櫻姫抄乱
 ~散りゆく華の如く~

 

 四章 虚実の馨り 10

 

 

別に、深い理由は無かった

 

すれ違った瞬間に見たさくらの顔色が

余りにも蒼白で、今にも倒れそうで……

 

思わず、手が出た

 

彼女の事だから、このまま放っておけば、絶対無理をしただろうし

「何でもない」と言い切っただろう事は、予想付いた

 

だから、有無を言わさず連れて行った

自分の部屋に

目が離せない……と

自分の目の届かない所で、どんな無茶をしでかすか分からないから―――と

 

そう、自身に言い聞かせた

 

それと同時に、腹が立った

 

無理をしようとする、それを隠そうとするさくらに

それ以上に、気付いてやれなかった自分に

 

無性に腹が立った

 

どうして

あの時

自分は様子を見に行かなかったのか

 

少しでも、異変を感じていたのならば、行くべきだった

たとえ、それが気のせいだとしても

 

行くべきだった

 

「…………っ」

 

後悔の念が土方を襲う

 

頭の中が、めちゃくちゃで

 

どうして

何故

 

その言葉が、支配する

 

どうして、さくらは俺を頼らない……!

具合が悪いと、辛いのだと どうして言わない!?

 

何が、彼女をそこまで無理させようとするのか

 

「…………っ」

 

土方がぐっと手を握りしめた

 

そんなに、俺は頼りないのか……っ

あいつにとって、俺は頼りない存在なのか……!

 

分からない

分からない

 

「あいつになら――――」

 

 

風間になら――――

 

 

 

       頼ったのか……?

 

 

 

 

「くそっ……!」

 

ダンッと、土方の拳が壁を叩いた

 

分からない

あいつの―――

 

さくらの”気持ち”が、分からない―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トン……

 

土方は障子戸を開けて、呆気に取られた

余りにも、予想だにしなかったその光景に、思わず言葉を失う

 

 

 

彼女が―――寝ていた

 

 

 

土方の部屋の中で

 

 

  ”さくら”が、寝ていた

 

 

いや、寝ている事自体は、別に驚く事ではない

そう、仕向けたのだから、寝ていてもおかしくない

 

おかしいのは―――

はぁーと、土方が苦笑を浮かべて溜息を洩らす

 

「なんつー態勢で寝てやがるんだ……こいつは」

 

思わず、笑みが零れる

 

彼女は寝ていた―――座ったまま

土方の掛布を抱きしめる様に、膝を抱えたまま眠っていたのだ

 

それも、安心した様に――穏やかな寝顔で

 

「……………」

 

曲がりにも、ここは土方の―――男の部屋なのに――

この安心し様は……どうしたものか―――

 

土方は、小さく息を吐きながら、持っていた湯呑を床に置いた

そっと、彼女の傍に座り、また小さく溜息を洩らした

 

これは、男として見られていないという事か………?

それとも、”ここ”だから安心してくれているという事だろうか……?

 

答えなど、分からなかった

 

それでも、彼女が”安心”してくれているという事に、安堵する

顔色も、先程より随分ましになってきている

 

少なくとも、今は良くなっているという事だ

 

「……………」

 

しかし……

流石に、この態勢は辛いんじゃねぇか……?

 

横になればいいものを―――

 

何だって、こんな態勢で―――

 

そう思い、さくらを横に寝かそうと、手を伸ばしてある事に気付いた

彼女の手が、しっかりと掛布を握りしめていたのだ

 

「……………」

 

思わず、思考が停止する

 

落ち着かせる為に一呼吸置いた後、土方は改めて手を伸ばした

そっと、さくらの肩を抱きそのまま寝かそうとする

 

「………ん……」

 

不意に、さくらが寝返りをうつ様に動いた

 

「……っ…と」

 

急に動かれた為、そのまま態勢を崩しそうになるが、なんとか堪える

彼女が落ちない様に、肩を持つ手に力が籠った

 

落とさなかった事に安堵するが―――

無意識的に抱き締める形になり、土方は息を飲んだ

 

