古戀唄 ~緋朱伝承~

 

 壱章 守護者 4 

 

 

――――宇賀谷家・居間

 

 

 

沙綾が、卓達と居間にたどり着くと、そこには大きなテーブルに大量の料理が並んでいた

 

「あの・・・・・、なんだかすごい量ですね・・・・」

 

と、沙綾が思わず圧倒されたようにそう言うと、卓はにっこりと笑い

 

「食べ盛りの男子高校生がいますからね~3人も。 それに、沙綾さんもずっと病院食だったから、たまにはこういうのもいいのでは?」

 

「は、はぁ・・・・・・」

 

そんなものなのだろうか?
いまいち、ぴんと来なかったが、その疑問はすぐに解消された

 

沙綾が席に付くなり、真弘が箸を持って腕まくりをした

 

「いよ―――――し!! みんな席に付いたな!?」

 

と、その場を取り仕切る様に、笑みを浮かべる

 

「いいか? 鍋は大根からが基本、煮えにくいもんから入れるのが上策。 そうだな、拓磨!」

 

「うす。 奉行」

 

と、真弘の声に拓磨が頷く

 

「白滝とネギも忘れるなよ!」

 

「うす。 奉行」

 

そう言いながら、拓磨も すちゃっと箸を構えた

 

「肉。入れるのか?」

 

不意に、祐一がぽつりとそうぼやく

すると、さも当然の様に拓磨が

 

「そりゃ、入れますよ。 肉の入らない鍋なんて邪道ですから」

 

「苦手だな・・・・・俺はネギと白菜だけでいい」

 

そう言って、鍋の中の野菜だけを取って、食べ始める

祐一のその言葉に、真弘と拓磨が 揃って

 

 

 

「「大・歓・迎!!」」

 

 

 

その一部始終を見ていた沙綾は、その展開に付いていけていないのか・・・・・・

唖然としていた

 

なんというか・・・・・・

 

騒がしい 限りなく騒がしい

これが、噂の“弱肉強食”というものだろうか・・・・・・

 

などと、思っていると

あれだけあった、料理が次から次へと消え行く―――――彼らの胃の中に

特に、真弘がすごかった

 

あの小さな身体のどこに、あれだけの食べ物を入れるスペースがあるのか・・・・・・

という、疑問すら浮かんでくる

 

というか・・・・・・

彼らの食べっぷりを見ていると、それだけでお腹がいっぱいになってきた

 

その時だった

全然箸を動かさない沙綾を見て、美鶴が少し不安げに

 

「沙綾様? もしかしてお口に合いませんでしたでしょうか?」

 

「え・・・・・・?」

 

言われて、沙綾が はっとする

彼らに圧倒されて、自分が全然食べていなかった事に気付く

 

「あ、いえ、そんな事ないですよ? 言蔵さんのお料理、すごく美味しいしです」

 

そう言って、取り皿に料理を取ると、ゆっくりと口に運んだ

 

うっ・・・・美味しいい・・・・・・

 

世辞抜きにしても、美鶴の料理は絶品だった

これなら、お店でも開けるのではないかと言うレベルだった

最早、料理のプロとしてやっていけるクラスでは? とさえ、思ってしまう

 

沙綾が、じーんと味を噛みしめていると

それを見た美鶴が嬉しそうに微笑んだ

 

「それなら、よかったです」

 

そう言って、さらに料理を追加してくる

それを見て、思わず沙綾は思った

 

言蔵さん・・・・・・いくら何でもこれ以上は無理です

 

 

でも、なんだか・・・・・・

ずっと一人で食事をしていたから、こう大勢で囲む食卓も楽しい

こんな事も知らなかったのかと、言われそうだが

改めてそう思った

 

瞬間―――――

 

ずっと・・・・・・・・・?

 

ふと、自分の頭の中に浮かんだ言葉に疑問を抱いた

沙綾が明確に覚えているのは、白い病室だけだった

 

確かに、病棟では食事は一人だったが・・・・・・

 

きっと、この「ずっと」はその事ではない

では、いつの・・・話だ?

