古戀唄 ~緋朱伝承~

 

 壱章 守護者 1

 

 

さぁ……

 

風が吹いた

沙綾の長く艶やかな漆黒の髪がゆれた

 

不思議な感覚だった

 

拓磨に手をひかれ、二人で村道を歩く

もう日暮れも終わり、山間から月が昇り始めているからだろうか……

 

村道を行き交う人すらいない

いるのは、拓磨と沙綾の二人だけ

 

他の三人はもう見えなくなっていた

 

もしかしたら、自分の歩く速度が遅いのかもしれない

ふと、そんな事を思った

 

でも、拓磨は沙綾の歩調に合わせてくれているのか、ゆっくりと歩いていた

なんだか、申し訳ない気持ちと、嬉しい気持ちで心が少し暖かくなる

 

そんな風に歩いていた時だった

 

「あ………」

 

はらはらと、どこからともなく”赤い葉“が舞い落ちてきた

その葉は見覚えのあるものだった

 

そう―――――

病院にあった、大きな赤い樹

看護師の人は「あれは、紅葉ですよ」と教えてくれた

 

「紅葉………」

 

その葉を、そっと拾う

真っ赤に染まった“紅葉”の葉が沙綾の手の中でゆらゆらと、揺れる

 

瞬間―――――……

 

 

 

ざぁ……! という風の音と共に、目の前が赤く染まった

真っ赤に燃え盛るような一面の紅葉――――……

 

 

刹那

フラッシュバックの様に、いくつもの“記憶”の様な映像が脳裏に浮かんできた

 

祈る人たち

沈みゆく身体

禍々しいほどの大きな“力”

 

 

 

 

   『祈りなさい』

 

 

 

 

『また、この時期が来たのか……』

『今回は、誰を――――……』

 

 

 

 

   『あなた様の血は強固な封印となり―――――るのです』

 

 

 

 

『今度は、――――さんとこの……』

『仕方ないさ…。 “あれ”は―――――いけないんだ』

 

 

 

 

   『祈るのです』

 

 

 

 

『可哀そうに……』

『まだ、お子さん小さいんだろう……?』

 

 

 

 

   『祈れば必ず、報われます』

 

 

 

 

 

 

―――――嘘よ

 

―――――――祈っては駄目よ!!

 

 

 

 

 

 

“あれ”は、封じなければ――――……

世には出してはいけない代物なのだから―――――

 

 

 

 

 

違う

 違う違う違う

 

 

 

 

 

       こんなのは、間違っています!!!!

 

 

 

 

 

 

 

ぱり―――――――ん

 

割れる――――――………

 

  あたま、が、われ、る…………

 

 

引っ張られる―――――……

 

 

 

「………い」

 

 

こんなことの為に

 

 

「………い!」

 

 

 

こんなことの為に、私は――――――………

 

 

 

「おい!! 目ぇ覚ませ!!! 沙綾!!!」

 

 

 

 

瞬間、“意識”が、現実に引き戻された

 

「あ………」

 

はっとして、その菖蒲色の瞳を開くと、目の前で心配そうに、自分を見ている拓磨がいた

 

「お、にざ、き、さ……ん?」

 

何が起きていたのか、わからず

沙綾がその菖蒲色の瞳を瞬かせる

 

 

それを見た拓磨は、「はぁ~~~~」と、大きな溜息を付き、その場にへたり込んだ

 

「あ、あの……?」

 

拓磨が、赤銅色色の髪をかきながらこちらを見る

それから、また重い溜息を付いた

 

「覚えてないのか?」

 

拓磨の言わんとすることがわからず、沙綾が首を傾げる

それを見た拓磨が、更に頭をかき

 

 

「だーかーら! お前、無防備すぎなんだよ!! 何を見たのかは知らねぇが、“あっち”に連れていかれかけてたぞ?」

 

 

「…………あっち、って…?」

 

沙綾がきょとんとしてそう尋ねると、拓磨は「あ~~そこからかぁ」とぼやく

 

「俺は、説明は苦手だ」

 

