古戀唄 ~緋朱伝承~

 

 序章 外界 2

 

 

あれから、何日が過ぎたのだろうか……

沙綾は、ぼんやりと窓の外の紅葉を見ていることが多くなった

 

ただ見ているだけだ

見ているだけなのに、なぜか心がざわつく

何かを…“忘れてはいけなかった”何かを思い出しそうで……

酷く、心がざわつくと当時に、不思議と安堵感もあった

 

まだ、大丈夫

後、少し……

 

何に対しての思いなのかはわからない

だが、なぜかそう思う自分がいた

 

「どうしました?」

 

看護師の一人がそう呟く

 

「………貴女は、新しい方?」

 

始めてみる看護師だった

あの日、あの眼鏡の男が来てからだった

 

見覚えのある看護師や医師がいなくなる

気が付けば、最初に目が覚めた時にいたはずの医師や看護師は誰もいなくなっていた

 

だが、沙綾にはそれを知る術も、調べる術もなかった

ただ、ぼんやりと外の紅葉を見るだけの日々―――――………

 

いつまでここに居ればいいのだろう……

いつしか、そう思う様になっていた

 

戻らないと――――――……

 

何故か、そう思う気持ちが次第に大きくなっていった

でも、どこに?

それがわからない

 

私は、どこで何をしていたのだろうか………

 

ざわざわと、心がざわつく

 

 

そうしてまた数日過ぎた時だった

 

「やぁやぁ、元気そうで」

 

飄々としたよれよれのスーツの眼鏡の男が、またやってきた

ぴくっと沙綾の顔が険しくなる

 

何故だろう……

心の中で、「この男はだめだ」と囁く自分がいる

「危険」だと

「近づいてはいけない」と

 

前回会った時よりも酷く警戒している沙綾に、男はやれやれと頭をかいた

 

「……そんなに警戒しなくてもいいんじゃないかな? あ、せんべい食べる?」

 

そう言って胸元からせんべいの袋を取り出す

 

「………………」

 

沙綾が黙っていると、男は「ふーん」と声を洩らし

ぱりんっと、取り出したせんべいを自分でかじった

 

「美味しいのになぁ…」

 

そう言って、また ぱりんとかじる

 

この男はここに何しに来るのだろうか?

そんな疑問が脳裏を過る

 

一瞬、知り合いの誰かだったのだろうかとも思ったが……

どんなに記憶をたどっても、この男の顔も声も出てこなかった

 

「………貴方、誰?」

 

沙綾がぽつりと、そう呟いた

すると男は、にやりと笑みを浮かべ

 

「んん~? 誰かなぁ……」

 

などと言ってとぼけた風にはぐらかされた

そして、さもその事はどうでもよさげに

 

「君さ、僕の事よりも自分の事考えたほうがいいよ?」

 

「え……?」

 

一瞬、何のことを言われているのかわからず、沙綾が首を傾げる

すると、眼鏡の男は、にやりとその口元に笑みを浮かべ

 

「……まぁ、行き先なんて決まってるけどね。 そうだろう?(・・・・・・)

 

そう(・・)男が言った途端、キ―――――ン…と、頭の中で何かが響いた

視界がぐらつく

 

「………………っ」

 

溜まらず、沙綾が頭を押さえた

すると、男がそっと沙綾な肩に手を置いた

 

「そう――――君は分っているはずだ(・・・・・・・・)。 よく思い出して(・・・・・)ごらん」

 

思い…出す………?

何を?

 

 

 

  “あれ”を

 

 

 

どうするの?

 

 

 

   護らなければ――――……

 

 

 

一瞬、脳裏に過る赤い紅葉と悲しげな男の人の声――――……

 

『すまなかった……』

 

男がそう呟く

 

 

  謝らないで――――………

 

 

そう、伝えたいのに、言葉が出ない

もう――――出せない

 

身体も動かない

意識が遠のいていく―――――――……

 

 

 

 

ぐらり…と、沙綾の身体がベッドに倒れた

 

頭が朦朧とする

まるで、何かに支配されるかのように、自由が利かない

 

「な、にを………」

 

それが最後の言葉だった

完全に、沙綾が意識を手放したのを男は確認した後、「やれやれ」と声を洩らした

 

「予想外に手間取ったな……やはり、歴代最高位の霊力の持ち主は違うねぇ~。 でも……」

 

さらっと、沙綾の長い漆黒の髪に触れる

男は、くすっと笑い

 

「残念だけど、君はもう僕のお人形さんだよ。 …ねぇ? 姫」

 

面白そうにそう笑う男の声は、もう沙綾には聞こえていなかった――――……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

******

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……身元引受人?」

 

その話は唐突に告げられた

なんでも、両親が事故で亡くなり、身内が一切いなくなった沙綾を引き取りたいという人物がいるという

あまり、ぴんとこなくて、沙綾は返答に困った

 

まさか、あの眼鏡の男だろうか…?

