Reine weiße Blumen

  -Die weiße Rose singt Liebe-

 

 

 1章 前奏曲-volspiel- 17

 

 

「これ……」

 

楽が、目の前のテーブルに投げ出された記事を手に取る。

そこには――。

 

“抱かれたい男、No.1! TRIGGERの八乙女楽(22)に熱愛発覚!? お相手は某有名財閥の御令嬢(19)!!!?”

 

と、大きく見出しの書かれた記事に、楽とあやねと思われる女性の後ろ姿の写真が写っていた。

楽が思わず息を呑む。

 

いつのだ……?

 

写真の周りを見る限り、聖マリアナ音楽学院の敷地内の様に見える。

だが、あそこは学校柄セキュリティがしっかりしていて、とてもゴシップ記者が忍び込むような隙は無いはずだ。

なのに、この写真はその敷地内で撮られていた。

 

横を見ると、天が神妙な顔でもう一枚の記事を見ていた。

 

「この2つの記事……傍から見れば関係なさそうに見て取れるけれど――」

 

姉鷺が、はぁ……と、溜息を洩らしながら言う。

 

「もし、この2つの記事が並んで置いていあったら、ファンはどう思うかしら?」

 

 

“白閖財閥令嬢(19)、ショパン国際ピアノ・コンクールに特別枠で出場か!?”

 

と、

 

“抱かれたい男、No.1! TRIGGERの八乙女楽(22)に熱愛発覚!? お相手は某有名財閥の御令嬢(19)!!!?”

 

一見、無関係に見えるが――。

 

「そうですね……僕だったら、この白閖財閥の御令嬢が楽の相手だと思いますね」

 

天が少し考えてそう答えた。

その答えに、姉鷺がまた はぁ……と、溜息を洩らした。

 

「そこよ! それがこの記事の狙いなの!!」

 

そう言って、姉鷺が2つの記事を並べる。

 

共通しているのは“財閥令嬢(19)”。

ここだ。

 

ここが共通している時点で、ファンたちは楽の相手は白閖のお嬢様と思うだろう。

たとえ“TRIGGER”のファンでなくとも、容易に想像付く。

 

「後、問題は場所ね」

 

「場所……?」

 

龍之介が、首を傾げる。

 

「白閖の財閥令嬢――まぁ、あやねちゃんなんだけれど……、彼女の通っている聖マリアナ音楽学院。あそこはね、有名子息・子女が通う音楽学院で、歴史もあるしよくドラマの撮影にも使われるところよ。だから、セキュリティにはかなり力を入れてるところなの。ゴシップ記者が入り込める隙なんてこれっぽっちもないのよ。なのに――」

 

「写真は、聖マリアナ音楽学院の敷地内で撮られている」

 

楽が静かにそう言うと、姉鷺が頷いた。

 

「ええ、そうよ。両方とも・・・・、聖マリアナ音楽学院の敷地内なのよ。おかしいと思わない? あそこの理事長さんには最初に挨拶したけれど、しっかりしてて良い人だったわ。こんなミス起こすとは思えないの」

 

「同感だな」

 

姉鷺の言葉に、楽が静かに頷く。

 

「――ということは、誰かが意図的に・・・・流しているという事ですか?」

 

天の言葉に、姉鷺が小さく息を吐いた。

 

「ま、その可能性が高いのよ。 少なくとも、今までは・・・・こんな記事出てこなかったじゃない? 何故、このタイミングなのかって事ね」

 

姉鷺の言葉には一理あった。

何故、この2つの記事を同時・・に出すのか。

 

共通しているのは――白閖財閥令嬢 つまりは、あやねだ。

 

「楽」

 

不意に、今まで黙っていた宗助が息子の名を呼んだ。

半分、怒気の混じったその声に、楽が眉間に皺を寄せる。

 

「なんだよ」

 

ぶっきらぼうにそう言うと、父である宗助を睨んだ。

 

「この際だから、はっきりさせておきたい。この白閖財閥令嬢・白閖あやねとは一体どういう関係だ」

 

「どうって……」

 

宗助からの言葉に、楽が言葉を詰まらす。

 

そんなの、俺が聞きてえよ……。

 

別に、あやねとは何の関係も持っていない。

恋人でも、友人でもない。

 

ただの……。

“知り合い”という言葉しか浮かんでこなかった。

 

そうだ。

俺とあやねは……。

 

偶然、事故現場に居合わせて。

偶然、彼女通う学院が撮影場所で。

偶然、彼女がピアノ科で。

偶然――。

 

そう――偶然に偶然が重なっただけ。

それだけの関係った。

 

なんだか、自分で言っていて哀しくなる。

 

彼女が笑ってくれると、不思議と心が温かい気持ちになった。

彼女が傍にいてくれただけで、幸せな気持ちになった。

彼女が泣いていると、傍にいてやりたかった。

 

放っておけなかった。

見ていると危なっかしくて、でも、どこか世間しらずで。

それでも、楽の事を“TRIGGERの八乙女楽”ではなく、ただの“八乙女楽”として見てくれた。

 

