古戀唄 ~緋朱伝承~

 

 壱章 守護者 6 

 

 

「皆さま。 改めまして、宜しくお願いいたします」

 

沙綾がそう言って、深々と頭を下げる

すると、真弘は少し戸惑ったように、顔を赤くすると

 

「ま、まぁ? お前が、どーしてもって言うなら、“宜しく”してやってもいいぜ?」

 

と、超絶上から目線で言ってきたが

沙綾は特に、気にすることも無く

 

くすりと、微かに笑みを浮かべ

 

「はい、“どうしても”でお願いします」

 

と、答えた

すると、真弘は気分良さそうに

 

「お、おう! しかたねぇなあ~この、鴉取真弘様が直々に―――――」

 

と、真弘が何かを言おうとした瞬間

 

キーン コーン

  カーン コーン・・・・・・

 

と、チャイムの音が無残にも鳴り響いた

 

「と、やべっ、本令だろ、これ」

 

「え・・・・・・?」

 

沙綾が、何を言われているのか理解出来なかったのか・・・・・・

小さく、小首を傾げる

さらりと、彼女の長い漆黒の髪が揺れた

 

一瞬、拓磨が息を飲む

 

「・・・・・・・・? 鬼崎さん?」

 

突然、動きの止まった拓磨に、沙綾が声を掛ける

すると、拓磨が「はっ」と、我に返った様に覚醒する

 

そして、まるで今の自分を誤魔化すかの様に

 

「お、おお、俺は別に見惚れてなんて――――・・・・・・」

 

「え?」

 

「あ、いや、な、なんでもねえ!! ほ、ほら! 行くぞ!!」

 

そう口早に言うと、ぐっと沙綾の手を引いた

 

「え・・・・・・? あ、あの・・・・?」

 

沙綾が困惑した様に、拓磨と真弘達を交互に見る

訳が分からないまま、沙綾が引きずられていく

 

そんな沙綾と拓磨に、真弘がさっさと行けと言わんばかりに手を追い払う様に振った

 

「おー、授業遅れんなよ~」

 

そんな声が微かに聴こえた気がした

が、沙綾はそれ所ではなかった

 

一体、どこに連れて行かれるのだろう、と

不安が過ぎる

 

「あ、あの! 鬼崎さ――――」

 

沙綾が言い終わる前に、とある部屋の前に辿り着いた

初めて見る扉だった

 

だが、拓磨は問答無用にがらっと言う音を立てて中に入った

瞬間、部屋の中がざわめいた

 

皆が皆、こちらを見ている

 

え・・・・・・、な、に・・・・?

 

沙綾が、困惑した帳に拓磨を見るが、拓磨は気にした様子もなくスタスタと奥へと入っていく

仕方なく沙綾も中に入ると――――

そこの不思議な光景に目を奪われた

 

いくつも並んだ木製の机・・・・・だろうか

それらが、ずらっと綺麗に並んでいる

そしてその部屋には自分や拓磨と同じ制服を着た人たちがいた

 

ここは・・・・・・?

 

何処なのだろうと、沙綾が首を傾げていると

拓磨は窓際の誰も使って無さそうな机の上に沙綾の鞄を置いた

 

「担任から聞いた。 ここがお前の席だってよ」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

担任・・・・・・?

席、とは・・・・・・?

 

沙綾には、拓磨が何を言っているのか分からなかった

 

「じゃあな」

 

そう言って、ぽんぽんと沙綾の頭を撫でると

拓磨はそのまま斜め前の方の自分の席らしき所に歩いて行ってしまった

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

とりあえず、ここに座っていれば良いのだろうか?

だが、勝手に座るのも気が引けて、どうしようか考えあぐねている時だった

 

ぱちっと、隣の席に座ってこちらを見ている、眼鏡の少女のと目が合った

何故か、彼女が「じい――――――」と、沙綾を見ている

 

「えっと、あの・・・・・・」

 

思い切って沙綾が声を発しようとした時だった

その少女が、にっこりと笑みを浮かべて

 

「座らないの?」

 

と、声を掛けてきた

初めての感覚に、沙綾が少し戸惑ったように彼女を見た

 

「あ、その・・・・・・座って、いいのですか?」

 

そう尋ねる沙綾に、彼女は一瞬きょとん・・・・・としたが、次の瞬間、その顔に笑みを浮かべながら

 

「いいと思うよ、だってそこは貴女の席でしょ?」

 

「・・・・・・・・・・」

 

沙綾が、椅子と彼女を交互に見る

少女はにこにこ笑っていた

 

それに少しほっとしたのか・・・・・・

沙綾は、少し顔を綻ばせながら

 

「教えて下さり、ありがとうございます」

 

そう言って軽く頭を垂れると、そのままその席に座った

なんとも、不思議な感じだった

 

椅子に座ることが無かったので、新鮮に感じる

 

・・・・・・椅子に座ることがなかった・・・・・・・・・・??