「………はい」

 

「だから~~その、なんつーか、要は、“あっち”と“こっち”がある訳で……」

 

「????」

 

「“こっち”は“現世”……つまり、この世界だな。 でー“あっち”っていうのはな……“カミ達の領域”ってやつだ」

 

「……かみ、様、ですか?」

 

「あ~ええっと…神は神でもいろいろあってだな……。 あ~~~~!!! 後は大蛇さんにでも聞いてくれ!!」

 

どうやら、拓磨はもう限界の様だった

ただ、なんとなくわかった気もした

 

閉鎖された村

神の存在が知れ渡っている場所

 

少なくとも、この季封村は“普通の山間の村”ではないという事だ

 

では、先ほど見た映像は……?

まるで、何かの断片図を見ている様だった

 

 

そう――――例えるならば、この“村”で起こっていた事

 

 

何故、そう思ったのかはわからない

ただ、沙綾にはどうしても、“なんでもなかった事”には出来なかった

 

 

それに――――……

まるで、肌に纏わり付くような、何かの気の様なものが、幾重にも張り巡らされている

否、張ってあったはずだ

 

 

この村全体に

そして、“あれ”の封印域にも――――………

だが今、それは弱まっている

それは、何故か

 

 

と、そこまで考えて、沙綾ははっとした

 

今、自分は何を考えていたのだろうか……

自然に頭に“言葉”が浮かんだが――――……

 

 

封印域?

張ってあった? ―――――なにが?

 

わからない

わからないのに、何故かそう思った

 

 

わたし、は…………

 

 

何を考えた……?

背筋がぞくっ… とした

 

 

あれは、まるで―――――……

 

 

そこまで考えて、小さくかぶりを振った

 

「知らない……」

 

「は?」

 

「私は、何も…しらな、い………」

 

沙綾が頭を押さえる

 

 

 ツキン……

 

 

頭が痛み始める

 

 

  ツキン………

 

 

考えるだけで、頭に靄が掛かったようになり、何も考えられなくなる

まるで、“何か”に抑えられているようだ

 

「おい……」

 

流石の拓磨も沙綾の異変に気付いたのか

心配そうに沙綾を見てくる

 

沙綾が頭を振りながら、一歩後ろへ下がる

 

「知らない……」

 

また、一歩 後ろへ下がる

 

「お、おい?」

 

「知らないの………っ」

 

ツキン………

  ツキン………

 

頭が、われ、る――――………

 

これ以上、“ここ”に居たら……

 

 

わた、し、は―――――………

 

 

 

     コ・ワ・レ・ル――――……

 

 

 

 

「私は、何も……知らない、の……っ!!」

 

そう叫んだ瞬間、沙綾はその場から逃げる様に走り出していた

 

何故、そう思ったのか

どうして、逃げたのか

 

わからない――――……

なにも、“わからない”

 

でも何かが、囁く

“ここ”は“駄目だ”と

これ以上“関わっては駄目だ”と

 

また繰り返すの……?

“あの時”と、同じことを繰り返すの?

 

 

 

それは、駄目

それだけは――――駄目だ

 

だから……

だから、私は“あの時”―――――……

 

 

ツキン……

  ツキン……

 

 

あたま、が、われ、る………

 

   記憶の渦にのまれそう―――――………

 

“あの時”とは、何?

なにが、“駄目”なの…?

 

 

わからない

何も、わからない

 

 

わからないのに、本能が囁く

駄目だと

 

 

 

 

 

    “ここにいたら、きっとワタシは、コワレル――――………”

 

 

 

 

 

「はぁ……っ、は………」

 

走るのが辛い

まるで、身体の力が全部抜けていくようで―――……

 

「…………っ」

 

不意に、足元に何かが引っかかった

いや、引っかけられた

 

突然の事に体制を保てなくなり、沙綾はそのまま前に倒れそうになった

慌てて、傍に合った樹にしがみ付き、体制を立て直す

 

な、に……?

