櫻姫抄乱
 ~散りゆく華の如く~

 

 四章 虚実の馨り 8

 

 

千鶴達と別れて、さくら達は萩屋の前に来た

 

「じゃぁ、俺は向こうに居るから。話が終わったら声を掛けてくれ」

 

「……すみません、山崎さん。こんな所まで来て下さったのに……」

 

何だか、申し訳なく感じ、思わずそう声を掛けてしまう

山崎は、それに一瞬面食らった様に目を見開くと、ふと柔らかく目を細めた

 

「いや、構わない。女同士、聞かれたくない話もあるだろう」

 

「それは……」

 

一瞬、困惑した様に、さくらが目を伏せる

 

「それに、君の事は副長に直々に頼まれたんだ。君の身の安全は保障しよう」

 

そう言って、山崎が薄荷色衣を翻し、そのまま萩屋から少し離れた所に行く

さくらは淡く微笑み返し、小さく頭を下げた

 

「……………」

 

そのまま、萩屋の縁台に座っている千姫に近づこうとして、一瞬ピタリとその動きを止めた

 

「千……?」

 

先に、縁台に座っていた千姫は、むっと頬を膨らませて、じっとさくらを見ていた

 

「………どうかしたのですか?千」

 

さくらが、千姫の隣に座りながら、彼女に話し掛けた

 

「さくらちゃん……。私、怒ってるんだからね」

 

「………?」

 

千姫の意図する所が分からず、さくらは首を傾げた

 

「怒る……というのは、何故ですか?」

 

何か、自分は彼女に対してしただろうか……?

考えてみるが、何も思い付かない

 

千姫はビシッとさくらを指差し

 

「それだよ!それ!!」

 

「……それ…とは?」

 

益々、意味が分からない

 

千姫が、むっとしてさくらを見た

 

「……本当に、自覚無いの?それ、無自覚?」

 

「……すみません…」

 

本当に、思い付かないのだから、仕方ない

千姫は少し諦めた様に、はぁーと息を吐いた

 

「私よりも、ずっと会って浅い千鶴ちゃんや、まぁ……風間にもってのは、ちょっと癪に障るんだけど……風間にはああなのに、私に何で……」

 

「千鶴と、千景……ですか?」

 

2人にあって、千姫に無いもの……?

 

「だから!それだってば!」

 

千姫が、何故分からないのか!?と、さくらに詰め寄る

 

「………そう言われましても…」

 

詰め寄られて、さくらが考える

不意に、ふと何かが一つ浮かんだ

 

「……あ」

 

もしかして……

 

「……話し方……ですか?」

 

「そうだよ!」

 

千姫が力説する様に、頷いた

 

「千鶴ちゃんや、風間には砕けた感じなにの、ずっと前から知ってる、”親友”の私に対しては、いつまで敬語なの!?」

 

言われてみれば……

千姫には、いつも敬語だったかもしれない

 

「……すみません」

 

「もー!謝って欲しい訳じゃないよ!!大体、それ言うなら”ごめんね”でしょ!?」

 

「……で、ですが……千は私とは違う、八瀬の……」

 

千姫は違う

さくらとは血統も家柄も、もっと格上だ

その千姫に砕けた感じで話すというのは、抵抗がある

 

すると、千姫は呆れた様に息を吐いた

 

「何言ってるのよ。さくらちゃんだって”鬼無里の姫”でしょう?私と対して変わらないわよ!」

 

「……私は、八雲家とはもう―――……」

 

「さくらちゃんが、八雲家とは関係ないって言っても、その血を受け継いでいる事に変わりはないよ」

 

「ですが……私は―――……」

 

正統な、純血ではない

人と混じりあった”混血”なのだ

 

純血の―――”鈴鹿”の血を引く千姫とは違う

 

「……血の事、気にしてるの?」

 

「……………」

 

さくらは、答えなかった

答える代わりに、その瞳を伏せる

 

千姫は、ふぅ…と、息を洩らし

 

