櫻姫抄乱
 ~散りゆく華の如く~

 

 三章 散る花 7

 

 

そして、長い夜が明けた

新選組幹部は、再び広間に集まった

 

皆、難しい顔をしたまま、何も話さない

ただ、静かに待っているだけだ

 

千鶴も、神妙な面持ちで皆にお茶を配っていた

 

その時だった

 

「山南さん、峠は越えたみたいだよ」

 

襖が開き、沖田と井上が現れた

 

「今は、まだ寝てる……静かなもんだ」

 

沖田と井上が入ってきて、襖を閉め座る

張り詰めていた場の空気が、その言葉で一気に緩まった

 

「じゃぁ、山南さん成功したのか!」

 

永倉の問いに、井上が静かに答えた

 

「……確かな事は起きるまで分からなんな。見た目には昨日までと変わらないんだが」

 

沖田は刀を持ったまま何も言わなかった

千鶴はお茶を配り終えると、静かに、隅に座った

 

その時、不意に障子戸が開いた

 

「おはようございます、皆さん」

 

「うげっ」

 

と、永倉が嫌そうな声を上げる

入った来たのは伊東だった

 

こんな反応をされないだけでも、千鶴は受け入れられた立場なのかもしれない

 

「ごほ…っほご…っ!」

 

思わず、沖田が咳き込む

 

「大丈夫か?総司」

 

原田が心配そうに沖田に尋ねるが、沖田は何でもないという感じに

 

「うん…空気が淀んだから、つい」

 

「あら、こんな爽やかな朝ですのに、皆さんの顔色が優れませのは、昨晩の騒ぎと関係があるんじゃありません?」

 

参謀と呼ばれるだけあって、伊東の発言は鋭い

 

「あー、いや、その、だな……」

 

近藤が口ごもる

救援を求めて、永倉と原田に視線を向けた

 

「おい、誤魔化せよ、左之」

 

「あ?俺か?」

 

永倉が原田に耳打ちする

原田は困った様に声を上げたが―ー―

 

「大根役者はでしゃばらないでくれるかな?」

 

沖田が珍しく苦笑を浮かべ、2人の間に割って入った

 

「はいはい。そういう事は、説明上手な人に任せましょうねー」

 

彼等の視線を受けて、斎藤が頷く

斎藤は立ち上がると、伊東に近づいた

 

「……伊東参謀がお察しの通り、昨晩、屯所内で事件が発生しました。しかし、状況は今だ芳しくなく」

 

状況はあまりよくないと、彼は告げた

 

「まぁ、それは大変ですこと」

 

斎藤は明かせる範囲の状況だけを、すらすらと話していく

沖田が言う様に、彼は説明上手なのだろう

 

「参謀のお心に負荷を掛けてしまう結果は、我々も望む所ではありません」

 

だから、まだ詳細は話す事が出来ない、と斎藤は頭を下げた

 

「事態を収拾し、今晩にでも改めて場を設け、お伝えさせて頂きたく存じますが」

 

「まぁ……」

 

伊東は目を細めた後、広間を見回して柔らかく微笑んだ

 

「事情は分かりましてよ。そういう事でしたら、今晩のお呼ばれ、心待ちにしておりますわ」

 

伊東は意外にも物分りが良く、いそいそと広間から出て行った

 

「はぁ………」

 

思わず、永倉等が安堵の息を洩らす

 

「なんだか見逃してもらえたみたいだけど……、もしかして一君の対応が気に入ったのかな?」

 

「え……?」

 

「……そう願いたいものだが」

 

え?え?

 

沖田や斎藤の言葉に千鶴は首を傾げた

斎藤の丁寧な対応を、伊東が気に入った可能性は高いと思うが

 

見逃してもらえたって……どういうこと?

