紅夜煉抄 ~久遠の標~

 

 第1話 -信乃と荘介- 4

 

 

ぼぅ… と、炎が揺れる

真っ暗な部屋の中で、蒼いその蝋燭の炎は異質さを放っていた

 

その部屋の中に男が一人

 

四つの獣神家のひとつ“尾崎”家の青年―――尾崎 要だった

 

ゆらりと要の前にある蒼い蝋燭の炎が揺れた瞬間

 

『……………』

 

『……………要、申し訳ない』

 

『あの子供が、“あれ”を持っているとは――――』

 

『匂いは確かにした』

 

『油断した、すまない』

 

何処からともなく幾つもの何かの“声”が聴こえてきた

だが、要はくすっと笑みを浮かべ

 

「―――――うん」

 

そう頷くと、ぱたん と持っていた本を閉じた

 

「でも、まぁ“村雨”の所在がわかっただけでもラッキーかな。 莉芳がとぼけるぐらいだから、何かおあるとは思ったけど…あの二人、案外手強いね」

 

要がそう言うと、“声”はその音に緊張の色を見せ

 

『………! ならば、もう一度……!』

 

そう訴えるが、要はその口元に笑みを浮かべ

 

「無理強いはよくないよ。 是非向こうから来たくなる様な“招待”をしないとね」

 

そう言って、かたんと椅子から立ちカーテンをそっと開ける

外は静かで風ひとつなかった

 

ぼうぅ…と蒼い炎が一層強くなる

 

「そうだなぁ…大塚村の生き残りは”もう一人“いたっけ? ……カワイイ子だといいなあ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ◆             ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「く…そぉ……」

 

健太は自分の身体にまとわりつく、糸の様な“モノ”を必死に取ろうともがいた

だが“ソレ”は、もがけばもがくほど、まとわりついて離れない

 

「何なんだよ、一体……」

 

何故、こんなことになったのか…

 

あれは、夕方

壮介や信乃と喧嘩して怒って教会を飛び出た後に起こった

森の傍を走っていた時、またあの声が聴こえたのだ

 

今度は、はっきりと……

 

 

“助けて―――……”と

 

 

声のした方を見ると、あの時と同じ

琥珀の瞳に漆黒の髪の綺麗な顔をした着物姿の少女が森の中に立っていた

そして、彼女は言うのだ

 

“私を、助けて――――……”と

 

そう言って、健太を”呼んだ“

彼女に“呼ばれる”となんだか、どんどん意識が引っ張られる様に遠のいていく―――

“いかないと…”という使命感に似た気持ちが生まれてきた

 

知らず、健太は彼女に誘われるままに森の奥へと誘われたのだ

そして――――……

 

気が付けば、この状態である

 

辺りはもうすっかり夜も更け、真っ暗だ

あれだけ壮介に森に入ってはいけないと言われていたのに―――……

なのに、案の定 入ってこのありさまとか…見つかったらいい訳が立たない

 

そこまで考えて、はっとした

 

そうだ、壮介や信乃が来るはずがない

あんな風に分かれて、自分の心配などする筈がないのだ

 

そうだ……

信乃も壮介も自分の事など、どうでも――――……

 

その時だった

 

 

「健太!!!」

 

 

ふいに、聞き覚えのある声が聴こえてきた

そんな筈ない と自分に言い聞かす

 

来てくれる筈がない

なのに――――……

 

「し、の………?」

 

そこに居たのは、信乃だった

なんで、と思うと同時に不安が過ぎる

 

だが、そんな健太の不安とは裏腹に信乃はそのまま健太の傍までやって来て ぎょっとした

 

「おわっ! 何だ、コレ!!?」

 

健太の状態を見て、信乃がそう声を上げる

が、不安が頭を離れない

 

「信乃……? お前、ほんとうに信乃…だ、よな?」

 

「は? 何言って――――……」

 

「だって……」

 

じゃあ、”アレ“は………?

 

さっきからずっと自分を見ている“アレ”は………?