「”八雲”は、あの”呉葉”の血を受け継ぐ、正統な一族だよ。 風間家や雪村家とは違う。 もっと、ずっと、大きな家だよ。 だから、私達は”対等”な筈だよ? 本当なら、風間家なんかじゃなく、私の家がさくらちゃんを引き取るつもりだったのに―――…!」

 

そこまで言い掛けて、千姫は言葉を切った

 

「……ごめん、言い方が悪かったね……」

 

そう言って、千姫は小さくかぶりを振った

そして、そっとさくらの手に触れる

 

「家の事とか、血の事とか関係ない。”私は私”で、”さくらちゃんはさくらちゃん”だよ。他の何者でもない」

 

ぐっと、触れた手に力が篭る

 

「私は私として、今、”私の目の前に居る八雲 さくら”と対等に話がしたいの!」

 

「千……」

 

千姫の想いが、触れた手から伝わってくる―――

彼女は、”原初の鬼”の私ではなく、ただ一人の”八雲 さくら”と話したいと言ってくれているのだ

 

その”気持ち”が、こんなにも”嬉しい”―――

 

さくらは、溢れそうになる涙をぐっと堪える様に、唇を結んだ

そして、微かにその顔に笑みを浮かべる

 

「……ありがとう、ございます……」

 

そこまで言って、何かに気付いたように、小さくかぶりを振った

 

「いいえ…違うわね……”ありがとう”…」

 

その”答え”に満足した様に、千姫が満面の笑みを浮かべた

 

「うん!」

 

思わず、その笑みに面食らった様にさくらが驚くが

次の瞬間、その顔を綻ばせた

 

「よーし!安心したら、何だかお腹減っちゃった!」

 

千姫が、うんうんと頷きながら、品書きを見始める

 

「何にしようかなー。お団子も捨てがたいけど…お餅もいいよねー。さくらちゃんは何が食べたい?」

 

「え……?」

 

「ほらほら、さくらちゃんも見て!」

 

そう言いながら、千姫が品書きをさくらにも見せる

一緒に見る形になり、さくらは少し困惑した様な仕草を見せるが、観念した様に品書きを見だす

 

「そうね……」

 

ふと、ある物が目に留まった

 

「これ…なんて、どうかしら?」

 

さくらが指差した物を見て、千姫が嬉しそうに表情を変える

 

「あ!水無月じゃない!」

 

水無月とは六月頃によく食べられる菓子である

外郎の上に小豆の粒餡を散らしたようなもので、三角形に切り分けて売られることが多い

 

「へぇぇ~もう、あるんだ!うん、これにしましょ」

 

千姫が嬉しそうに微笑みながら、店の女の子に水無月2つとお茶を頼んだ

そんな様子の千姫を、まじっと見つめながら、さくらがくすっと笑った

 

「何だか、嬉しそうね? 千」

 

言われて、千姫が「勿論!」という感じに、頷く

 

「だって、さくらちゃんが選んでくれたんだよ?これが喜ばずにいられますか!」

 

千姫のその言葉に、微かにさくらが頬を赤らめる

 

「そ、そんな大層な事をした訳では無いと思うのだけど……」

 

「ううん。いつものさくらちゃんなら、”自分は要らない”って言ってるもの!そのさくらちゃんが選んでくれたんだから、特別だよ!」

 

その言葉に、さくらが更に顔を赤らめた

 

「そ、そんな事は……」

 

そのまま、口ごもると俯いた

ふと、千姫が何かを思い出した様に、ぽんと手を叩いた

 

「あ、そうそう。忘れる所だったわ」

 

そう言って、持って来た風呂敷から何かを取り出す

 

「はい、これ。頼まれてた物」

 

そう言って取り出したのは、一冊の書だった

 

さくらがそれに気付いた様に顔を上げ、書を受け取る

ぱらぱらっと中を確認し、閉じた

 

「ありがとう。助かるわ」

 

そう言って、横に置く

 

千姫は少し、首を捻りながら

 

「種類がいっぱいあったから迷ったんだけど…それで良かった?分かりそう?」

 

その言葉に、さくらがにこっと微笑む

 

「ええ。多分、知りたい事は分かると思うわ」

 

