櫻姫抄乱
 ~散りゆく華の如く~

 

 断章 蜿蜒なる狭間

 

 

「さくらちゃん、気に入ってくれるといいなぁ・・・・・・」

 

千鶴は盆にお手製のお茶菓子と、お茶を乗せてさくらの部屋に向かっていた

今朝の、さくらは少し様子がおかしかった

 

心ここに非ず―――――

と言った感じで、終始ぼんやりしている風に見えた

 

髪形を変えてきたのは、少し驚いたが

それが、関係あるかは分からない

 

ただ、なんとなくだが・・・・・・

少し、首元を気にしている様にも見えた

 

何かあったのかな・・・・・・

 

ふと、そんな気がして、巡察に同行中もそちらに集中出来なかった

そんな様子を見た、藤堂が「先に帰っていいからさくらの様子見て来いよ」と

背中を押してくれたのだ

 

まだ、巡察中だったから、一度は断ったものの

やはり、気になって先に上がらせてもらったのだ

 

ただ、なんとなく感じていただけなので、どうさくらに切り出すべきか悩んだ

結果、とりあえず昨日作ったか青梅を持っていく事にした

 

青梅は、梅酒の実をいれた白餡を、抹茶で色付けた生地で包み梅のように仕上げた簡単なお茶菓子だ

 

さくらちゃん、本当の梅と勘違いするかな?

 

という、悪戯心も含めてこれにしてみたのだ

もし、これでさくらが笑ってくれれば、千鶴の思惑通り話をするきっかけになる

 

いつも、さくらには助けてられてばかりだ

たまには、さくらを助けになってあげたい

 

そんな風に思いながら、さくらの部屋の前の角を曲がった時だった

不意に、出てきた影にどんっとぶつかった

 

「きゃっ・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・っ!」

 

思わず、体制を崩そうになる

なんとか、倒れずに堪える

 

よかった~~

お茶菓子落とすかと思った・・・・・・

 

自分の身より、まず手に持っている青梅の確認をしてしまう

と、その時だった

 

「――――悪い、千鶴。 怪我無いか?」

 

そう言われて、顔を上げると

焦った様な顔をした原田と目があった

 

「あ、はい。 大丈夫ですが・・・・・・」

 

この先は、さくらの部屋しかない筈だ

もしかして、さくらに用事でもあったのだろうか?

 

そう思い、千鶴が首を傾げる

すると、原田は急いでいるのか・・・・・・

気も漫ろで、千鶴に謝罪だけすると、そのまま廊下を走って行ってしまった

 

「原田さん・・・・・・?」

 

なんだか様子のおかしい原田に、千鶴が首を傾げる

その時、ある事に気付いた

 

「あれ? あの織物・・・・・・」

 

原田が手にしていた織物が目に入った

それは、さくらが最近身に付けている髪結いの織物に似ていた

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

気のせい、かな・・・・・・?

それとも、見間違い・・・・・・?

 

なんとなく、嫌な予感がした

 

「さくらちゃん・・・・・・・っ」

 

千鶴は、慌てて角を曲がってさくらの部屋の前に急いだ

だが―――――・・・・・・・・・

 

そこに、さくらの姿はなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ****    ****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

原田が“それ”拾ったのは偶然だった

“それ”は、さくらは身に付けていた菫色の髪結いの織物だった

 

なんで、こんな所に・・・・・・?

 

一瞬、原田の中で嫌な予感が浮かぶ

さくらは、これをとても大切にしていた

 

それなのに、こんな所に落としたとしても気づかない訳がない

 

まさか、さくらの身に何か・・・・・・?

そう思った瞬間、原田は駆けだしていた

厨を飛び出す

そのまま、足早にさくらの使っている部屋へ向かった

 

 

 

「さくら・・・・・・っ」

 

 

 

彼女の名を呼び、思いっきり部屋の障子戸を開ける

しかし―――――・・・・・・

 

そこに、彼女はいなかった

部屋の中は、しん・・・・・・と、静まり返り、軽く一刻弱は戻った形跡を感じない

 

いない

 

原田は慌てて、他も見て回った

大広間、境内、井戸―――――

 

彼女が行きそうな思い当たる場所全て見て回った

 

しかし・・・・・・

 

いない

どこにも、いない

 

さくらのいた“形跡”すらない

 

嫌な予感がどんどん膨らんでいく

数刻前まで、すぐ傍にいた筈なのに―――――・・・・・・

 