さくらが、土方の胸にしな垂れる様にトン…と身体を預けてくる

 

「…………っ」

 

予想外の出来事に、土方は思わず言葉を失った

 

彼女の細い肩が、身体が、触れる

トクン…トクン…と、心臓が脈打つのが伝わってくる

 

自身の鼓動が微かに早くなるのに気付かない振りをして、土方はそっとさくらの頬を手の甲で撫でた

 

「…ふ……、安心した顔で寝やがって……」

 

さくらの寝顔は、身も心も安心しきった様に穏やかだった

その表情を見ていると、自然と笑みが零れた

 

ふと、彼女の髪が目に留まる

 

休んでいるというのに、さくらの髪は結われたままだった

いつも、彼女の髪を結っている赤い結い紐

 

ほどいて休めばいいものを……

 

土方は、ついっと手を伸ばすと、その結い紐に手を掛けた

そして、そのまま引っ張る

シュル…と、赤い結い紐がほどけ、彼女の艶やかな漆黒の髪がさらっとなびいた

 

その拍子に、結い紐の先に付いていた鈴が、リン…と鳴った

ほどけた髪がさくらを抱く手に掛かって、くすぐったい

 

髪をほどいただけ

 

それだけなのに、髪が艶めかしく垂れ、指に触れているせいか―――

髪を垂らした彼女は普段よりも数段大人びて見え、一瞬息を飲んだ

 

そっと手を伸ばし、さくらの顔に掛かっていた髪を優しく避ける

サラ…と、髪が指の合間からすべり落ちた

 

ふと、以前さくらが倒れた時の事を思い出した

 

あの時も、こうやって髪を避けたな……

 

ほんの一年前の出来事なのに、酷く遠く感じる

あの時は、こんな風に感じるなんて思いも寄らなかったが……

 

小さく、息を吐く

 

さくら……

 

この小さな身体を守りたいと―――思う事はいけない事なのだろうか……

そっと、さくらの髪を撫でる

 

守ってやりたい―――

 

強く、そう思った

 

 

 

 

 

 

一呼吸置き、結い紐をとりあえず懐に仕舞うと、彼女の手に目をやった

さくらの手は、未だに掛布を握り締めていた

 

その手を掛布から離させ様と、手を伸ばす が

その手は、さくらの手によって阻まれた

 

何をどうしてか、伸ばした土方の手をさくらが掴んだのだ

 

「……………っ」

 

思わず、硬直する

 

何が起きたのか理解するのに時間が掛かった

 

一瞬、さくらが目を覚ましたのかとも思ったが…どうやら、そうではないらしい

彼女の瞳は閉じたままだし、吐息も変化がない

 

どうやら、無意識的なものらしい

 

土方は、はぁーと溜息を洩らして、己の手を引っ張った

が……がっちり掴まれた手は離れてくれない

 

「おい、さくら……」

 

声を掛けてみるが、反応はやはり無い

 

どうしたものか……

これでは、身動きが取れない

 

土方は諦めにも似た溜息を洩らした

腕の中の彼女は、穏やかなものだ

土方はもう一度溜息を洩らし、握られた手を見た

 

「……………」

 

こうしていると、錯覚しそうになる

 

彼女も……さくらも、自分を想ってくれているのではないか―――と

だが………

 

土方は、ぎゅっと唇を噛み締めた

 

俺に、こいつを想う資格なんてねぇ……

分かっている

分かっているのに……

 

……どうして

 

こんなにも、この手を離しがたく思ってしまうんだろう―――…

 

「―――で……」

 

不意に、微かにだが彼女の声が聞こえた気がした

 

「………?」

 

土方が、声のした方を見やる

 

「さくら…?」

 

ぎゅっと、土方の手を握るさくらの手に力が籠った

 

「――――………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   「……い………ない、で………ち、かげ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドクン と、心臓が跳ねた

 

「――――……っ」

 

土方の目が大きく見開かれる

いつの日かの光景が蘇る

 

『千景の元へ戻ります』

 

