櫻姫抄乱
 ~散りゆく華の如く~

 

 三章 散る花 4

 

 

―――― 元治元年・十二月

 

しんしんと降り積もる雪が屯所の庭を埋めていた

 

「早いものだねぇ~雪村君が来てからもう一年になるのか」

 

廊下で庭を眺めながらお茶を啜っていた井上が、遠くを眺めるようにそう呟いた

千鶴は、井上の傍に腰を降ろし、一緒に外の雪を眺めていた

 

そうか…もう、そんなに経つんだ……

 

「…………」

 

千鶴は小さく息を吐いた

思わず、考えてしまう

 

父・鋼道を探して京に来て、色々な事があった

目を瞑っていても、何度も蘇る

 

狂った様な隊士に襲われ、土方等に助けられたのが始まり

あの日も、寒い雪の降る日だった

 

千鶴は浪士に追いかけられて、必死に逃げていた

そこへ、新選組の浅葱色の隊服を着た隊士に助けられた

いや、違う、彼らは”人”ではなかった

 

まるで血に狂った様な、赤い瞳に、真っ白な髪―――

今でも、忘れられない

 

血を見るのを歓喜する彼らの狂った様な瞳を

浪士を切り殺し、次に彼らが目を付けたのは千鶴だった

 

「ひひひひひ」と彼らは面白そうに笑い、その刀を千鶴に向かって振り上げた

 

殺される!

 

そう思った瞬間―――

 

ザシュ…

 

何者かが彼らを斬った

白い髪のそれはぐらっと倒れ動かなくなった

 

視界に入るのは、漆黒の髪に、菫色の瞳―――

 

その後ろには、浅葱色の隊服を纏った2人の男

 

「あ~あ、残念だなぁ。僕1人で始末しちゃうつもりだったのに……斎藤君って、こんな時ばかり仕事が早いよね」

 

銀煤竹色の髪の男がくすくすと笑った

 

「俺は務めを果たすべく動いたまでだ」

 

黒紫色の髪の男が刀を収めながらそう呟いた

 

そうして、連れてこられたのが新選組だった

新選組は父・鋼道を探していた

彼等の助言もあり、千鶴は新選組で父を探す事になった

 

そして、数ヵ月後出会ったのがさくら

 

彼女は不思議な雰囲気を纏っていた

凛とした様な、どこか近寄りがたい雰囲気―――

 

それでも、さくらを笑わせたくて、色々とやってみた

彼女が笑ってくれた時は、凄く嬉しかったのを今でも覚えている

 

でも、そんなさくらはあの晩――姿をくらませた

何処へ行ったのか、彼女は何者だったのか

 

彼女に付いて、何も知らないのだと痛感させられた

 

たった二ヵ月だったけど、彼女が居た二ヶ月は千鶴にとってかけがえのない物になっていた

ずっと、男所帯の新選組に居た、千鶴にとってさくらは光の様なものだった

 

今も何処で何をしているのか―――

 

土方がさくらの捜査を打ち切ると言い出した時、「どうして―――!?」と千鶴は初めて土方に反発した

だが、土方は何も答えてはくれなかった

答える代わりに目を伏せ、そのまま背を向けてしまった

 

どうして!?なんで!?

 

そんな考えが浮かぶ

 

だが、誰もその事に触れようとしない

土方の意志が絶対だという様に――――

 

さくらの事など微塵も心配じゃないのだろうか

土方はそこまで冷たい男だったのか

 

いや、違う土方はそんな男じゃない

 

「誰よりも、一番心配しているのは土方さんだ」と言ったのは誰だっただろうか

 

「あの人は無器用だから、そういうのを表に出さない」

 

皆、分かってるのだ

土方の事も、さくらの事も

 

土方が冷たいんじゃない

皆が冷たいんじゃない

 

ただ、今は―――

 

「……………」

 

千鶴は小さく息を吐いた

 

でも、さくらちゃんも父様の行方も分からないまま―――

 

「ありがとう」

 

不意に井上がにっこりと微笑み、そう言った

 