原田がごくり・・・・と、息を飲んだ

知らず、持っていた菫色の織物を握りしめる

 

落ちつけ、俺・・・・・・

 

原田は、自身を落ち着かせようと

大きく息を吸い、吐いた

 

さくらが、今更 ここから逃げるとは思えない

確かに――――彼女は、薩摩の・・・・・・風間達側だったかもしれない

だが、それは過去の事だ

 

今は、この新選組にいてくれた

自分たちの傍にいてくれていたんだ―――――・・・・・・

 

そのさくらが、誰にも言付けすらせず、出ていくとは思えない

と、なれば―――――・・・・・・

 

導き出される“答え”は、一つしかない

脳裏に、猫柳色の髪の男の顔がよぎる

 

 

 

風間っ・・・・・・!!!

 

 

 

風間千景―――――

さくらを自分から捨てておきながら、未だにさくらに固執する男

あの男だけは、絶対に許せない―――――

 

「くそっ・・・・・・!!」

 

がんっと、柱を殴った時だった

 

「おわっ・・・・・・!!」

 

不意に、後ろから聞き覚えのある声が聴こえてきた

振り返ると、永倉が半分怒り気味に立っていた

その後ろに、斎藤もいる

 

「左之! あぶねーだろうが!!!」

 

永倉がそう言うが、今の原田に構っている余裕はなかった

と、その時だった

ふと、後ろの斎藤が原田の持っていた“それ”に気付いた

 

「左之・・・・・・? それは、さくらの髪を結っていたものでは・・・・・・?」

 

斎藤のその言葉に、原田がぐっとその織物を握りしめる

そして

 

「・・・・・・さくらが、いなくなった」

 

「おいおい、左之~~、さくらちゃんに何かしたんじゃないだろうな」

 

永倉がそう茶化すが、原田の表情は欠片も笑わっていなかった

それで、深刻さに気付いたのか、永倉の表情が変わる

 

「・・・・・・どこか、出掛けてるとかじゃないのか?」

 

永倉がそう尋ねるが、原田が小さく首を振った

それなら、どんなによかったか――――――・・・・・・

 

「これは、厨で拾ったんだ。 ・・・・・・さくらが、出掛けるのに髪を結っていたものをわざわざ落としていくと思うか?」

 

“出かけた” で、片づけるにはあまりにも不自然だ

 

「おいおい、洒落になってねぇぞ。 もし万が一、さくらちゃんの身に何かあったんだとしたら―――――って、おい! どこいくんだよ、斎藤!!?」

 

踵を返して歩き出した斎藤を慌てて追う

 

「・・・・・・副長に報告してくる」

 

「!? ――――そうだ! 土方さんの部屋にいるなんて事は――――・・・・・・」

 

半分冗談でそう言い掛けた永倉に、原田と斎藤の冷やかな視線が注がれる

 

「・・・・・・新八、今はそういう冗談を言っている時ではないと思うが?」

 

「そうだぜ、下らねえこと言ってんじゃねぇよ」

 

斎藤に続いて、原田にまでそう言われ

永倉が「ハイ、スミマセン・・・・・・」と謝ったのは言うまでもない

 

そのまま永倉を放置して斎藤と原田が情報を共有しながら副長室へと足早に向かっていく

取り残された永倉は、頭をかきながら

 

「ったく、左之はともかく、なんで斎藤まで怒ってんだよ・・・・・・」

 

などと、ぶつぶつ言いながら二人の後に続いたのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      ◆      ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・ん」

 

気のせいだろうか・・・・・・

なにか、揺れている様な・・・・・・

 

以前、これと同じ感覚をどこかで―――――・・・・・・

 

さくらが、ゆっくりとその真紅の瞳を開ける

視界に入ってきたのは、見たことのない天井と様式の部屋だった

 

「え・・・・・・?」

 

一瞬にして、意識が覚醒する

 

慌てて起き上がろうとした瞬間―――――

がくっと身体から力が抜けて、その場に倒れ込む

 

「・・・・・・・・・・・・っ」

 

幸い、寝かされていたであろう場所は、冷たい床の上ではなくふわふわの寝台の上だった

 

私・・・・・・

 

必死に、今の状況になっている理由を思い出そうとする

 

確か、屯所の厨でいる筈のない不知火に声を掛けられて―――――・・・・・・

それから・・・・・・

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

その後の、記憶が全くない

そして、今いる場所は屯所とは見て非なる場所―――――

 

もしかして、私・・・・・・

不知火にここに連れてこられた・・・・・・?