 

何故、今自分はそう思ったのだろうか

 

そうだ――――――

 

以前も、こうして「あの部屋」で――――・・・・・・

あの、部屋・・・・・・?

 

あの部屋って・・・・・・どこの部屋・・・・・の事を言っているのだろか?

 

 

・・・・・・ツキン・・・

 

 

「・・・・・・・・・・・・っ」

 

まただわ・・・・・・

 

何か思い出そうとすると、頭が痛む

まるで思い出してはいけない・・・・・・・・・・事の様に

 

 

そう――――思い出せば・・・・・・わたし、は―――――・・・・・・

 

 

その時だった

 

 

ゴス!! という、景気のいい音と共に脳天に衝撃が来た

 

「・・・・・・鬼崎さん・・」

 

思わず、手刀をいきなりかましてきたであろう拓磨を睨んだ

 

「また、変な事考えてただろ?」

 

「・・・・・・っ、そ、れは――――・・・・・・」

 

図星なだけに言い返せない

沙綾がぐっと押し黙ると、拓磨が「はぁ・・・・・・」と、面倒くさそうに溜息を洩らした

 

「言ったろ? “ここにはお前を害する奴はいねぇ”って」

 

「あ・・・・・・」

 

そうだ、あの時拓磨言ってくれた

 

『だから、そんな不安そうな顔するな。 ここにはお前を害する奴はいねーよ』 と

 

思わず、皆を見る

皆、こちらを見ていた

 

「・・・・・・平気か?」

 

「沙綾さん、大丈夫ですよ。 何も恐れることはありません」

 

「なんだぁ? 変なモンでも食ったのか?」

 

祐一も卓も・・・・・・真弘はどうかと思ったが

皆、気にしてくれている

こんな、見ず知らずの私を心配してくれている

 

「わ、たし――――・・・・・・」

 

知らず、涙が零れた

そんな沙綾の背に美鶴がそっと手を伸ばす

 

「言蔵さん・・・・・・」

 

「大丈夫ですよ、沙綾様」

 

そう言って、ゆっくりと背を撫でてくれた

 

それが酷く優しくて

皆の、気づかいが痛いほど身に染みて

 

沙綾は、涙を手で拭うと

今できる、精一杯の笑顔を作り――――

 

「皆さま、ありがとう・・・ございます」

 

そう言って、深く頭をさげたのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ****    ****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「封じられたのか」

 

男の声が聞こえてくる・・・・・・

紅の木の葉が散る中男の影だけが鮮明に映し出される

 

「封じられたのか」

 

頬につたう涙・・・・・・

 

『泣かないで・・・・・・』

 

声にならない声――――

どうして・・・ワタシ、ハ・・・・・・・・・・

 

「すまない・・・・すまなかった」

 

男が言う

 

「どう言って詫びたらいい。 私は――――」

 

『だめ・・・・です』

 

声として出ない私の言葉・・・・・・

それでも伝えたいの――――

 

『そんな風に悲しい顔をしてはいけません。 ご自分を責めないで下さい。 謝らないで―――貴方様だけが悪い訳ではありません』

 

言わせて欲しい・・・・・・

 

『あぁ・・・どうか・・・・・・どうか、貴方様の罪が許されますよう――――』

 

大切な貴方に・・・・・伝えたい

・・・・・・貴方様に・・・・・・・

 

 

 

私は・・・・・ずっと ずっと――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

沙綾はゆっくりと目を覚ました

頬を冷たい何かがつたっていた

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

ゆっくりとした動作で、それを拭う

 

また、だ

と、思った

 

また、あの夢・・・・・・・・

 

唯一の記憶が始まった、あの病院で目覚めた時から見ている“あの人”の夢――――・・・・・・

 

「貴方は・・・・・誰、なの・・・・・・?」

 

夢のなかの彼はいつも泣いていた

流れ込んでくるのは、彼の罪への贖罪の気持ち――――・・・・・・

 

