櫻姫抄乱
 ~散りゆく華の如く~

 

 四章 虚実の馨り 11

 

 

「……………」

 

視界に、ぼんやり日差しが入る

さくらは、ゆっくりと目を開けた

 

ゆっくりと起き上がり、窓の外を見る

 

日の高さから言って、昼頃だろうか

 

私、寝てしまっていたのね……

未だに覚醒しない、頭を起こすかの様に、二、三度瞬きする

 

身体は大分楽だった

朝の様な、気怠さも眩暈もしない

 

珍しい…と、さくらは思った

 

あの症状が出た後は、大概一日は辛いままなのに

半日で治るなんて……

 

それにしても……

 

懐かしい夢だった

まだ、風間家に引き取られて間もない頃の夢

 

そして………

 

「……………」

 

ふぅ…と、さくらは小さく溜息を洩らした

思い出したくないとでもいう様に、頭を押さえる

 

未だに見る”悪夢”―――………

 

違う、あれは夢ではない

”現実”だ

 

あの時の、あの言葉が忘れられない

 

 

『お前など、もう 要らぬ』

 

 

風間のあの言葉が、何度もさくらの心に圧し掛かる

吹っ切れたと―――思っていたのに

思っていた、だけ だった

 

身体を動かしている間は忘れられた

でも―――

 

ふと、最後に見た風景が思い出される

今日は少し違っていた

 

最後に見た、あれは―――

 

夜闇の中に咲き誇る、桜の大樹と、そして―――

 

「……………」

 

さくらは、小さくかぶりを振っ

 

駄目だ

今の私には、あの人の手を取る資格がない

 

ここに置いてもらえる

それだけで、いいと思わなければ―――

 

それ以上は、望んでは いけない

ふと、さくらは辺りを見回して気が付いた

 

ここは………?

 

そこは、さくらの部屋ではなかった

朝の土方とのやり取りが思い出される

 

あ………

そうだわ……

 

ここは、土方の部屋だ

どうやら、土方の部屋ですっかり寝入ってしまっていたらしい

 

いけない

土方さんにご迷惑が―――

 

そう思い、慌てて辺りを見回すが……

 

「いない……?」

 

部屋には、さくら以外誰も居なかった

どうやら、部屋の主は留守らしい

文机を見ると、書きかけの書状が目に入った

 

忙しい人だから、誰かに呼ばれて何処かへ行っているのかもしれない

戻られる前に、退出した方がいいわよね

 

そう思い、手を動かした時、カツンと何かに手が当たった

何だろう?と、そちらの方に視線を向けると―――

 

「あ………」

 

そこには、盆に置かれた湯呑が置いてあった

 

そういえば……

 

朝、土方が室を出る時に何と言っていたか

”何か持ってきてやる”と、そう言っていなかったか?

 

じゃぁ、これは………

 

「……………」

 

さくらは、まじまじと湯呑を見た

 

多分、茶 ではない

薬?とも違うようだ

 

でも、土方さんが私の為に淹れてきてくれた…の、よね…?

さくらは、少し考えてから そっと、その湯呑を手に取った

中を見ると、澄んだ水の様だ

 

お水……?

 

「……いただきます」

 

そう言うと、さくらはこくっとその水を飲んだ

あ……

 

甘い感覚が、口の中に広がる

砂糖……?

ううん、違うわ

 

多分、軽く果実汁と氷砂糖が混じってる

 

「美味しい………」

 

その水は、起き掛けのさくらには丁度良いものだった

 

さくらは、その水をそのまま飲み干すと、コトンと盆に置いた

 

「ごちそうさまでした」

 

何だか、心が軽くなった様な気がする

自然と、笑みが零れた

 

さくらは布団を仕舞うと、文机に向かった

流石に、何も言わずに退出してしまうのは気が引けたので、

料紙にさらさらと礼文を書き記す

 

盆を厨に下げようとしてある事に気付いた

 

「あ………」

 

自分の帯を見て、少し戸惑う

帯を締めたままだったので、ぐちゃぐちゃだった

 

一度、部屋に戻ろう

 

さくらは、盆を持つと障子戸を開けた

 

太陽の日差しが眩しい

 

一度、振り返って頭を下げると、さくらはそのまま室を出た

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

室に戻ると、帯を締め直そうと鏡の前に立った

 

「………っ!?」

 

立った瞬間、ある事に気付く

慌てて、自分の髪を触った

 

結い紐が無い…!?

