古戀唄 ~緋朱伝承~

 

 壱章 守護者 7 

 

 

ざあああああああ

 

金色の稲穂が風に揺られて、目の前で揺れていた

空は夕日で赤く染まり、金の稲穂がきらきらと輝いている

 

「ここ、は・・・・・・」

 

沙綾は、その大きな菖蒲色の瞳を一度だけ瞬かせた後、遠くに見える丘を見た

 

揺れる稲穂

沈みかけの太陽

そして―――――・・・・・・

 

 

 

 

  「―――――沙綾」

 

 

 

 

瞬間

 

懐かしい

それでいて、ずっと会いたかった人の声が聴こえてきた

 

でも――――・・・・・・

彼女・・は、もう・・・・・・・・・

 

ぐっと握る拳に力が入る

そう――――彼女・・は、あの夜――――・・・・・・

 

何度、声を上げても

手を伸ばしても―――――届かなかった

 

あの場所・・・・からは、届かなかった・・・・・・っ!!

 

 

助けると

必ず、助けに行くと――――誓っていたのに――――・・・・・・・・・・

 

 

血の気の失せた、顔

血まみれで、ボロボロの装束

そして、うつろな自分と同じ菖蒲色の瞳―――――

 

彼女の手が力なく崩れるのを・・・・・・・・・・

 

 

 

     ―――――――見ている事しか、出来なかった――――・・・・・・

 

 

 

“約束”も“願い”も“彼女自身”すら――――

 

―――――――何もかも、護れなかった

 

知らず、沙綾の菖蒲色の瞳から涙が零れる

 

何、ひと、つ・・・・・・

だったら、私は何のために・・・・・――――――・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・い・・・・・・」

 

声が・・・・・・

 

「・・・・・・・・・・・おい・・・・・」

 

聴こえる

気がする・・・・・・

 

「・・・・・・・・・・・・おい!っ・・・・」

 

 

だ、れ・・・・・・?

 

 

「沙綾!!」

 

 

ぼんやりと脳内に響く音に揺さぶられて、沙綾がゆっくりと目を開けると―――――・・・・・・

 

「・・・・・・お、にさ、き、さん・・・・・・?」

 

そこには、心配そうに沙綾の身体を支える拓磨の姿があった

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

あれ・・・・・・?

私、は・・・・どうし――――――

 

そう思った時だった

突然、ドスっと 言う音と共に脳天に痛みが走った

 

拓磨の手刀だ

 

「あの、痛いのですけれど・・・・・・」

 

沙綾が抗議すように拓磨を見る

すると、拓磨は当然の様に

 

 

 

「・・・・・・この、馬鹿!!!」

 

 

 

そう叫んだかと思うよ、ぎゅっと思いっきり抱きしめられた

 

「・・・・・・・・・・・・っ」

 

突然の行為に、沙綾が身体を強張らせる

だが、それは直ぐに解かれた

 

「・・・・・・鬼崎さん・・・・?」

 

微かに、沙綾を抱きしめる拓磨の手が震えていた

 

「お前は・・・・・・っ、俺が、どれだけ――――――また、護れないのかと・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・?」

 

また・・・・・・?

 

一瞬、拓磨の言葉に何かの引っかかりを覚える

しかし、それが何なのかは、分からなかった

 

ただ・・・・・・

 

誰も通っていないとはいえ・・・・・・

この状態で、いるのは流石に恥ずかしかったのか

 

沙綾が、慌てて手で拓磨の身体を押しやり

 

「あ、あの、大丈夫、です、から・・・・・・」

 

説得力ないかもしれないが、一応そう言ってみる

そこで、はたっと拓磨も自分の行動に気付いたのか

慌てて、ばっと手を離した

 

「わ、悪いっ!」

 

「あ、いえ・・・・・・」

 

「「・・・・・・・・・・・・」」

 

二人して、押し黙ってしまう

こういう時、気の利いた言葉が言えたら良いのだろうが・・・・・・

哀しい事に、何をどう言っていいのかわからなかった

 

と、その時だった

 

「何やってんだ、お前ら。 二人してそんな所に座って」

 

天の助けともいうべきか・・・・・・

真弘の声が、後ろから聴こえてきた

 

はっとして、慌ててそちらを見ると下校しようと思っているのか、鞄を持った真弘と祐一がいた

 

「あ、えっと・・・これは――――・・・・・・」

 

慌てて、沙綾が口を開こうとすると

すっと、祐一が手を伸ばしてきた

 

「・・・・・・立てるか?」

 

そう言って、沙綾の手を取る

一瞬、拓磨が気になったが・・・・・・

沙綾は「・・・・・・ありがとうございます」と言って、その手を支えに立ち上がった

振り返ると、拓磨も立ち上がり、ぱんぱんっと制服に付いた埃を払っている

 

