紅夜煉抄 ~久遠の標~

 

 第2話 -人鬼- 6

 

 

――――帝都・古城区 四獣神家の屋敷

 

 

「そういえば、このお屋敷――――とっても広いのにあなた達にしか会って無いわね」

 

浜路は食後の紅茶を頂きながら、目の前に座る尾崎要にそう尋ねた

ここにきて何日が経っただろうか――――・・・・・・

その間、要と要に仕えているこの狐たち以外を見掛ける事はなかった

 

「ここにいる尾崎家の方は、あなたと狐ちゃんだけなの?」

 

「いや? まさか」

 

と、要は否定したが・・・・・・

 

「・・・・・・? だって私、ここに来てから、あなた達以外の人を見た事なんてないわよ?」

 

そうなのだ

これだけ広いお屋敷なのに・・・・・・

他の家族兄弟的な人はおろか、使用人すら見たことがない

 

「住んでるのが“人間”だけとは限らないって事だよ。 何しろ僕らは四獣神家の子供だから――――」

 

含みのある言い方に、浜路が首を傾げた

 

「・・・・・・四家っていうぐらいだから、後3人はいるんじゃないの? だから、そんな気配全然――――」

 

と浜路が言った時だった

不意に、要が怖い事を言ってきた

 

「ああ、姿が見えなくてもあんまりうろうろしない方がいいよ。 特に、和館の方は絶対に」

 

要のその言葉に、浜路が息を呑む

 

「・・・・・・やけにクギをさすわね」

 

「主が神経質なたちだからね。 ・・・・・・油断してると、戻れなくなるよ・・・・・・・

 

「・・・・・・・・・」

 

浜路が表情を硬くして固まる

それを見た要はくすっと笑いながら

 

「まぁ――――僕みたいに、獣神に選ばれてきた子供は一族からは“無い”ものとされてきたからね・・・・・・」

 

「え・・・・・・?」

 

「でも、外には父も兄弟も沢山いる。 余り会う機会はないけれど――――」

 

そう平然と言う要だが

浜路には、獣神に選ばれた為に“一族から捨てられた”と言われている様な気がした

 

「そう・・・・・・寂しくは、いの?」

 

思わず、そう尋ねてしまうぐらい――――浜路には要が哀しんでいる様にも見えた

一瞬、紅茶を口にしていた要の動きが止まる

 

「・・・・・・うん? キミ きいてなかった? だから、ここには僕1人じゃなくて――――・・・・・・」

 

「一緒に住んでいるのに、姿は現さないし、声も聞かない同居人ね! 何ソレ、1人でいるよりももっと嫌なカンジ!!」

 

「・・・・・・・・・」

 

不意に要は、かたんっと紅茶カップをソーサーの上に戻した

そして、唐突に

 

「僕さ、実は好きな子いるんだ」

 

「は?」

 

突然、今までの話の内容をぶった切る様に要は話だした

 

「でも、その子全然 僕に振り向いてくれなくてさ、いつも僕とは別の奴といるんだよね。 プロポーズだって何度もしてるのに、いつもさらっと流されちゃうんだよ。 ねぇ、キミから見ても僕ってそんなに魅力ないかな?」

 

「・・・・・・はい? え? ちょ、ちょっと待って、話が見えないんだけど・・・・」

 

プロポーズ??

好きな子・・・・・・???

 

この男は何の話をしているのだ

それが、今何の関係が・・・・・・?

 

浜路の頭の中にクエスチョンマークがいっぱい浮かぶ

その時、ふと先ほどの要の言葉を思い出した

 

『住んでるのが“人間”だけとは限らないって事だよ。 何しろ僕らは四獣神家の子供だから――――』

 

ま・・・・まさ、か・・・・・・

 

「その好きな子って・・・・・・ユーレイだったりしないでしょうね・・・・・・?」

 

恐る恐るそう聞いてみると

一瞬、要が驚いた様にその瞳を瞬かせたかと思うと、突然ぷはっと笑いだした

 

「あはははは! ユーレイかぁ~どうだろうね? 彼女もここの住人・・・・・だから、普通じゃないと思うけど?」

 

「ここの住人? でも、そんな人一度も――――・・・・・・」

 

「ふぅん? じゃぁ、浜路には見えない・・・・のかな」

 

一瞬、背筋がぞくっとした気がした

いやいやいや、まさか、本当に・・・・・・?