 

足首を見ると、何か痣の様なものが出来ていた

 

ぞくり……

と、背筋が凍る気配―――……

 

 

瞬間、周りの空気が変わった

いや、変わったというより、モノというモノの“気配”がすべて消えた

 

 

これ、は―――……

 

 

辺りが真っ赤に染まっている

 

おかしい

何かが、おかしい

 

 

さっきまで、夕日は沈みかけていて、もう月が昇り始めていたというのに

これではまるで、真っ赤な夕焼けの世界――――……

 

え………

どう、いう、こ、と………?

 

 

困惑した様に、沙綾が辺りを見回す

 

しん……と静まった森の中

気配という気配がなにも感じられない

まるで、異空間に閉じ込められたような――――……

 

 

異空間……?

いや、違う

 

 

   これ、は――――………

 

 

脳裏にひとつの文字が浮かぶ

 

 

 

 

       『結界』

 

 

 

 

何故、そう思ったのか

それは、わからない

 

だが、“これ”は“結界”だと、何かが囁いた

 

結界?

結界って……何………?

 

 

そんな考えが、頭をよぎる

 

その時だった

 

 

ずる……ぺた……

 ずる……ぺた……

 

と、何かおぞましいものを引きずるような気配を感じた

 

はっとして、そちらを見ると――――……

 

「な………」

 

そこには、生き物……と言っていいのかわからないような

“謎のモノ”がいた

 

 

どろどろに溶けて形をほとんど成していない

バケモノ―――――……

 

 

いや、違う

これ、は……“なれ果て”だ

 

 

何かがそう囁いた

 

 

そう――――“なれ果て”

“カミ”になりそこなった、“なれ果て”

 

 

  ツキン……

 

 

頭が、いた、い……

 

痛みが警音の様にどんどん酷くなる――――……

そう―――まるで、この“なれ果て”を“警戒”する様に

 

 

「うっ………」

 

 

沙綾が、樹を支えによろよろと起き上がる

 

ここにては駄目だと、何かが囁く

 

 

逃げないと――――……

 

そう思うも、逃げるとは、どこに?

逃げ場など―――ない

 

そう――――“ここ”はもうこの“なれ果て”の領域の中なのだ

 

瞬間、頭にある光景が浮かんだ

 

 

金色の稲穂がなびき、風が吹く

空は秋晴れ

その中に立つ、巫女装束の少女が一人――――……

 

 

菖蒲色の瞳をした、自分とよく似た面持ちをした少女

彼女は、こちらを見るなり にっこりと微笑んだ

 

 

そして、ゆっくりとその薄紅色の唇で

 

 

 

   『沙綾………、ごめんね……………』

 

 

 

そう言って、その菖蒲色の瞳から涙を流した

 

 

 “待って!”

 

 

そう叫ぶ

だが、その声は彼女には届くことなく――――……

 

ゆっくりと、彼女が去っていく

遠く、ずっと遠くの場所へ――――……

 

 

もう会えない

二度と、会えない……

 

 

大切だった

一番、大事だった

 

 

なのに、私は―――――………っ

 

 

 

 

―――――涙が、零れた……

 

 

 

 

助けられなかった

どんなことをしても、助けると誓っていたのに――――……

 

 

彼女の“命の灯火”が消える時に、何も出来なかった

ずっと……

ずっと、見ていることしか出来なかった……

 

 

 

ワ、タシ、ハ……

 

  助ケ、ラレ、ナカッタ……

 

 

 

がくっと、沙綾がその場に膝を付く

 

 

そうだ、助けられなかったのだ………

あんなに、大事にしていたのに………

あんなに、大切に想っていたのに…………

 

 

 

護れなかった―――――………

 

 

 

次第に、沙綾の瞳の色が消えていく……

 

どこからか、何かが近づいてくる音が聴こえてくる

ひとならざるモノが、近づいてくる気配――――………

 

 

ああ……私は、知っていた

彼らが、どういう“存在”なのか……

 

 

そう――――知っていた、筈だ

 

なのに、イ、マ…は………

 

 

 

「…………………」

 

 

 

もう、何も考えたくない――――……

 

 

視界が闇に変わっていく

何も見えない――――真っ暗な“闇”

 

 

 

沙綾がその微かに残る光を閉じようとした時だった

 

 

 

 

「閉じるなぁ!!!」

 

 

 

 

何処からともなく、声が―――聞こえた

 

「だ、れ……?」

 

 

はっきりしない頭に、響く

とても、力強く鮮明な声

 

 

これ、は――――……

 

 

瞬間、目の前の“闇”に亀裂が走った

 

 

ビシ……

 ビシビシ……ッ!