普段と変わらない様子に、沙綾は少しほっとした

 

そこで、ふと、思いだした

 

「あ、鞄・・・・・・」

 

そうだ

帰る為に、あの机が沢山並んでいた部屋に鞄を取りに行こうと思っていたのだ

 

しかし、よくよく考えるとあの部屋が何処にあったのか分からない

どうしようと、考えあぐねている時だった

 

不意に、頭の上に影が落ちた

 

「あ・・・・・・・・・」

 

見ると、拓磨が持っていた沙綾の鞄をぽすんっと頭の上に置いてきた

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

一瞬、びっくりした様に沙綾がその菖蒲色の瞳を瞬かせる

すると、拓磨がそっぽを向きながら

 

「ほら、鞄。 教室に取りに行くところだったんだろ?」

 

「あ、はい・・・・そう、だけど・・・・」

 

どうしてわかったのだろう・・・・・・?

卓にしか、鞄を取りに行くことは言っていないのに―――――・・・・・・

 

と、そこまで考えて、ある事を思い出した

 

「あ・・・・大蛇さん」

 

「・・・・・・・・・・・・は?」

 

突然、出てきた大蛇卓の名前に 祐一以外の男二人がびくっとする

真弘に至っては、祐一の影にさっと隠れてきょろきょろしだした

 

余りに挙動不審な二人に、沙綾が首を傾げる

 

「あの・・・・・・?」

 

どうしたのだろうか?

 

沙綾が、困惑した様にしていると

唯一、平然としていた祐一が

 

「・・・・・・大蛇さんが、どうかしたのか?」

 

「あ、えっと・・・・先ほどいた部屋でたまたまお会いして・・・・・送ってくださると仰って下さって、校門で待つと・・・・」

 

「先ほどいた部屋・・・・・・?」

 

祐一の問いに、頷く

なんという部屋なのか聞いておくべきだったと、今更ながら後悔する

 

すると、この場に卓がいない事を知って、拓磨と真弘がほっと肩を撫でおろす

 

「ったく、驚かせんなよな!!」

 

「す、すみません・・・・・・?」

 

突然、真弘に怒鳴られ、沙綾が思わず畏縮した様に謝る

が、拓磨は呆れた様に溜息を洩らし

 

「な~に、謝ってんだよ、お前は。 別に、お前が悪いわけでもなんでもないだろ?」

 

「そう、です、けど・・・・・・」

 

そうなのだが、真弘と一緒にびくびくしていた拓磨に言われても あまり説得力はなかった

 

大蛇さん、怖い人なのかしら・・・・・・?

 

二人の反応からしてそんな感じが窺えるが・・・・・・

沙綾からしみたら、大人の優しい男性に見えたので、二人が警戒する理由が分からなかった

 

「ま、いいや、帰ろうぜ。 ・・・・・・大蛇さんとは別ルートで」

 

そう言って、拓磨が沙綾の鞄を持ったまま歩き出す

 

「だな、それがいい。 行くぞ!」

 

そう言って真弘も歩き出す

困ったのは沙綾だ

 

肝心の鞄は拓磨が持っているし、校門で卓は待っていると言っていた

それを、放置していくのは流石に気が引けた

 

どうしようと、祐一の方を見る

すると、それに気づいた祐一は、くすっと笑みを浮かべ

 

「心配ない。 俺達も行こう」

 

そう言って、沙綾の頭を撫でた

その時だった

 

 

 

 

「おや、私とは別ルートとはどの道でしょうか?」

 

 

 

 

突然、背後から聴こえてきた声に、拓磨と真弘が びくう!!! とする

しかし、驚いたのはその二人だけではなかった

 

「お、大蛇さん・・・・・・?」

 

そこには、校門にいる筈の大蛇卓が立っていた

沙綾も、まさかの卓の登場に、驚いたようにその菖蒲色の瞳を瞬かせる

 

すると、卓は何でもない事に様に にっこりと微笑み

 

「あまりにも遅かったので、様子を見にきてみれば・・・・・・」

 

はぁ・・・・・、と、呆れにも似た溜息を洩らした

 

「鬼崎君、鴉取君」

 

名指しで呼ばれ、二人がびくうううっと、その足を止めて

恐る恐る振り返る

 

そこには、満面の笑みの裏に般若の見える卓の姿があった

 

「お、おおお、大蛇さん、お、お俺らは別に何も――――」

 

「そうだそうだ!! まだ、何も知れなぞ!!?」

 

と、拓磨の言葉に、真弘が続くが

とある個所に、卓が過敏に反応した

 

「“まだ”という事は、“これから”する―――と、捉えても宜しいですか?」

 

そう言って、にっこりと微笑みながら、徐々に距離を詰めていく

流石の沙綾も、卓のその言葉に何も言えなくなってしまった

 

