舞い降りて 我謡いし玉響の
      今一夜の夢の如く

 

 第壱幕 雨の音1

 

 

 

 

―――――また、あの夢だ

 

紫紺の瞳をした青年が立っている

青年の手には、あの面があった

 

青年は、何をするでもなく・・・・・・ただ、じっと面を見ていた

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

ごくりと、美月は息を飲んだ

今なら、話しかけられる・・・・・・?

 

そんな気がしたからだ

 

「あ、あの・・・・・・」

 

勇気を出して、美月は声を出した

ふと、何かに気づいたように、青年がこちらを見る

 

「あ・・・・・・」

 

一瞬、目が合った様な気がした

すると、青年がその紫紺の瞳を一度だけ瞬かせると、面を置いて ゆっくりと近づいてきた

 

ぎょっとしたのは、美月の方だった

確かに話し掛けられるかもしれない―――とは思ったが…

 

向こうから近づいてくるとは思わなかったからだ

思わず、ぎゅっと目を瞑る

 

すると、青年は美月には気づいていない様に、そのまま

すっと、横をすり抜けていった

 

美月がはっとして振り返ると

青年は、いつの間にか消えていた

 

落胆にも似たため息が洩れる

 

「見えてないのね・・・・・・私の事は・・・」

 

あの反応から察するに、そうなのだろう

でも、これは美月が勝手に見ている夢だ

気づかれる方がおかしい

 

「・・・・・・そうよね、夢なのだもの・・・」

 

気づく筈がない

 

気づく筈が―――――・・・・・・

 

では、何故?

彼は何処に行ったのだろう?

 

そう思い、青年が消えた方を見た時だった

 

ぼぅ・・・・と、後ろにあった面が命を得たかのように浮き上がった

 

「―――――え?」

 

まるで、誰かが付けているかのように、面は、すすすっと美月に近づいてきた

ごくりと息を飲んだ

 

その時だった――――

 

 

“娘―――かの者を助けたいか?”

 

 

脳裏に何かの声が響く

 

これは・・・・・・な、に・・・?

 

ここには、美月と面しかない

 

「あ、なたは――――?」

 

 

“我が名は斉陵王―――この面は、我の物・・・・・・”

 

 

「さい、りょ、う、おう・・・・・・?」

 

初めて聞く名だった

 

 

“そう――――斉陵王だ”

 

 

そう言って、面がすっと外される

すると、いつの間にいたのか、そこには女性を見間違うほどの美しい青年が立っていた

 

「貴方が―――“斉陵王”・・・・・・さん?」

 

そう美月が問うと、彼は小さく頷いた

そして、そっと持っていた面を見る

 

 

“我は―――この容姿故に・・・・・・戦場において不当な扱いを受けていた―――故にこの面を付けて戦う様になったのだ”

 

 

そう言って、その面をつけて、腰の剣をかかげる

 

 

 

 

“我こそは、斉陵王!! 我を恐れぬものは挑んでくるがよい!!!”

 

 

 

 

“そう言って、我は戦い続けた―――何十年もの間、ずっとこの面をつけてな”

 

 

気が付けば、血の海にいた

敵の屍の上を歩きながら、高らかに笑った

 

 

“そうした、我の思念と、我に斬られた数多の魂の怨念がこの面には宿っている”

 

 

そう言って、彼はその面を取った

 

 

“故に、この面を付けた物は非業の死を遂げる――――と、伝わっているようだな”

 

 

「え・・・・・・」

 

非業の死って・・・・・・

じゃぁ、あの人は―――――・・・・・・

 

脳裏に浮かぶのは紫紺の瞳をした青年

 

それを読み取ったのか、彼はふっと笑みを浮かべ

 

 

“案ずるな、この面自体には何もない・・・・・・今は、な”

 

 

「今って・・・・・・」

 

どういうこと・・・・・・?

なんともない、の、よね・・・・・・?

 

でも、何故だろう・・・・・・

この彼の持つ面から感じる嫌な気配は

 

 

それに、いつもの夢では自分はこの面を付けることを止めていた

それは、何故?

 

その時だった

ふと、彼が遠くを見て

 

 

“ふむ・・・・・・この面に惹かれて悪しきものが来る様だ・・・・・・。 娘”

 

 

「は、はい!」

 

美月が慌てて返事をする

すると、彼はふっと微かに笑い

 

 

“いつの世も、人を殺せるほどの思念をもつものはいる。 恨みや妬み、そういうものが人を殺す――――ゆめゆめ、忘れぬように――――”

 

 

それだけ言い残すと、その面を残して彼は消えた―――・・・・・・

そこで、目が覚めた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ****    ****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・ここは・・・」

 

ゆっくりと、重い瞼をあける

身体を起こして、周りを見る

 

見た事のない調度品や、様式のものが並んでいた

辺りは暗く、しーんと静まりかえっており、人の気配を感じなかった

 

「・・・私・・・・・・・・・」

 

どうしたのだったのだろうか・・・・・・?