 

そうとしか、考えられなかった

 

だが、不知火の意思とは考えにくかった

不知火が、さくらを連れ出す理由がない

 

少なくとも、不知火はさくら自身にはさほど興味はないからだ

それとも、長州と幕府の関係に関わる事なら―――――あり得なくはないのかもしれないが

 

「・・・・・・・・・・」

 

考えても、答えなど出なかった

 

とりあえず、今ここが何処なのかだけでも確認しないと――――・・・・・・

そう思うも、何故か身体が重く言う事を利かない

 

その時だった

部屋が、ぐらりと揺れた

 

「きゃっ・・・・・・」

 

突然の振動に、さくらが体制を崩して寝台に再び倒れ込んだ

床ではないので、痛くはないのが幸いだ

 

でも・・・・・・

この寝かされていた場所はなんだろう・・・・・・?

と、首を傾げてしまう

上を見上げると、寝台なのに何か敷居の様なものに囲まれている

そこから、薄めの布が吊り下げられていた

 

見た目は綺麗だが・・・・・・

なんだか、少し慣れない

 

とりあえず、身体が自由に動かせないのが不便で仕方ない

ふと、その時気づいた

 

「あ、髪が・・・・・・」

 

結っていた筈の髪が解けていたのだ

瞬間、土方から貰った髪結いの織物が無い事に気付く

 

「噓でしょ・・・・・・?」

 

寝かされていた辺りを見回しても、それらしい物はない

まさか、連れて来られる途中で落としてしまったのだろうか

 

もし、そうなら絶望的だ

不知火が拾うとは思えない

 

もし、あれが無くなったら・・・・・・

 

じわりと、泣きたくもないのに涙が零れそうになる

 

あれは、土方さんから頂いた大事な物なのに――――――・・・・・・

無くなったなんて、そんなの・・・・・・

 

そこまで考えて、さくらは小さくかぶりを振った

 

まだそうとは決まった訳ではない

もしかしたら、寝台の下に落ちているかもしれない

 

そう思って、ぐいっと零れかけた涙を拭う

 

泣くのは後からでも出来る

今は、探せるところは全部探さないと――――・・・・・・

 

そう思って、重い身体を何とか起こし、寝台から降りる

そうして、壁をつたいながら辺りを見渡した

 

だが、それらしいものは何処にも無かった

寝台の下にも、回りにも何処にも無い

机の上にも下にも無い

 

本当に、無いの・・・・・・?

もし、本当に無くしてしまったのだとしたら――――――・・・・・・

 

「・・・・・・っ、土方さん・・・・ごめんなさい・・・・・・・・・」

 

知らず、そう言葉が零れた

本当に無いのだと思った瞬間、またさくらの真紅の瞳にじわりと涙が浮かんできた

 

思わず、力なくその場に崩れ落ちる

瞬間、さくらの長い髪がさらさらと、流れ落ちてきた

 

その時だった

また、部屋がぐらりと揺れた

 

「きゃっ・・・・・・」

 

思わず、近くにあった柱にしがみ付く

先ほどから何度も揺れている

 

一体、この部屋は何なのだろうか

 

ふと、瞬間 どこからか風を感じた

微かに感じた風の中に混じって香る磯の匂い

 

え・・・・・・

 

その香りには覚え上がった

思わず、風の感じた方を見る

 

そこには、綺麗な窓らしきものがあった

障子ではなく、綺麗な布が掛けられており

その布が風に乗ってひらひらと舞っている

 

さくらは、なんとか身体を起こすと、その窓と思しき方へ壁付いたに近づいた

何度か倒れそうになるのを堪えながら、やっとの思いで目的の場所へ付く

 

そして、そっと、その綺麗な布を捲ると―――――――

 

「う、そ・・・・・・」

 

視界に入ってきたのは、大きな川―――――

いや、違う

 

これは―――――・・・・・・

 

磯の香り、そして、先の見えない一面の蒼い水――――――

それは、薩摩から京に来るときにも見た

 

そう――――

それは、川とも湖とも違う―――――

 

 

 

 

 

    “海”と呼ばれるものだったのだ―――――・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はい、海ですwwww

つまり・・・・・・? 揺れる部屋というのは~~アレですね!!

ええ、アレです笑笑

つか、部屋がぶっちゃけると、まぁお気づきでしょうが洋式なんですね

でも、ベッドとかカーテンとか使えないから

超回りくどい言い方していますwwww

つーか、もうこれ完全に拉致www

 

 

2022.03.24