 

「幹部が勢揃いしている場に、山南さんだけいねぇんだぞ?あの人絡みで何かが起きたって事ぐらい、伊東なら察しが付くだろうが」

 

「あ………」

 

土方の言葉に千鶴はハッとした

伊東は大体の事情を予測した上で、あえて何も聞かずに退いてくれたのだ

 

「あーそうだったね、あの人面倒臭いなぁー」

 

沖田がやれやれという感じに頭をかいた

 

「どうする?トシ」

 

近藤の問い掛けに、土方は何も答えず、思案顔でただじっと前を見ていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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近藤と土方と沖田が山南の部屋へ向った

襖を開けると―――

 

寝ていると思っていた山南が、机の向かってなにやらしていた

 

「山南君!……起きてて大丈夫なのか?」

 

近藤が心配そうに声を掛ける

山南は振り向く事すらせず、作業をしながら

 

「少し気だるい様ですが、これも薬の副作用なのでしょう」

 

どうやら、身体が重たいらしく、起きているのも少し辛い様だ

近藤と、土方は室に入ると、腰を下ろした

 

「……あの薬を飲んでしまうと、日中の活動が困難になりますから」

 

山南は赤い液体の入った丸いびいろどを振りながら、そう呟いた

 

つまり、薬の効き目が出ているという事だ

既に山南は、変わってしまっているみたいだった

 

「それって、つまり……」

 

沖田がそう言いながら壁際に刀を持ったまま座る

 

「私は、もう人間ではありません」

 

「だが、君が生きていてくれて良かった。それだけで、充分だとも……!」

 

近藤は目を潤ませて言う

 

だが、土方等は……

山南を案じるからこそ、素直に喜べない様だった

 

「……それで、腕は治ったんですか?」

 

沖田が尋ねると、山南は傷ついた筈の左腕を上げグッと手を握り締め、開いてみせる

 

「……治っている様ですね。少なくとも、不便はない」

 

少なくとも彼の悲願は、何とか達成されたらしい

だが、喜んでばかりもいられない

沖田が落ち着いた口調で、問い掛けた

 

「でも、昼間は動けないんでしょ?そんな状態で隊務に参加出来るんですか?」

 

昼に起きているのが辛いなら、普通の生活だって送れない

ましてや、新選組の隊務をこなすなんて到底無理だ

 

すると、山南はゆっくりと振り返り、淡く微笑んだ

 

「私は死んだ事にすればいい」

 

山南は、事もな下げにそう言った

 

土方がその菫色の瞳を大きく見開く

近藤も沖田も言葉を失った

 

「これから、私は薬の成功例として『羅刹』を束ねていこうと思っています」

 

そう言って、山南は微笑んだ

 

「我々は薬の存在を伏せる様、幕府から命じられている。私さえ死んだ事にすれば、薬の存在は隠し通せます」

 

言葉を挟む隙を与えず、それに、と山南は言葉を続けた

 

「薬から副作用が消えるのであれば、それを使わない手はないでしょう?」

 

心の中では止めたい

しかし、理論的な事を言えば、否定する要素がないのだ

あの薬は危険すぎる

でも、副作用が全て消えるならば……

 

何の問題もなくなるんじゃないだろうか

 

「……それしかない、か」

 

そして、ついに局長の許可が下りた

 

「ま、山南さんが自分で選んだ道ですし。せめて責任持って進んで下さい」

 

沖田は突き放す様な言い方をしたが、対する山南は微笑を浮かべたままだった

 

「……ならば、屯所移転の話。冗談では済まされなくなったな」

 

渋い顔をしたまま黙り込んでいた土方が、不意にぽつりと呟き洩らした

 

「山南さんを伊東派の目から隠す為には、広い屯所が必要だ。今のままでは狭過ぎる」

 

その言葉に同意を示す様に、近藤も深く頷いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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それから、半月後―――

 

新選組は長州に協力的だった西本願寺に無理矢理屯所を移した

 

境内の庭には桜が咲き始め、徐々に春の陽射しになってきた

暖かさが増していく午後―――

 

千鶴は境内を走っていた

 

毎日歩いていれば、さすがに慣れてきた

すっかり迷う事無くなった道を辿り、千鶴は境内の奥へ足を踏み入れる

 

道を曲がって境内の裏手へ

薄暗い一角に腰掛けた姿を見ると、千鶴は声を掛けた

 

「山南さん、食事の用意が出来ました」

 

声を掛けると、山南は顔を上げ

 

「ああ、君でしたか。ありがとう」

 

雪は消え、桜が舞う

境内の片隅で微笑む山南に笑顔を返し、千鶴は手を風にさらした

 

「大分、風も暖かくなってきましたね」

 

「ええ。……まぁ、今の私には、風よりも陽射しの強さの方が癪に障りますがね」

 

「……そうですか?」

 