 

一瞬、そんな思いが脳裏を過った

私、今・・・・・・

 

・・・・・・ツキン・・・・

 

微かに頭に痛みが走った

 

「・・・・・・・・・・っ」

 

思わず、こめかみを抑える

 

椅子・・・・・・

そうだ、ワタシは、椅子に座ッタ、事ハ――――・・・・・・

 

ツキン・・・・・・

 

  ツキン・・・・・・

 

頭が、痛む・・・・・・

 

思わず、頭を押さえて俯く沙綾を見た少女が、慌てて立ち上がる

 

「ちょっ・・・・・・、大丈夫!?」

 

そう言って、沙綾の方に手を伸ばしてきた

瞬間―――――

 

ザザザザザ・・・・・・

 

と、目の前が真っ暗になり、砂嵐の様な“ノイズ”が頭を支配する

 

 

 

『残・・・・念だ・・・・・・、キミ、は、モウ――――の、人形・・・・・・ヒ、メ・・・・・・・・・・・・』

 

 

 

な、にこれ・・・・・・

 

頭の中に知らない男の声・・・・・・・が響く

 

「あ・・・・・・」

 

視界が―――――揺れる――――・・・・・・

 

 

 

 

「ちょ、ちょっと!」

 

 

 

遠くで、彼女の呼ぶ声が聴こえる―――――・・・・・・

 

 

「・・・・ぁ・・・・・・・・」

 

そのまま、沙綾は意識を手放した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ****    ****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――夕刻・保健室

 

遠くで、虫の鳴き声が聴こえる

沙綾は、ゆっくりとその菫色の瞳を開けた

 

そして、そのままゆっくりと身体を起こす

 

「ここ、は・・・・・・」

 

そこは、まるで沙綾が最初に目覚めた病院の様だった

真っ白なベッドに、真っ白なカーテンが引かれている

 

一瞬、今までの事はすべて夢で、自分はまだ病院のベッドの上で眠っていたのだろうか――――と、いう錯覚に囚われる

 

それは、次の瞬間直ぐに違うと分かった

突然カーテンの向こうから、聞き覚えのある声が聴こえてきたからだ

 

「沙綾さん? 起きたのですか?」

 

そう言って、カーテンを開けてきたのは和装姿に眼鏡に長髪の青年――――大蛇 卓だった

 

「・・・・・・大蛇、さ、ん・・・?」

 

一瞬、何故卓がここにいるのか理解できず、沙綾が混乱する

すると、それで卓は理解した様に

 

「ああ、私は書道部にたまに指導に来ているんですよ」

 

「書道、ですか?」

 

「はい」

 

そう言って、卓はにっこり笑った

卓の話によると、卓はこの辺り一帯では有名な書道家で

江陵学院に時折、こうして指導にきているのだそうだ

 

今日はたまたま指導に来ていたらしい

そこで、沙綾が朝倒れたことを聞いたそうだ

 

「あ・・・・・・すみません、ご迷惑を・・・・・・」

 

沙綾が申し訳なさそうにそう謝罪すると、卓は何でもない事の様に

 

「沙綾さん、貴女が謝る必要はありませんよ。 誰だって、体調の優れない時があります。 むしろ我々こそ、貴女の体調まで気づかう事が出来ずに、申し訳ございません」

 

そう言って、卓が頭を垂れた

驚いたのは外でもない、沙綾だ

慌てて卓に手を伸ばす

 

「そんな、貴方方が悪いわけではございません。 どうか、頭を上げてください」

 

沙綾のその言葉に救われたかのように、卓がゆっくりと顔を上げる

そして、にっこりと微笑んだ

 

「ありがとうございます。 沙綾さんは、お優しいのですね」

 

「そんな事は――――――」

 

優しくなんかない

“本当”の私は―――――・・・・・・

 

そこまで考えて、沙綾はかぶりを振った

考えては駄目だ

また、倒れてしまう――――――・・・・・・

 

ふと、そこである事に気付いた

誰が、ここまであの部屋から運んでくれたのだろうか・・・・・・?

 

一瞬、目の前の卓かとも思ったが

彼が言いうには、たまたま今居合わせただけの様だったので、違うようだ

 

では、一体 誰が・・・・・・?

