・

犬や鳥に骨の髄までしゃぶられる地獄である(注:地獄の中では軽い方)

 

その時だった

 

 

 

 

「鬼灯様」

 

 

 

 

不意に、鈴のような声が後ろから聞こえた

鬼灯と呼ばれた黒衣の男の横にいた、鬼がはっとする

すると、顔を真っ赤にして

 

 

「く、くくく、紅々莉さん!!!!」

 

 

 

それを見た、鬼灯と呼ばれた男が振り返った

そして、当たり前の様に・・・・・・

 

「ああ、伽耶ですか」

 

そう言って、伽耶のいる方へ歩いて来た

 

「どうしました? 貴方には閻魔大王あのアホの世話と別の仕事を振っていた筈ですが・・・・・・?」

 

「それなのだけれど――――」

 

と、何やら難しい話をしだした

八大地獄の衆合地獄がどういとか、八寒地獄の針特摩地獄がどうとか、唐瓜にはさっぱりだった

 

いや、それ以前に―――――・・・・・・

 

「今、さらっとアホて言った?」

 

と、鬼が唐瓜に聞いてくる

が、内容が内容なだけに頷けない

 

すると、一通り話終わった伽耶が「ああ、そういえば・・・・・・」

と、唐瓜を呼んだ

 

「唐瓜くんが、鬼灯様に用があるみたいで――――」

 

「用?」

 

言われて、唐瓜が本来の目的を思い出す

 

「あ、ハイ!! 天国の桃源郷からの人材貸し出しの要請が・・・・・・」

 

そう言って、鬼灯に書類を渡す

鬼灯は「はぁ・・・・・・」と呆れた様な溜息を洩らし

 

「天国の世話までしてられませんよ」

 

そこにはびっしりと、人材派遣の内容条件が書かれていた

思わず、びりっとやりたくなるレベルだ

 

「伽耶」

 

不意に、鬼灯に呼ばれて伽耶が首を傾げる

 

「この、派遣(して欲しい)希望リストに、貴女の名前がでかでかと載っていますよ。 行きますか?」

 

と、鬼灯がとりあえず、聞いてみるが――――・・・・・・

伽耶は、にっこりと微笑みながら

 

 

 

「嫌です」

 

 

 

と、どきっぱりと答えた

 

「―――まぁ、妥当な回答ですね。 たまには、面白い応えも欲しいところですが」

 

とか、無茶振りを振るものだから、伽耶は今度こそ満面の笑みで

 

「嫌です。 なら、鬼灯様が行かれては? 白澤様もその方がきっと喜ばれますよ?」

 

 

 

 

 

 

 

ビュオオオオオオオオオオ

 

 

 

 

 

 

そこだけ、何故か八寒地獄と化していた

 

「あの・・・・・・お二人は、仲悪いんですか?」

 

「いや、仲良い方だと、思う・・・たぶん・・・・・・」

 

唐瓜と鬼灯の補佐をしていた鬼がこそこそと言い合う

 

瞬間、また「はぁ・・・・・・」と鬼灯が溜息を洩らした

 

「桃源郷ですか・・・まァ、罪人もいないのにヌケヌケと・・・・・ゆっくりたっぷりのんびりしてるくせに・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・まぁ、そうよね」

 

事実だと思うだけに、返す言葉もない

 

「桃の木はこれ以上いりません。 そもそも仙桃を大量に作って妙薬を確保しようという天国の政策には反対なんです」

 

そう言って、鬼灯が ばしっとその依頼書を弾く

すると、伽耶も小さくため息を洩らし

 

「万能薬は少ないから希少価値がでるのですものね・・・・・・多いならその辺の風邪薬となんら変わりないわ」

 

「その通りです!! 多いと堕落する」

 

うんうんと、鬼灯が頷いた

 

正直、話を聞いていると唐瓜もそんな気がしてきた

が――――・・・・・・

下っ端の鬼の唐瓜にその権限はなく――――

 

「その、ですが桃源郷は天国の最大観光スポットですし、かつ重要文化財として景観の維持を・・・・・・」

 

なんとか、そう訴えてみる

 

「ああ・・・・・・まぁ、手入は必要ですが・・・」

 

「とにかく、柴刈りだけでも手伝って欲しいと・・・・」

 

と、その時だった

 

 

 

 

 

 

 

 

「鬼灯様アアアアアアアアアア!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

突然、向こうの方から小鬼が翔ってきた

それは、見覚えのある小鬼だった

唐瓜の同期の茄子だ

 

「? 茄子くん?」

 

茄子のその慌てように、伽耶がその紅蓮の瞳を瞬かせた

流石に、鬼灯も茄子の慌てた様子に首を傾げる

 

「どうしました?」

 

茄子は走ってきたのは、肩で息をしながら

 

「スミマセンッ!!! ちょっと・・・・・トラブルが・・・・」

 

はーはーと何とか息をする

そして―――

 

 

 

 

 

「実は・・・・・・桃太郎とかいうのが来て・・・・・・っ!!!!」

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

「「桃太郎????」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はいはーい

鬼灯1話目でーす

けど、菊理姫については、特に冒頭の謎の説明でしか触れてませんけどねwww

まぁ、国造りの部分もかなりはしょってるんでw

なんとな~く、菊理姫が何したかをわかっていただければそれでOKです(*´ω`*)

 

 

2020.09.21