その“好きな子”とやらは、ユーレイ・・・・・・

 

「な~んてね、ちゃんとした綺麗な子だよ。 今はキミの幼馴染君たちを迎えに行ってて留守なんだ」

 

「は?」

 

「あ、本当にユーレイだと思った? 可愛いね、キミは」

 

ぶちっ!!!

 

何かが切れる音がしたかと思うと、

がしゃーん という音と共に浜路が目の前のテーブルを持ち上げて要に投げつけようとしていた

 

五弧達が慌てて「浜路殿~~!!!」と止めに入る中

要は面白いものでも見たかのように声を上げて笑っていた

 

その時だった

 

パパ――――っと、外で自動車のクラクションが鳴る音が響いた

はっと浜路がそれに反応する様に、音のした玄関の方を見ると

持っていたテーブルを投げ捨て、玄関の方へ走って行った

 

それを見ながら、要はくすっと笑みを浮かべながら

 

「真夜が帰って来たのかな・・・・・・」

 

そう呟いたいのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

****    ****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブロロロっと、4人を乗せていた自動車が車庫の方へと走って行く

その様子見みながら、信乃と荘介は目の前の大きな白いお屋敷に圧巻されて言葉を失っていた

 

「ここが、神家のお屋敷よ」

 

そう言って、真夜がにっこりと微笑む

未だに唖然としている信乃に、くすっと笑いながら

真夜は、いつもの様に屋敷の玄関へと向かった 瞬間――――

 

「真夜」

 

「・・・・・・え?」

 

不意に、莉芳が真夜の肩を自分の方に抱き寄せてきた

莉芳の突然の行動に、真夜が少しだけ驚いた様にその琥珀の瞳を瞬かせた

 

と、その時だった

ばん!! と玄関の扉が勢いよく開いたかと思うと――――

 

 

 

 

「信乃!! 荘介!!!」

 

 

 

 

聞き覚えのある女の子の声と一緒に、黒いヒールのある靴がひゅんっと飛んできたかと思うと

そのまま信乃の顔にクリーンヒットした

 

「あ・・・・・・」

 

真夜が声を洩らした瞬間

 

「遅い!! 一体今まで何してたの、アンタ達!!」

 

と、赤毛の少女が般若の様な顔で立っていた

その少女には、見覚えがあった

 

そう――――あの5年前の大塚村で一緒にいた――――・・・・・・

 

“浜路”

 

声にならない声が、出た

 

そんな真夜とは違って、信乃は浜路の行動に怯えながら

 

「は、浜路・・・・・・。 え、えっと、いや・・・・・・ちょっとヤボ用で・・・」

 

「観光気分でのん気に旧市街で迷子になっていましたね」

 

と、荘介が付け加えたものだから

 

 

 

「何ですって――――!!!?」

 

 

 

浜路の逆鱗に触れたらしい

 

「ばっ・・・・・荘介! 何で余計な事言うんだ!!?」

 

「後からバレた時の方が、より恐いでしょう?」

 

「テメーはずっと黙っとけ!!」

 

そんなやりとりをしていたが――――

突然、浜路が駆けだしたかと思うと、信乃にそのまま泣き付く様にしがみ付いてきた

 

「・・・・は、浜路?」

 

浜路の身体は微かに震えていた

 

「な、何? どっか痛いのか? それとも、何か嫌な事されたのか!? あ、あの狐野郎!! やっぱただじゃおかね―――――」

 

「ううん、狐ちゃんたちは悪くないの。 新しいお洋服や靴もここぞとばかり買ってもらえたし、三食昼寝付きで結構楽しかったわ」

 

