古戀唄 ~緋朱伝承~

 

 序章 外界 1

 

 

はらりはらり

赤い何かが降っている

はらり・・・はらり・・・・・・・・・

それは辺りを赤く埋め尽くし一面赤色の世界を作っている

 

「封じられたのか」

 

低い男の声が聞こえる――――

注がれる視線・・・

 

「封じられたのか」

 

もう一度、囁く様に…消える様な声で男は呟いた

私の頬に何かが落ちてくる

冷たい・・・暖かい・・雫・・・・・・

 

「すまなかった」

 

『謝らないで下さい』

 

声にならない声が紡がれる

音にならない声

 

「すまなかった」

 

男の低い声だけが辺りに響き渡る

はらりと緋色の欠片が降ってくる――――

 

『謝らないで……』

 

声が出ない 言葉にならない 伝えたいのに……

 

『泣かないで下さい』

 

本当はこんな事が言いたいのでは無い

本当はもっと・・・もっと――――

 

手を伸ばしてその涙を拭いてあげたいのに…

手が・・・体が動かない・・・・・・

 

『ごめん・・・な、さい・・・・・・』

 

ただ一言、一言言いたいのに・・・・・・

 

誰か・・・彼を助けてあげて・・・・・・  私はもう助けてあげられないから・・・・

誰か助けてあげて・・・伝えたいの・・・ただ一言伝えたいの・・・・・・

 

 

 

私は・・・私は――――――――・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――様・・・・・・」

 

 

少女の声が響いた――――

そして――――

 

 

「おいで…出よう」

 

暗闇の中、差し伸べられる手が――――・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

古戀唄 ~緋朱伝承~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――某所管轄・病院内

 

その時のことはよく覚えてない

 

気が付いたとき、なぜか真っ白な部屋にいた

ベッドの脇で看護師の方や先生方が驚いていたのは、記憶に新しい

 

先生はこう言った

 

『ご両親の事は、残念だったね…』

 

 

一瞬、何を言われているのか理解出来なかった

 

先生の話だと、どうやら両親と出かけている最中に交通事故にあったそうだ

そして、その事故で唯一助かったのは自分だけだという

 

いまいち、先生のおっしゃられることがぴんっと来なくて、返す言葉が浮かばない

残念だったと言われても、その“両親”・・・・・・それすら頭に浮かばない

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

反応なく、沈黙していると

看護師が少し困ったように

 

『先生、もしかして彼女・・・・』

 

『ああ、可能性としては、捨てきれないな』

 

という、謎の会話をしていた

 

何のことだろうか・・・・・・?

不思議に思い首を傾げると、先生は

 

『でも、彼女が助かっただけでも良かった・・・・・・』

 

そう言って頷くと、こちらを見た

その動作が余りにも不自然で、違和感を感じた

 

だが、先生は気にした様子もなく

 

『目が覚めたばかりだ。 少し休みなさい』

 

そう言って、部屋を出ていった

一人、真っ白な部屋に取り残され、小さく息を洩らす

 

「わたし、は・・・・・・」

 

何故だろう・・・

 

何か、大切な事を忘れているような―――・・・・・・

絶対に、忘れてはいけないことだったのに・・・・・・・・・・・・

 

 

よく――――思い出せない

 

 

ふと、ひとつだけある窓の外を見る

綺麗な赤い葉がはらはらと舞う樹があった

 

「あ・・・・・・」

 

思わず、窓の外に身を乗り出しかける

 

瞬間、頭の中に何かのイメージが浮かんだ

 

はらりはらりと、舞う真っ赤な葉

頬を伝う涙

 

そして――――

 

 

 

 

 

 

   『すまなかった・・・・・・』

 

 

 

 

 

 

優しい、声――――・・・・・・

 

あれ、は――――・・・・・・誰?