 

そこには、いつも身に着けている赤い結い紐が無かった

頭が真っ白になる

 

え……っ!?どこかに、落とした!?

ううん、そもそも朝結んでいた…?

 

体調が悪かったせいか、それすらはっきり思い出せない

慌てて、部屋の中を探す

 

無い

無い!

 

引き出しも、鏡台の上も見たが、どこにも無かった

 

「そんな……」

 

あれは……

あれが無いと、千景が……

 

『印だ』

 

そう言って、渡された鈴の付いた赤い結い紐

千景に……気付いてもらえない……っ!

 

さくらは、思うよりも早く室を飛び出した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ………」

 

千鶴は、野菜を包丁で切りながら、溜息を付いた

 

「千鶴、考え事してると指切るぞ」

 

「え?あ…は、はい!」

 

隣で、鍋の中を回していた原田に注意され、千鶴は慌てて野菜を切るのに集中した

が……

 

「はぁ………」

 

やっぱり、出てくるのは溜息だ

 

「どうした?そんな重い溜息なんか付いて」

 

原田に問われて、千鶴は少しだけそちら見る

 

「あ…その……さくらちゃんがなんだか具合が悪いって聞いたので、大丈夫かなぁ…と」

 

「ああ、さくらか」

 

そういえば、今朝方、土方がさくらは体調が宜しくないから休ませていると、言っていた

筈…なのだが

 

「……あいつ、部屋にいねぇんだよな」

 

「え?」

 

千鶴が、聞き返した時だった

 

「あ~重てぇ!」

 

永倉が、たらいに洗った魚をいっぱい入れて厨に帰ってきた

 

「よぉ、ご苦労さん」

 

原田が声を掛けると、永倉はどさっとたらいを置きながら

 

「まったく、左之は人使いが荒いぜ」

 

そう言って、こきこきと肩を鳴らす

 

「すみません、永倉さん。本当は、私が行くべきだったのに……」

 

千鶴がそう言うと、永倉はにかっと笑って手をひらひらと振りながら「いいって、いいって」と言った

 

「何言ってんだ。千鶴にそんな重てぇの持たせられる訳ねぇだろう」

 

「なにおぅ!左之!俺様ならいいってのかよ!?」

 

「新八は、馬鹿力だからなぁ。お前以外の、適任はいねぇよ」

 

「ばかやろう!俺様は鍛えてるんだ!!」

 

そんな2人の様子を見て、千鶴がくすくすと笑い出した

 

「お2人とも、仲良いですよね」

 

そう言われて、原田と永倉が思わず顔を見合わせる

 

「仲良い…つーか、左之とはいつも一緒にいるのが当たり前つーか…なぁ?」

 

永倉が原田の肩に手をやろうとすると、原田がぺしっとそれを叩いた

 

「違げぇだろう。腐れ縁だよ。腐れ縁」

 

「何言ってんだよー左之。俺と左之は一心同体……!!」

 

「気色わりぃ事、言ってんじゃねーよ」

 

永倉が盛大に両手を開いて今にも飛び掛からんとするのを、原田が手で制す

それを見て、千鶴がまた笑い出した

 

内心、原田はほっとしていたかもしれない

さくらの話題から逸れた事に

その点では、永倉に感謝すべきか……

 

が、それはその永倉によって脆くも崩れた

 

「そういやぁ、さくらちゃんが体調崩したって?」

 

永倉のまったく空気を読まない発言に、原田が頭を抱える

 

「あ………」

 

千鶴の表情が、また曇る

 

「そう…なんですよね。心配で……」

 

うな垂れて、野菜を切っていた手が止まる

原田は小さく溜息を付いて

 

「おい、しんぱ……」

 