「・・・・・・・・・・・・え?」

 

信乃と荘介が、何かにショックを受けたかのように冷静になる

だが、それを知ってか知らでか、浜路は涙ぐみながら

 

「このセレブな生活も今日で終わりかと思うと・・・・・・。 もっと、色々ねだっておけばよかった」

 

「ええ―――」

 

その時だった

玄関の方から、五弧を連れた金髪の男が現れた

 

「キミさえよければ、ずっといてもいいんだけどね。 尾崎要だ、よろしく」

 

そう名乗って、要が軽く頭を下げながら微笑んだ

それを見た信乃が

 

「お前か!! 浜路を誘拐したのは!!?」

 

「誘拐じゃない。 ご招待したんだよ、四獣神家の屋敷へようこそ。 さ、中へどうぞ。 ――――ご馳走も用意してある」

 

「は・・・・・・? ご馳走? まさか、油揚げじゃねぇだろうな?」

 

明らかに、信乃が不振そうに視線を送る

だが、浜路はにっこりと微笑み

 

「明日は街を案内してくれるって」

 

「街?」

 

「うん、だから――――」

 

そこまで言いかけて浜路が言葉を切った

それが余りにも不自然だった為、信乃が「浜路?」と不思議そうに首を傾げた

 

「・・・・・・真夜、姉さま・・・?」

 

浜路がぽつりと、そう呟いた

浜路の視線の先を見ると――――そこには、真夜がいた

 

「あ、あのな! 浜路、真夜は――――」

 

信乃が何かを説明しようとするが、浜路は放心したまま真夜をずっと見ていた

 

「信乃・・・・」

 

不意に、浜路が拳を作ったかと思うと、何故か思いっきり信乃を殴った

 

「痛ぇ!! いきなり何するんだよ、浜路――――」

 

「痛い・・・・夢、じゃない、の・・・・・・?」

 

「なんで、俺で確認!?」

 

信乃がそう訴えるが、今の浜路には聞こえていなかった

口元を手で押さえて、瞳を涙で潤ませた

 

「ほん、も、の・・・・・・?」

 

浜路のその言葉に、真夜がにっこりと微笑みながら

 

「・・・浜路、大きくなったわね」

 

真夜のその言葉が皮切りになったのか、浜路がぼろぼろと涙をこぼしながら真夜にしがみ付いた

 

「姉さまっ! 真夜姉さま・・・・・っ」

 

「浜路・・・・・・」

 

真夜が、浜路をあやす様に彼女の頭を撫でる

それでも、浜路は泣き続けた

 

 

 

どのくらいそうしていただろうか・・・・・・

少し落ちついたのか、浜路がハンカチで鼻をすすりながら信乃の方をキッと睨み付け

 

「信乃、どういうことなの? どうして真夜姉さまと一緒に居るの!?」

 

「だから、なんで俺に聞くんだよ!!」

 

理不尽だ!! と言わんばかりに信乃が叫んだ

すると、真夜のすぐ傍にいた莉芳がそっと真夜に着ていた上着をかけた

 

「真夜、後の話は中でするといい。 身体に障る」

 

「莉芳・・・・・・?」

 

真夜がふと、莉芳の方を見た

つられて泣いていた浜路もそちらを見る

 

「あなたは――――」

 

「里見莉芳だ。 尾崎が勝手な事をして済まなかった」

 

「里見・・・・・・?」

 

「私もここの住人だ」

 

「じゃぁ、あなたも四獣神家の・・・・・・」

 

「ああ・・・・・・」

 

それだけ答えると、莉芳はすっと真夜を抱き寄せるとそのまま屋敷の中へと入っていった

真夜は一度、浜路の方を見るとにっこりと微笑んでそのまま莉芳に連れられて行ってしまった

 

「・・・・・・・・・」

 

浜路は、ただその姿をじっと見ていた――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ****    ****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――笙月院・地下