思い出そうとすると、ずきりと頭が痛んだ

 

「う・・・・・・・・・」

 

ずきん

 ずきん・・・・・・

 

頭が、いたい・・・・・・

 

でも、“これ”は忘れてはいけなかった事だった―――――・・・・

 

そんな気がした

 

 

で、も――――・・・・・・

 

 

激しい痛みが頭を襲う

 

思い出せない

忘れてはいけないことだったのに

忘れてはいけない筈だったのに・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

思い出せない―――――なにも―――――・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                             ※         ※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふ――――ん・・・・・・」

 

その様子を、無精髭のスーツ姿の男が見ていた

 

“彼女”は窓の外に何かに気づき、頭を押さえていた

 

「うーん、少し掛が甘かったいかな~」

 

そんなことをぼやきながら、男は顎をさすった

 

「どうするのですか?」

 

先ほどの白衣の医者がその男に問う

すると、男は決まったようににやりとその口元に笑みを浮かべ――――・・・・・・

 

「なに、簡単な事だ」

 

そう言って、ばんっと大きく扉を開いた

そして、医者のほうを見て

 

 

 

「甘いなら強くすればいい――――・・・・・・」

 

 

 

「し、しかし―――――!」

 

医者は男に向かって叫んだ

 

「これ以上は危険です!! すでに、記憶の混同もの症状も見られる…これ以上“強く”すれば、人格崩壊の可能性も――――」

 

そこまで言いかけて、医者はぎくりとした

医者を見る男の瞳がひどく冷淡に見えたからだ

 

有無を言わせない――――絶対零度の瞳―――・・・・・・

 

すると男は、口元だけに笑みを浮かべ

 

「きみ、さ・・・・どっち“側”の人間?」

 

「そ、それは――――・・・・・・」

 

そこまで言って、医者は言葉を詰まらせた

そして、ごくりと息をのみ・・・・・・

 

「・・・・・・貴方様と同じ“側”、で、す・・・」

 

そう答えるのが精一杯だった

いや、そうとしか答えることを許されなかった

 

男は「ふーん」と、呟くと懐に仕舞っていたせんべいを ぱりん と、歯で砕いた

その音が嫌に大きく聞こえ、医者がびくっとする

 

が、男は気にした様子もなく、くっと笑みを浮かべ

 

「おりこうさん」

 

それだけ、そう洩らすと ひらひらと手をあげて部屋を出ていった

瞬間、どっと医者の背に汗が流れた

 

殺される―――――・・・・・・

 

一瞬、そんな考えが頭をよぎった

もし、あそこでNOと言っていたら、自分は死んでいたかもしれない

 

それぐらい、あの男なら平然とやってのける

そう思うと、恐怖で今更手が震えてきた

 

「は、はは・・・・情けないな・・・・・・」

 

医者としては反対すべきことなのに――――・・・

”彼女“より”自分の命“を優先した―――――・・・・・・

 

これが、笑わずにいられようか

 

「医者としては、最低だな・・・・・・」

 

その言葉は、力なく消えていった――――・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから、数日が過ぎた

“彼女”は相変わらず窓の外にある赤い葉の樹を見ていた

 

なにをするでもない

ぼんやりと、眺めるだけ

 

それだけだった・・・・・・

 

それが酷く“可哀そう”に見えた

そんなある日、彼女が看護師に聞いたそうだ

 

「外のあの“赤い”のは、なんですか・・・・・?」

 

 

看護師は「あれは、紅葉の樹」だと答え

すると“彼女”は「紅葉・・・・・・」とだけ呟いた

そして、また「窓の外」を見た

 

見かねた看護師が「外に見に行く?」と、言うと

“彼女”は「え・・・・・?」とだけ、答えた

 

看護師が、何を言っているのか理解できないという感じだった

看護師は少し困ったように

 

「散歩ぐらいなら、大丈夫ですよ?」

 

そう言って、窓の戸を軽く開ける

瞬間、風が吹いた

 

ざぁ・・・・・・

 

一斉に、赤みがかった紅葉の葉が舞う

 

「あ・・・・・・・・」

 

はらりはらり と、一枚の紅葉の葉が“彼女”のベッドの上に落ちた

瞬間、“彼女”が大きくその菖蒲色の瞳を見開く

 

赤い紅葉の葉が舞う―――――

 

脳裏の浮かぶ、見知らぬ影――――・・・・・・

 

 

 

 

『すまなかった・・・・・・』

 

 

 

 

聴こえる…“あの人”の声が―――・・・・

 

 

 

 

あなたは――――誰――――・・・・・・?