暴走しかねない永倉を止めようと、原田が声を出そうとした時だった

永倉が、「よっしゃ!」といきなり大声を上げると、腕まくりをした

 

「病人には元気の出る飯だよな!うんと精の出るもん作ってやらねーと!」

 

言うが早いか、永倉はいきなり魚をまな板に置くと、思いっきり包丁を振り上げた

そして、ダン!と勢いよく、魚を真っ二つにする

内臓も出さすに、真っ二つにされた魚を持つと、鼻歌を歌いながら原田が作っていた鍋に投入しようとする

 

「あ!ばっ……!!」

 

ぼちゃぼちゃ

 

原田が止めるのも虚しく、その魚達は見事に鍋に入っていった

 

「ふんふんふ~ん」

 

「ああ……」

 

機嫌よく鍋をかき回す永倉とは裏腹に、原田は頭を抱えた

 

「お!やっぱ味噌も入れなきゃだよなぁ~」

 

がしっと永倉が味噌の入った樽を持つ

 

「おい、待っ……!」

 

どさどさどさ

 

みそこしで溶き入れる事無く、味噌の束が鍋に投入される

 

「そうそう、塩と~砂糖と~醤油と~」

 

どさどさどさ

 

「おっと、火力強めないとな!」

 

釜戸に薪を投入する

ゴォッと釜戸の火が強くなった

 

ぐつぐつぐつぐつ

 

煮立っている 猛烈に

 

「……………」

 

「……………」

 

原田が、頭を抱えてうな垂れている

千鶴は唖然としてそれを見ていた

 

「後は~やっぱ酒だよなぁ~」

 

ひょいと酒瓶を持つと、きゅっぽんと蓋を取った

 

「だぁ~~~~~!!!待て待て待て!!!!お前は、これ以上何を入れる気だ!?つーか、一体何を作ってんだ!?」

 

堪忍袋の尾が切れたのか、原田がすかさず止めた

当の当人はきょとんとして

 

「何って…決まってんだろ? さくらちゃんの為に、精の付く特製お頭付味噌汁を…」

 

「んな得体の知れない生臭いもん、さくらに食わせられるかぁ!!」

 

「得体の知れないとはなんだ!?これは、永倉家に伝わる直伝の……」

 

「それはお前の記憶違いだ!今!直ぐ!抹消しろ!!」

 

「え、えっと……お味噌汁は煮立たたせちゃ駄目だと思うんですけど……」

 

千鶴が遠慮がちにそう言うと、永倉はきょとんとして

 

「だって、火力低くっちゃ火が通んねぇんじゃね?」

 

「いやいや、それ以前の問題だろう!?生魚を入れた時点で間違ってるだろうが!!」

 

「なんで?」

 

「なんでって…お前な……」

 

はぁぁ~~~と、原田が呆れにも似た溜息を洩らす

 

「これ持って、さくらちゃんの見舞いに行こう! な?千鶴ちゃん!」

 

「え……っ!?えっと……」

 

前半はともかく、後半は気になるので返答に困る

千鶴が助け舟を求めるかの様に原田を見た

 

原田は小さく溜息を洩らし

 

「さくらにそれを持っていくのは駄目だ」

 

「ええ~!?何でだよ――!」

 

不満だー!と、永倉がぶーぶーと文句をたれる

原田はキッと永倉を睨み

 

「と・に・か・く!それはお前が責任もって食え!一滴も残さず食え!食いもんを粗末にするな!!」

 

ええ~~!?と、永倉が不満の声を上げる

そんな様子を、千鶴は苦笑いを浮かべて見ていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ~~~~」

 

疲れた…と、言わんばかりの盛大な溜息を付いて、原田はどかっと土間に腰かけた

あの後、暴れる永倉の胃の中に無理矢理アレを突っ込み、何とか、さくらに出すのを阻止して今に至る

 

あんな、食い物粗末にしているのを知られたら、土方や井上に何を言われるか…

考えただけでぞっとする

 

間違いなく、鬼が降臨するだろう

何とか、証拠隠滅出来てよかった

 

