古戀唄 ~緋朱伝承~

 

 序章 外界 3

 

「……………」

 

何故、こんな事になっているのか……

 

外を見れば、もうすでに夕日が空を赤く染めていた

あの紅葉と同じように

 

「はぁ……」

 

沙綾は、小さくため息を付き、両隣に座って、買った“お土産に”ご満悦の二人をみた

名前は………

 

確か、銀髪の綺麗な面持ちの青年が「狐邑 祐一」

そして、沙綾を挟んで反対に座っている小さい人が「鴉取 真弘」

 

後は……ちらっと、前の座席に座っている和装の男性が「大蛇 卓」

そして―――――……

ひとり、ぽつんと離れたところに座っている不機嫌そうな赤銅色の髪の青年が「鬼崎 拓磨」

 

ちなみに、季封村へ通じる唯一の交通手段はこのバスだけなんだそうな

それも、1日に数便

だが、バス利用者が多いわけでもなさそうだ

季封村から外に出ることはほぼないらしく、ほぼ外からくる人用の交通手段になっているようである

 

それも、めったにないそうだが……

つまりは…

 

「隔離」されている村――――……

という事に他ならない

 

何かあるというの……?

 

 

  そう――――“何か”が“あった”筈だった

 

 

何故かはわからない

わからないが―――――……

 

そう確信めいたものを感じていた

 

ただ、それがなんなのか…

そして、“それ”を、沙綾自身何も“覚えていない”筈なのに……

 

「っ…………」

 

ツキン……と、頭が痛んだ

 

“それ”の事を考えると、頭に靄がかかったように記憶が混同する

“忘れてはいけないこと”だった

そんな気がするのに―――――………

 

なにも、思い出せない………

 

病院の医師は、交通事故で一時的に記憶が飛んでいるだけで、時期に良くなると言っていたが……

交通事故……

それは、本当に起きた事なのだろうか………

 

そんな風にすら、疑ってしまう

 

ちらりと、離れたところに座っている拓磨を見る

何故かはわからない

わからないが―――――“彼”を見ていると、なにかが引っかかる

まるで、心の中のモヤモヤが大きくなっていくような――――……

 

ツキン………

 

「っ………」

 

また、頭が痛んだ

 

駄目だ

何かが引っかかるのに、その“何か”が思い出せない――――……

 

それは……ワスレテハイケナイ “モノ” だった――――………

 

            そう――――もっと、ずっと“大切”な……

 

 

     ツキン……

 

 

駄目だ…思い出そうとすると、頭に痛みが走る……

でも――――込み上げてくるこの“何か”はなんなのか……

 

「……………せ、き…」

 

ぽつりと、そう言葉が出た

瞬間、はっと慌てて口を押える

 

 

今、の、は――――……

 

 

自分でも、無意識だった

気が付いたら口にしていた

 

ふと、沙綾の異変に気付いた祐一が首を傾げる

 

「どうした?」

 

そう問われて、沙綾は少し困ったように

端正な顔がゆっくりと近づいてくる

 

え………

 

瞬間、こつんと祐一の額が沙綾の額に当てられた

 

「………………?」

 

なにをしているのだろうか…?

 

ふと、ぼんやりとそんなことを考えてしまう

すると、祐一は、ふっと笑みを浮かべ

 

「熱は、ないな……」

 

と、呟いた

それで気づいた

 

どうやら“これ”は熱を測る行為だったらしい

だが、熱とはこうやって測るものだっただろうか…?

