古戀唄 ~緋朱伝承~

 

 壱章 守護者 3 

 

 

 

―――――そこは、屋敷の奥まった所にあった

誰も、迂闊に寄り付かなさそうな雰囲気を纏った“空間”がそこにはあった

 

だが、美鶴と名乗った少女はさほど気にした様子もなく、真っ直ぐに一番奥の室の前までくると、スッと自然な仕草で 廊下に膝を付いた

 

そして、感情の起伏が読めないような声音で

 

「ババ様。 お連れしました」

 

そう言って、スッと目の前の襖をゆっくりと引いた

そして、そのまま一歩下がる

 

一瞬、どうしていいのかわからず、沙綾が美鶴を見る

だが、美鶴からは一度だけその瞳を瞬かせた後、小さな声で

 

「――――どうぞ」

 

とだけ、呟いた

中に入れという事だろうか・・・・?

 

沙綾はそれに戸惑いつつも、そっと室の中に足を一歩 踏み入れた瞬間――――――

 

 

 

 

―――――ばちんっ

 

 

 

 

「――――・・・・・・っ!」

 

何か、身体に電流が走った様な感覚に捕らわれた

 

な、に・・・・・・?

だが、それは一瞬だった

思わず、首元を抑えるが・・・・・・そこには、なにもなかった

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

そう――――なかった、筈なのに・・・・・・

何故だろう、何故か気になった

 

だが、美鶴も何事も無いようにそのまま静かにそっと襖を閉めた

 

「あ・・・・・・」

 

美鶴に聞くことも叶わず、かといってそのまま勝手に室を出るわけにもいかず・・・・・・

沙綾が、困った様に室の奥を見た

 

整った和室の先に一人の年配の女性が文机に向かいこちらに背を向け座っていた

 

この女性が、皆が「ババ様」と呼んでいる方なのだろうか・・・・・・

それは即ち、沙綾の身元引受人にもあたる

 

沙綾は息を飲み、目の前に居る年配の女性を見た

振り向く気配を見せない年配の女性に話しかける言葉を沙綾は捜したが、うまい言葉が見つからない

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

少し考えて、沙綾は、持っていた荷物を横に置くとその場に座った

そして、背筋を伸ばし、ゆっくりと頭を垂れた

 

「・・・・・・お初にお目にかかります。 霞上 沙綾と申します。 この度は、身元引受人になってくださり、ありがとうございました」

 

そう言って、深々と頭を下げた

シン…と部屋が静まり返る

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

沈黙が重い

 

スッと…その女性が沙綾の方を向いた気配があった

じっと見られ、鼓動が早くなる

 

すると、優しく微笑み

 

「遠い所よく来ましたね。 沙綾」

 

・・・・・・・・・・・・?

 

一瞬、その声に何かの違和感を思える

まるで、どこかで聴いたような“既視感――――”

 

思わず、沙綾が顔を上げる

と、視界に入ったのは老年だが、その瞳の奥に何かを秘めている女性がこちらを見ていた

 

「・・・・・・し、ず―――・・・・・・」

 

そこまで言いかけて、沙綾がはっとして口元を抑える

 

今、私は何を――――?

 

まるで、過去にこの人の会っている様な感覚に捕らわれる

そう―――――以前、どこかで・・・・・・

もっとずっと昔――――

彼女がもっと“若かりし頃に―――――”

 

そこまで考えて、沙綾はかぶりを振った

 

そんな筈はない

それだど、目の前の女性が若かったのはどう考えても二十年以上前になる

その頃、自分はいない筈だ

 

そう――――いない…筈、な、のに・・・・・・

 

何故――――――

 

・・・・・・ツキン

 

頭が・・・・・・

 

 

 

  ・・・・・・ツキン

     ・・・・・ツキン

 

 

 

「・・・・・・あ・・・・」

 

溜まらず、沙綾がこめかみを抑える

 

 

 

   頭が・・・・・・ワレ、ル・・・・・・・・・・・・

 

 

 

脳裏に、フラッシュバックの様にいくつもの映像と声が浮かぶ

しかし、どの映像も声も、何を指しているのか――――それすら判らない

 

 

「沙綾・・・・・・?」

 

 

ぼんやりと、目の前の女性に名を呼ばれた・・・・・・気がした

 

