櫻姫抄乱
 ~散りゆく華の如く~

 

 四章 虚実の馨り 15

 

 

松本は近藤の案内で屯所とは別棟の薄暗い屋敷に足を踏み入れた

 

そこは、不思議な部屋だった

部屋の中の至ることにある、びいどろの管と杯

その中を、赤い液体が通っている

 

男が一人、文机に向かって座って、こちら背を向けている

 

松本達が座るのを待って、男はゆっくりと振り向いた

向かい合った男の顔を燭台の明かりで確認するなり、松本は驚い様に目を見張った

 

「山南君……生きていたのか………」

 

眼鏡の奥の瞳を細めて静かに微笑んだのは、新選組の元総長・山南敬助その人だった

 

「はい。ご心配をお掛けしましたが、ここであの薬の研究と改良を続けています」

 

その言葉に、松本が複雑な表情を浮かべる

 

「成功した、という事か?」

 

「ご覧の通り、私がその実例です」

 

松本は、少しだけ表情を険しくした

 

「だが、君が表立って動けぬ所を見ると、完全ではないのだろう?」

 

羅刹が陽の光を苦手とする事は、松本もよく知っている

 

こんな所で隠れてる様に暮らしているという事実こそ、成功には至っていない事を物語っている

松本とは対照的に、山南は微かに笑みを洩らした

 

「しかし、このまま薬の改良を続ければ、実用化も可能です」

 

「止めた方がいい。あれは、危険過ぎる」

 

真剣に反対する松本に、それまで黙っていた近藤が口を開いた

 

「しかし……薬の研究は幕府からの命令ですぞ」

 

だが、やはり松本は厳しい表情で首を横に振った

 

「あの計画は失敗だ。行わない方がいい。幕府も見切りを付けている筈だ」

 

幕府の方針を否定する様な松本の言葉に、近藤は苦い表情をする

 

「実験体になった隊士達がどうなったか、それは近藤さんもよく知っているだろう?あの計画は、人道的に決して許されるもんじゃない」

 

「むぅ……」

 

近藤は唸ったまま、黙り込んでしまった

 

この計画がとても危険だという事は、近藤も分かっているだろう

……だが、『薬』の研究は幕府からの依頼

近藤には、断るという選択肢が最初からなかった

 

室内の空気が重い沈黙に包まれた

その時、口を開いたのは山南だった

 

「我々は我々の裁量で、薬を有効に活用させて頂いています」

 

その言葉に、松本が表情をさらに険しくさせる

 

「しかし危険だ。あの薬は強過ぎる」

 

「研究は続いています。そして既に、この私という成功例もあります」

 

山南は、生きた証だ

薬を使っても必ず狂う訳ではない―――と、彼の存在が何よりの証拠として示している

 

松本は、小さく息を吐き

 

「……確かにそうかもしれん。……だが、成功が続くとも限らん」

 

「いいえ。今後も研究と改良を重ねれば、成功率が上がるのは明らかです」

 

「今までと比べて犠牲者が減ればよい―――という、話ではない。無駄死にする者は、もうこれ以上一人として増やすべきではなかろう」

 

「彼らは我々の礎となったのです。無駄死にではありません」

 

「しかしだな―――」

 

「ま、まぁまぁ二人とも、計画の話は後日改めて……という事にしませんか」

 

終わりの見えない押し問答を続ける二人を見かねて、近藤が間に割って入った

 

「………そうですね。分かりました」

 

松本が、小さく息を吐きながら そう呟いた

 

山南と松本の言い分には、交わる点がまったく見つからない

このまま言い争っても平行線だと、松本も察したのだろう

 

「……………近藤さんがそう仰るのなら」

 

山南もやがて諦めた様に、そう口にした

しかし、その表情には微かな笑みが浮かんでいた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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翌日

 

掃除の成果を見る為に、松本が再び屯所を訪れた

 

「うん、まぁまぁ綺麗になったじゃないか」

 

松本は一通り屯所を見回り終えると、満足そうに顎を摩った

 

「そりぁな、死ぬ気で頑張ったからなぁ」

 

永倉の言葉に、藤堂と原田がうんうんと頷く

 

「でもさー総司は一日休んでただろ?ずりぃよなー」

 

「土方さんが過保護なんですよ」

 