桜の樹の下で彼女が紡いだ言葉

 

『待って!千景!!』

 

二条城で、彼女が叫んだ声

 

彼女の―――さくらの、”こころ”は、いつも風間に向けられていた―――

それは、今も―――……

 

ぐっと、土方が唇を噛み締めた

 

俺は……

 

「……………っ」

 

静かに、瞳を閉じる

 

 

 

 

    ”さくら”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                        ◆          ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……うっ……ひっく……っ……」

 

真っ赤な夕暮れの川辺

さくらは、その大きな真紅の瞳に大粒の涙を浮かべて、泣いていた

 

周りには誰も居ない

いや、居なくて当然だ

そういう場所を選んでいるのだから

 

まだ、12歳の幼い身体に重く圧し掛かる”もの”を、その小さな肩で支え

背負いきれないものを一杯背負って、背負って、それでも頑張ってきた

 

風間家に引き取られてきてから、教養も作法も習い事も、ずっとずっと頑張ってきた

何度も、何度も、怒られ、仕置きを受けても頑張ってきた

 

それでも、どうしても辛くなった時

さくらは、こうして泣いていた

 

誰も目にも留まらない、誰にも気づかれない所を探して、選んで、泣いていた

 

「……っ…うっ……」

 

どうして、自分は弱いのだろう

どうして、こんなにも出来ないのだろう

 

期待に応えようと、すればする程 空回る

上手くしようと、すればする程 失敗する

このままでは、また”要らない”と言われてしまう―――

 

「や…だ………っ……」

 

また”居場所”を、失ってしまう

 

「い、や………っ……」

 

このままでは―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   「お前は、こんな所で何をしている」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

え―――?

不意に上から降ってきた声に、さくらはビクッと身体を強張らせた

息を飲み、恐る恐る振り返ると―――

 

「何だ、また泣いているのか」

 

「ち、かげ……?」

 

そこに居たのは、風間だった

 

「……………」

 

さくらは、顔を顰めてぷいっとそっぽを向いた

 

「泣いていません」

 

ぎゅっと、着物を掴んでいた手に力が籠る

 

「嘘をつけ。泣いていただろう」

 

「泣いていません!」

 

風間の言葉にそう言い返すと、上から盛大な溜息が聞こえてきた

でも、さくらはそれに気づかないふりをした

 

不意に、風間がさくらの横に来る

すると、いきなり手を伸ばしてきた

 

ぐいっと無理矢理 顔を向けさせられる

 

「ふん。だったら、これは何だ?」

 

「………っ」

 

涙の事を指摘されたのだと気づき、さくらはぐっと目を擦った

 

「ごみが入っただけです」

 

「ほぉ」

 

風間が、小馬鹿にした様に口元に笑みを浮かべる

さくらはむっとして、更にそっぽを向いた

 

いつもそうだ

 

こんな時、さくらを迎えに来るのは決まって風間だった

 

どんなに、場所を変えても

隠しても、この男には気付かれる

 

正直、この男には超能力でもあるのではないかと疑ってしまう

 

「見え透いた嘘は止めておけ」

 

風間の言葉に、思わずぐっと押し黙る

指摘された事が真実なだけに、言い返す事が出来ない

 

「…………っ」

 

それでも、負けるものかと虚勢を張

また、溜息が聞こえた

 

どうしよう……

呆れられているのかもしれない

 

そう思うと、少し風間が気になった

 

「あの……どうして、分かるの……?」

 

一番気になっていた事を聞いてみる

風間がこちらを見る

 

少しの間、じっと見た後

風間は、くっと喉を鳴らした

 

「答えてやる義理は無いと思うが?」

 

「……それは…」

 

そうだが……

 

何だか釈然としない答えに、さくらはむぅ…と頬を膨らませた

だが、ここで問い詰めるのは何だか負けたようで納得いかない

 

「じゃぁ、いい」

 

さくらは、そう答えるとそのまま下を向いてしまった

 

それを見た風間が、不意にくっと笑い出した

 

「何だ?寂しいのか?」

 

「………っ!寂しくないわ!」

 

指摘されて、思わず声を荒げてしまった

これでは、肯定している様なものではないか

 

その反応が気に入ったのか、風間が面白しろそうに笑い出す

 

「そうか。構って欲しいなら、そう言えばいい」

 

「だ、誰もそんな事……っ!」

 

さくらが、むきになって言い返すと、風間は益々面白そうに笑みを作った

 

「ならば、手を出せ」

 

「え……?」

 

手……?