 

 

 

 

何か思い出せそうな――――・・・・・・

そう思った瞬間、ずきりと頭が痛んだ

 

「う・・・・・・」

 

思わず頭を抱えてうずくまる

それを見た看護師が慌てて

 

「先生を呼んできます――――――」

 

そう言って、部屋を出ようとした時だった

 

 

「その必要はないよ」

 

 

ふいに看護師の前によれよれのスーツに無精髭の男が道を塞いだ

 

「あ・・・」

 

看護師がかすかに震える

それを見た男は、かすかにその口元に笑みを浮かべると――――・・・・・・

 

「君はもうきえなさい(・・・・・)

 

とだけ言った

瞬間、看護師の瞳から光が消え――――

 

「はい・・・・・・」

 

とだけ、答えると

おぼつかない足取りでどこかと消えていった

 

「・・・・・・・・・・?」

 

“彼女”には看護師の身に何が起きたのかわからなかった

 

すると、看護師と入れ違いに部屋に無精髭の男が入ってきた

 

「やぁ、気分はどうかな?」

 

「・・・・・・・・・・・・?」

 

男の言わんとすることがわからず、“彼女”が首を傾げた

 

「えっと…ああ、名前ないと不便だね」

 

「な、まえ?」

 

とは何の事だろうか・・・・・・

やはり意味が分からないのか“彼女”が首を傾げる

 

「そう―――”名前“だよ」

 

そう言って、“彼女”のベッドに落ちていた赤みがかった紅葉の葉を取った

 

「あ・・・・・・」

 

思わず、“彼女”が声を洩らす

すると、男はにやっと笑みを浮かべ―――

 

「ちなみに、“これ”の“名前”は“紅葉”だよ」

 

そう言って、男が紅葉の葉を揺らす

 

「“紅葉”・・・・・・」

 

「そう―――“紅葉”。・・・・・・覚えた?」

 

そう言われて、“彼女”は知らずこくりと頷いた

 

「では、質問を変えよう――――。 君の名は?」

 

「私の、な、まえ・・・・・・?」

 

男の言わんとする意味が理解出来ず“彼女”が首を傾げる

すると、男

 

 

「物には必ず”名前“がある。 なら、君の”名前“は?」

 

 

なまえ・・・・・・

私の名前、は―――――・・・・・・

 

瞬間、ざぁっと視界が赤く染まった

 

 

 

 

『封じられたのか』

 

 

 

 

燃えるような“紅”――――・・・・・・

 

 

あれ、は―――――・・・

 

“彼”が自分の”名前“を呼んでくれるのが好きだった

この人だけが、自分を――――・・・・・・

 

 

 

“彼”は名がないと言った

忘れてしまった(・・・・・・・)のだと・・・・・・

 

だから、私は――――・・・・

 

 

 

ずきん・・・・・・

 

「っ・・・・・・・・・」

 

頭が痛んだ

ずきりずきりと、痛みが酷くなっていく

だが、男は気にした様子もなく

 

「そう―――ゆっくりと、思い出してごらん(・・・・・・・・)。 君の名は―――・・・・・・」

 

「わた、しの・・・なま、えは・・・・・・・・・」

 

「そう――――君の名前は・・・・?」

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・沙綾・・・・・・」

 

 

 

 

自然と、気が付くとそう言っていた

 

瞬間、男がにやりと笑みを浮かべる

 

「そう―――、君の名前は“沙綾”だ。 苗字は―――そうだな・・・」

 

男は少し考え

 

「霞上にしよう。 君の”名前“は”霞上 沙綾“いいね?」

 

そう言われて、“彼女”――――沙綾は、知らず頷いた

 

「“霞上・・・沙綾”・・・・・・私の、な、まえ・・・」

 

「そう――――霞上 沙綾だ」

 

そう言って、そっと男が沙綾の背に触れた

ぴくっと沙綾が反射的に反応する

だが、男は気にした様子もなく

 

「そして、君はこれから“ここ”を出て“季封村”に行くんだ」

 

「き、ふう、むら・・・・・・」

 

どこかで聞いたことあるような

不思議な“名”だった

 

「そうだよ、君は知ってるよね(・・・・・・)? 季封村」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

そう―――……私はその名を“知っている”

 

ずっとずっと、あの場所から・・・・・・

わた、しは――――・・・・

 

 

 

 

     “見ていた”

 

 

 

 

何もできず

見ていることしか出来なかった・・・・

 

すると、男が口元に笑みを浮かべた

 

「見ていた? 何をだい?」

 

「それは――――・・・・・・」

 

何を“見ていた”?