 

「信乃…お前、さ、そっくりな ねーちゃんとかいたりする? もしくは、親戚とか、さ―――」

 

「はぁ? 俺はもともと正真正銘一人っ子で、親戚なんて――――」

 

そこまで言い掛けて、健太がある方向を指さしている事に気付く

 

「じゃ、じゃあさ、“アレ”なに?」

 

「あ? お前、さっきから何言っ……いい!!?」

 

“それ”を見た瞬間、信乃は大きく目を見開いた

そこに居たのは、昔の自分…

いや、違うあれは―――あの姿は――――………

 

流れる様な漆黒の美しい髪

雪のように白い肌に、薄紅色の唇

そして、綺麗な琥珀色の瞳――――……

 

 

それは

その姿は――――……

 

 

忘れもしない

忘れたことなど、一度としてない

 

 

5年前の“あの時“に”死んだ“筈の――――……

 

 

「真夜………っ」

 

 

そう――――

それは、信乃達の姉的存在だった、真夜の姿だった

 


「なんでここに……っ!!?」

 

 

そこまで言い掛けて、いや違うと思った

真夜であるはずがない

何故なら、彼女は自分達の目の前で 自分達を庇って―――“殺された”のだ

 

そう

真夜であるはずが―――――……

 

その時だった

 

突然、地面が揺れた

 

ゴゴゴゴと唸りを上げて、なにかが地中から這い出てくる

 

木々が倒れ、地面が揺れる

 

「……………っ」

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…

 

 


「……………う」

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…

 

 

「…………う……」

 

 

 

ゴゴ…ゴ………

 

 

 

 

 

 

 

「「ギャ――――――――――――!!!」」

 

 

 

 

 

信乃と健太の絶叫が辺り一帯に木霊した

そこに現れたのは、真夜の姿をした幻影を頭に乗せた、巨大な大蜘蛛の“妖”だったのだ

 

「うわ…うわ……っ、何かダメ!! 生理的に気持ち悪っ!!!」

 

「ギャー!! ギャー!!!」

 

信乃と健太が大騒ぎする

瞬間、大蜘蛛の触手が健太めがけて突き刺す様に伸びてきた

 

「健太!!!」

 

信乃がはっとして叫ぶ

刹那――――……

 

四白の姿の壮介が、健太の糸を食いちぎった

間一髪で、信乃が健太を抱えて飛ぶ

 

「こ……今度は、ナニ!!?」

 

「遅いぞ!!」

 

健太を無視して信乃が叫ぶ

すると、壮介は溜息を洩らしながら

 

「すみませんねえ…大体俺は、一人で外に出るなと言い置いていたと思うんですけど? 信乃?」

 

壮介の言葉に、信乃がむぅ…と膨れながら

 

「だってさー……」

 

「い…いぬ!? 犬が喋った!!?」

 

「このバカが……」

 

健太は今起こっている事に理解が追いつかないのか…

完っ全に動揺している

すると、壮介は呆れた様に

 

「馬鹿は、二人共ですよ。 それにしても何です? “アレ”は…? 囮にしては随分と出来が良いようですが?」

 

「や……いや! 俺が聞きてえよ!!」

 

「5年前に死んだ真夜にそっくりですね。 姿は――――ですが」

 

「………何が言いたい」

 

信乃が嫌な予感を察して、そう言う

すると、壮介はけろっとして

 

「いえ、ただ“アレ”が着ている着物は真夜の物ではなく、信乃が5年前に着ていた物と似ているなあ―――と」

 

ぎくり……

 

信乃は慌てて話しの方向転換しようと”アレ“を指さし

 

「き、着物なんて、カンケ―ねえだろ! それより何であのバケモノが真夜の姿を模してンだよ!? 胸くそ悪っ―――――!!!」

 

「……誰かさんの記憶の中の真夜を模してるんじゃないですか? ただ色々とミックスされている様ですが…でも―――男を誑かすあたり最適な囮ですよね」

 

そう言って、健太を見る

信乃と壮介が

 