初めて見る、卓の姿に戸惑いすら覚える

 

こういう場合はどうするべきなのか・・・・・・

処世術が思いつかない

 

「そもそも、貴方方は、いつもいつもいつもいつもいつも問題ばかり起こして・・・・・・」

 

「いつも」がいやに多く聴こえるが、気のせいだろうか

 

沙綾が思わず、祐一を見るが

祐一も「貴方方」の一員なのか・・・・・

触らぬ神に祟りなしという風に、知らんふりをしている

 

でも、別に何か酷い事されたわけでも、していたわけでもない

過去は知らないが、今は少なくとも彼らが卓の怒りを買うのはおかしいと思った

 

だからだろうか―――――

 

思わず沙綾は、卓に手を伸ばして叫んだ

 

「ま、待ってください、大蛇さんっ。 鬼崎さん達は何もしていませんっ」

 

まさか沙綾に止められるとは思わなかったのか・・・・・・

卓が驚いたように、振り返る

 

「沙綾さん・・・・・・?」

 

呼ばれて、はっと我に返る

咄嗟に、伸ばした手を慌てて引っ込めた

 

「あ、えっと、ですから・・・・・・」

 

なんと言えばいいのだろうか

上手い言葉が見つからない

 

(「沙綾―——―—がんばれ!!!」)

 

と、小さな声援が聴こえてくるが

今はそれ所ではなかった

 

「その・・・・・、鬼崎さんは私の鞄を持ってきてくださいましたし・・・・・・、鴉取先輩達も偶然通りかかっただけで――――」

 

なんとか、言葉を紡ぐ

 

「だから、その・・・・・・」

 

なにもされていないし、していない

そう言っていいのか迷うが、他にどう言ったらいいのだろうか

 

沙綾がとうとう、口籠ってしまうと

それを見た、卓が微かに笑みを洩らして、沙綾の頭に手を置いた

 

「・・・・・・・・・・? 大蛇さん?」

 

沙綾が、置かれた手に首を傾げる

だが、それを見る卓の視線は穏やかに戻っていた

 

「わかりました。 今日の所は許しましょう、沙綾さんに免じて」

 

そう言って、にっこりと微笑む

その言葉に、沙綾が少しほっとした

 

少しは伝えられたのだろうか・・・・・・?

 

そんな気持ちになる

 

自分の思っていることを伝えるのは難しい

けれど――――・・・・・・

 

口にしなければ何も伝わらない―――――

 

私は―――――・・・・・・

 

 

 

あの時・・・、ちゃんとあの人・・・に伝えられていただろうか―――――・・・・・・

 

 

 

ふと、そんな考えが過ぎった

が、それが何を指して思ったのか・・・・・・

 

今の、沙綾には何も分からなかったのだった―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

       ◆      ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――― 深夜

 

ひゅうううううう・・・・・・

 

風が吹く

ぱたぱたと、彼女のスカートが揺れた

 

結っている長めの金の髪が風になびく

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・寂れた村だ」

 

 

 

ぽつりと、少女は呟いた

年のころからして、十ぐらいだろうか

暗闇の中、少女の周りだけが光って見えた

 

幼い顔立ちには似つかわしくない、清浄な雰囲気を纏った少女だった

少女は、つと 村の中心を見た

 

そこには、赤い鳥居が立っていた

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

村を見下ろす金髪の少女はつまらない・・・・・・という感じに呟いた

 

「このような所に、本当にアレがあるのか? 答えよ魔術師マグス

 

澱んだ気配で満たされる深淵・・・・・・

その中に幼く、しかし気高い声が響いた

 

その涼やかな声に応える様に、闇の中で辞儀をしているらしき衣擦れの音がした

 

「肯定です、神聖なるモナド。 この地に存在するのは確かで御座います」

 

錆びれた鉄の様に低く嗄れた声が、恭しく聞こえる・・・・・・

 

「他の者達はどうした? 姿が見えぬ様だが・・・・・・」

 

「指定の場所に向かいまして御座います。 ですから、封印の特定にも、そう時間は掛からないことで御座いましょう」

 

暗闇から聴こえる声に、少女は小さく頷いた

 

「結構。 万象は『黒書』に従っている。 為すべき事を為せ」

 

 

 

 

  「御意のままに。 モナド・アリア」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はい! アリアちらっと来ましたwww

ええ、サクサク出しますよ~~~~笑

 

しかしあれだね、自分で設定しておきながら

いちいち、教室とか保健室とか使えないのがメンド・・・・・・いや、なんでもないっす

だって、誰も部屋の名前教えてないやんwww

なにの、知ってたらおかしい!!(記憶ないんだから)

という観点から、あえて言わせていません

 

 

前:無し

※改:2022.02.14