思い出そうとすると、ツキン・・・と頭に痛みが走った

 

「っ・・・・・・・・・」

 

思わず、こめかみを抑える

 

わたし、は――――・・・・・・

 

その時だった

カタンっと、廊下の方から音がした

 

はっとして顔を上げると、手燭を持った着物を着た女性が現れた

 

「お目覚めになりましたのですね。 良かったです」

 

そう言ってその女性は、部屋の隅にある高灯台に火を移す

そうすると、ほのかに部屋の中に明かりが照らされてきた

 

「あの・・・ここは―――・・・・・・」

 

美月がそう声を上げた時だった、女性はにっこりと微笑んで

 

「こちらは、土御門の左大臣家のお屋敷で御座います」

 

「土御門・・・・・・?」

 

聞いた事のない地名だった

しかも、「左大臣」って・・・・・・

 

それは、昔の日本史で聴いたことある身分の事だった

少なくとも、近代時代には存在しない

 

どういうこと・・・・・・・・

 

確か、私は――――・・・・・

何かのお稽古事からの帰る最中に、何かに巻き込まれて・・・・・・

 

「っ・・・・・・」

 

思い出そうとすると、頭が痛む

何故か、記憶が断片式にしかない

 

美月を見た女性は慌てた様に

 

「お加減が優れないのですか? 少々お待ちください薬師を呼んでまいります」

 

「え?! あ、あの――――」

 

慌てて美月が止めようとしたが、そのまま女性はぱたぱたと部屋を出て行ってしまった

 

1人残された美月は、ちいさくため息を洩らし、外を見た

すっかり夜の帳が降りており、外は暗いが、少し見てみたら目が慣れてきたのか、庭らしきものが見えてきた

 

その時だった

 

 

 

  り―――――・・・・・・ん

 

 

 

鈴の音が聴こえてきた

 

こ、れ・・・・・・

 

何処だったか、これと同じ音を聴いた気がする

だが、それがどこだったか思い出せない

 

なんとなく、その鈴の音が気になり

美月は起き上がると、庭の方に出てみた

 

とても広い庭だった

少し先には渡し橋や枯山水まである

 

まさか、自分はとんでもない家の方に助けられたのかと不安になる

 

その時だった

また り―――――・・・・・・ん と、鈴の音が聴こえてきた

 

まるで、美月を“呼んでいる”かの様に――――・・・・・・

 

瞬間的に、脳裏に「行かないと」と浮かんだ

裸足なのもお構いなしに、美月は庭に下りた

 

どこから・・・・・・

 

辺りを見回す

 

だが、もう鈴の音は聴こえて来なかった

呼ばれている気がしたのは気のせいだったのだろうか・・・・・・?

 

そんな不安が押し寄せてくる

その時だった

 

「まぁ! 姫様!! いけません!!」

 

不意に、屋敷の方から声が聴こえてきた

はっとして、美月が廊下方を見ると、綺麗な着物を着た 年のころからして十歳ぐらいだろうか

小さな少女が先ほどの女性の前を足早に歩いていた

 

どうやら、向かっている先は先ほど美月がいた部屋の様だった

 

「あ・・・・・・」

 

今、あの部屋には、誰もない

何故なら、美月がここにいるからだ

 

案の定、小さな少女がきょろきょろしている

美月は慌てて、部屋に向かった

 

「本当に、ここにいらっしゃったのですか?」

 

そんな会話が聞こえてくる

このままではあの女性が怒られてしまう

 

何故かそう思ったのかわからないが、美月は慌てて声を出した

 

「あの・・・・・・っ、すみません、勝手に出歩いて・・・・・・」

 

そう言って申し訳なさそうに、庭の方から翔っていった

美月をみたその少女は、「まぁ・・・・・」と声を洩らし

 

すぐさま、連れていた女性に何かを指示した

女性は一礼すると、その場を足早に離れていった

 

部屋の前の廊下までたどり着くと、美月は申し訳なさそうに

 

「すみません・・・・・・」

 

そう謝ったものの、流石に裸足で庭に出た足でこんな立派なお屋敷の室内に入るのははばかれて、少し困った様に視線を泳がすと

それに気づいた、少女がにっこりと微笑み

 

「今、侍女にお身足を洗うものを用意させておりますので、お座りになってお待ちください」

 

「あ、はい・・・」

 

とりあえず、言われた通り廊下に腰を下ろした

 

すると、少女がにっこりと微笑み

 

「わたくしは、藤と申します。 宜しければお名前をお聞かせ願えますか?」

 

「なま、え・・・・・・」

 

そこまで聞かれて、ある事に気づく

私の、なま、え は――――・・・・・・

 

「・・・・・・どうかなさいました?」

 

押し黙ってしまった美月を見て、藤と名乗った少女が首を傾げる

 

「え・・・・・、あ、っと・・・その・・・・・・」

 

まさか、自分の名前が出てこない

必死になって頭の中を探す

 

だが、断片的にしか浮かばない記憶に、頭が余計に混乱する

 

なまえ・・・・・・、私の、なま、え・・・・・・は――――・・・・・・

 

ここで嘘を言っても仕方ない

美月は素直に名前が思い出せないことを言った

すると、藤と名乗った少女は「まぁ!」と、驚いたように口元を押さえた

 