「あ、いや……面目ないってゆーか……」←誑かされた人

 

 

「あ―――――もう!! どいつもこいつも!! 村雨!!」

 

 

 

信乃がキレた様に村雨を呼んだ

 

瞬間、バサッ…と音がして、森の奥から村雨が飛んできた

バサリッ…と村雨が信乃の右手に止まった刹那、それは起きた

 

村雨が蒼く光り、一振りの剣に変わったのだ

 

「――――ったくよ、頭に胸くそ悪いモン付けてんじゃね――――よ! ハタ迷惑な!!」

 

そう言って、村雨を大きく薙ぎった

ザシュ!! という音と共に、大蜘蛛の放った触手が一刀両断される

 

「信乃! 信乃!! お前、にげっ……!!」

 

健太があわあわなっていると、壮介がけろっとして

 

「大丈夫ですよ。 “村雨”を持たせたら敵うモノなんかないんですから」

 

「って…え!? ちょっとその声…壮兄!!?」

 

健太は驚き過ぎすぎて、もう頭の回転が追いつていない

そんな間にも、信乃と大蜘蛛の攻防は続いていた

 

大蜘蛛が大きくその鎌を振り上げる

がそれよりも早く信乃が大きく飛び上がった

 

「“真夜“は――――」

 

そして、村雨を大きく振りかざし―――――

 

 

 

 

 

「そんな軽い女じゃね―――――――――!!!!!!」

 

 

 

 

 

そう叫ぶな否や

思いっきり村雨を振り切った

大蜘蛛が一刀両断にされる

 

ずうううん……

という音と共に、大蜘蛛が倒れる

 

信乃は着地すると「けっ!」と吐き捨てると

びしいっと、息絶えた大蜘蛛に向かって

 

「妖もどきが、真夜を模そうなんて百年はえーんだよ!! ぜんっぜん、似てねえっつーの!!!」

 

言いたい事を言ってすっきりしたのか…

信乃が満足気にしていると、後ろから壮介が

 

「お見事です、信乃。 でも―――今更、証拠隠滅しても遅いですけどね。 帰ったらお説教です」

 

と、いつの間に人間に戻ったのか…にっこりと壮介が笑っていた

が、その笑顔を見た瞬間、信乃が「え―……」と洩らしたのは言うまでもない

 

だから、気付かなかった

その時、教会で起きていた事に――――……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

****   *****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

健太を家に送って行った帰り――――……

信乃は浮かない顔をしていた

 

自分達が健太を危険な目に合わせたも同然だからだ

壮介は、小さく息を吐いて

 

「俺達に影響受け過ぎたんでしょう。 これからは、気を付ければ大丈夫かと…」

 

「…うん………」

 

そう頷くも、信乃の心は晴れなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして――――

 

「あれ? 浜路は一緒では無かったんですか?」

 

先生からの言葉に、信乃と壮介が「え?」と声を洩らす

 

そう――――

 

浜路が 消えたのだ

 

「畜生……っ! 浜路を何処に連れて行きやがった!!!」

 

だんっと、信乃がテーブルを叩いた

すると先生は神妙そうな顔で

 

「恐らく、今朝 信乃達を召喚しに来たあの狐たちでしょう。 あれは、教会の引き取った四獣神家の尾崎家の五弧だと思います」

 

「教会のヤツか!!?」

 

「四獣神家?」

 

壮介の問いに、先生はこくりと頷いた

 

「尾崎家そのものは、教会と繋がるものではありませんが…只一人、五弧を従える尾崎の人間は教会本部の中でも“特別”な場所に位置します」

 

「特別?」

 

「はい。 尾崎を加える四家は特に、教会の“秘密兵器”ですからね」

 

先生の話に、信乃が訝しげに顔を顰める

 

「なんなんだ? その“四家”ってのは」

 

「四家…四獣神家とは古からの獣憑きの家系です。 何代かおきにそれらは現れます。 尾崎家の五弧、緋ノ塚家の猫叉、観月家の大蛇、そして―――里見家の犬神です」

 