それ程、今日の陽射しは強くないと思うが……

陽を避ける様に日陰へと移動する山南には、そう感じられるのだろうか

 

……あの薬に身を委ねた夜―――

山南は、白い髪と血に酔った赤い瞳を持つ、人外の存在に姿を変えた

 

けれど今、穏やかな笑顔の山南からは、あの夜の姿など想像も出来ない

 

あの日の事を夢だと言われれば、納得してしまうかもしれないぐらいに

けれど現実に、山南はこうして平隊士から隠れる様に暮らしている

それに、どこか陽を避ける様にもなった

 

……私は確かに、新選組の秘密に……

 

「……触れしまったんだ……」

 

ぼんやりと呟くうちに少し陽は傾いて―――

 

一瞬、山南の髪に陽が触れた

光の悪戯か、刹那の時、山南の髪が白く見えた

 

「………!」

 

「どうかしましたか?」

 

「あ、いえ!……なんでもないです!」

 

千鶴はハッとして慌てて手を振った

 

「じゃぁ……」

 

山南はそう言うと、千鶴の横をすり抜けて、そのまま行ってしまった

山南の姿はいつもと変わらない

髪が白く見えたのは、ただの錯覚だ

 

でも………

 

あの日、薬に負けかけた山南さんが、すぐ近くに居る―――

そんな不安が、少しだけ心に影を落としていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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――― 薩摩藩邸

 

「風間」

 

燭台の灯りのみの室の中

呼ばれて風間は室の隅を見た

 

天霧が膝を折りそこに佇んでいた

 

「天霧……用なら後にしろ。お前に付き合う気分ではない」

 

風間はビシャリと言い放ったが、天霧は臆した様子もなく話を続けた

 

「最近、桜姫とお話なされましたか?」

 

風間が訝しげに顔を顰めた

 

「またか?その話なら、もう聞き飽きた」

 

以前にも、同じ様な事を言われたのを思い出す

あの時も、天霧はさくらの身を案じていた

 

「最近の、姫のご様子をご存知ですか?」

 

「いや?」

 

何なのだ?と風間は眉を寄せた

 

「……姫は益々お痩せになったご様子。顔色も優れません。ご気分も優れないご様子。一度、お見舞いに行った方が宜しいかと」

 

「あいつが俺に泣きついてきたら、慰めてやらぬ事もないが?」

 

「風間、冗談は程ほどになさい。貴方のやっている事は、子供の我がままです」

 

拗ねる子供を叱る付ける様に、天霧は風間を窘めた

 

「……………」

 

風間は、はぁ…と大きく溜息を付くと徐に立ち上がった

 

「どちらへ?」

 

「……お前がさくらの様子を見て来いと言ったのだろう?」

 

そう言い放つと、さっさと室から出て行ってしまった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さくらは自室でじっと、窓の外へ目をやっていた

 

空には真っ白な月が昇ってる

洸に、薄雲の掛かるそれは、今のさくらを思わせた

 

私の心には、常に雲が掛かっている様……

 

雲がすべてを覆い隠し、何もかも消してしまえばいいと思う

 

千姫に会って、少しだけ元気を分けてもらえた様な気がする

彼女はお日様の様だ

 

明るくて、前向きで、何事にも挫けない強さを持っている

自分とはかなり違うものだと、さくらは思った

 

少しでも、彼女の様になれたら……

 

そう思って、少し前に彼女と会った

目的はそれだけじゃないが、それも目的の1つだった

 

それから―――

 

気になるのは、千鶴の事

彼女がもし、本当に純血の女鬼だったら……

 

千景が知ったら、放っておく筈がないわ

 

風間の事だ、きっと手に入れようと思うに違いない

いいや、風間だけじゃない

他の鬼族も放っておかないだろう

 

女鬼は貴重だ

 

それが、純血の、血筋の良い女鬼なら尚更―――

血筋の良い者同士が結ばれれば、より強い鬼が生まれる

 

さくらも八雲家も血筋だけなら、雪村家と同等の格を持つ

ただ、1つ違う事とすれば……

 

私は、純血じゃない

 

さくらは混血だ

 

人と鬼の間に生まれた、異端児―――

それは、純血の鬼である風間とは相容れないもの

 

考え方も、思いも、何もかも違う

 