 

思わず、「何故?」と言いそうになるのを押し黙る

だが、何の経緯で手を出さねばならないのか、さっぱりだ

 

一瞬、躊躇してしまう

 

「……早くしろ」

 

急かされて、更に戸惑う

少し悩んだ後、さくらはおずおずと手を出した

 

「出したけど……」

 

チリン……

 

「え……?」

 

すると、手の中に何かを乗せられた

 

「……………」

 

恐る恐る、手の中を見る

 

そこには赤い結い紐があった

その結い紐の先には、小さな鈴が付いている

 

「これ……」

 

さくらは、その結い紐をまじまじと眺めた

ここに来て、人から何かを貰うのが初めてなだけに、緊張してしまう

 

「……髪に結ぶ紐……よね?」

 

「お前に、くれてやろう」

 

「えっ!?」

 

予想外の言葉に、さくらは思わず声を上げてしまった

その反応に不満だったのか、風間が眉を寄せる

 

「何だ、不服か?」

 

「え……っ!?う、ううん。そういう訳じゃないけれど……」

 

「だったら、何だ」

 

「えっと……その……、どうしてかな……と」

 

風間が、少し呆れた様に溜息を付く

 

「……お前は、主旨も言えぬのか」

 

察してくれればいいのに……と、思いつつもごもごと口を開く

 

「だから……、どうして私に……?」

 

そう問うと、風間がじっとさくらを見た

それから、小さく溜息を付き

 

「気に入らぬという事か」

 

「え……っ!?ち、違うの!」

 

予想外の言葉に、さくらは慌てて否定した

こんな事を言うのは恥ずかしいが……

 

「違うわ……その……可愛いと思うし、う、嬉しい…」

 

ただ、言葉を発するだけなのに…

顔が熱を帯びていくのが分かる

 

すると、一瞬だが、風間が微かに笑みを作った

 

「そうか」

 

初めて貰う物

それが、風間からだというのが素直に嬉しい

 

「でも……どうして、鈴…?」

 

別に、鈴が付いている事に不満がある訳ではないが…

そこが、謎だった

 

風間は、にやりと笑うと

 

「印だ」

 

「し、るし……?」

 

「貴様は、ふらふらとしているからな。その鈴があれば、居場所が直ぐに分かろう?」

 

鈴の音がする所に、さくらが居る

風間は、それを探して来てくれる―――そう取っていいのだろうか

 

「帰るぞ。俺は疲れた」

 

そう言い残すと、風間は踵を返して道の方へ歩いて行った

さくらは、もう一度手の中の赤い結い紐を見た

 

風間が選んで、風間がくれた物

 

ゆっくりと、振ってみた

 

リン…と、鈴の音が鳴った

この音が、私と千景を繋いでくれる

そう思うと、自然と笑みが浮かんできた

 

「さくら、何をしている。行くぞ」

 

道の方から、風間の声が聞こえてくる

 

「あ……。今、い―――……」

 

追いかけ様と顔を上げた

 

瞬間、ドンと音がして辺りが暗転する

広がるのは、真っ暗な 闇―――

 

「千景?」

 

声を掛けるも、返事はない

 

「千景!?」

 

鈴を鳴らしてみるも、姿は無い

不安がどんどん押し寄せてくる

この闇は嫌だ

ここに、居たくない

 

「…………っ」

 

さくらは、その場から逃れる様に走り出した

 

「千景……っ!返事をして……っ!」

 

呼べども、応えはない

 

足をもつれさせながらも、さくらは走った

だが、行けども行けども広がるのは闇ばかり

 

「あ……っ!」

 

不意に、足が何かに絡まりもつれる

そのまま、態勢を崩し どさっと手を付いた

 

リンリンリン

 

その瞬間、手からあの結い紐が転げ落ちる

 

リンリンリン

 

鈴がころころと転げて、音を鳴らす

 

「千景……」

 

”印”だと

 

「千景っ……!」

 

”私の居場所が分かる”と

 

そう、言ったのに――――っ!!!

