櫻姫抄乱
 ~散りゆく華の如く~

 

 断章 蜿蜒なる狭間 12

 

 

―――――― ユニオン号・客室

 

 

ぎし・・・・・・

ベッドのスプリングが軋む音が響く

 

「・・さくら・・・・・・・」

 

風間はそう彼女の名を呼ぶと、そっと彼女の頬に触れた

 

「・・・・んっ・・・・・・・・・」

 

まだ酒の酔いから覚めていないのか・・・・・・

さくらは、その真紅の瞳をとろんとさせたまま、微かにぴくりと動いた

 

風間がまるで、それを分かっていたかのようにゆっくりと彼女の唇に口付ける

 

「ん・・・っ、ぁ・・・・・・」

 

微かに洩れる彼女の吐息が、酷くそそられた

 

「さくら―――――・・・・・・」

 

甘く名を呼び、彼女に何度も何度も口付ける

舌を絡め、まるでさくらの全ての貪るかのように―――――・・・・・・

 

どんどん深くなる口付けに、さくらの声が喘ぎに変わるのに時間は掛からなかった

 

「・・・・はぁ・・・あ、ん・・・・・・・ぁ・・・」

 

それに気分を良くした風間は、おもむろに自身の羽織っていた上着を片手で器用に脱ぎ捨てると、そのまま手を離した

 

ぱさり・・・・・・と、白いジャケットが床に落ちる

 

ネクタイを外し、シャツのボタンを緩める

 

「どうして欲しい―――? さくら」

 

「・・・・・・?」

 

さくらが、その大きな真紅の瞳を一度だけ瞬かせた

その瞳は酒のせいで潤んだようになっていて、それを見た風間がにやりと笑みを浮かべる

 

そっと、彼女の髪に触れると

それが気持ち良いのか、さくらが身を委ねる様にその瞳を閉じる

 

「さくら・・・・・・もう、待ってやれんぞ」

 

そう言うと、風間は彼女の耳を甘噛みする

 

「あっ・・・・・・」

 

ぴくんっと、さくらが肩を震わせた

 

「もっと、声を聴かせろ―――――」

 

そのまま、風間の唇が、耳から首へ動く

瞬間、ふと風間の目に赤い痣が入った

それは紛れもなく、誰に付けられたものか直ぐに分かった

 

だが―――――

 

「ふ、こんなもの」

 

風間はその痣をわざと消すかのように、その上から強く吸い上げた

 

「んん・・・・・・っ、ぁ・・・・・・」

 

さくらが、また びくんっと肩を震わせた

首元から胸元へかけて、首の後ろで結ばれていたドレスのリボンを解く

 

目の前に、露になった胸元にいくつも赤い痣があるのが視界に入った

しかし、風間はそのまま彼女の胸元に舌を這わすと、そのままドレスの合間から彼女のふくよかな胸元へ手を入れる

 

「んっ・・・・・・あ、や・・・・・・っ」

 

荒くなる息遣い

それでも、風間は彼女の胸の突起に舌を這わせて転がす

 

「ああ・・・・・・っ、ん、ぁ・・・・・・っ」

 

さくらがびくんっと身体を震わせる

それでも、風間は何度も何度もその舌で胸の突起を攻め立てた

 

「は・・ぁ・・・・・・、あ・・・・・・んんっ」

 

彼女の手がびくびくっと痙攣したかの様に動く

 

「さくら・・・・・・はぁ・・・・んっ、ここが・・・・・・いいんだな?」

 

風間がそう言うなり、空いていた手でもう片方の彼女の胸に触れる

その指で器用に胸の突起を挟むと、くりくりっと転がす

 

「あ・・・・んっ・・・・・・」

 

両胸を攻め立てられ、さくらの身体がびくんっと仰け反った

 

「は、はぁ・・・・ぁ・・・・・・ああ・・・・・・や、んん・・・・・・」

 

「嫌? 嫌ではないだろう――――?」

 

そう言って、風間がさくらに口付けをする

 

「んん、ぁ・・・・は、ぁあ・・・・ん・・・・・・」

 

激しく、貪る様な口付け――――

舌を絡め合う様に、何度も彼女の唇を奪う

 

「ぁ・・・・ン、は、ぁ・・・・・・」

 

徐々に激しくなる風間からの行為に、さくらがぼんやりと、意識を戻り始めた

 

 

え・・・・・・?