それを聞いて、千姫がほっと肩を撫で下ろした

 

「そっか、なら良かった。また、要り様だったら言ってね?いくらでも手配しちゃう」

 

「ありがとう」

 

そこへ、注文していた菓子と茶が出てきた

 

「あ、来た来た」

 

千姫が嬉しそうに、水無月を黒文字で切って口に運ぶ

 

「んー美味しい!」

 

千姫が、その顔を綻ばせる

その様子がおかしくて、さくらはくすっと笑ってしまった

 

ふと、茶を飲んでいたさくらが、その手を止める

 

「千……」

 

湯呑を膝に置き、さくらは千姫を見た

 

「もう一つ頼みがあるのですが―――……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「山崎さん」

 

ふと、呼ばれ 山崎は声のした方を見た

 

「もう、いいのか?」

 

さくらがにこっと微笑む

 

「はい、用件は済みましたから」

 

「そうか。では、屯所へ戻るとしよう」

 

そう言って、山崎が歩き出す

さくらも、それに続いた

 

少し歩いた所で、ふと、さくらの手にしている物に目が行った

 

「……それは……、医学書か?」

 

さくらの持っている物は、医学書の様だった

 

さくらは、何かに気付いた様に「はい」と言った

だが、山崎は疑問に思った

 

「何故、君がそんな物を……? 君は、医学に関わりがあるのか?」

 

そんな話は、聞いたことが無い

少なくとも山崎の知る限り、さくらに医学の知識がある……という話は聞いていなかった

 

さくらは、少し考え

 

「いえ……山崎さんの様に、医学の知識がある……という訳ではありません。 ただ、少しの間ですが、とある蘭方医の方のお手伝いをしていただけです」

 

「……差し障りが無ければ、誰か聞いてもいいだろうか……?」

 

「……松本良順先生です」

 

さくらのその言葉に、山崎は驚いた

 

「何だって!? 松本先生と言えば、将軍の侍医ではないか!?」

 

「ええ、今はそうだったと思います」

 

確か、一時期離れていたが

今は、将軍・家茂公の侍医をしていた筈だ

 

「……君は、松本先生の元で医学を学んだと言うのか…」

 

「”学んだ”という程のものではないのですが……」

 

さくらが躊躇いがちに、そう答える

 

「しかし、松本先生の下にいたのだろう?」

 

「え、ええ……ほんの少しの間、ですけど」

 

”学んだ”のではない

あれは、もっと―――……

 

「謙遜する事は無い。松本先生の下に居た事自体凄い事だ。今の新選組に、少しでも医学の知識が居る者が居る事は役に立つからな」

 

ふと、山崎が遠くを眺める様に、視線をやった

 

「俺は……副長達が、何故君を新選組内に留まらせるのか不思議だった」

 

「え……?」

 

「だが、君が”新選組”の役に立つなら話は別だ」

 

「…………」

 

別に、さくらが新選組にいるのは、医学に関わっていたからでは無い

少なくとも、土方はさくらが松本の下に居た事を知っている訳では無い

 

では、何故……?

 

何故、土方はさくらに”居ろ”と言ったのか―――?

でも、さくらの持つ知識が少しでも土方の……あの人の役に立つならば―――

 

「……私は、お手伝いをしていただけですよ……?それが、役に立つ…と?」

 

「少なくとも、何も知らない素人よりは、俺は役に立つと思うが?」

 

「そう……でしょうか………?」

 

あの人の、役に立てるのだろうか……

「俺以外、新選組内で医学に精通している者はいなかった。……まぁ、雪村君は医者の娘だが…、直接あの松本先生に師事をしてもらった君がいるのは心強い。 その医学書もその為では無いのか?」

 

「これは………」

 

さくらは、手にしている医学書を見た

 

「……少し、調べたい事があったので…」

 

そう―――調べたい事があった

だから、千姫に言って最新の医学書を手配してもらった

 

「そもそも、その医学書も医学の知識が無い者が見れば、単なる漢字の羅列にしか見えない」

 

確かに、それはそうだ

少しだが、知識があるからこそ、さくらには読める

 