藤堂の愚痴に、沖田が本気で嫌そうな言い方をする

 

「うるせぇ。お前が、変な咳するからだろうが」

 

土方は苦い顔をしながら、そうぼやいた

 

「しかし、やはり片付くと気分が良い」

 

「まぁな……見違えたもんだ。これはこれで悪くねぇ」

 

斎藤の言葉に、土方が頷く

 

「よし、これからは毎日掃除するか?」

 

原田がそう言いながら永倉を見ると、永倉は二カッと笑うと藤堂の首をガシッと腕で掴んだ

 

「おう!頼んだぜ?平助」

 

「ちょっ……!何でオレだけなのさ!?体力自慢の新八っつぁんが怠けてどうするんだよ!!」

 

すると、千鶴が笑いながら

 

「あ、私も手伝うね?」

 

千鶴のその言葉を聞くと、藤堂がころっと態度を変えて

 

「お、そかそか。じゃぁ、明日から二人でがんばろうなー!」

 

永倉の拘束から逃れると、そんな事を言い出す


「おいおい……ちょーと待てぇい!誰もやらねぇとは言ってないだろう!?」

 

永倉が慌てて言葉を連ねると……

 

「お?……まだごみがあるじゃねぇか。丁度いい、捨てられて来い新八」

 

「いやいや、だから明日からだって……って!!土方さん、今、捨て”られて”来い言った!?」

 

「おーでけぇごみだなぁ……行くぞ、新八」

 

そう言いながら、原田がひょいっと永倉の後ろ襟を持つ

 

「だぁ―――!!!俺様はごみじゃねぇ―――!!!」

 

じたばたと暴れる永倉に、斎藤がとどめに

 

「片付けた傍から暴れるな。埃が立つ」

 

その様子が可笑しくて、さくらは笑ってしまった

ふと、視界の影を何かが横切って行く

 

「………?」

 

そちらの方を見ると、松本と沖田が二人で外に行くのが見えた

どうしたのかと、さくらが首を傾げる

 

だが、それは直ぐに思い当たった

 

沖田は、ここの所ずっと咳き込んでいた

本人は、風邪が抜けないだけだと言っていたが……

それは、恐らく…違う

以前、血を吐いていた事もあった

 

「……………」

 

いけないと分かっていても、やはり気になった

さくらは、ちらりと周りを見て、皆の視線がこちらに向いていないのを確認すると、そっとその場を離れた

 

確か……こっちに………

 

二人が消えて行ったであろう中庭の方へと足を向ける

ふと、話声が聞こえた

 

さくらは見つからない様に建物の影に隠れると、そっと様子を伺った

 

松本と沖田は隅にある縁台に並んで腰かけている

重々しい雰囲気が辺りを包んでいた

 

立ち聞きの様で気が引けるが……

何だか良くない予感がした

 

「食欲が振るわず、微熱が続き、夜中に大量の汗をかく」

 

「……ええ」

 

沖田がそう答えると、松本は大きく溜息を付いた

 

 

 

 

 

 

「結論から言おう。………お前さんの病は労咳だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「………っ」

 

―――どくん と、さくらの胸は嫌な痛みを伴って、大きく鼓動した

 

さくらは、思わず叫びそうになるのを何とか堪えた

口元に手を当て、身を強張らせる

 

全身が冷える様な、ひやりとした感覚に包まれる

 

労咳……

 

思い浮かんだのは”やはり”という言葉だった

 

予想しなかった訳ではない

だが、さくらは正式に医療を学んだ訳ではないから、思い違いかもしれない

そんな淡い期待を少なからず抱いていた

 

それが、松本の言葉で”核心”に変わる

労咳は、確かたる治療法もなく死に至ることの多い恐ろしい病として、知らぬ者はいない

 

だが、沖田は自分の事なのに笑みさえ浮かべていた

 

「なんだ―――。やっぱりあの有名な死病ですか」

 

「……驚かないのか?」

 

松本が意外そうに沖田の横顔を見た

 

だが、さくらは「え――?」と、思った

 

沖田さんは、気付いていた……?