 

そう思うも、誰に運ばれたのか分からないままだった

 

「歩けそうですか? 大丈夫そうなら宇賀谷家までお送りしますよ」

 

「え、ですが・・・・・・」

 

別に、具合が悪くて倒れたわけではないのに・・・・・・

わざわざ、手間を取らせて送って貰うのには、少し抵抗があった

 

だが、卓は気にした様子もなく

すっと、手を出すと

 

「帰りましょうか」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

沙綾は、一瞬その手を取るのを躊躇ったが、躊躇ったとこでどうにもならないと思ったのが

素直に、すっと卓のその手を取った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ****    ****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とりあえず、一度先ほどの部屋に戻り 鞄を取ってくると卓に言うと

卓は「校門でお待ちしてます」と言って、一旦別れた

 

余り待たせたら、失礼よね

 

と、思いつつ、先ほどの部屋への道をうろ覚えの中足早に向かった

気が付くと、太陽が西日に変わり赤く染まっていた

 

あ・・・・・・

 

朱い・・・・・・

 

脳裏にいつも出てくる夢の人が思い出された

真っ赤の染まった世界の中で、いつも泣いているあの人―――――

 

あの方は、誰なんだろう・・・・・・?

自分は忘れてはいけない“何か”を忘れてしまっている気がする

 

絶対に、覚えていなければいけなかった・・・・・・・・・・・・・・・のに―――――

 

瞬間、視界がざぁ・・・・・・と、赤く染まった

 

くるくると回る 赤い欠片・・・・・・

 

その中で、沙綾が一人立っていた

辺り一面、赤、赤、赤の世界――――――・・・・・・

 

これは・・・・・・

 

「紅葉・・・・・・」

 

そう、この舞っている赤い葉は「紅葉」だ

ひらひらと、目の前に落ちてきた紅葉の葉を手に取る

 

瞬間

世界が――――――変わった

 

 

 

 

ざあああああああああああ

 

流れ落ちる、水の音

大きな神殿造りの部屋

幾重にも重ねられている結界

 

「ここは・・・・・・」

 

何故かはわからない

初めて見る場所だと思うのに―――――

 

 

 

ワタシは、ココを知ッテ・・・・・・い、る・・・・・・?

 

 

 

何故、そう思ったのかは分からない

分からないが―――――ひどく、懐かしく・・・・感じる

この身に感じる緊張感

 

ああ・・・・そうだわ・・・・・・・・・・・・

私は、“ここ”で、護ってきた――――――

 

護って? 何を?

それは“この世に出してはならないもの”

この世界の“破滅”をもたらすもの

何百年も、何千年も、護っていたもの――――――

 

 

 

 

それは―――――・・・・・・

 

 

 

 

ジジジジジジ・・・・・・

 

瞬間、頭にノイズが走った

目の前が砂嵐の様な“映像”変わる

 

「・・・・・・・・・っ」

 

・・・・・・ツキン・・・

 

「あ・・・・・・」

 

・・・ツキン・・・・・・

  ・・・ツキン・・・・・・

 

頭に、“痛み”が走る

 

「うぅ・・・・・・」

 

耐えられなくなって、沙綾は思わずその場にしゃがみこんだ

頭が、割れそうなほど 痛い

 

「・・・・・・・・・っは、あ、ああ・・・・・・」

 

思い出してはいけない という言葉と

思い出さなければならない という思いが

 

絡まり合い、身体の中で渦巻いている

 

身体が・・・・・・軋む

全身が悲鳴を上げている

 

この、まま、で、は――――・・・・・・

 

もた、な・・・・・・

 

 

 

 

そこで、ぷつんっ・・・・と沙綾の意識は途絶えた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小さな蛙が、ぴょんぴょんと跳ねている

その蛙は、よれよれのスーツに無精ひげの男の前で止まった

 

「ん、ああ、帰ってきたか」

 

男がそう言うと、蛙は男の手の中で ぽんっと音を立てたかと思うと、ひらひらと一枚の“紙”に戻った

 

男は何でもない事の様に、それを懐に仕舞う

 

「ふぅ~ん、なるほどねぇ・・・・・・」

 

ぱりんっ・・・・・・と、片手に持っていたせんべいをかじる

 

駒はほぼ揃った、後は・・・・・・

 

「・・・・・・玉依姫様かな」

 

それさえ、揃えば、全ての駒が揃う

男は、にやりとその口元に笑みを浮かべながら

 

「担んだよ? ―――――俺の姫様・・

 

そう言って、また ぱりん…と、せんべいをかじった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さてさて、例の男(バレバレ)の暗躍が始まりますよ~~~笑

その前に、久々に大蛇さんとの絡み来たwww

しかし、さらっと終わった( ̄▽ ̄)ノ_彡☆バンバン!

まぁ、基本ベースあの方、存在自ルート以外薄いからな~

※正確には、他が濃すぎて薄く感じるだけ

 

 

 

前:2008.05.30

※改:2021.11.19