鬼は人を軽視する

それは、過去の人の鬼に対する行いから来るものだと分かってはいる

 

人はいくつもの鬼の里を滅ぼした

 

鬼の力に目を付けた時の権力者達は、鬼の力を求め

それを拒んだ、者達を圧倒的な数で見せしめの様に殺していった

 

そして、鬼族は散り散りになった

 

原因は、人だ

人の欲望が、今の鬼を作った

 

 

それでも、私は―――

 

 

その時だった

いきなり障子戸が開き、猫柳色の髪の男が姿を現す

 

「千景……?」

 

こんな事、以前もあったな……などと、思い出す

風間は訝しげにさくらを見ると、ふんっと鼻を鳴らした

 

「相変わらず、お前は自分1人では何も出来ぬらしいな」

 

「……………」

 

風間の嫌味も何故か、懐かしく感じる

どのくらい自分は風間とまともに会話していなのだろうかと思った

 

「……用がないなら、出て行って」

 

さくらは、ふいっと目を逸らしそう呟いた

 

「なんだと?」

 

さくらからの初めての拒絶に、風間が顔を顰めた

だが、風間は立ち去ろうとはしなかった

 

さくらは小さく息を吐くと、スッと立ち上がった

そのまま、風間の横をすり抜けようとする

 

だが―――

 

不意に、伸びてきた風間の手によってそれは遮られた

グッと、腕を掴まれる

 

「どこへ行くつもりだ?まだ、話は終わっておらぬ」

 

「………っ!離し……」

 

掴まれた所が熱い

そこから、どんどん熱が身体を支配していく

 

「……お願い、離して……」

 

さくらは、抵抗すするでもなく、ただ力なくそう呟いた

 

「断る」

 

だが、それは一刀両断にされる

不意に、グイッと引っ張られた

そのまま、風間が歩き出す

 

「え……?ちょっ……千景!?」

 

意味が分からず、さくらは困惑した

 

「これから、出かける場所がある。共に来い]

 

「どこに……?」

 

益々、意味が分からない

 

「来れば分かる」

 

風間は一言だけそう言うと、そのままさくらの腕を引っ張って行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……着いたぞ、ここだ」

 

「あ……」

 

連れ出された場所を目にして、さくらは思わず声を上げた

目の前にあったのは、満開の花を咲かせた枝垂れ桜だった

薄紅色の花々が、辺り一面に舞う

夜の闇の中にぼんやりと浮かび上がる桜は、まるでこの世の眺めではないみたいだった

 

さくらは言葉も無く、見入った

 

「綺麗……」

 

思わず零れた言葉に、風間が目を少しだけ細める

それから、風間は無表情のまま桜を見つめていたが、やがて、静かな声で呟く様に

 

「……近々、ここで花鎮めの祭りが行われるそうだ」

 

「花鎮めの祭り……?」

 

「……桜の花吹雪は、美しいものであると同時に、疫病などを撒き散らす不吉なものだと考えられていた。その疫病を鎮め、無病息災を祈るのが、花鎮めの祭りらしい」

 

「……聞いたことあるわ」

 

桜は美しいが、色々と不吉な事にも繋がっている

桜―――特に、夜桜の美しさは、どこか不穏な色合いを称えていて……

これを不吉なものだと考えた昔の人の気持ちも、よく理解出来た

 

「……京というのは、千年の長きに渡って権力争いが繰り広げられていた土地だからな。この桜の下にも、どれだけの屍が……怨霊が眠っているのだろうな。恐らく、数えきれぬ程だろう……その鎮魂も、兼ねているのかも知れぬな」

 

「……………」

 

風間の言葉に、さくらはただじっと耳を傾けていた

 

この京では今まさに、新選組や浪士組が刀を交えて戦っている

【天誅】という名の残酷な殺人や、強盗事件も後を絶たない

犠牲になった人も、大勢いる

 

「……千景は…争いが嫌いなの?」

 

ゆっくりと、風間がさくらを見た

その瞳は、真っ直ぐで―――

 

「……妙な事を訊く。俺がこのような事を語るのは意外か?」

 

「……少し、意外かな」

 

さくらの知っている風間は、強引で、乱暴で―――

なのに、今の風間はどこか違う気がする

 

……私の事は、強引に連れて来たのに……

どうして、こんな気持ちになるんだろう?

