Reine weiße Blumen

  -Die weiße Rose singt Liebe-

 

 

 1章 前奏曲-volspiel- 7

 

 

何故、こんなことになっているのだろうか……。

楽は半分、頭を抱えながらソファで項垂れていた。

 

事の始まりは、ほんの少し間前。

聖マリアナ音楽学院から、タクシーを捕まえたまではよかった。

 

とりあえず、あやねを白閖の屋敷に送ろうとしたところ、不運にも交通渋滞に合い、運転手からいつ着くか分からないと言われた。

困ったあやねは“歩く”と言ったのだが、何故か夕方からの生憎の雨。

 

傘を持っていない、あやねを外に放り出すわけにもいかず、とりあえず近かった自分のマンションにあやねを連れていくことにしたのだ。

 

タクシーを降りたころはもう、土砂降りだった。

 

とりあえず、あやねに自分の上着を頭からかけて、エントランスまで走った。

だが、そんなもので雨露が完全に凌げるわけもなく……。

とりあえず、マンションに着くなり、あやねをシャワールームに押し込んだのだ。

 

そして、今に至る。

 

ザーと、遠くでシャワーの音が聞こえる。

楽はタオルをかぶったまま、何とも言えない、もやもやを抱えていた。

 

これって、まずいよなぁ……。

 

さっき、あんなことしてしまった手前、まだあやねへの気持ちが抑えられない。

うっかり、あやねを見てしまったら抱いてしまいたい衝動に駆られそうな気がして、怖いのだ。

 

いやいや、それだけは駄目だ。

男として、それは駄目だと何かが告げる。

 

いま、抱けばきっと後で後悔するのは火を見るより明らかだった。

 

それに、あやねの気持ちもある。

そんな、「雰囲気に飲まれて勢いでやりました」は、楽の考えに反する。

 

いや、すでに。

学院内で彼女にキスした時点で、アウトな気もするが……。

 

あの時は、あやねの涙を見た瞬間、すべてが吹っ飛んだ。

ここが、学院内(撮影場所)という事も、監督やスタッフの事も。

なにもかも、視界から消えていた。

あやねしか、見えてなかった。

 

それぐらい、彼女の涙は……言葉では言い表せないぐらい衝撃だった。

あんな風に泣かれて……放ってはおけなかった。

 

場所なんて関係ない。

彼女が――あやねが泣いている。

 

その事実だけが、楽をつき動かした。

 

泣いて欲しくなかった。

彼女には笑っていてほしい。

そう思ったら、身体が勝手に動いた。

 

その涙をぬぐい、不安を取り除いてやりたかった。

それだけだったのに……。

 

「はぁ~~~」

 

楽は大きな溜息とともに、頭を抱えた。

 

まずい。

まずすぎる……。

 

目撃者も多かったし……。

何よりよりも、まだ逢って間もないあやねに、あんなことをしてしまうなんて。

 

お前の理性は紙切れか!!!! と、言われても反論できない。

 

まさか、あれで嫌われたりとかは……。

それはそれで、嫌だな。

 

あやねにだけは嫌われたくない。

 

その時だった。

 ガチャ…と、戸が開く音が聞こえた。

 

「あの……シャワー、ありがとうございました」

 

はっとして振り返ると、そこにいたのは……。

 

「……っ」

 

楽がテキトーに置いて行った“着替え”を着たあやねだった。

その姿に、一瞬 動揺する。

 

それもそのはずだ、その場にあったのを渡した自分が悪かったのだが……。

まさかの、シャツ1枚だったのだ 楽の。

 

あやねは少し恥ずかしそうに、顔を赤らめながら、

 

「あ、あの……楽さん」

 

少し手元をというか、足元を気にしているのか、あやねがシャツを下に引っ張りながら、

 

「その……私の服は……」

 

その言葉に、思考停止していた楽が覚醒する。

慌てて早口で、

 

「あ、ああ。今、乾燥機に入れてるから! その、の、喉! 喉、乾いただろ? 今、水持ってくるから座って待っててくれ」

 

そう言って、慌ててソファから立ち上がり、キッチンに向かう。

が、あやねが慌てて、

 

「あ、じ…自分で出来ますので――」

 

そう言って、キッチンに向かう楽に手を伸ばした。

瞬間。

 

「きゃっ……」

 

あやねが、足元に置きっぱなしにされていたダンベルに躓いた。

 

「あやねっ!!」

 

慌てて楽が手を伸ばす。

あやねは、来るであろう衝撃にぎゅっと目を瞑った。

 

どのくらいそうしていたのだろうか……。

 

……?

いたく……な、い……?