「…………」

 

「獣憑きの者は子供の頃から幽閉され、一族から“無い者”とされてきましたが…帝国教会側がそれに目を付け、引き取りました。 尾崎家は五弧の狐憑きの家系―――憑かれた者は大概が“狂人”になると言われています―――それが四家の子供です」

 

「ハァ? 教会が信じてる神様ってひとりだろ?」

 

信乃の意見は最もだった

教会の信じる神は、唯一神であり、絶対神だ
何故、その教会が獣神という”他の神“を受け入れるのか――――……

 

「勿論、教会は他の神様の存在を認めたくない筈ですが……存在している以上、力を手に入れたい―――という所でしょうか」

 

「―――では、俺達を呼び出そうとしているのは…」

 

壮介の問いに、先生はこくりと頷いた

 

「信乃の中の“村雨”か、壮介の中の“四白”か…」

 

四家の子供を引き取るぐらいだ

教会本部が“それ”に興味を示してもおかしくない

 

 

「ヤなカンジ―――」

 

 

信乃が不機嫌そうにそう言った

 

「……浜路は、その獣神家によって教会本部に……?」

 

「おそらくは」

 

すると、壮介はすくっと立ち上がり

 

「それだけわかれば十分です。 浜路なら大人しく猫でも被って俺らを待つでしょうから。 信乃、明日の朝には帝都へ立ちます。 用意しててくださいね」

 

「面倒くせ―――」

 

「面倒でも仕方ありません。 これは俺らへの宣戦布告です。 横っ面をはたかれて、黙っている信乃じゃないでしょう?」

 

その言葉に、信乃がにやりと笑みを浮かべる

脳裏に浮かぶ、あの言葉

 

 

『では―――選べ』

 

       「―――成程」

 

 

それならば、受けない訳にはいかない――――……

 

       その宣戦布告とやらを

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――翌朝

 

「信乃、準備はいいですか?」

 

壮介の言葉に、信乃は大きく欠伸をして「ああ…」と頷いた

 

「じーちゃん、先生。 んじゃ、ちょっくら行ってくるわー」

 

そう言って、手を上げる

壮介が頭を下げた時だった

 

「あ……」

 

不意に、先生が声を洩らした

その声が余りにも不自然で信乃と壮介が「「ん?」」と声を上げる

 

瞬間――――

“それ”は起きた

 

 

キィィィィィィ――――――ン…

 

と、”あの時“と同じ結界を張る音が教会周辺一帯に響いた

 

「「!!?」」

 

信乃と壮介が警戒する

また、あの尾崎家の五弧が現れるか!?

そう思った時だった

 

ビュォ……! と、大きく風が吹いた

刹那、ふわりと まるで何かが舞い降りる様に現れた

 

“それ”を見た瞬間、信乃も壮介も大きく目を見開いた

 

ふわりと風になびき、揺れる艶やかな黒髪に紅い結い紐

透き通るような白い肌に、薄紅色の唇

そして、何もかもを見通す様な澄んだ金にも似た琥珀色の瞳―――

 

 

その姿は―――――……

 

 

 

 

「―――信乃。 壮介。 迎えに来たわ」

 

 

 

凛とした美しい声が響く

 

「…………………」

 

言葉など出なかった

居る筈がない

ここに、彼女が居る筈がない

 

 

何故なら、彼女は――――………

 

 

その姿は、あの時と同じ

17歳だったあの時と同じ

 

 

目の前の少女が、美しく微笑む

 

 

 

「………真夜…」

 

 

 

 

    そこにいたのは

 

 

 

 

 

             5年前、あの時 死んだはずの、“真夜”だった――――……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ついに、帝都に行けますねヽ(゚∀゚)メ(゚∀゚)メ(゚∀゚)ノ

の前に、夢主のお迎え来ました~~

やっと、これから絡められるぜ!!

 


早く早く、現八щ(゚Д゚щ)カモォォォン

 

あ、道節どうしようかなぁ~~~うーん

 

2017/03/22