「その書が読める事自体が、何よりも証拠だ」

 

そう言われて、さくらは手にしていた医学書をぎゅっと握り締めた

これを読む事で、また一歩、あの人の――土方の役に立てるかもしれない―――

 

そう思うと、何だか心の奥が温かくなった

 

「あ、あーその……」

 

ふいに、山崎が言葉を濁した

 

「………? 何でしょう?」

 

山崎は、こほんと咳払いをし

 

「君が、良ければ――なんだが……」

 

「はい?」

 

「あ、ああ、無理にとは言わないのだが………」

 

「………?」

 

山崎は何を言おうとしているのだろうか……?

さくらが不思議そうに首を傾げると、山崎はこほんと咳払いをした

 

「その……君が読み終わった後で良いのだが……、その医学書を見せてもらえないだろうか…?」

 

「え……?」

 

「く、組内の医療を担当する者として、最新の医学の知識は知りたい訳で――。だが、そうそう手に入る物でもなく――。あ、ああ、いや、君が嫌だと言うなら、無理強いはしないが――。もし、良ければ――の話だ」

 

そう言い訳する山崎がおかしくて、さくらはくすっと笑ってしまった

 

「わ、笑う事ないだろう!」

 

「ふふ、いえ、すみません」

 

くすくすと笑いながら、さくらは微笑んだ

 

「私が読み終わったら、この書は山崎さんに差し上げますね?」

 

「あ、いや……くれと言う訳では―――」

 

「いえ、私が持っているよりも、山崎さんに持って頂いた方が役に立つと思いますので」

 

山崎が困惑した様な仕草をするが、ふと苦笑いを浮かべて

 

「―――そうか、感謝する」

 

そう言った山崎の顔は、何にも変えられないほど嬉しそうだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                        ◆          ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

行燈の灯りが、ゆらゆらと揺れる

 

夜の帳が下りる中、行燈の光だけで、さくらは今日千姫に貰った医学書を読みふけっていた

最初の理由は単純だった

 

この医学書を読めば、沖田の病気が分かるかもしれない―――

ただ、それだけだった

 

だが、昼間に山崎に言われた言葉が脳裏を過ぎる

 

『君が”新選組”の役に立つなら話は別だ』

 

”新選組”の役に立つ―――

それは、ひいては土方の役に立つ と、同意語だった

 

少しでも、あの人の役に立ちたい―――

自分の”居場所”を作ってくれた、あの人の役に立てるなら―――

 

何だってしたいと思えた

 

それには、沖田の病名を知る事が、第一歩の様に思えた

傍から見れば、土方と沖田は反目している様に見える

しかし、その実体は違う

 

土方は、沖田を心配しているし

沖田も、何だかんだ言って土方を認めざる得ない様だった

 

きっと、沖田さんは土方さんにとって、実の弟同然なんだわ……

だから、必要以上に心配もするし、気に掛ける

 

反目し合っている様に見えて、実は認め合っている

そんな2人が、羨ましくも思えた

 

私も、少しでも役に立てたら―――……

 

ふと、ある文が目に留まった

 

微熱、咳、痰、血痰、発汗、呼吸困難、体重減少、食欲不振

 

「…………」

 

何かが、引っかかった

 

咳に、血痰………

 

更に読み続ける

 

「空気感染が多く、肺などの呼吸器官においての発症が目立つが、中枢神経、血流、泌尿生殖器、骨、関節などにも感染し、発症する器官も全身に及ぶ。 菌は様々な器官において細胞内寄生を行い、免疫組織はこれを宿主細胞もろともに攻撃するため、広範に組織が破壊され、放置すれば重篤な症状を起こして高い頻度で死に至る。 激しい肺出血とそれによる喀血、またそれによって起こる窒息死がこうした病態を象徴している。 感染者の、大部分は症状が出る事は少なく、無症候性、潜伏感染が一般的である。 潜伏感染の約10分の1が最終的に症状が発生し、治療を行わない場合感染者の半分が死亡―――……」

 

その病名は―――

 

 

 

 

「…労咳…………」

 

 

 

 

労咳とは、不治の病だった

感染症で、それに掛かった者は死を意味する

 

「…………」

 

もしかして……沖田さんは―――………?