 

てっきり床に倒れてしまうと思ったのに、何故か痛みを感じなかった。

 

「……っう……」

 

その時だった。

下の方から声が聞こえきて、はっとする。

慌てて目を開けると、そこにいたのはあやねを庇う様に下敷きになった楽の姿だった。

 

「あ……す、すみませ……」

 

慌てて、楽の上から降りようとした瞬間、楽にその手を掴まれた。

 

「あ……」

 

ぐいっと、片方の手で腰を引き寄せられて、そのまま楽の上に倒れ込みそうになる。

 

「あ、あの……は、離し……」

 

「怪我は」

 

「え……?」

 

一瞬、何を言われたのか分からず、あやねが首を傾げる。

が、楽はもう片方の手であやねの頬を撫でて。

 

「怪我、なかったか?」

 

頬を撫でられていることが恥ずかしくなり、あやねがその頬を赤く染めた。

 

「あ、は、はい。その……楽さんが庇って下さったので……」

 

なんとか、その言葉を絞り出す。

すると、楽は安心した様にふっと笑い、

 

「そっか、なら良かった……」

 

そう言って、あやねをぎゅっと両手で抱き締めた。

 

「……っ」

 

まさか、抱き締められるとは思わず、あやねの身体が強張る。

 

やだ、こんな格好なのに……。

 

恥ずかしさのあまり、抵抗したいのに、抵抗する力が出せない。

心臓が早鐘の様に鳴り響いて、頭が真っ白になる。

 

「あ、ああ、あの……っ。楽さ――「あやね……」

 

「楽さん」と言おうとした言葉が、楽の伸びてきた手に遮られた。

 

「悪い……あやねが今、すげー可愛く見えて……手ぇ、離したくない……」

 

そう言って、楽の手があやねのキャラメルブロンド髪に触れる。

ぴくんっと、あやねが肩を震わせた。

 

「あやねの髪、やわらかくて気持ちいよな。ずっと、触っていたくなる……」

 

そう言って、楽があやねの髪に指を絡めてくる。

 

「あ、あの……」

 

何をどう返答すればいいのか分からず、あやねが真っ赤になりながら、その形のよい桜色の唇を開こうとした時だった。

 

「なぁ……嫌だったら言ってくれ。無理強いはしたくない」

 

「え……?」

 

何を問われているのか分からず、あやねが首を傾げる。

すると、楽がふっと笑い、

 

「悪い、卑怯な聞き方だよな」

 

楽が、ははっと笑いながらあやねを抱いたまま起き上がると、キッチンの壁に背を預けた。

思わず、楽がもしや頭でも打ってしまったのではないかと心配になる。

 

「楽さん? その大丈夫、ですか……? お身体とか……」

 

恐る恐るそう聞くと、楽はくすっと笑って、

 

「ん? ああ、それなりに鍛えてるから平気だよ」

 

そう言って、あやねのキャラメルブロンドの髪を撫でる。

そうされるのがなんだか気恥ずかしくて、あやねがかぁ……と、頬を染めた。

 

「あ、あの……そろそろ、離し……」

 

「離してほしい……」と、言おうとした時だった。

楽の手があやねの頭の後ろに回ったかと思うと、そのまま引き寄せられ―――。

 

「あ……」

 

楽の綺麗な灰青の瞳が目の前にある。

 

「あやね……」

 

耳元で、そう甘く名前を呼ばれた。

囁く様に。

 

「……ぁ……」

 

ぴくんっと、あやねが肩を震わす。

その様子に、楽がくすっと笑みを浮かべた。

 

「可愛い」

 

「な……なに、を――」

 

もう、頭が真っ白になる。

どう反応していいのかすら、分からなくなる。

 

今まで白閖の令嬢としては何度も聞いた言葉だ。

だが、楽のそれは違う。

 

純粋に、“あやね”に向けられた言葉だった。

 

ただ、「可愛い」と言われた。

たった、それだけなのに。

 

こんなにも、心をかき乱される。

……こんな事、今まで一度だって……。

 

そう、“あの人”以外では誰もいなかったのに。

それなのに……。

 

音楽は嫌い。

 

“あの人”を私から、奪ったから。

そして、この人も“あの人“と同じ――音楽を愛する人。

 

いつか、きっと“音楽”に持っていかれる・・・・・・・

 

そう、分かっている。

分かっているのに、どうして 私は……。

 

「あやね?」

 

不意に、その深海色の瞳に影を落としたあやねに、楽が優しくあやねのキャラメルブロンドの髪を撫でる。

 

言わなければ……。

そう思うも、どう言っていいのか分からない。

どう伝えればいいのか、分からない。

 