ふと、病院で測っていた時の事を思い出す

 

少なくとも、病院の医師も看護師もこんな熱の測り方はしていなかった

と、思う

 

などと、ぼんやり考えていたら

 

真反対座る真弘が口を大きく開けて

 

 

 

「ああああああああ!!! おまっ、お前らああああああ!!!!」

 

 

 

「え……?」

 

突然、車内で声を大にして叫んだものだから

一同(と言っても、自分たちしか乗っていなかったが)がこちらを見た

 

その中には拓磨や卓も混じっていた

だが、二人は離れて座っていた為、なにが起きたのかわかっていないようだった

 

しかし、一部始終を見ていた真弘はわなわなと震えだし

 

 

「い、いいい今……っ」

 

 

何かを言おうとしているが、言葉にするのが躊躇われるのか…

なにやら、口をもごもさせていた

 

「………?」

 

沙綾が、不思議そうに首を傾げる

当の本人、祐一も何故真弘がそんなに叫ぶのかわからず

 

 

「……どうした? 真弘」

 

 

と、口にしたが……

 

真弘は、顔を真っ赤にして口をぱくぱくしていた

それを見た、拓磨は、何か分かったのか…

はぁ~~~と大きな溜息を洩らし

 

「違いますよ、真弘先輩……祐一先輩は、こいつの熱を測ってただけっすよ」

 

そう言って、面相くさそうに頭をかいた

拓磨の言葉を聞いた瞬間、真弘が「へ?」と、素っ頓狂な声を上げたが

次の瞬間、ふんぞり返って

 

「ふ、ふん! い、言われなくても、わ、わわわわ分かってたぜ? 俺はな!!」

 

と、さも最もらしげに、そう言い返してきた

それを見た、拓磨が、じと目で真弘を見た後、また大きな溜息を洩らして

 

「はぁ…、そうですか? まぁ、いいですけどね……別に」

 

と、そこまで言うと、拓磨の視線がこちらに向いたと思った瞬間――――

 

  ドス!!!

 

「いたっ……」

 

何故か、脳天から手刀が落とされた

何故いきなり、自分に手刀されるのかわからず、沙綾が頭を押さえて 抗議するように拓磨を見た

 

「お前は、無防備過ぎ」

 

「????」

 

ますます、意味がわからないという風に、沙綾が首を傾げる

すると、拓磨は「はぁ~~~」と、またなが~~い溜息を洩らしたた

 

「祐一先輩も、冗談でもそういうことはしないほうがいいっすよ。 ……色々誤解を生むので」

 

「誤解……?」

 

そう拓磨の言葉を反復した後、真弘をみて…「ああ……」と答えた

そして―――――………

 

「したいなら、拓磨もすればいい」

 

「は?」

 

そう言われた瞬間、祐一が拓磨の手をぐいっと引いた

 

「ちょ、ちょっと、祐一せんぱ………っ」

 

突然、引っ張られたものだからか

流石の拓磨も体制を整えられなくて―――……

 

「と、っと、う、うわぁ!!」

 

「きゃっ」

 

思いっきり、沙綾の上に倒れ掛かった

 

突然の祐一の行動に、沙綾も対処しきれなかったのも相まって

二人して、バスの椅子の上で倒れてしまった

と、思った瞬間―――――……

 

「あ、そこの椅子、壊れてるんで気を付けてくださいね」

 

という、バスの運転手の声が聴こえた

 

「は?」

 

「え?」

 

 

ギギギギ……となにか、嫌な音が聴こえたかと思うと―――――……

 

 

バタ――――――ン!!

 

 

と、豪快な音を立てて沙綾の席の背もたれが真後ろに倒れた

 

「えっ……きゃぁ!」

 

「ちょっ、まっ……うわぁ!!」

 

そのまま二人して雪崩の様に倒れていった

 

「お、おい! だいじょう―――――んな!!」

 

最初にそれに、気づいたのは真弘だった

それから、祐一がそれを見て

 

「ああ…」

 

と何か納得した様に、頷いた

 

「…………?」

 

沙綾は、あまりにも突然の事に頭が追い付いていなかった

が……

 

あ、れ……何か――――……

 

ふと感じた違和感に、沙綾がゆっくりと目を開ける

すると、目の前に拓磨の紫色の瞳と目が合った

 

え……?