 

 

その亀裂はどんどん、大きくなっていき――――……

 

“光”が、差し込

 

その“光”が目を開けてられないほど眩く輝いた時、それは起きた

 

 

 

 

 

「目を覚ませえええ!!!」

 

 

 

 

 

 

        パリ―――――ン……!

 

 

 

 

 

 

“闇”が―――――消えていく

ガラガラガラと、音と立てて崩れていく―――……

 

 

全てが“闇”だった世界に差し込む、一陣の光

それは―――――……

 

 

 

 

「お、にざ、き……さ、ん……?」

 

 

 

 

そこにいたのは、拓磨だった

拓磨が身体を半分空間にねじ込ませて手を伸ばしてくる

 

 

「………………」

 

 

まさか、“誰か”が現れるとは思わず、沙綾が放心していると

拓磨が苛ついたように

 

 

 

「なにやてるんだ!! さっさと手ぇ伸ばせ!! 長時間はもたないぞ!!?」

 

 

「え……? あ……」

 

言われて、思わず伸ばされていたその手を掴む

すると、一気にぐいっと引っ張られた

 

「せぇ……のっ!!」

 

 

掛け声とともに、その空間から強制的に引っ張り出される

不意に視界が開けたと思った瞬間――――………

 

 

 

 

どさっ……!

 

 

 

 

「きゃっ……!」

 

 

体制を保てなくなり、そのまま拓磨の上に倒れ掛かった

瞬間、ごんっ!!という、鈍い音が上部から聞こえた

 

何かとも思い顔を上げると

拓磨が頭を木の根にぶつけたのか、「痛っ……」と呟きながら、頭をさすっていた

 

「あ………」

 

慌てて、拓磨に手を伸ばす

 

「す、すみません……っ、鬼崎さ―――」

 

そう名を呼ぼうとした時だった

拓磨がはっとして、逆に沙綾の手をぐいっと引っ張った

 

「きゃっ…」

 

突然の、拓磨の行動に沙綾が困惑する間もなく、背に庇われた

 

 

「来るぞ!!」

 

「え……?」

 

はっとして前を見ると――――

そこには、得体の知れない“何か”がそこにいた

 

 

 

 

   

 オ、オオオ、オオオオオオ

 

 

 

 

 

声とも音とも取れるような“何か”が辺り一帯に響き渡る
その瞬間

 

 

ずる……べた……

 

  する……べた………

 

 

「おいおい、冗談はよしてくれよ…」

 

拓磨が皮肉めいた言葉をつぶやく

周りの樹々から何体もの“何か”が姿を現したのだ

 

 

これは、な、に………?

 

一体、何が起ころうとしているのか……

それを知る術を、沙綾は持ち合わせていなかった

 

そして、これが“はじまり”なのだと

気づかされるのは、もうすぐそこまで迫っていることを

 

 

 

 

       知る由もなかったのだった―――――――――………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あら? 何やら出会ったようですwww(歓迎はしてない( ・`ω・´)キリッ)

そして、まだ宇賀谷家に行ってないというなwww

 

とりあえず、穏やかに、行かせてはくれなさそうです

※一応、原作でもオボレガミに襲われかけるしね~~

 と言っても、完全に展開がオリジナル( ;・∀・)

 相変わらず、元の原型を留めてないです

 もう真・古戀唄でいいじゃねぇか?笑

 ってかんじですねぇ~~~~~~~~~~~~はっはっは

 

前:2008.05.26

※改:2020.06.07