そんな不安が頭をよぎる

だが、それはあっさり覆された

 

「やぁやぁ、おそろいで」

 

突然、あの眼鏡の男が病室に現れた

そして、ひと言

 

「言っとくけど、僕は身元引受人とか面倒な役目はしないよ~。 安心した?」

 

まるで沙綾の心を読んだかのように、そう答えた

その答えに、思わずほっとする

すると、眼鏡の男はくっと笑いながら

 

「そう、あからさまに安心されると傷つくなぁ~。 ま、いいけど」

 

さも、どうでも良さそうに男はそう答えた

そして、「あ、せんべい食べる?」と、いつものように懐からせんべいの個袋を取り出す

 

「……………」

 

沙綾が反応に困っていると、眼鏡の男は

 

「ああ、君の身元引受人の人だけど――――……」

 

と、突然 本題を話し始めた

 

どうやら、男の話だと

沙綾の身元引受人になったのは、宇賀谷静紀という老年の女性らしい

なんでも、代々その村の唯一の神社を管理しているそうで

お孫さんはいらっしゃるらしいが、離れて暮らしているという

 

なぜ、その方が自分の身元引受人になられたのかは、沙綾にはわからなかった

すると、眼鏡の男はせんべいをかじりながら

 

「場所は、季封村っていう山奥の村なんだけどね。 まぁ、自然があっていいんじゃないかな? あ、その宇賀谷さんのとこの神社の名前は―――――」

 

「……たま、よ、り………」

 

知らず、口が動いた

 

瞬間、はっとして慌てて自身の口元を隠す

だが、男はにやりと口元に笑みを浮かべ――――…

 

「そうだよ、“玉依毘売神社”。 なんだ、知ってたんだ(・・・・・・)

 

“知っていた”

その言葉に、何故か違和感を覚える

 

だが、その違和感が何なのか、沙綾にはわからなかった

 

「とりあえず、明日。 迎えの人来るから、じゃね~」

 

それだけ言うと、眼鏡の男は手を振って去っていった

沙綾はなんとも言えない、不安感と違和感を抱かずにはいられなかった――――――……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――翌日・早朝

 

まだ、朝日が昇るより前にその“迎えの人”はきた

 

「お前が、ババ様の世話になるとかいうやつか……?」

 

ぶっきらぼうにそう言う赤銅色の髪の青年が、腕を組みそこに立っていた

 

「……あなた、は?」

 

始めてみる顔のはずだった

なのに……

 

どうしてだろう………何故か、酷く懐かしく感じるのは――――……

知らず、彼を見た瞬間 沙綾の菖蒲色の瞳から涙が零れ落ちた

 

「んなっ!?」

 

ぎょっとしたのは、他でもないその青年だった

 

「………っ、ご、めん、なさ……」

 

自分でもなぜこんな哀しく想うのかわからない

ただ、彼を見ていると、封じたはずの何かが呼び覚まされるようで――――……

 

「あ~えっと……」

 

青年がどうしていいのかわからず、頭をかく

その時だった

 

「どうした? 拓磨」

 

ふいに、廊下の方からもう一人の青年が姿を現した

 

「…………っ」

 

その“彼”を見た瞬間、沙綾は今までにないくらい、驚いたように大きくその菖蒲色の瞳を瞬かせた

 

そこにいたのは――――……

綺麗な銀糸の髪の美しい青年だった

 

「……げん、と…うか……………?」

 

知らず、そう口にしていた

 

「「え?」」

 

思わず、二人の青年が沙綾を見る

沙綾は はっとして、慌てて首を振った

 

そんなはずない

だって、“彼”はあの時―――――………

 

あの時?

あの時とは、いつのことだろうか

 

何か思い出しそうだったのに、頭にもやがかかったように思い出せない

まるで、その記憶を封じられているかのような………

 

そんな、はず……

 

「……………っ」

 

沙綾が思わず頭を抱えて、ベッドに寄り掛かる

 

「お、おい、お前……」

 

赤銅色の髪の青年がおろおろとしながら、銀髪の青年に助けを求める様に見る

すると、銀髪の青年は、はぁ…と、ため息を洩らし

 

「すこし落ち着け、拓磨。 こういう時は、看護師を呼べばいい」

 

そう言って、銀髪の青年がベッドの横にあるナースコールに手を伸ばしかける

 

「ま、待ってください!!」

 

沙綾は慌てて、ナースコールで呼ぼうとする銀髪の青年の手を取った

 

「呼ばないで、お願いです……」

 

「だが……」

 

青年がそう言うが、沙綾はかぶりを振り

 

「大丈夫ですから…」

 

何とかそう言って、その場を収める

これ以上、ここの人に迷惑はかけたくない

 

その時だった

 

「おーい! まだか~?」

 

「え……?」

 

不意に病室の外から声が聴こえたかと思うと、小柄だが、態度の大きそうな青年が入ってきた

その青年はずかずかと沙綾の病室に入ってくると辺りを見渡し

 

「な~に、時間掛けてんだよ、拓磨、祐一」

 

え……誰……?