「お名前がないと、お困りでしょう・・・・・・」

 

そう―――よね…

困る、わ、よね・・・・・

 

どうしたら・・・・・・

 

と、その時だった

 

「藤姫ちゃ―――ん!」

 

向こうの方から、少女を呼ぶ声が聴こえた

藤姫と呼ばれた藤という少女は、慌てた様に

 

「まぁ、神子様!?」

 

そう言って、すっと立ち上がる

美月も「え?」という顔をして、慌てて立ち上がる

 

すると、“神子”と呼ばれた撫子色の髪の少女、二人の行動をみて

 

「やだなぁ~なんで二人とも立つの? 座って座って!」

 

そう言って、撫子色の髪の少女が、手で促す

それを見た、藤―――藤姫は、「はい・・・・・・」

とだけ答えると、その場に座り直した

 

撫子色の髪の少女が、はいっと何かを美月に渡してきた

 

一瞬何かと思ったが・・・・よく見たらなにかの飲み物の様なものだった

 

「丁度、こっちに来ようと思ったら、彼女にって侍女さんが持っていこうとしてたから、ついでだし持ってきちゃった」

 

そう言って、にっこりと微笑む

 

「あ! あと、今 頼久さんが足洗うためのお湯持ってきてくれるから!」

 

そう言って、自分も一緒にちょこんと座る

 

「あ、あの・・・・・これは・・・・・・」

 

先程の女性は「薬師を」といっていた

これはそれに関するものだろうか?

 

 

すると、撫子色の髪の少女は「ん~」と唸った後

 

「多分、薬湯だと思うよ? 具合が悪そうだったから~って言ってたし」

 

「あ・・・・・・」

 

そういえば、何かを思い出そうとすると、頭痛がしていたのだった

ということは・・・・・・

 

「えっと、その・・・・では、頂きます」

 

そう言ってこくんっと、一口飲む

口の中に何とも言えない苦味が広がっていった

 

「う・・・・・・」

 

余りの苦さに、思わず口を押える

それを見た撫子色の髪の少女は「あははは」と笑い

 

「苦いよね~、ここのお屋敷の薬湯すごく苦いの」

 

と、笑いながら言っていた

でも、せっかく用意してくださったものだ

飲まない訳にはいかない

 

美月は意を決した様に、ぐいっと薬湯を一気に飲み干した

 

「――――っは」

 

なんとか、飲み切り口元を抑える

 

「・・・・お気遣い、ありがとうございました」

 

そう言って、ことんっと、湯飲みを置いた

すると、向こうの方から桶の様なものを持った武人の様な人がやってきた

 

「藤姫様、神子殿」

 

「あ、頼久さーん、こっちこっち~」

 

撫子色の髪の少女が合図するように手を振る

頼久と呼ばれた武人は、美月の前にくると桶を置いた

 

桶の中から暖かそうな湯気が出ている

 

「こちらで―――」

 

そう言って、頼久から手拭いを渡されて、美月は「ありがとうございます」と答えた

 

受け取った手縫いを桶のお湯につけて、足を拭いていく

 

すると、撫子髪の少女が「あ!」と声を洩らし

 

「自己紹介まだだよね? 私は、元宮 あかね。 彼女は藤姫ちゃんで―――」

 

藤姫がにっこりと笑い軽く頭を下げる

 

「あっちの男の人が頼久さん」

 

「源氏武士団の一員で、今はこちらの左大臣家の藤姫様にお仕えしております。 源 頼久と申します」

 

そう言って、丁寧に頭を下げた

 

足を拭きお終わった美月は慌てて居住まいを直し

 

「あ、宜しくお願いします」

 

そう言って、頭を下げた

 

すると、あかねと名乗った撫子色の髪の少女が

 

「ね、あなたの名前は? 多分、年も私と同じぐらいだよね?」

 

「そ、それは――――」

 

そこまで口を開いて美月は困った様に、俯いてしまった

それを見たあかねはきょとん・・・・・・として

 

「え? どうかしたの??」

 

「神子様、それが―――」

 

藤姫が仔細を話すと、あかねが「えええ!!?」と声を上げた

 

「名前、分からなくなっちゃったの!!?」

 

「はい・・・・すみません・・・・・・」

 

なんだか申し訳なくて、美月がそう項垂れると

 

「お三方、日も暮れておりますし、中でお話された方が・・・・・これ以上はお身体に障ります」

 

頼久の言葉に、あかねと藤姫が「あ・・・」と声を洩らした

 

「そうだよね。 とりあえず中に入ろ? あ、友雅さん来てたから、そっちの部屋に行こう?」

 

そう言って、藤姫と美月を促す

確かに、これ以上外にいたら風邪を引いてしまいかねない

 

そう思い、美月もあかねと藤姫に続いたのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

藤姫の屋敷が「土御門」にあるとうのが、中々出て来なくて苦戦しましたwww

頭の片隅にも残ってんなかったわ~

そして、まったく話がすすでいないwww

仕様です_(‘ω’;」∠)

 

2020.10.08