しかも、あれをさくらに持っていくとか……

さくらを余計悪化させる気が!?としか、思えない

それが、永倉の場合わざとでないから性質が悪い

 

本気…つー所が、怖ぇえよな……

 

向こうで、永倉が青くなって泡を吹いているが、まぁ、自業自得だ

 

「あの…お疲れ様です」

 

千鶴がおずおずと湯呑を差し出しながら、そう言った

 

「ああ…マジ、勘弁して欲しいぜ…疲れた」

 

その湯呑を受け取り、口付ける

怒鳴ったせいで、喉が渇いていたので丁度いい

 

「でも……」

 

千鶴がぽつりと呟く

 

「お見舞いは行きたいかな…さくらちゃんの…」

 

「ん?あーまぁ、いいんじゃねぇか?」

 

別に、見舞いに行くこと自体は悪いことではない

問題ないだろう

 

問題は………

 

ふと、視線を感じ原田は顔を上げた

千鶴がまじっと原田を見ている

 

「どうした?」

 

「あ…いえ、ちょっと意外っていうか……」

 

「?」

 

「あーえっと、変な意味じゃないんですけど……」

 

少し言葉を探す様に、もごもごと千鶴が口ごもる

 

「その……原田さんは、もうさくらちゃんの所に行ってると思ってたので……」

 

「……………」

 

その言葉に、原田は少し驚いた様に千鶴を見た

まさか、千鶴にあっさり行動が読まれているとは思わなかったからだ

 

実際の所、行った

行ったが……会えなかった

 

てっきり部屋で休んでいるものと思ったが、さくらの部屋はもぬけの空だったのだ

一時的に、何処かへ行っているだけなら、待てば帰ってきたかもしれない

だが、その部屋は明らかに長時間誰も居なかったのが直ぐに分かった

冷やりとした気配が、それを物語っている

 

なら、さくらは一体どこに……?

 

朝、さくらを休ませると言いに来たのは土方だった

そして、その土方もそれ以降部屋にいるのか、見かけていない

 

「……………」

 

まさか……な

 

部屋に居ないさくら

さくらを休ませると言いに来た土方

姿をみない土方

 

それが導き出す答えは―――………

 

「あ、あの……すみません。気分を悪くさせちゃいましたか?」

 

黙ったまま何も言わない原田が気分を害したと思ったのか、千鶴がおずおずと謝罪の言葉を述べた

 

「ん?ああ、いや……」

 

そういう訳じゃない と、言おうとした時だった

 

「………?」

 

何やら廊下が騒がしい

何事かと原田が廊下の先を見ようとした時だった

 

 

 

 

 

「千鶴!!」

 

 

 

 

 

いきなり厨に駆け込んできた人影があった

 

それは―――

 

「さくら!?」

 

それは、休んでいる筈のさくらだった

が、その姿を見てぎょっとした

 

「え? さくらちゃん……?って!! さくらちゃん!?」

 

千鶴も”それ”に気付いたのか、驚いた様な声を上げる

 

「あ、あの……ね、ちず―――…」

 

「へ? さくらちゃん……?」

 

さくらの声に気付いたのか、永倉がこちらを見ようとする

 

「だ―――!!!新八っ、こっち見るな!!」

 

原田が慌てて永倉に駆け寄ると、思いっきり首を掴んでぐぎぃと後ろを向かせた

 

「のぁっ!?にゃにぃすん……っ!?」

 

「やかましい!いいから、後ろ向いてろ!!」

 

その隙に、千鶴が慌ててさくらに駆け寄ると、ぐいぐいと背中を押した

 

「え? ちょっ……千鶴!?」

 

「いいから!いいから、さくらちゃん、ちょっとあっちに行こう!! ね?」

 

「え……? ちず……っ!?」

 

そのまま、千鶴はさくらを厨から連れ出したのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とりあえず、手短な空いている部屋に入ってから、千鶴は安堵の息を洩らした

 

「もーさくらちゃん、なんて恰好で来るのよ。びっくりしたじゃない。具合はもういいの?」

 

さくらの姿を見て原田も驚いていた

それは、驚きもするだろう

 