そんな彼女に、俺は――。

 

「ああ、あやねちゃんは楽の好きな子だよね?」

 

「は?」

 

「そうそう、楽が惚れてる子」

 

「お、おい!」

 

突然、龍之介と天からの降って湧いたような言葉に動揺を見せる。

が――。

当の2人は、さも当たり前の事の様に、

 

「え? 違った? 楽はてっきりあやねちゃんが――」

 

「だ、だから、そう言う事を――!」

 

楽が抗議しようとした時だった。

天が呆れた様に、

 

「なに? 楽……まさか、あれで隠してるつもりだった……とか言うんじゃないよね?」

 

「いや、だからそれは――」

 

「あら、違うの?」

 

と、姉鷺まで言い始めた。

 

「お、俺は――っ!」

 

楽が、何かを言おうとした瞬間――。

 

 

 

 

ばんっ!!!!

 

 

 

 

宗助が思いっきり、自身のデスクを叩き、

 

 

 

「ええい! やかましいわ!!!!」

 

 

 

と、叫んだ。

そして、

 

「楽!!!」

 

びしっと、我が息子を指さし、

 

「結局、白閖の令嬢とはどういう関係なのだ!! 付き合っているのか、付き合っていないのかはっきりしろ!!!」

 

「つき……っ」

 

宗助の言葉に、楽が かぁ……と顔を赤らめながら、

 

 

「付き合ってねーよ!! 悪いかよ!!?」

 

 

 

 

し――――――ん……。

 

 

 

 

辺りが一瞬にして、静まり返る。

 

時間にして一瞬。

だが、楽には酷く長く感じた。

 

そんな静粛を破ったのは、姉鷺だった。

姉鷺は、小さく溜息を洩らしながら、

 

「社長、残念ですが……楽はあやねちゃんに好意を持っていますが、あやねちゃんが楽に好意を抱いているかは不明ですわ」

 

「姉鷺!!」

 

「なによ、アンタいっつも暇さえあれば あやねちゃんの事考えてるじゃない。アタシ間違った事言ってるかしら」

 

「言ってないよね?」

 

「言ってないね」

 

と、姉鷺の言葉に同意する様に、龍之介と天が頷く。

事実なだけに、言い返せない。

 

楽が、ぐっと言葉に詰まると、それを見た宗助は、は――――っと、ながーい溜息を洩らしながら、

 

「まったく呆れたな。女一人落とせんとは……情けない!」

 

「は? あんたにだけは、言われたくねぇんだけど」

 

カチンっときた楽がそう返すと、宗助がむっとして、

 

「なんだと?」

 

「なんだよ」

 

一触即発――。

今にも、喧嘩が始まりそうになった瞬間、

 

「はい、親子喧嘩はそこまでして下さい、社長! 今は、それどころではないでしょう?」

 

そう言って、姉鷺がぱんぱんっと、手を叩く。

 

「楽も、いちいち感情的にならないの! アンタの悪い癖いよ?」

 

「……なってねぇよ」

 

吐き捨てる様にそう言う楽に、姉鷺がはぁ……と、溜息を洩らした。

そして、

 

「とにかく! 今、分かっている事は、まず、あやねちゃんと楽は残念ですが“お付き合い”の域までは達していない事と、あやねちゃん自身の楽への気持ちも不透明。そして――」

 

ばんっと、例の記事の1枚をデスクに叩き付けた。

 

「これです!!」

 

それは、あやねのショパン国際ピアノ・コンクールの記事だった。

 

「あやねちゃんのピアノがどういうものなのか、少なくとも聴いた事のない私には判断付きません。ですが――――あちら・・・の話から察するに、これら一連の記事は、あやねちゃんを追い込み、ショパン国際ピアノ・コンクールに特別枠で出場へ出場させる事。私たちは、彼ら・・に知名度を利用されてるって事ですよ!!」

 

「ふん、委員会だか何だか知らんが、“TRIGGER”を宣伝広告に使うとは、いい度胸だな」

 

「社長、言葉には気を付けてください。相手は国際委員会ですから、敵に回すと厄介です」

 

「はっ! 知ったことではないわ」

 

「はぁ……、ったく、もう。社長のそういう強気の所は利点だと思いますが、時と場合と相手によっては気を付けてください。特に――」

 

 

 

 

「私は、そういう強気な人物は嫌いではないですよ」

 

 

 

 

突然、扉の方から聞き覚えのある声が聴こえてきた。

はっとしてそちらを見ると――。

 

そこには、スーツに身を纏った長身の男が立っていた。

男はにっこりと笑う。

 

「誰だ」

 

宗助が不快そうに眉を寄せた。

それとは逆に、楽は男を見た瞬間、大きくその瞳を見開いた。

 

「あんた、確か――」

 

楽に気付いた男は、にこっと微笑みながら、

 

「やあ、八乙女君。久しぶりだね、その後ピアノの方はどうかな?」

 

