古戀唄 ~緋朱伝承~

 

 壱章 守護者 5 

 

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「あの・・・・・・」

 

沙綾がおずおずおとしながら、目の前を歩く拓磨を見る

だが。拓磨は振り返ることなく、「ん?」と、一瞬声を洩らした後、何事も無かったかのようにまた歩き出した―――――沙綾の手を引いたまま

 

えっと・・・・・・

 

実の所、宇賀谷家を出た後から、ずっとこうなのだ

 

もしかしたら、髪を結んだことを怒っているのだろうか?

彼は沙綾が髪を結う事に反対していた・・・・・・といったら、語弊があるかもしれないが

少なくとも賛同はしていなかった

 

しかし、沙綾としてはこの暑い時期に、しかもこんなに長い髪を垂らしたままにするのもどうかと思った

だから、髪を高く結ってみたのだが・・・・・・

 

なんだか、気のせいだろうか?
髪を結った沙綾を見た瞬間、拓磨が無言になった

 

なんだか、口をぱくぱくさせて何か言おうとしていた

が、その後言葉が出てくるわけでもなく―――――

 

美鶴に送り出されて、今に至るのだ

 

「あの・・・・・・、鬼崎さんっ」

 

流石に、このまま村道で人通りが少ないとはいえ、手を握られたままなのは恥ずかしい

沙綾が、やっとの思いで拓磨に声を掛けた時だった

 

 

 

 

「“拓磨”」

 

 

 

 

不意に、拓磨が足を止めて振り返った

 

「“拓磨”でいい。 “鬼崎さん”なんて、堅苦しい言い回しなんてしなくていい・・・・・むず痒いし」

 

「え・・・・・・?」

 

一瞬、何を言われたのか理解できず、沙綾がその菖蒲色の瞳を瞬かせた

きょとんとして、首を傾げる

それを見た拓磨は、何かに気付いたのか・・・・・・

 

一瞬にして、その顔をパッと赤らめるとふいっと前を向いた

 

「・・・・・・あ、いや、べ・・・・・・別に! 無理にとは言わねーよ!!」

 

そう言って、また手を引いて歩き出した

 

「あ・・・・・」

 

もしかして・・・・・・名前・・・・・・?

 

拓磨を見る

ずっと前を見たまま、こちらを見ない

 

「・・・・・・・・・・・あ、の」

 

沙綾はごくりと息を飲んで

 

「た、拓磨・・・・・・さん・・・?」

 

なんとか、精一杯応える

 

「・・・・・・・・・・・・っ」

 

一瞬、沙綾の手を握る拓磨の手に力が籠った

それから、小さな声で

 

「・・・・・・お、おう」

 

と、応えてきたが・・・・・・

こちらを振り向くことはなかった

 

だが、拓磨の耳は赤く染まっていた

そんな拓磨に、沙綾は気づかない振りをしたのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ****    ****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――紅陵学院高校・高等部

 

この季封村にある唯一の学校であり、村の者は皆ここの卒業生と言っても過言ではない

それぐらい、昔からある中高一貫の学院だった

 

沙綾が、少し驚いたように足を止めた

 

「・・・・・・? おい? どうし―――――」

 

不意に、止まった沙綾を不思議に思い拓磨が振り返る

 

「え・・・・・・? あ・・・」

 

一瞬、沙綾が何かを隠す様に笑って首を振った

 

「なんでもないの」

 

そう言って 笑って見せる

そう言われてしまっては、拓磨はこれ以上何も聞けなかった

 

「行くぞ」

 

そう言って、沙綾の手を引いて校内に入っていく

校門を通り過ぎた週間―――――ざわりっと、周りの生徒達がざわめきだした

 

え・・・・・・? 何・・・・?

 

こちらを見て、なにかひそひそと話をしている

そんな風に話されるほど、自分は変な格好をしていただろうか―――――?

 

そう思い、思わず沙綾が自身の制服を見る

が、これといっておかしな所はない

それとも、寝癖が付いていたのだろうか?