 

嫌な予感がした

 

いや、まだ確信するには早い

もしかしたら、他の病気かもしれない

 

でも―――………

 

脳裏に、咳き込み血を吐く沖田の姿が過ぎった

 

一度だけ、労咳に掛かった男を松本の元で見た

男は「死にたくない……」と言っていたが、酷く咳き込み、血を吐いてそのまま―――

 

血を吐くという事は、それだけ病が進行している証拠

なら、沖田は―――?

そう思った時だった

 

 

「――――………っ!」

 

 

ドクンと、激しく心臓が脈打った

 

「あ―――っ……はっ……!」

 

ぐらっと、視界が揺れ、さくらはそのままずるっと畳に手を付いた

 

「はっ……あ……っ」

 

さくらの真紅の瞳が見開かれる

 

頭がくらくらとする

目の前が、ぼやける

 

こ……れは………

 

知ってる

これは……この症状は―――………

 

ドサッとそのまま、横薙ぎに倒れた

 

「あっ……くっ………」

 

 

  喉ガ……

喉が焼ける様に熱い

干上がった様に、全身が熱を帯びる

 

さくらは、喉を押さえ、歯を食いしばった

 

風間の血を飲まなくなって、どのくらい経った……?

彼を拒絶して、どのいくらい経った……?

 

 

「はっ……あっ……ああ!」

 

 

熱い

喉が熱い

 

 

 

  血が………

 

 

 

「――――っ」

 

 

 

   欲シイ……

 

 

 

ふらっと、さくらが立ち上がろうとした時だった

 

「さくら?」

 

不意に、障子戸の向こうで、声が聞こえた

 

今――最も会いたくない

この姿を、見られたくない相手の声が

 

ひ……じか、た、さ……

 

「何だ?お前、まだ起きているのか?」

 

 

ぐらぐらと視界が揺れる

 

 

土方の声が、木霊する

 

 

 

     飲めばいい―――

 

 

 

何かの声が、頭を反響する

さくらの中の”何か”が言う

 

 

 

    この男の血を飲めばいい―――

 

 

 

「――――っ」

 

さくらは、頭を振った

 

駄目……

それだけは………っ!

 

ふと、土方が何かの異変に気付いた様に、声を強張らせた

 

「お前…どうかしたのか?」

 

そのまま、障子戸に手が掛かる気配をさくらは感じた

 

 

 

「あ、開けないで下さい!!」

 

 

 

咄嗟に、声が出た

 

開けて欲しくない

この血に飢えた姿を見られたくない……っ!

 

何とか、声を振り絞って平静を装う

 

「い、今……着替え中なので……」

 

今会ったら……

その姿を見たら……

 

 

「開けないで、下さい……」

 

 

 

 

 

      その血を欲してしまう―――

 

 

 

 

 

「……………」

 

さくらの言葉に納得したのか、していないのか

微妙な空気が流れた後、スッと障子戸から土方の気配が離れた

 

それから、少しの沈黙の後

 

「……早く、寝ろ」

 

そう残して、土方が去っていくのが分かった

 

土方の気配が完全に消えてから、さくらは「はっ……」と、息を吐いた

そのまま、ドッと壁にもたれ掛り、ずるずるとずり落ちる

 

「………っ……う……くっ……」

 

ボロボロと涙が零れた

次から次へと、溢れ出てきて止まらない

 

 

「あ……ああっ……」

 

どうして……

どうして、”私だけ”が―――……

 

 

永遠とも思える、喉の渇きと反目する様に、さくらは涙を流し続けた―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

相変わらず、出番の少ない土方さんです…(-_-;)

いやいや、むしろ出てきただけ凄いよね!(笑)

 

千姫とは一歩前進、山崎には認められた様です

そして、土方さんはチラ見レベルなんですね?分かります(メインヒーローなのに…)

名前のみの予定でしたが…

まぁ、最後に出てきただけいいんじゃね?

と、脳内補完して下さいwww

 

2010/12/01