「あ、はい……。ご無沙汰しています。ピアノの方はまだまだですが――」

 

「そうか、頑張っているみたいだね。私としては、君は呑み込みがいいから、きっとすぐ上手くなると思っているよ。映画の公開が楽しみだ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

恐縮した様に答える楽を見て、龍之介と天が少し驚いたように、その瞳を瞬かせる。

 

「誰? 天、知ってる?」

 

「誰って……あれは――」

 

天が答えるよりも早く、姉鷺が答えた。

 

「あやねちゃんのお父様。つまり、白閖財閥の総帥――――白閖秋良氏よ」

 

姉鷺のその言葉に、龍之介がばっと秋良の方を見る。

すると、それに気づいた秋良がにこっと微笑みながら、

 

「君が、十龍之介君かな? いつもお父様にはお世話になっているよ」

 

「あ、は、はいっ」

 

秋良の丁寧な言葉に、思わず龍之介が背筋を伸ばして頷く。

それを見た、天が半ば呆れたかのように、

 

「龍、動揺し過ぎ……」

 

「だって、俺こういう時、どう返したらいいのか、分かんないよ~」

 

龍之介のその言葉に、秋良が笑う。

 

「普通で構わないよ。君は――」

 

ふと、天の方を見て秋良が一瞬、言葉を切る。

が、次の瞬間また優しく微笑み、

 

「君が、九条さんの所の子だね。ダンスのセンスも歌唱力も、素晴らしと思っているよ。流石は九条さん……と言った所かな」

 

秋良のその言葉に、一瞬天が眉を寄せるが……何事も無かったかのように、小さく頭を下げた。

 

「ありがとうございます」

 

天のその言葉に秋良が小さく頷くと、宗助を見た。

宗助が、珍しく緊張しているのが楽の方にも伝わってくる。

 

だが、秋良は気にした様子もなく、にっこりと微笑み、

 

「八乙女社長、いい子達を育てていらっしゃいますね。“TRIGGER”はきっと、もっと大きくなるでしょう。少なくとも――」

 

ちらりと、宗助のデスクにある記事に目をやる。

そして――。

 

こんな事・・・・で、名が売れてしまうのは不名誉の筈。――違いますか?」

 

そう言って、懐から1枚の封筒を取り出して、宗助の前に置いた。

 

「失礼かと思いましたが、“TRIGGER”のお三方に付いて少々調べさせて頂きました」

 

そこには、3人の調査内容が記されていた

 

「まずは、九条天君。彼は――あの九条さんが見つけてきた逸材だったようですね。九条さんに付いては色々思う所はありますが……、彼の中で九条天君は“成功例”であり、彼の“望み”を叶えられる唯一の存在と見ているようです。まぁ、私としてはそれが正しいのか・・・・・・・・は、分かりませんが」

 

「次に、十龍之介君。彼は――沖縄のホテル王の息子という事ですが、お母様の再婚相手が、ホテル王と呼ばれる十氏だったようですね。ですが――彼も十分な程の魅力を持っている。 義理とは言え、この“ブランド”は“TRIGGER”には欠かせないものだったでしょう」

 

「そして――八乙女楽君。彼は貴方の息子であり、幼少の頃からダンスや歌のレッスンをさせていたようですね。負けず嫌いな貴方に似て、それをバネにした結果が今の彼の素晴らしさだと思います。それに、演技力も素晴らしい。彼の新選組の土方歳三役なども、拝見させて頂きましたが、堂に入っていて男の私でも、見惚れるほどでした。世の女性達が放っておかないのも納得いきます」

 

「3人が3人とも、それぞれの魅力を持っている――それが“TRIGGER”という、“ブランド”――貴方はそうお考えの様ですね。ですが、果たしてそれだけ・・でいいのでしょうか? せっかく、魅力のある3人を、もっと自由に、羽ばたかせたいと――そうは思いませんか?」

 

「彼らは“貴方の操る人形”ではない――それぞれ意志の持った立派なアイドルです。何事にも手を抜かず、努力する姿勢。観ている者たちを魅了する力。そして、献身的なまでのサービス精神、ファンへの心遣い。感服いたします」

 

「……何が言いたい」

 

宗助が、秋良を睨む様にそう吐き捨てた。

だが、秋良は気にした様子もなく、すっと宗助のデスクにあるショパン国際ピアノ・コンクールの記事を持つと、びりっと、真っ二つに引き裂いた。

 

「先にも申し上げた通り――こんな事・・・・で、名を売ってはいけない。と、言っているのです」

 

そう言って、引き裂いた記事から手を離す。

はらりと、その記事が床に落ちた。

 

秋良は、にっこりと微笑み、

 

 

 

「八乙女社長。――私と、取引しませんか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

八乙女事務所だけで終わったやんwwww

夢主・父 乱入中ですwwww

所で、姉鷺氏・・・パッパの前で自分の事言う時「アタシ」じゃなくて「私」にしたけど・・・・・・

合ってなかったら、スマセン

 

新:2024.01.21

旧:2022.03.08