そして、その中に見える微かな―――――

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

沙綾は小さく息を吐いた

 

障子の隙間から朝日が差し込む

沙綾はゆっくりと布団から起き上がった

 

その時だった

 

「沙綾様」

 

襖の向こうから透き通るような物静かな声が聞こえてくる

ゆっくりと襖が開き、和服美少女が現れた

 

「おはようございます、沙綾様」

 

そう言って、美鶴が丁寧に頭を下げる

 

沙綾は美鶴を見ると、慌てて泣いていたのを誤魔化す様に にっこりと笑って挨拶を返した

すると、美鶴は微笑み

 

「本日から学校ですし、寝坊しては・・・と思いまして」

 

「そう、ね・・・・」

 

そういえば、昨日の夜 美鶴がそんな話を聞いたなと思いつつ

壁のハンガーに掛かっている制服を見た

 

朱色を基調にした、可愛らしい制服だった

なんだか、少しスカートが短い気もするが・・・・・・今はこういうものなのだろう

と、納得する

 

 

ふと、浮かんだその言葉に、疑問が浮かんだ

“今”とは、“いつ”と比べての“今”なのだろう――――と

 

だが、少しだけ考えた後、沙綾は小さくかぶりを振った

きっと、考えても答えなどでない

 

少なくとも、何もわからない今は――――・・・・・・

 

そう思い、少し身体を伸ばすと、そのまま立ちあがった

 

「では、準備できましたら居間にお越し下さい。 朝食の用意をしておりますので」

 

そう言って一礼すると、美鶴は襖を閉めた

パタパタと遠くなっていく足音が聞こえる

 

 

着替えなくちゃ……

 

 

沙綾は布団をたたむと、ハンガーに掛けられていた制服を取った

それから、顔を洗い、髪を整える

 

鏡の前でふと、自身の姿が視界に入った

こうしてじっくり鏡の中の自分を見ると・・・・・・

 

そっと、長い漆黒の髪を手に取る

 

「少し、長すぎ・・・・・・よね?」

 

長さとしては、腰より下

太ももに掛かりそうなぐらい長かった

 

切った方がいいのだろうか

 

そう思うも、自分に髪を切る技術がないのはわかっている

かといってこのまま流しっぱなしも、どうかと思った

 

以前よりかはずっと短いが―――――・・・・・・

 

「え・・・・・・?」

 

そこまで考えて、はたっと我に返る

 

“以前”

 

まただわ・・・・・・

また、“なにか”と比べている己がいる

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

沙綾はまた少し考えるが――――首を横に振った

考えるのは今はやめよう

 

考えた所で、答えなどでない疑問だ

 

とりあえず、目下の問題はこの髪である

 

「・・・・・・・・・・・」

 

結んだ方が、いいわ、よね?
そう思い、辺りを見渡すが―――――・・・・・・

 

櫛はあれど、結ぶものがない

 

「・・・・・・言蔵さんなら、持っている・・・・かな?」

 

この家で、その手の品を持ってそうなのは美鶴ぐらいしか浮かばなかった

とりあえず、沙綾は髪を少し横に流したまま立ち上がった

 

そして、そのまま部屋を出て居間に向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

居間に行くと、何故か見覚えのある赤銅色の髪の青年が、まるで我が家の様に食事をしていた

 

「えっと・・・・・、鬼崎、さん?」

 

「ん?」

 

名を呼ばれて気づいたのか、拓磨が顔を上げる

 

「おっす」

 

などと言いながら手を上げている

 

「あ、おはよう・・・ございます・・・・・・」

 

昨夜のことを思い出す

確か、全員男性陣は帰路に付いたはずだった、と、記憶しているが―――――

 

なぜ、朝起きたら今に彼がいるのだろうか・・・・・・

はっきり言って、謎である

しかも、さも当然の様に朝食を貪っている

 

何処から突っ込むべきか―――――・・・・・・

 