 

 

 

「飲まず食わずで、一瞬間か・・・・・・」

 

血の匂いが充満する地下に青蘭の声が響いた

 

ちゃり・・・・・・

鎖に繋がれたままの現八が、ゆっくりと顔を上げる

現八の周りには、幾重にも封印符が施されていた

 

それは、先日この中に立ち入った者がいたからだ

夜刀神の力を宿す教会の“隠し巫女” 夜刀神真夜――――

 

この男と、夜刀神の女がどういう関係は知らぬ

だが、少なくとも、あの夜刀神の女はこの男を助けようとしていた

 

今、教会に介入されると面倒なのは明白だった

だからと言って、この男を解放するのは以ての外だ

 

目の前のこの「鬼」を退治するまでは、教会には大人しくしていてもらわねばならぬ――――・・・・・・

 

そして、自分を見るこの男の目には光が未だに宿っていた

気に入らない

 

封印符で、かなりの痛みを伴っているにも拘わらず、未だに生気を失わないこの男が煩わしかった

 

「さすがは妖を喰らう“鬼”じゃの――――いや、人であった時の名をまだ忘れたわけではあるまい? 犬飼現八」

 

現八のあおみがかった瞳が、青蘭を睨みつけた

 

「・・・・・・青蘭、貴様か・・・、街に妙な厄鬼を放っていたヤツは・・・」

 

現八のその言葉に、青蘭は「はっ」と喉の奥で笑った

 

「何を言う。 そ知らぬふりして人と交わっている鬼の方が 余程恐ろしい。 世間でのそなたの評価はどうだ? 第二区四班憲兵隊長殿?」

 

ぴくっと、現八が顔色を変える

 

「市民を守る筈の憲兵隊隊長の正体が鬼とは――――・・・・・・さぞかし市民は驚くだろう。 人の皮を被った悪鬼が人の中に紛れ込んでいたとはな」

 

「・・・・・・・・・」

 

「お前達の様な半分あちら側の奴はどうせ滅ぶが運命。 人の中に交わって生き永らえようなどとは笑止! 皆に本性が暴かれる前に殺してやろうというのだから、感謝して欲しいものだな。 早く正体を現せ!」

 

青蘭のその言葉に、現八が呆れたように笑った

 

「ふ・・・・・・八つ当たりは迷惑だ」

 

「な、に?」

 

「俺にを重ねている? そんなにたかが妾の・・・獣憑きの異母弟おとうとに生家を追われたのが恨めしいか? 青蘭。 お前こそいいザマだな!」

 

「き、さまぁ・・・・っ」

 

瞬間、青蘭の瞳の色が変わる

それと同時に、無数の“虫”が青蘭の周りに現れた

 

ぎょっとしたのは、青蘭に付きしたがって来た僧侶達だった

 

「せ、青蘭殿!」

 

だが、青蘭がにやりと笑い

 

「安心しろ、あの夜刀神の女も直ぐお前の元へ連れて行ってやる」

 

青蘭のその言葉に、現八の瞳が鋭くなった

 

「・・・・・・真夜には、手を、出すな。 関係、ないだろうが」

 

そういう現八をあざ笑うかのように青蘭は「くくく・・・・・・」と笑いながら

 

 

 

「――――殺れ!!」

 

 

 

“虫”が一斉に現八に襲い掛かる

 

 

「――――青蘭殿!!!!」

 

 

僧侶の声だけが 地下に響き渡った

 

 

 

 

 

ああ・・・・・・

 

一度死ぬのも

二度死ぬのも同じだ

 

どうせならとっととお前と同じ処へ行きたい

 

そうだろう?

 

 

   ――――沼蘭・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつぶりだよwww

「書くリスト」には常に上げてたんですけどねwww

ちなみに、アニメと原作と色々混ぜてます

順番とかも、わざと変えたりしてるので(尺の問題で)

多分? 辻褄合ってるとは思うけど・・・・・・💦

 

 

2022.12.04