 

「……まぁいい」

 

そう言うさくらの言葉に、風間はまるで独り言の様に続ける

 

「……千年経とうが二千年経とうが、人間共の成す事は同じ。自らの歴史に学ぶ事無く、互いに争ってばかりだ」

 

「……それは……」

 

確かに、風間の言葉にも一理あるんだと思う

 

どうして同じ人間同士が―――

この国を大切に思っているのに、争わなければならないのか

 

さくらも、そう思った事はあるけれど

でも………

 

「……でもね、千景。仲良くしないといけない、争いは無益だと言うのはきっと……どんな人でも分かっていると思うの」

 

さくらは遠くを眺める様に、桜を見た

 

「でも、それでも……絶対に譲れない何かがあるから、戦わなければならない事もあるんだと、気付いたの」

 

それは、きっと昔の自分だっかた気付かなかった

風間の傍に居て、たた安穏と過ごしていた頃の自分では

 

それでも、新選組と……彼らと会って、人は強いものだと思った

 

彼らはただ、真っ直ぐ前を見ていて

自分の信じるものの為に戦っている

 

そんな彼らを、美しいと思う

 

「変若水で理性を無くしたまがい物供を目にしても、そう思うか?」

 

「……それは…」

 

風間の問いに、さくらは答えに詰ってしまう

 

変若水は失敗作だ

あれは、人に手には余るもの

 

血に狂い、理性を無くす―――

 

それでも……

 

「……たとえ、血に狂い理性を失ってしまったとしても、そうなざるきっかけは、新選組の役に立ちたいという思いからだと思うの」

 

そうだ

彼らは、ただその願いだけで変若水に手を付けた

 

「たとえ、血に狂う鬼になったとしても……その時の彼らの信念に、嘘はない―――そんな気がするの」

 

風間は表情に乏しいまま、さくらの言葉を聞くとも無しに聞いていた

 

「…・・・それは、あの土方とか言う男の事か?」

 

「……………」

 

さくらは答えなかった

 

答える代わりに、優しく目を細める

そうだと、肯定している様に見えた

 

「ふん……お前は、あの男を過大評価し過ぎではないか?」

 

「そうかしら」

 

本当の事を言えば、変若水なんかに手を付けて欲しくない

血に狂うなど、あって欲しくない

 

でも、きっと……

 

あの人は、いつか彼の信じるものの為にその手を伸ばす―――

そんな気がした

 

新選組の為なら、自らが鬼になったとしても後悔はしないんだわ……

 

それが、なんだか切なくて悲しかった

 

「人は愚かだけど、強さも持ってる。私は人を…人の強さを信じたい……」

 

それはきっと鬼としては、異質な考えだ

鬼でありたいのならば、その考えは捨てるべきだ

 

「……お前は、人である事を選ぶのか?」

 

風間の問いに、さくらは静かに首を振る

 

「……分からない」

 

人であるべきか、鬼であるべきか

 

「……答えなんて、まだ見つからない」

 

それでも、いつか―――

 

「……お前が、人である事を選ぶなら、俺はお前に興味などなくなるぞ?」

 

「……………」

 

その問い掛けに、さくらは一瞬目を見開いたが

ゆっくりと静かに、微笑んだ

 

まるで、「それでもいい」と言っているかの様に

 

風間は一瞬だけ眉を寄せたが、呆れた様にはっと息を吐いた

 

「下らんな。帰るぞ」

 

そう言って、スッとさくらの横を通り過ぎていく

さくらは、ただじっとそんな風間の後姿を見つめていた

 

さくらの中で何かが変わろうとしている―――

そんな瞬間だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何とか、まとまりました!

やっと、閏5月に行けますww

ふーアニメ1話に付き、5話消費とかアリエナイ(-_-;)

と、思ってましたが・・・今回はそこまで使わなくても良さそう

 

今回は、ちー様遊戯録ネタが入ってます

今後も、随想録共々入れる予定です

さしずめ、土方さんと一と左之は入る予定です

ま、それはいつになるかは・・・?て感じですけどねー(だって、アレは春ネタだから)

 

そろそろ、夢主新選組と合流ですね!

閏5月といえば、薫遭遇に二条城!

勿論、千姫も出ますよー

次回、辺りで運がよければ新選組と合流・・・かも?

 

2010/06/21