着物は着くずれ、帯はぐちゃぐちゃだ

髪も、解かれたままだし

一体、何事かと思う

 

だが、さくらはそんな事など気にする余裕もないのか

切羽詰まった様に、千鶴に詰め寄った

 

「千鶴……っ!どうしよう!?無いのよ!」

 

余りにも尋常でない、さくらの慌てぶりに千鶴も思わず首を傾げる

 

「と、とりあえず、落ち着いて。ね?」

 

「落ち着いてなんていられないわ!無いのよ!!結い紐が無いの!!」

 

「結い紐?」

 

というと、さくらがいつも身に着けている赤い結い紐だろうか?

結い紐一本無くなった所で、そこまで騒ぐ事だろうか…とも思う

 

だが、さくらの動揺っぷりは、普通ではなかった

さくらは、今にも泣きそうな顔をして

 

「千景に貰った結い紐なのに……っ。あれが無いと千景が……っ!」

 

動転しているさくらを落ち着かせる様に、千鶴は彼女の背中をぽんぽんと叩いた

 

「とにかく、落ち着いて?ね?ほら、深呼吸して」

 

さくらが、はっとした様に、千鶴を見る

それから、少しだけ息を吐いて二度ほど目を瞬かせた

それで少し落ち着いたのか、さくらの表情が少しだけ安心したものになる

 

「風間さんに貰った結い紐が無くなったの?」

 

「え、ええ……」

 

さくらは、小さな声でそう答えた

 

「千鶴……っ、どうしよう!?あれじゃないと千景が―――っ!」

 

「待って待って、分かったから落ち着いてい!」

 

今にも、言い詰め寄ろうとするさくらを手で制す

 

「つまりは、その結い紐を見つければいいんだよね?」

 

「……………」

 

さくらが何かに驚いた様に、目を見開いた

 

「さくらちゃん?」

 

その異変に気付いたのか、千鶴が不思議そうにさくらを見る

さくらがハッとして、視線を落とした

 

「え、ええ……」

 

「分かった。じゃぁ、私が探してあげるから、さくらちゃんは部屋に戻ってまずその恰好をどうにかしてくる事!」

 

「え………?」

 

言われて初めて気付いたのか、さくらは思わず自分の恰好を見た

 

「あ………」

 

そういえば、帯を結び直そうとしていた所だった事を思い出す

 

「あ……その……、ごめんなさいい」

 

今頃恥ずかしくなったのか、さくらが少し頬を染めてそう呟いた

 

「原田さんもびっくりしてたよ?流石に、その恰好で出歩くのは拙いよ」

 

「そ……そう…よね」

 

「とりあえず、部屋まで送るから」

 

「ええ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

千鶴は、さくらを部屋まで送った後、結い紐を探してくると言ってそのまま去っていた

さくらの手には、一本の結い紐があった

千鶴が、代わりにこれで結んでおいてと、置いていったものだ

 

さくらはそれを鏡台に置くと、鏡の前に立った

酷い恰好だ

 

こんな姿でうろうろしていたのが、今頃になって恥ずかしくなる

 

多分、これは帯を結び直すだけでは駄目だ

一から、着直した方が早い

 

さくらは、しゅるしゅると帯を解いた

 

「……何をしているのかしら…私……」

 

ぽつりとそんな事を呟いていてしまう

 

結い紐が無くなったからといって、何だというのだ

そんなに慌てる事ではないではないか

 

千鶴の言葉でハッとした

 

『つまりは、その結い紐を見つければいいんだよね?』

 

見つかったら?

今更、見つかったって何も変わらない

 

そうよ……今更だわ……

 

たとえ、あの結い紐があったって、風間は見つけてくれない

あの時とは、違うのだ

 

見つけては―――くれないのだ

 

分かっていた

分かっていた事なのに………

 

それが、酷く 哀しい―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうやら、左之が様子を見に行った様です

が、何やら勘付いているご様子

 

結い紐は…あの人が持てるんだけどなー(笑)

 

土方さん出番なし!

ささ、次へどうぞw

 

2011/02/107