“何か”を“見ていた”

 

それは何――――――・・・・・・?

 

「それ、は・・・・・・」

 

「それは?」

 

 

 

 

大きな、とても大きな―――――――

ずきん・・・・・・

 

「あ・・・・・・」

 

頭が痛い・・・・・・

割れるように、痛む

 

思い出そうとすればするほど

何かが“思い出してはいけない”と言っているように、痛みが増す

 

「うっ・・・っ・・・・・・・」

 

言ってはいけない

何故そう思ったのか・・・・・・

 

言葉にしてはいけない

何かがそう頭の中で囁いた

 

ずきん・・・・

  ずきん・・・・・・

 

頭が、割れる—-――・・・・・・

 

「あ、ああ・・・・・ああああ・・・・・・・・・」

 

沙綾が頭を押さえて蹲る

 

“思い出せ”

“思い出してはいけない――――”

 

相反する二つの言葉が沙綾の頭の中で囁く

 

目の前に広がる鮮明な「紅」

崩れていく――――・・・・・・

 

大事な・・・・

  大切だった――――・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

「あ…………あああああああああああああ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

瞬間、それは起きた

沙綾を中心として何かの“力”が ずん! という音とともに、渦を巻いて発現したのだ

 

男が慌てて沙綾から離れると、「ちっ」と舌打ちをして懐から何かの護符を取り出す

 

「結!!」

 

男がそう叫ぶな否や、男の周りに何かの防壁が張られる

だが、彼女の“力”は止まらなかった

 

まるで沙綾自身の“痛み”を現すかのように、力がどんどん強くなっていく

だが――――その力と同時に、“沙綾の力以外”の気配も感じた

 

「ちっ、やっぱりあのばーさん、くえねーな」

 

男がそうぼやく

ちらっと辺りを見ると、部屋の物が原型をとどめないほどぐちゃぐちゃになっていっている

この“力”をそのままにしておけば、いくら防壁を張ったとしても男には耐えられないだろう

 

「はっ、・・・・さすが、と、言うべきか・・・・・・」

 

最初、“彼女”の存在の話を聞いたとき

適当な御伽話だと思った

 

だが、目の前で見て確信した―――――“本物”だと

 

“実在”するのだと―――・・・・・・

それと同時に、これは“使える”――――と、思った

 

だが―――

 

男はばばっと九字を切ると、叫んだ

 

 

「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前!」

 

 

瞬間、男の周りに力が集結する

やぶさかではないが―――――この程度まで(・・)なら、自分の力でもなんとかなる――――・・・・

 

男はさらに叫んだ

 

 

 

 

   「縛縛縛律令!!」

 

 

 

 

びしっ・・・・!!!

 

沙綾の身体が何かに縛られたように拘束される

 

「あ・・・」

 

それと同時に、沙綾の纏っていた“力”が終息する

瞬間、ぐらり・・・・・・と、彼女の身体がその場に崩れ落ちた

 

「ふぅ・・・・・・」

 

男はやれられという感じに、額の汗をぬぐう

あの程度(・・・・)だから、なんとかなたが・・・

彼女が“本当の力”を取り戻したら

とてもじゃないが男程度では太刀打ち出来ないだろう・・・・・・

 

「やれやれ・・・・・・これは、コトを早急に進めないとダメかな・・・?」

 

そう言って、懐のせんべいを取り出すと、 ぱりん と口にしたのだった――――・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

殆ど、書きおろしたwwww

ちょっと書き直す程度の予定だったんですが・・・

どこがちょっとやねーん!!ヾ(°∇°*) オイオイ

って感じですなwww

 

まぁ、いいや・・・・・

最初のほうはそのまま使ってる(ほんの数行だけ)し~~( ̄▽ ̄)ノ_彡☆バンバン!

 

これは、まぁこれでいいんじゃね??

 

無精髭の男はもちろん……v( ̄∇ ̄)ニヤッ

 

 

 

 

前:2008.05.26

※改:2020.01.19