沙綾が難しそうな顔をしていると、背後から「沙綾様?」という声が聴こえてきた

丁度、沙綾の分の朝食を持ってきた美鶴とかち合う

 

美鶴は、にっこりと微笑み

 

「どうぞ、お座りください」

 

と言って、拓磨の横の席に朝食を並べていく

つまりは、そこに座るしかない訳で―――――・・・・・・

 

沙綾は、気づかれない様に小さく息を吐くと、拓磨の横に座った

そして、手を合わせて

 

「いただきます」

 

そう言ってから、箸を取る

そっと手を添えて、美鶴お手製の卵焼きを口に運ぶと、ふわふわの卵焼きが口の中でとろけた

 

冗談でもなく、世辞でもなく、美鶴の料理は絶品だった

 

「美味しい・・・・・・」

 

思わず零れた言葉に、美鶴が嬉しそうに微笑んだ

 

「ありがとうございます」

 

「あ・・・・・・」

 

それでふと思い出した

 

「あの、言蔵さん。 少しお願いがあって・・・・・・」

 

「はい? なんでしょうか?」

 

沙綾は少し自身の髪に触れると

 

「なにか、髪を結う物はないかと思って―――――」

 

と、そこまで言った時だった

突然、横の拓磨が手を伸ばしてきたかと思うと、沙綾の髪をひとすくい己の手に引っ掛けた

 

拓磨の突飛な行動に、沙綾がびっくりする

 

「え? あの・・・・・・鬼崎さん?」

 

なぜ、拓磨が自分の髪に触れてくるのか理解が出来ない

すると、拓磨は

 

「結ぶのか? こんなに綺麗な髪なのにもったいねぇ」

 

「え・・・・」

 

一瞬、言われた意味が分からなくて、放心する

 

今、彼は何と言っただろうか

 

“綺麗な髪”

 

そう言わなかっただろうか

 

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

え・・・・・・!?

 

 

瞬間、言われたことが理解できたのか、沙綾がかぁっと頬を赤く染める

 

「な、なに、い、って・・・・・・」

 

言葉が上手く音に乗せられない

だが、言った本人は何でもない事の様に

 

「ん?」

 

と、顔を上げたが

顔を赤くしている沙綾を見て、自分の発言を思い出したのか・・・・・・

拓磨が慌てて、沙綾の髪から手を離す

 

「あ、ああ・・・・・・いや、なんでもねぇ!!」

 

と、顔を赤くしてそっぽを向いた

 

「俺は―――その、お前のその髪が揺れるところが・・・・・・」

 

と、なにかもごもご言っているが、もはや沙綾の耳には入っていなかった

二人して真っ赤になって黙っていると、見兼ねた美鶴が

 

「あの・・・・・・宜しければ、なにか結い紐を持ってきますが・・・・・・」

 

美鶴のその言葉に、沙綾は

 

「あ、は、はい! お願いします」

 

と、早口で答えると、慌てて朝食を食べ始めた

 

恥ずかしい・・・・・・

早く、この場から去りたい

 

そう思って一心不乱に朝食を食べる

味などもう分からなかった

 

が・・・・・・何故か横から視線を感じた

 

「・・・・・・なん、ですか?」

 

沙綾が少しむくれた様な顔で、視線の主――拓磨を見る

拓磨は「ああ、いや・・・・・・」とだけ答えただけで、やはりじっとこちらを見ていた

 

「あの・・・・・・見られると、食べづらいのですけれど・・・・・・」

 

そう言うが、拓磨の耳には入って無さそうだった

結局、美鶴が戻ってくるまで、この状態が続いたのは言うまもない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

例の鍋シーンです

ゲームだとこれ、守護者の紹介があった後に入るんですが・・・・・・

今回は、そこはしょってるのでwww

もう、入れちゃいました( *’∀’)アハハ八八ノヽノヽ

でも、まだ「守護五家」とか「玉依姫」とかな~んにもここまで出てきてないというねwww

仕様ですwww

 

 

前:2008.05.28

※改:2021.03.14