と、髪を触るがそれらしいところもない

 

何だろう、そんな事を考えている間に、職員室の前にたどり着いていた

 

「ちょっと、ここで待ってろ。 転入手続きの書類出してくる」

 

「え・・・・・・? あの、それなら自分で―――――」

 

「持っていきます―――――」と言おうとしたが、それは拓磨の手によって遮られた

頭にぽんっと手を置かれる

 

「あの? 鬼崎、さん・・・・・・?」

 

沙綾が、意味が分からず首を傾げると

拓磨は少し呆れた様に苦笑いを浮かべて

 

「“拓磨”、だろ? いいから、ここで待ってろ」

 

そう言って、ぽんぽんっと沙綾の頭を叩くと、拓磨はそのまま職員室の中に消えていた

 

「・・・・・・・・・」

 

拓磨は職員室に行ってしまい、手持ち無沙汰になる

沙綾が何気なく、窓の外の校庭を見ていた時だった

 

「ほら・・・・・・あの、・・・・・・しいよ」

 

何やらひそひそと話声が聴こえてそちらを見る

と、女生徒が沙綾を見て、何やら話していた

 

なん、なの・・・・・・?

 

先ほどから、校内に入った後からずっとだ

生徒達がこちらを見て、何やらひそひそと話をしている

少なくとも “愉快”―――――な気持ちではなかった

 

だからと言って彼らに“悪意”は感じなかった

 

なんというか

言いづらい感じで・・・・・・

 

こう、もやもやした気分だった

なんだか、すごく・・・・・・居辛い・・・

 

鬼崎さん、早く帰って来ないかしら・・・・・・

 

そんな事すら、つい考えてしまう

その時だった

 

「んあ? 沙綾? こんな所につっ立って何やってんだ?」

 

と、聞き覚えのある大きな声が聴こえてきた

沙綾がはっとしてそちらを見ると、見覚えのある2人がこちらに歩いてきていた

 

「あ、えっと・・・・・・」

 

名前が頭に浮かばず、沙綾が少し困っていると

それに気づいたのか・・・・・・

小さい方の青年がにやりと笑みを浮かべ

 

「ははーん。 お前、俺らの名前がわかんねーんだろ!!?」

 

「そ、それは・・・・その・・・・・・・・・」

 

ずばり、言い当てられて、沙綾が口籠る

すると、にやにやと小さい方が笑みを浮かべ

 

「祐一はともかく、この俺様の名前を忘れるとは・・・・・・いい度胸だなぁ?」

 

そう言って、ずいっと近づいてきた

思わず、沙綾が後退りながら

 

「あ、えっと・・・・・存在は――――覚えています」

 

そう――――昨夜の鍋で一番大騒ぎしていた人だ

だが、その答えが不服そうだったのか

小さい人は突然、うがーと叫んだ

 

「なんだ!! その“存在”つー曖昧な覚え方は!!! 聞いて驚け!! 俺様はこの学院一の漢前!!! 皆の憧れのヒーロー!!! 鴉取――――――」

 

 

 

 

 

「はい、そこまで」

 

 

 

 

 

小さい人がいい終わる前に、ふと後ろから伸びてきた手が沙綾をぐいっと抱き寄せた

 

「あ・・・・・・」

 

はっとして、沙綾が顔を上げると――――

そこには、先ほど書類を提出しに職員室に入って行っていた拓磨が立っていた

 

「あ、鬼崎さ・・・・・・」

 

「“拓磨”」

 

沙綾が言い終わる前に、ぽんっと拓磨に頭を撫でられた

そして、沙綾と叫んでいた小さい人の間に立つ

 

それがカチーンときたのが、小さい人が拓磨を睨みつけ

 

「なんだぁ? 拓磨。 この先輩様に立て付こうってのかよぉ!!」

 

そう言うなりいきなり、右拳を振り上げて殴りかかってきた

ぎょっとしたのは、沙綾だ

 

「鬼崎さ―――――!!!」

 

慌てて拓磨の前に飛び出そうとするが―――――

あっという間に拓磨の腕に捕らえられて、庇われた

 

「・・・・・・平気だから」

 

小さい声でそう聴こえた瞬間

 

ぽすん・・・・・・

 

という、なんとも情けない音が聴こえてきた

 

恐る恐る沙綾が顔を上げると、拓磨の空いた右手で殴りかかってきた小さい人の拳は止められていた

 

「はいはい、先輩は学園一の漢前の皆の憧れのヒーロー、鴉取真弘先輩様ですよね」

 

「ああ! 拓磨!! 俺様が夜なべして考え抜いた口上を簡単に言うんじゃね!!」

 