 

 

何処からともなく聞こえる、喘ぎ声

誰かに身体に触れられる感触――――――

 

それが、自分の声で、自分の身に起きている事だと気づくのに数分を要した

慌てて、目を開ける

そして、視界に入った“相手”に、さくらはぎょっとした

 

「ち、ちか――――――」

 

それに、気づいた風間が、さもどうでも良さそうに

 

「ああ、気づいたのか。 だが、今更止めると思うか?」

 

風間がにやりと笑ってそう言った

ぞくりと背筋が凍った様な感覚に捕らわれる

 

露になっている胸元に気付き、慌ててさくらが手で隠そうとする

しかし、それを風間が許すはずはなかった

 

先ほど解いたネクタイを拾うと、さくらの両手を無理やりベッドの上部に括り付ける

 

「千景っ!!」

 

「どうした、さくら。 今の今まで気もち良さそうに啼いていたではないか――――」

 

「そんな筈、は・・・・・・ぁん・・・っ、ンン・・・・・・っ」

 

不意に、また風間の舌がさくらの胸の突起を貪った

 

「こんなに、ここを立たせておいて――――気持ちいいのだろう?」

 

風間のその言葉に、さくらの顔がどんどん赤くなる

さくらは、まるでそれを否定するかのように首を横に振った

 

「お願いよ、やめ・・・・・・ンぁ・・・、は、ああン・・・・っ」

 

びくんっとさくらの肩が揺れる

風間の手は止まる所か、さらに激しさを増していった

 

「待っ・・・・・・や、め・・・・・・ぁン・・・・は、ぁ・・・・・・ち、か―――ああ!」

 

その手が、どんどん下へと下がっていく―――――

ドレスの裾をたくし上げられ、露になった白いももに手を掛けると、そのままぐいっと上へ上げられた

 

「やっ・・・・・・」

 

なんとか、抵抗を試みるが

風間に力で敵う筈もなく―――――

 

風間の舌がももを這っていく

 

「さくら―――――」

 

風間が満足げにその名を口にする

そして、さくらのももに口付けを落としながら

 

「お前が・・・・・・欲しい――――・・・・・・」

 

「ちか・・・・・・」

 

 

 

「俺の物になれ――――さくら」

 

 

 

その言葉は、甘い誘惑の様な、悪魔の囁きの様な

それでいて、とても危険な香りがした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     ◆      ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――京・新選組屯所 西本願寺

 

 

 

 

「まだ見つからねえのか!!?」

 

土方の声が ばんっと、机を叩くけたたましい音と共に部屋中に響いた

そのまま、ぎりっと拳を握りしめる

 

「くそ・・・・・・っ」

 

さくらが消えて何日経った?

あの日――――――・・・・・・

 

さくらは忽然とこの屯所から姿を消した

残っていたのは、土方の贈った彼女の髪を結っていた織物だけだった

 

思い当たる所はすべて探した

屯所内も、西本願寺側の境内も、京の街中も、薩摩藩邸の京屋敷の一つである二本松屋敷付近も調べた

 

だが、さくららしき人物は何処にもいなかった

 

一体、どういうことなんだ・・・・・・

 

まるで、最初からそこに居なかったかのように、彼女の痕跡だけが掴めない

あの日、確かに彼女はいた

それなのに―――――・・・・・・

 

「トシ・・・・・・」

 

思い詰めた様な顔をして怒りを何とか堪えている土方を見ている事しか出来なくて、近藤は彼にどう声をかけていいのか分からなかった

 

あの日、さくらと話をした

彼女に土方の傍に居てやって欲しいと

心の支えになってやって欲しいと、お願いした

 

そして、彼女もそれを受け入れてくれたのだと思っていた

それなのに――――――・・・・・・

 

ここにきて、まさかの失踪――――――

 

近藤の言った事は、彼女にとって重荷だったのだろうか

と、不安になる

 

さくらが、自分の意思で出て行ったのか

それとも、誰かにかどわかされたのかは分からない

 

わからないが―――――

 

何かの事件に巻き込まれてなければいいが・・・・・・

 

今の近藤には、そう願う事しか出来なかった―――――・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ****    ****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――京・八瀬の里

 

 

 

「なんですって!?」

 

がしゃん! と、持っていた茶器が落ちた

 

「・・・・・・それは、事実なの?」

 