 

以前、何度か、沖田に遭遇した時の事を思い出す

血を吐いていて、「言ったら殺す」とまで脅してみせたあの時―――

 

それじゃぁ、沖田さんは……

あの時も、あの時も……気付いて………

 

「自分の身体ですから。……でも、面と向かって言われると、流石に困ったなぁ……あはははは」

 

「笑い事ではなかろう」

 

笑う沖田とは対照的に、松本は表情を険しくさせる

 

「今すぐ新選組を離れて療養した方がいい」

 

そう松本が諭す様に言うが、沖田は薄い微笑みを浮かべたままだ

 

「空気の綺麗な場所で、精の付くもんを食って、ゆっくりと―――」

 

「新選組を離れる?」

 

沖田の表情が消える

 

「―――それは、出来ません」

 

そう、きっぱりと言い切った

松本が驚いた様に、目を見開く

 

沖田は、少しだけ視線を上に向け

 

「命が長くても短くても、僕に出来る事なんて、ほんの少ししかないんです」

 

沖田は、松本に応える

 

「新選組の前に立ち塞がる敵を斬る……それだけなんですよ。先が短いなら、尚更じゃないですか。ここにいる事が僕の全てなんです」

 

鏡の様に雲一つない空を仰いで、沖田は言った

 

「しかし―――」

 

松本は反論しかけたが、沖田の横顔に今日の青空と同じ様な、澄みきった決意を感じたのだろう

仕方なしに言う

 

「………お前さんの覚悟は分かった。ならば尚更、今後は私の言いつけを守ってもらわねばならんぞ。くれぐれも無理はせんように」

 

沖田は素直に「はい」と頷いた後、付け加える様に

 

「あ、近藤さん達には言わないで下さいよ、先生。約束ですからね」

 

沖田のいつもと同じ様なおどけた声が庭に響く

松本はそれには応えずに、小さく息だけを吐いた

 

「…………」

 

さくらは動けずにいた

立ち去らなければと、思うも上手い具合に足が動かない

 

そのぐらい、松本がもたらした”現実”は、残酷だった

 

沖田さんが……労咳………

 

頭がぐらぐらしそうになる感覚を覚える

 

予感……は、あった

そこまで、動揺する事じゃない

 

そう言い聞かすも、上手くいかない

 

こんな時、土方さんならどうする……?

あの人なら―――

 

「……さくらちゃん」

 

「………っ!?」

 

突然名前を呼ばれ、さくらはびくりと身体を硬直させた

 

沖田の呼び声は、普段と変わらない調子に聞こえた

まるで、さくらがここにいるのが当然であるかの様に―――

 

「…………」

 

いつから気付いていたのだろうか

さくらが、大きな音を立てて騒ぐ心臓を押さえながら、息を殺していると

 

「……出ておいで。もういいから」

 

重ねて沖田に声を掛けられる

 

さくらは一度だけ息を飲むと、ゆくりと建物の影から出た

 

いつの間にか、松本は立ち去った後で

そこには、沖田しかいなかった

 

「…………」

 

さくらが何も言えず、黙っていると

沖田は軽い口調で、ぽんぽんと自分の隣を叩きながら

 

「はい、こっちこっち。おいで」

 

「…………」

 

さくらは一瞬躊躇ったが、おぼつかない足取りでゆっくりと沖田の前に歩み寄る

だが、顔は上げられなかった

 

「…………」

 

「何つっ立ってるの?はい、座って」

 

再度、沖田が自分の隣を叩く

 

さくらは、何も言えないまま、少しだけ頭を下げると、そのまま沖田の隣に腰を下ろした

 

「もしかして今の話、本気にした?」

 

「…………」

 

松本が嘘を付く筈無いと分かっているさくらには、言葉を返す事が出来ない

 

「こんな冗談みたいな話、誰にも言わないよね?」

 

本当に、冗談の話なのですか――――

もし、問い返す事が叶うのなら、そう聞きたかった

 

松本はきっぱりと沖田の病を断言した

それが、冗談で片付かない事は、さくらにはよく分かっている

 

それでも……

 

こうして念を押す沖田の気持ちを思えば、問い返す事など出来る筈もない

 

「もし誰かに言うつもりなら……、やっぱり斬らなくちゃならないかなぁ」

 

その言葉は、前にも聞いたもの

 

あの時は「恐怖」を覚えたが……

今の「斬る」には、ただ悲しみしか感じない

 

「沖田さんは、いつも、そればかり―――」

 