どうすれば、この人を傷付けずに伝えることが……。

 

「あやね――」

 

楽がそっと、あやねの頬に触れた時だった。

 

 

 

 

 

「あ、ああああああ、アンタ達っ!!!!!」

 

 

 

 

 

突如、謎の雄叫びが聞こえてきた。

背後から。

 

ぎょっとして、楽とあやねが声のした方を見る。

すると、そこにはどうやって入ったのか……般若の如く顔をした姉鷺が仁王立でいた。

ちなみに、後ろに龍之介と天の姿もある。

 

驚いたのは、他ならぬ楽だ。

まさかの姉鷺の登場に、今までにないぐらい驚いた顔をしていた。

というか、半分怒っていた。

 

「姉鷺!!お 前っ、どうやってここに――「そんなの、監督から連絡入ったからに決まってるでしょぉ!!!!」

 

ピシャ――と、ゴジラが叫ぶがごとく、轟音並みの叫び声が辺り一帯に響き渡った。

 

「アンタが!! あやねちゃんに不埒なことした上に、お持ち帰りしたって聞いて……アタシはもう眩暈が……っ」

 

くらぁ~と倒れそうになる、姉鷺を慌てて龍之介と天が支えた。

 

「姉鷺さん、大丈夫ですか?」

 

と冷静に言う天とは逆に、龍之介はわたわたしながら。

 

「ほ、ほら! 楽が受けた映画の監督さんから連絡あったんだよね、その……楽があやねちゃんを連れて帰ったって……。それで――! 姉鷺さん心配して……」

 

と、龍之介なりに、当たり障りない台詞を選んで言うが……、

 

「龍、事実はしっかり伝えないと駄目だよ。楽が白閖さんに手出したって」

 

と、容赦なく天が言うものだから、流石の楽も苛っとしたのか……。

 

「だから、なんなんだ! お前らは!!」

 

と、叫んだ。

あやねをしっか抱き締めたまま。

 

すると、ゆらぁ~と、姉鷺が起き上がり、

 

「とにかく、ちょっとそこにお座りなさい! 楽!! そして、あやねちゃんから手をお放し!!!」

 

そう言って、べりいっと、楽からあやねを引っ剥がした。

 

「きゃ……」

 

突然、引っ張られた為、あやねがよろめく。

それを見た、楽が慌てて「あやねっ!」と、手を伸ばしかけるが――。

それは、姉鷺によりあっさりと妨害された。

 

「大丈夫、あやねちゃん?」

 

龍之介が、あやねが動揺しているのを見てそう尋ねてくる。

 

「は、はい……」

 

あやねが、戸惑いつつもそう答える。

すると、あやねの姿を見た天が、まるで姉鷺の心を代弁する様に、

 

「連れ帰った後に、彼シャツ着させる? 普通、この流れで」

 

「こ、これが、噂の“彼シャツ”……」

 

ごくりと、龍之介が息を呑んだ。

 

彼……?

 

二人の会話の意味が分からないあやねが、首を傾げる。

 

「ばっ! ちげーよ!! それは、そこら辺にあったのをてきとーに……」

 

 

 

 

 

「お黙んなさい!!!!!!」

 

 

 

 

 

姉鷺の轟叫が響き渡った。

 

「白閖のご令嬢に手を出すなんて……アンタ、八乙女事務所潰すつもり?」

 

絶対零度のブリザードの如く。

ビュオオオオオオオオと、聞こえた気がした。

 

流石の楽もそれには畏縮したのか、大人しくなる。

 

「で? アンタどこまで手ぇだしたの?」

 

「は……?」

 

「まさか、もうやったとか言うんじゃないでしょうね!!!?」

 

くわっと姉鷺の眼光が開いた。

楽が慌てて首を振る。

 

「やってない!! やってない!!! まだ、そこまでいってねぇ!!!」

 

 

 

「………本当に? やってねぇんだろうな? あ?」

 

 

 

尋問状態の姉鷺が、今までにないぐらいドスの利いた声でそう言った。

 

 

「こえぇえよ、姉鷺。……男に戻ってるぞ」

 

 

 

 

 

「ああ”!!?」

 

 

 

 

 

その後、楽の断末魔が部屋中に響き渡ったとかなんとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオルちゃん、男に戻る回wwww

TRIGGERの最強伝説作るのは、姉鷺カオルだと私は思っています

 

とりあえず、時間置いたのもあって……事なき終えましたwww

あぶなかった……

 

前回の勢いそのままでやってたら…間違いなく、カオル様の逆鱗に触れまくってたでしょうwww

 

新:2024.01.21

旧:2020.04.07