 

唇に触れる、温かいもの

それは―――――…………

 

「っ…………!!」

 

瞬間、拓磨が顔を真っ赤にして口元を腕で抑えながら、慌てて起き上がる

 

「わ、悪いっ!!! わ、わざとじゃない!! これは事故で―――――」

 

何とか弁明しようと、拓磨が慌てて早口でそう言うが――――……

 

「………………」

 

沙綾は、ゆっくり起き上がると、何が起きたのか理解できていないという風に、きょとんとしていた

が、はたっと拓磨と目が合った瞬間……

 

「あ………」

 

脳裏に何かがよぎった……

 

真っ赤に咲き誇る“紅葉”

その中で、「すまなかった…」と嘆く声――――………

 

それは―――――………

 

 

ぽろり……

 

「んなっ!! な、泣くことないだろ……っ」

 

言われて、自分が泣いていることに気が付いた

 

「あ…れ………?」

 

私、なんで……

こんなに、“悲しい”のか………

 

おろおろする、拓磨を余所にそっと祐一がハンカチを渡してくれた

 

「拭くといい」

 

「あ……ありがとうございます……」

 

沙綾は、素直にそのハンカチを受け取ると、涙を拭った

 

「う……っ、つ………」

 

だが、次から次へと涙が零れ落ちてきて止まらない

心の中が、“悲しい”思い出いっぱいになる

 

“辛い”とか、“苦しい”とかではなく、ただただ”悲しい―――――“

“あの人”に何もしてあげられなかった事が酷く“苦しい”

 

嗚咽を洩らす、沙綾を見て流石の拓磨も少し困ったようにその紫色の瞳を揺らした

そして、ためらいがちに沙綾の方に手を伸ばしかけた時だった

 

不意に、伸びてきた祐一の手が沙綾をそのまま抱きしめた

 

「あ……」

 

突然の、祐一からの抱擁に流石の沙綾も肩を震わせた

だが、祐一は気にした様子もなく

 

「泣きたいなら、泣けばいい」

 

そう言って、沙綾の背を撫でた

沙綾は、泣くこともなんだか躊躇われて……

というよりも、これ以上“彼”に涙を見せたくなくて

そのまま祐一の肩に顔を埋めた

 

「…………っ」

 

それを見た、拓磨がぐっと何かを耐えるかのように、拳を握りしめた

伸ばしかけた手は、沙綾には届かず

 

「……別に、いいっすけどね……」

 

そうぼやくと…スタスタと元いた席に戻っていった

だから、気づかなかったそんな拓磨の背を沙綾が見ていた事に――――……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

****   ****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――季封村・村の外れのバス停留所

 

5人がバスを降りた頃には、もう夕日も沈みかけていて夜の帳が降りそうになっていた

どうも、このバス停が村で唯一の停留所らしい

 

ここから、村の中心部までは、徒歩しかないそうだ

 

「んあ~~~~~」

 

と、長時間バスに乗っていたせいで身体の固くなった真弘が背伸びをする

沙綾の方は、慣れないバスに、先ほどの騒動でベンチに座ったままぐったりしていた

 

「おーい、歩けるか?」

 

真弘がひょいっと顔を覗かせてくる

 

「……………」

 

不思議と真弘が顔を近づけてきても何も感じなかった

沙綾は「はい…大丈夫です」と、答えると、ゆっくりとベンチから腰を上げた

 

少しだけ身体を伸ばし、空気を吸い込む

不思議と、安心できた

 

それに―――――………

 

何故だろう……

ここから一望できる、村の風景を見て、どこか懐かしく感じた

 

懐かしい

 

おかしな話だ

“初めてきた場所”のはずなのに……

この“空間”を沙綾は“知っている”と思った

 

でも、それは何処で?

 

 

 

  ―――――ずっと、昔――――……

 

 

 

ふと、頭の中にそんな言葉が浮かんだ

 

昔…?