悲しくて、そんな言葉が口をついて出た

もっと他にもかけるべき言葉がある筈なのに―――

 

微かに苦笑する気配とともに、沖田もまたひっそりと呟いた

 

「……そうかもね」

 

沖田は立ち上がり、さくらに背を向けた

 

さくらには、沖田の本当の心を推し量る事など出来ない

それでも、新選組に留まって剣を振るい続ける決意が変わらぬ事は見て取れた

 

それが―――彼にとって何よりも大切な事なのだろう

 

「……沖田さん」

 

ゆるやかにこちらを向く、沖田の気配

さくらは立ち上がると、ゆっくりと沖田を見た

 

「病の事は黙っています。絶対に誰にも言わないと、約束します」

 

「……ありがとう」

 

沖田の頬が、柔らかく笑んだ

 

その時、中庭の茂みの奥にじっと動かない人影がある事に、沖田を見送るさくらは気付かなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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―――夜

 

さくらは燭台の明かりで、以前千姫に手配して貰った医学書を読んでいた

”労咳”の項目を探し、指でなぞりながら読み進めて行く

 

少しでも、勉強しておこうと思った

もしもの時、即座に対応出来る様に……

 

だが―――

 

「駄目だわ……」

 

残念な事に、労咳の専門書でないそれには簡単な事しか書かれていなかった

投薬治療と、空気の清浄化、滋養のある食事

後は、安静にする事

 

松本の言っていた事と一緒だ

恐らく、それ以外の治療法など無いのかもしれない

 

どうしよう………?

 

出来れば、もっと詳しく書かれいる物が欲しかった

 

千に………

 

そこまで考えて、それは駄目だと気付いた

千姫に頼むという事は、必然的に沖田の事を説明しなければならない

 

それでは、沖田との約束を破る事になる

 

「…………」

 

今度、時間のある時に街に出て書肆か貸本屋に―――

 

「さくら?」

 

「は、はい!」

 

ふいに、障子戸の向こうから声を掛けられ、驚いたさくらは思わず声を上げてしまった

慌てて口元を手で押さえる

 

「悪い、驚かせたか?」

 

だが、声の主は別段機嫌を損ねた様子もなく、平静だった

 

「あ……いえ、すみません。大声を出してしまって………」

 

さくらが恐縮した様に謝ると、障子戸の向こう肩を震わす気配があった

 

「あ、あの……?」

 

「いや、何でもない。さっさと寝ろよ」

 

それだけ言うと、その気配が遠ざかって行く

 

あ………

 

さくらは慌てて立ち上がった

 

「土方さん……っ」

 

障子戸を開け、声の主を呼び止める

廊下の向こうで、土方が振り返った

 

「なんだ?」

 

「あ……ええっと……その………」

 

思わず呼び止めてしまったが、何を言っていいのか分からず、言葉が詰まった

 

「あ……ひ、土方さんは、こんな時分にどちらに行かれるのですか?」

 

彼の向かっている方向は、彼の部屋とは逆方向だ

咄嗟に浮かんだ言葉を連ねると、土方は何でもない事の様に

 

「ん?ああ、少し喉が渇いたから、厨に―――」

 

「お茶ですか?呼んで下されば、私淹れましたのに……」

 

土方の向かう方向には厨がある

恐らく、彼は自分で茶を淹れに行こうと思ったのだろう

 

そう言ったさくらに、少し苦笑いを浮かべながら土方は口を開いた

 

「いや、もう時間も遅いし、そこまでお前に手間掛けさせる訳にはいかねぇよ。いいから、お前はもう寝ろ」

 

そう言って、そのまま行ってしまいそうになる土方の袖を慌てて掴んだ

 

「い、いえ、私に淹れさせて下さいっ。そ、それに、今の茶葉の置き場、土方さんはご存じないと思います」

 

その言葉に、土方が首を傾げた

 

「あ?茶葉ぐらい―――」

 

「き、昨日の大掃除で以前の場所から動かしてしまいましたので、厨に行かれても分からないと思います」

 

だから、自分が淹れて行く―――と、さくらは言い切った

 

それを見て、土方がふっと笑みを浮かべる

 

「何だよ。えらく強気だなぁ」

 

「だ…駄目でしょうか?」

 

引き下がらないさくらに、土方は観念した様に笑みを零した

ぽんっと、さくらの頭に手をやり

 