瞬間―――――

世界が赤く染まった

ざぁ・・・・・・と、一面真っ赤な紅葉が視界に入る

 

その中にうっすら見える影が、切なそうにこちらを見ていた

そして

 

 

『――――すまなかった』

 

 

“あの言葉”

 

いつも夢で見る、あの映像が沙綾を支配する―――――・・・・・・

 

 

『封じられたのか』

 

 

低い男の声が聞こえる――――

 

注がれる視線・・・

 

 

 

『封じられたのか』

 

 

 

もう一度、囁く様に・・・・・・消える様な声で男は呟いた

頬に何かが落ちてくる

 

冷たい・・・・・暖かい・・・雫・・・・・・・・・・・・

それは―――――・・・・・・

 

 

 

「・・・・・・せ、き・・・・」

 

 

 

 

そこで、沙綾の意識は途絶えた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ****    ****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・やはり、まだ思い出してはいないようね・・・・・」

 

目の前で気を失った沙綾を見て、女性――――宇賀谷 静紀は小さく息を吐いた

まだ、彼女に“真実”を話すのは時期早々ということか・・・・・・

 

だが、もう時間がなかった

 

“あれ”は、もうすでに復活しかかっている

“あの儀式”もあくまでも簡易的処置にしかならない

だが―――――

 

「・・・・・・また、美鶴にお願いするしかないわね・・・・」

 

思えば、美鶴にも何度も酷な事をさせてしまっている

しかし、今“あの力”を使える言蔵家の者は、美鶴しかいないのだ

 

ついっと静紀は襖の方を見た

すると、まるで何かの合図があったかのように―――――

 

「・・・・・・お呼びでしょうか?」

 

そう言って、すっと美鶴が姿を現した

静紀が一度だけ「美鶴・・・・・・」と呟いた

 

それだけで、通じたのか・・・・・・

美鶴が、静かに頭を垂れる

 

「・・・・・・かしこまりました」

 

そう言った彼女の表情はまるで「人形」の様だった―――・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ****    ****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

微かに声が聴こえてくる

その声はどんどん大きくなっていき――――・・・・・・

 

「は? こいつ、まだ起きねーのかよ」

 

だ、れ・・・・・・?

 

「そのようですね。 言蔵さんの話だと、ババ様と面会中に倒れたとか・・・・・・」

 

どこかで聴いたような声・・・・・・

 

「・・・・・・やはり、熱が・・・・」

 

そう言って、何かが近づいてくる気配――――

が、それはすぐさま離れた

 

「いや、祐一。 今、それやったらシャレになんねーから!! 俺様が二度も同じ事させるわけねーだろ!!!」

 

ゆう、いち・・・・・・?

 

「真弘先輩も、祐一先輩ももう少し静かにした方がいいっすよ? 後ろで、大蛇さんが凄い顔で睨んでますし・・・・・・」

 

「ばっか、拓磨!! お前わかってねーな!!? 俺様が! こいつが起きねーせいで飯が食えねーんだぞ!!? しかも、鍋!! 肉が俺様を待ってるつーのに!!!!」

 

た、くま・・・・・・?

 

「いや、そうですけど・・・・・・さっき、言った通りここに来る前に色々あったんっすよ! 急に、走り出したと思ったら、オボレガミに襲われてるし・・・・・・」

 

ふわり・・・・・・と、何か温かいものが額に触れた

 

「こいつも、こいつなりにいっぱいいっぱいみたいだったし・・・・・・仕方ないんじゃないんですかね・・・・・・」

 

そう言って、声の主が優しく触れてくる

まるで、頭を撫でられている様な―――――・・・・・・

 

それが、ひどく心地よくて目を開けたくなくなる

 

 

 

「あああああああああ!!! 拓磨ぁ――――!!!!」

 

 

 

と、思ったら突然 誰かの金切り声が響いてきた

 

「お前、バスの中で、き・・・・ききききき、あ、あれだけでは飽き足らず! その手はなんだ!!? その手は!!」

 

「は・・・・・・?」

 

言われた本人には、相手がなぜいきなり怒鳴りだすのか理解出来ないという風だった

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

こういっては何だが・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うるさい

 

人の頭の上で、ぎゃんぎゃん(一方的な)言い争いが始まった

 

・・・・・・・・・・

 