昔とは、いつの時の事だろうか………

 

考えても、何も浮かんでこなかった

ただ、“懐かしい―――……”と、それだけだった

 

「………………」

 

沙綾がぼんやり、村の方を眺めていると

 

「おら、行くぞ―――!!」

 

真弘がスタスタと歩き出す

それにつられて、祐一や今まで何も口出ししてこなかった卓も歩き始めた

 

だが、沙綾は動かなかった

いや、動けなかった

 

気が付けば、拓磨と二人……

バス停で立ち止まっていた

 

「おい? どうかしたのか?」

 

流石の拓磨も不審に思ったのか、そう尋ねてきた

そこで初めて、自分が立ち止まっている事に気づいた

 

「え……あ、いえ…何でもないです」

 

さっきの事もあり、なんだかまともに拓磨の顔を見ることが出来なかった

拓磨も拓磨で少し意識してしまうのか…

「あ~」と言葉をどもらすと、頭をかいた

 

 

 

 

 

 

「「…………………」」

 

 

 

 

 

 

長い、沈黙

 

そう感じた

でも、たぶん時間的にはそう長くはなかった筈だった

だが、沙綾には酷く長く感じた

 

ややあって、拓磨が「ん」と手を出してきた

 

「…………?」

 

何の仕草だろうと、沙綾が首を傾げる

すると、「荷物、かせ」と拓磨がぶっきらぼうにそう言った

 

「荷物? でも――――」

 

沙綾の荷物なんてたかが知れていた

元々、何も持っていなかったのだから、当然と言えば当然だった

 

あるのは小さな鞄だけ………

そんな重い訳でもないし、持ってもらわなくても自分で持てた

だが、なんだかここで断るのは気が引けた

 

「じゃぁ…お願いします」

 

そう言って、小さな鞄を渡す

拓磨はそれを受け取ると、また手を出してきた

 

「………???」

 

今度のは流石にわからなかった

すると、拓磨は「手」と言った

 

手??

 

沙綾が不思議に思い、そっと拓磨のそれに手を載せる

すると、ぎゅっと握りしめられた

 

「…………っ」

 

瞬間、握られた手から熱を帯びていくのがわかった

 

「あ、あの……」

 

流石に少し恥ずかしくなり、思わず口を開いた時だった

 

「暗いからな……その、足元に気を付けねーと、転ばれても困るから……」

 

ぶつぶつと何か言い訳じみた事を言いつつ、はっと何かに気づいたようで

 

「い、いいいい言っておくが、し、下心とかねーからな!!」

 

と、突然、言い出したものだから

一瞬、沙綾がその菖蒲色の瞳を瞬かせたが…次の瞬間、くすっと笑った

 

「はい……」

 

そう言って、にっこりと微笑んだ

 

「…………っ」

 

初めて見る、その沙綾の笑顔に、思わず拓磨が顔を赤らめる

が、悟られまいとするようにそのままふいっと前を向いて歩き始めた

 

沙綾もそれに合わせて歩き出す

 

「その…………さっきは、悪かったな…」

 

ふぃに、拓磨がぽつりと呟いた

一瞬、何のことかと思ったが、直ぐにバスでの“事故”の事だと気づき

 

「あ、いえ……気にしていませんから…鬼崎さんも、お気になさらずに」

 

そう返すと、少し安堵したように拓磨が「そっか」と返してきた

 

瞬間、ぎゅっと握られた手に力が籠る

 

あ―――――………

 

何故だろう、それが酷く安心できた

知らず、その手を握り返した

 

一瞬、拓磨がぴくっと反応するが、振り返ることはなかった

それでも、その耳がほのかに赤くなっていたことに気づき、沙綾はまた笑みを浮かべた

 

だから、気づいていなかった

いや、気づきたくなかったのかもしれない

 

 

 

 

   これから起こる、“ある刀”を巡って起こる痛ましい事件に

 

 

 

           これは、あくまでも単なる序章に過ぎない事に―――――……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、やっと舞台は季封村へ――――……

 

というか、大蛇さんひと言も話さずに終わったwww

かろうじて、名前が出た程度www

大蛇さんファンの方々、すみませんー_○/|_ スライディング土下座

なんか、タイミングがなかったんやぁ~~~!!!

 

というわけで、、バスの中で事故勃発(笑)

ええ…あれですよ、あれ!

あえて言わないwwww

 

前:無し

※改:2020.05.03