 

流石に三人目が現れるとは思わなかったのか、沙綾は少し戸惑ったように

 

「あ、あの…皆様は……」

 

そう、恐る恐る尋ねる

すると、最後に入ってきた小柄な青年が、こちらを見て

 

「お前が、ババ様の言ってたやつか?」

 

ババ様……?

聞きなれない言葉に、沙綾が首を傾げる

 

すると、赤銅色の髪の青年が

 

「そうじゃないんですか? 多分?」

 

と、いい加減な事を言うものだから、

すかさず、銀髪の青年が

 

「拓磨、いい加減はよくない」

 

と、いたってまともな事を言ったと思ったら……

 

「帰りに買う予定の、いなり寿司は日月堂以外の物は許可しない」

 

「いや、誰もいなり寿司の話なんてしてないっすよ? 祐一先輩」

 

「はぁ!? 帰りに寄るのは、一風堂の焼きそばパンって話だろ!?」

 

「いやいや、何言ってるんすっすか!? 真弘先輩まで!!」

 

えっと………

 

「寄るなら、かりん堂のたいやきっすよ!!」

 

「………………」

 

この方たちで…いいの、よ、ね……?

 

なんだか、本当にこの三人が迎えの人なのか心配になってきたが…

聞こうにも聞ける雰囲気ではなかった

 

目の前では、やんややんやと三人がどこに寄るんだとか、何を買うんだとか言い争っている

 

とてもじゃないが、あの中に割って入るのは、いささか遠慮したいものだった

だが、言い合い(?)は、どんどんエスカレートしていくし、収拾がつかない状態になっていた

 

どうしたものかと、考えあぐねている時だった

 

突然、ぱんっと手を叩く音が聴こえてきた

はっとして、そちらを見ると

そこには、長めの髪に和装の 優しそうな雰囲気の男性がにっこりと微笑んでいた

 

「………お、おおお、大蛇さん!?」

 

「げっ…やばっ」

 

「大蛇さん、何故ここに?」

 

と、三人がそれぞれ口を開いた

すると、大蛇と呼ばれた男性は絶対零度のような微笑みで

 

「三人とも、病院では静かにするものですよ? それが、なんですか……君たちはろくに人を迎えに行くことすら満足に出来ないんですか?」

 

ビュオオオオオオオ

 

と、ブリザードが襲ってきたような錯覚を覚える

 

この人………

 

ごくりと沙綾が息を飲む

すると、その男性は目の前の三人を余所に、沙綾の方を見てにっこりと微笑んだ

 

「貴女が、霞上 沙綾さんですか?」

 

丁寧な口調で、そう確認してくる

 

沙綾が「はい……」と、答えると、男性はにっこりと微笑んで

 

「申し遅れました、はじめまして。 私は大蛇 卓と申します」

 

そう言って、丁寧にお辞儀をした

それを見て、沙綾も慌てて頭を下げる

 

「あ…初めまして。 霞上…沙綾と申します」

 

そう答えると大蛇と呼ばれた男性はにっこりと微笑み

 

「貴女の事は、ババ様から伺っております。 我々はババ様の命で貴女を迎えに来たのです」

 

「あ、はい…」

 

どうやら、彼らが正真正銘の迎えの人たちらしい

でも―――――……

 

向こうの言い争っていた制服姿の彼らと、この和装の人はどういった関係なのだろうかという疑問が浮かんだ

年も離れているであろうし、何よりもさっきの彼らの反応からして、学校関係者ではなさそうだった

 

それに………

 

「あの………」

 

一番の疑問を問いかける

 

「ババ様というのは……?」

 

そう尋ねると、大蛇はにっこりと微笑み

 

「これから、貴女が世話になる方ですよ」

 

と、答えた

これが、“守護五家”と呼ばれる彼らとの出会いだった―――――……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

緋色rewrite版 2話目です

原型どこいったwwww

 

面倒くさかった(おい)んで、すぱっと守護五家の4人出しましたwww

しかし、名乗っているのは大蛇さんだけというなww

 

残り三名は相変わらずですね( ̄▽ ̄)ノ_彡☆バンバン!

 

前:2008.05.26

※改:2020.02.23