一等低い声が、部屋の中に響き渡る

彼女のその言葉に、彼女の忍であり護衛でもある君菊は、頭を垂れたまま「はい」と頷いた

 

「姫様。 彼女は呉葉くれは姫の正当な血筋のお方。 そして、我ら鬼族の悲願でもある“原初の鬼”でもあります。 ですので―――――」

 

君菊の言葉に、彼女―――千姫はぎりっと奥歯を噛みしめたが

次の瞬間、大きな溜息をついた

 

「分かっているわ。 声を荒らげてごめんなさい」

 

千姫は一呼吸置くと、落とした茶器を拾った

畳の上だったが、見るとひびが入ってしまっていた

 

「駄目ね、ここの所大人しくしてたから油断したわ。 まさか、この時期にこんなこと起こすなんて―――――どうあってもさくらちゃんを諦める気はないみたいね、あの男は――――・・・・・・」

 

風間千景

西国一の鬼の一族・風間家の現当主

それと同時に、数か月前 幼き頃から さくらを風間家当主の妻とすべく傍に置いていたにもかかわらず、くだらない理由で「要らぬ」と言っておきながら、未だに彼女に固執する男―――――・・・・・・

 

あいつのせいで、さくらちゃんがどれだけ傷ついたと思ってんのよ!!

 

思いだしただけで、腸が煮え繰り返しそうである

 

例の二条城の一件以降、ずっとふさぎ込んでいたさくらが、最近になってやっと前を見て歩き始めたというのに

それを一瞬で無駄にした

 

しかも、情報ではこの時期、薩摩と長州がきな臭いというのは掴んでいた

何か企んでいると

そして、それに土佐の坂本龍馬が絡んでいることも―――――・・・・・・

 

もう少し情報が集まったら、さくらに教えようと思っていた矢先に―――――これだ

風間は今、薩摩の家老・小松帯刀の護衛に薩摩へ帰っていた筈

 

それが、何故京に・・・・・・

 

そこまで考えて、千姫はある事に気付いた

 

「ねぇ、君菊。 まさかとは思うけど―――さくらちゃんをかどわかしたのは・・・・・・」

 

千姫の言葉に、君菊が小さく頷く

 

「はい、実行は不知火が。 黒幕はお考えの通りかと・・・・・・」

 

「あああ~~~~~~~」

 

君菊の言葉に、千姫が頭を抱えた

 

不知火匡の存在をすっかり忘れていた

 

そうだ

確かに、風間は動けなくとも、不知火なら動ける

たとえ、裏で糸を引いているのが風間であっても、だ

 

「それと、もうひとつお伝えしたきことが―――――」

 

「・・・・・・? なに?」

 

君菊は少し、言葉を詰まらせるような仕草をするが

静かに、目を閉じ

 

「八雲家の現当主・八雲道雪―――いえ、八雲千寒・・殿が・・・・・・」

 

「え・・・・・・?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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――――― 信濃・鬼無里きなさの里

 

 

 

「ふ・・・・・・役者は、そろそろ揃ったかな・・・・・・」

 

男はそう呟くと、夜空の月を眺めて盃を天に掲げた

盃の中に月が写り込む

 

男はその杯を一気に飲み干すと、その口元に微かに笑みを浮かべた

 

今まで中立を保っていた保守派の始末は終わった

もう、古き時代に頼る理由はない

 

「まぁ、俺をここに戻したからには、責任はしっかり取ってもらわないとね」

 

その時だった

 

「当主」

 

一人の忍が男に頭を垂れて現れた

 

「ああ、守備は?」

 

「――――すべて、当主の計画通りに」

 

「そうか」

 

男が、くっと喉の奥で笑った

 

「では、そろそろ我が愛しの花嫁殿・・・・・・を迎えに行くか――――」

 

そう言って、持っていた盃を地に落として割る

ぱりーん という音が無常にも響き渡たった

 

 

 

 

 

「きっと俺に会いたいだろう? なぁ、さくら―――――・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今回の話は、冒頭がアレなんで・・・・・・R15です(R18じゃないよww)

後、次々と場面転換が入っています

さて、ついに名前公開の千寒(せんかん)です

道雪という名は八雲家から出る時に後からつけた偽名なので、千寒が本名です

で、誰だったか覚えてるかな・・・・・・?笑

 

 

2022.07.07