「分かった。なら、うんと旨いやつを頼む」

 

土方がそう言うと、パッとさくらが顔を綻ばせた

 

「はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

茶を淹れて、土方の室に向かう

 

「さくらです。お茶をお持ちしました」

 

そう声を掛けると、室の中から声が聞こえてきた

 

「入れ」

 

土方の返事を聞いてから、さくらは障子戸を静かに開けた

室に入り、ゆっくりと戸を閉める

 

土方は、文机に向かったまま筆を動かしていた

 

さくらは、土方の傍まで行くと、そっと文机の隅に茶を置いた

 

「どうぞ」

 

「ああ、悪いな」

 

そう言って、土方が一度だけ茶に口付ける

 

さくらは「いいえ」と応えた後、そのまま下がると、部屋の片隅に座った

 

「…………」

 

じっと、仕事を続ける土方の背を見る

正直な所、どうしようか迷っていた

 

出来るなら、沖田の事を相談したい

だが、それは沖田の意思とは反するし、約束もあるので出来ない

 

勢いで来てしまったが、どうするべきか―――

 

とりあえず、街に出る許可を頂いて………

そう、考えあぐねている時だった

 

「―――さくら」

 

不意に、名を呼ばれ さくらはハッとした

 

「あ、はい……?」

 

返事をして土方を見ると、土方は何かを思案する様に、その動きを止めた

 

「土方さん……?」

 

その先が返ってこず、さくらは首を傾げた

 

土方が、その手を止め 筆を硯に置いた

そして、視線だけをさくらに寄越す

 

何……?

 

さくらが、そう疑問に思い目を瞬かせると

 

「………総司を、どう見る」

 

「え……っ?」

 

土方から出た予想外の名に、さくらはどきっとした

一瞬、考えを読まれたのかと不安になる

 

「あの……、どう…とは?」

 

とりあえず、当たり障りのない言葉を選ぶと、土方が何かに気付いた様に「ああ…」と洩らした

 

「変な意味じゃねぇよ。山崎に聞いた。お前は医学の知識があるんだろう?そういう奴から見て、今の総司はどうなんだ?あいつ、ずっと変な咳してるだろう?」

 

「え…、あ………」

 

そういう意味なのかと、思わずほっとする

 

「知識―――と言っても、少しかじった程度ですよ?」

 

「それでも、俺達素人目から見るよりは、幾分かましだろう?」

 

「…………」

 

もしかしたら、これはいい機会かもしれない

沖田の病名を告げずに、治療法を伝えられる―――

 

でも、何か……違和感を感じる

 

何かしら……?

 

何かを見落としている様な―――

 

「そう…ですね……」

 

さくらは、少しだけ思案して

 

「やはり、安静にしているのが一番だと思います。 後は細めに空気の入れ替えと、滋養のある食事を………」

 

そこまで聞いた、土方の表情が微かに曇った

そして、「そうか……」と、小さく呟く

 

「…………?」

 

土方さん……?

 

何だろう

違和感がどんどん大きくなる

 

土方は、一度だけさくらを見た後、遠くを見る様に目を細めた

 

「総司はな、最初は試衛館に内弟子―――っていやぁ聞こえはいいが、奉公に来たようなもんだったんだ。 でも、近藤さんはえらく可愛がっててな。試に竹刀を握らせてみたら結構筋が良いし、そのまま門弟になったんだ。まぁ、俺にはくそ生意気な小坊主でしかなかったけどな」

 

そう言って、その口元に笑みを浮かべる

 

「でも―――近藤さんにとっても、俺にとっても、総司は弟みてぇなもんだ。あいつを―――失う訳にはいかない」

 

「………っ」

 

真っ直ぐな土方の言葉に、さくらははっとした

 

土方さん……?

もしかして、気付いて―――?

 

「さくら」

 

「は、はい」

 

ふいに話を振られ、さくらは居住まい直した

 

「————・・・・少し、頼まれてくれるか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あ~やっと、労咳の話だよ・・・

ここまで、無駄に時間食ったわww

 

さて、また何やらある様です

何ですかね?

 

それにしても、良かった・・・

少しですが、土方さん出番あってwww

 

ささ、このまま次へついっとどうぞ~

 

2011/04/03