とてもじゃないが、このまま寝ていられる状態ではなかった

沙綾が、ぼんやりする頭でなんとかその菖蒲色の瞳をゆっくりと開けると――――

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

何故か、布団に寝かされていた

そして、その真上で真弘と名乗ったあの小さい人と、拓磨が何やら、争っていた

 

「・・・・・・・・・・・・?」

 

何が起きているのか、理解できずにいると

ふと、それに気づいた祐一がそっと沙綾に声を掛けた

 

「・・・・・・起きたのか?」

 

その言葉に小さく頷くと、祐一の方を見て

 

「はい・・・・・・あの、これは・・・・・・」

 

一体、何事かと確認しようとした瞬間――――

 

 

 

 

「お前!! おっせーんだよ!!!!」

 

 

 

 

突然、真弘が怒鳴りつけてきた

 

「・・・・・・・・? えっと、すみません・・・・」

 

何が何だかよくわからないが・・・・・・とりあえず、謝っておく

すると、傍に居たのであろう拓磨が沙綾の頭をぽんぽんっと叩きながら

 

「何謝ってんだ、お前は。 別に、謝ることはしてねーだろ」

 

「え・・・・・・? でも・・・」

 

沙綾がしどろもどろになりながら、真弘の方を見る

すると、真弘は小さな身体で思いっきり胸を張り

 

「ったく、お前が起きねえと、夕飯は食べさせねえって、美鶴に言われたんだよ!! 俺はもう腹がペコペコなんだ!!! しかも、肉!!! 肉が待てるんだよ!!!」

 

「は、はぁ・・・・・・」

 

やはり、なんだかよくわからないが

どうやら、美鶴から夕飯のお預けを食らっているのだという事だけは理解できた

 

それ以前に、何故 自分はこんな所で寝かされていたのだろうか・・・・・・?

確か、美鶴に案内されて身元引受人になってくださった宇賀谷静紀に挨拶に行っていた筈だった

なのに・・・・・・

 

途中から、記憶が全くない

 

まさか、挨拶の真っ最中に寝落ちしてしまったのだろうか・・・・・・?

もしそうだとしたら、とんでもなく失礼になる

 

なんだか、どんどん不安になってきた

 

沙綾が、表情を曇らせていると、それに気づいた祐一がすっと傍に寄ってきて

 

「気にするな、真弘はいつもああだ。 それよりも、身体は大丈夫なのか?」

 

「あ、はい・・・・・・。 すみません、またご迷惑を―――――」

 

と、そこまで言いかけた時だった

 

「おら――――飯だ! 飯だ!!!」

 

「痛っ!! 痛いっす!! 真弘先輩!」

 

ずるずると、真弘の引きずられていく拓磨の姿があった

その様子が余りにもおかしくて、沙綾が思わず くすっと笑う

 

それを見た祐一が少し安心した様に

 

「起きても平気か? 平気なら居間へ行こう。 真弘がうるさいからな」

 

「・・・・・・? 居間ですか?」

 

何故?

と、問う前に 後ろの方に座っていた大蛇卓と名乗った和装の男性が

 

「今から、沙綾さんの歓迎会をするんですよ」

 

予想だにしてなかったその言葉に、沙綾が「え・・・・・・?」と声を洩らす

 

かんげい、かい・・・・・・?

 

すると、卓がにっこりと微笑み

 

「はい、貴女の歓迎会です。 主役がいないと始まりませんからね」

 

「・・・・・・という名の、いつもの鍋だ。 気にするな」

 

そう言って、祐一がぽんっと沙綾の頭を叩いた

 

歓迎会だなんて

なんだか、少し気恥ずかしいが・・・・・・

 

気を使われているのも申し訳なく思いつつ、嬉しい気持ちもなんだか溢れてきて

沙綾は、思わず笑みを浮かべて

 

「・・・・・・ありがとう、ございます」

 

と言ったのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今回も、原型どこ行った状態でお送りしまーす(*≧∀≦)ゞ

いや、一応ね ちょろ~~とは使いましたよ??

でも、本来であればババ様と会った時に色々と説明入るんですが・・・・・・

あえてカットwwww

まだ、早い!!

というわけで~~~真弘先輩がうるさいですwwww

デフォだから仕方ない( ゚д゚)ウム

 

 

前:2008.05.28

※改:2021.01.06