 

 

 

 

 

 

「千景………っ!!!」

 

 

 

 

 

 

シン……

 

さくらの声だけが、闇の中に響いた

 

「………っ」

 

涙が出そうになる

 

辛い……

哀しい………

 

「寂しい、よ……千景……」

 

 

 

「そうか、寂しいか」

 

 

 

 

不意に、後ろから声が聞こえて、さくらは瞬間的に振り返った

そこには、風間が立っていた

 

「ちか―――っ」

 

嬉しさのあまり、駆け寄りそうになる

が、さくらは思わず言葉を切った

 

風間から感じる雰囲気が違った

 

冷たい―――冷めた様な目

真っ暗な闇と同じ様な、相手を否定する様な 空気

 

 

 

 

それは、明らかな ”拒絶”

 

 

 

ああ……知っている

私は、知っている

 

この空気も、雰囲気も

 

 

「もう、お前は用無しだ」

 

 

風間の口から紡がれる言葉も―――

 

 

 

 

 

 

    「お前など、もう 要らぬ」

 

 

 

 

 

「――――っ!」

 

ビクッとさくらが何かに恐れる様に肩を震わせた

 

 

”要らぬ”

 

 

反射的に、さくらは風間を見た

ああ、言われてしまった……

 

”要らぬ”と

 

この人には……

この人だけには言われたくなかった言葉―――……

 

ゆっくりと風間が背を向ける

手が震えた

 

「まっ……て……」

 

声が震えた

風間がそのまま闇の中に消えていく

 

「……いで……」

 

嫌……

 

「い……な、いで………」

 

いや………

 

 

 

「行かないで……っ!千景……っ!!」

 

 

 

 

 

さくらの声は、闇に 消えた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どのくらい、そうしていただろうか

 

涙など出なかった

哀しくて、辛くて、苦しいのに

 

どうして

何故

 

そんな事ばかり、考えてしまう

 

ずっと、闇の中で顔を手で覆い蹲っていた

もう、このまま闇に飲まれてしまうのだと そう思った

 

その時だった

 

不意に、ふわっと暖かな感触が頬に触れた

 

「…………?」

 

妙な既視感を感じ、さくらは顔を上げた

 

瞬間、視界が開けた

 

眩い光と、白い花

 

真っ暗だった闇を打ち消すかの様に、それは一斉に舞い上がった

 

ザァ……

 

「…………っ」

思わず、目を覆う

白い花弁が、視界を遮る

 

ザザザザザ……

 

花吹雪が空へ高く舞い上がり、光の渦が襲ってくる

それは徐々に収まり、はらはらと花弁が降ってきた

 

さくらは、そっと目を開けてみた

瞬間、言葉を失った

 

視界に入るは、大きな桜の大樹

夜闇の中に、白く輝く様に、そこに立っていた

 

「桜……?」

 

それは、かの夢を連想させた

 

これは……何?

夢……?幻……?

 

さくらは、実感の湧かないまま、ふらりと立ち上がった

 

その時だった

 

 

 

 

 

 「さくら」

 

 

 

 

 

不意に、声が聞こえた

優しい、優しい声だ

 

さくらは不思議に思い、ゆっくりと声のする方を見た

思わず、目を疑う

 

 

 

桜の大樹の下に居た、その人は―――

 

「ひ―――………」

 

そこで、目が覚めた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少し、長くなりました(-_-;)

しかも、殆ど話進んでないよ!

挙句の果てに、こんな所でぶつ切りww(容量オーバーで切りました)

すみません…

 

続きは、暫し待って!

 

2011/01/23