そう言って、じたばたしているが・・・・・・

身長というか、手の長さの違いか・・・・・・

小さい人の手は拓磨には届いていなかった

 

「え、え? あ、あの・・・・・・?」

 

いまいち、状況が理解出来ずに沙綾が困惑していると、その小さい人の後ろにいた銀色の髪に綺麗な顔をした青年が口を開いた

 

「真弘と拓磨の事は気にするな、いつもの事だ」

 

そう言って、こちらに歩いてくると沙綾にすっと顔を近づけ

 

「・・・・・・今日は、熱はないな」

 

そう言って、こつん・・・・・・と、額に触れてきた

 

「あ、の・・・・・・?」

 

そういえば、昨日も似たようなことが――――――

そう―――あれは、バスの中で・・・・・・

 

と、思っていた時だった

 

 

 

 

 

 

「ああああああああ!!!! ゆういちいいいいいいいいい!!!!!」

 

 

 

 

 

 

キ―――――ン

と、耳が痛くなりそうなぐらいな声で、その小さい人が叫んだ

それと同に、頭上で拓磨の溜息が聴こえてきた

 

「祐一先輩。 それ、やめた方がいいっスよ・・・・・・。 つか、俺の腕の中にいるやつによくできますね」

 

そう言うが、言われた当の本人はけろっとしていて

 

「・・・・・・そうか?」

 

さも、普通だと言わんばかりにそうぼやいた

 

何だろう・・・・・・

昨日も、一緒に行動していたみたいだし

この三人は知り合いなのだろうか・・・・・・?

 

沙綾が困惑した様に、思わず拓磨を見る

すると、拓磨は息を吐くと小さな声で

 

「一度、軽く自己紹介したが・・・・・・覚えてねぇか・・・・・・まぁ、あそこで吠えてる小さい人が、鴉取真弘先輩・・。 あ~一応あんなナリでも“先輩”だから、気を付けろよ」

 

「鴉取・・・・・・せんぱい・・・・・・?」

 

「ん、あ、ああ、“先輩“が分からないのか。 えっと・・・・・・なんて言ったらいいんだ? 要は俺らよりも年上なんだよ、だから。 わかったか?」

 

年上・・・・・・?

何故かその部分が微妙に引っかかったが・・・・・・とりあえず、頷く

 

「んで、その横で涼しい顔してたってるのが、狐邑祐一先輩。 ちなみに、祐一先輩の特技はどこでもすぐ寝る事―――――――って、寝てるし!!」

 

言われて、そちらを見ると、すーすーと寝息を立てて立ったまま寝ている

廊下を通る女生徒達がその祐一をみて

 

「みて、狐邑先輩よ。 素敵~」

 

などと言いながら通り過ぎていくが――――――寝ているのに

なんというか、拓磨もそうだが・・・・・・

 

 

濃い

限りなく濃い気がした

 

 

とりあえず・・・・・・

 

「あの・・・・・・、鬼崎さん」

 

「“拓磨”って呼べって言っただろ?」

 

「あ、いえ、そうではなく・・・・・・その・・・・・・」

 

「? なんだよ、はっきりしないな」

 

「その・・・・手を・・・・・・」

 

「・・・・・・は? 手?」

 

言われて拓磨が沙綾を見る

そこには、拓磨の腕の中で顔を真っ赤にしている沙綾がいた

 

「あ、ああ! 悪いっ!! えっと、これは、その・・・・・・べ、別に! わざとじゃねーからな!!」

 

そう早口で言われて拓磨が顔を真っ赤にしてバッと離れる

そんな様子が可笑しかったのか・・・・・・

 

沙綾は、思わずくすりと笑ってしまった

 

それから、沙綾は少しだけ姿勢を正すと

 

「皆さま。 改めまして、宜しくお願いいたします」

 

そう言って、深々と頭を下げたのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんか、完全オリジナルで進んるなぁ~

まぁ、うちではデフォなんで・・・・・許して(´・∀・`)エヘヘw

とりま、二度目の自己紹介お~わ~り~

つか、初回の時のあんなテキトーなので、覚えられるわけないやーんwwww

というわけで、改めて自己紹介(もどき)

最早、大蛇さんの存在が薄いのは仕方ないのよ(`・∀・´)

 

 

 

前:2008.05.28

※改:2021.08.11