「え………?」

 

「客人の君に色々と雑務を任せてしまって…助かっているよ」

 

そう言って、井上は持っていた湯飲みを口に付けた

 

「……………」

 

何だか、改まってお礼を言われると少し恥かしい

 

「……お役に立っているなら、嬉しいんですけど」

 

そう言って、千鶴は少し顔を赤らめた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「また、隊士が増える予定だ。即急に新しい屯所を探した方がいいだろう」

 

京の大地図を中央に広げ、近藤等新選組幹部連中は話し合いをしていた

 

今も、藤堂が江戸へ出張し、新隊士募集を続けている

 

隊士が増えるのは良い事だ

だが、残念ながら屯所の広さには限りがある

 

幹部連中は個室を宛がわれているからまだいい

一番、割を食らうのは小部屋を集団で使う平隊士の連中だ

 

「雑魚寝している連中もかなり辛そうだしなぁ」

 

永倉がうーんと唸りながらぼやいた

平隊士の連中は毎晩、すし詰め状態で雑魚寝を強いられている

もし、広い屯所へ移れるならその方がいいだろう

 

「だけど、僕達新選組を受け入れてくれる場所なんて、何処か心当たりでもあるんですか?」

 

軽い口調で沖田が尋ねると、近藤はううーんと唸った

 

「んーあれば苦労せんのだが……」

 

その時だった

 

「西本願寺」

 

土方の声が室に響いた

 

近藤と、山南も意表を付かれた様に土方を見る

近藤等だけではない

皆の視線が土方に向けられた

 

「西本願寺は長州を始めとする不貞浪士の隠れ蓑。我々を素直に受け入れるとは考えられませんが」

 

山南が異を唱えると、土方は分かりきっているという様に

 

「そんなこたぁ、どうだっていい。寺と坊さんをだしにして、今まで好き勝手してきたのは長州だろう」

 

スッと、土方がその鋭い眼を山南に向けた

 

「いざとなれば、力づくでも承諾させる」

 

「僧侶の動きを武力で抑えるなど…見苦しいと思いませんか?」

 

山南が抗議する

窘める様な口調には、隠し切れない苛立ちがのぞいている

伊東はそんな山南を意味ありげに見ていた

 

「まぁ…確かにそうだよな…山南さんの言う通りかもな」

 

珍しく永倉が山南に同意した

 

近藤はうーんと唸りながら

 

「トシの考えももっともだが、山南君の考えにも一理あるなぁ」

 

その時だった

 

「西本願寺。宜しいんじゃないですか?」

 

「ん?」

 

口を開いたのは伊東だった

伊東は、懐から西本願寺の屯所案の書類を取り出す

 

「私も色々調べましたが、屯所としても立地も条件もいい。土方君が仰る様に、我々が拠点とする事で長州封じにもなりますしねぇ」

 

一瞬、皆の視線が伊東に集まる

 

「……確かに、長州は身を隠す場所を1つ失う事になる」

 

「まぁ、坊主共は嫌がるだろうが、西本願寺からならいざという時動きやすいな」

 

斎藤と原田がそれぞれ口を開いた

だが、永倉は違った

少し、躊躇いがちに

 

「そりゃぁそうだが……」

 

いまいち、納得がいかないらしい

 

「うーん」

 

近藤が顎を押さえて唸った

 

「しかし!正義を欠いた大儀など、いずれ綻びが出ます!」

 

山南が納得いかないと言う感じに声を荒げると、伊東がふふっと笑みを作った

 

「山南さんは、相変わらず考えの深い方ですわね」

 

感じ入った様な口調で頷きながら、更に伊東は山南を見て

 

「物事を推し進めるには、強引かつ大胆な策も必要ですわ。……守りに入ろうとするお気持ちは分かりますけど」

 

「守り……?」

 

山南が顔を顰める

伊東は、スッと目を細め

 

「その左腕は使い物にならないそうですが……?」

 

「………っ!」

 

俄かに、山南の表情が変わる

その発言に、場の空気は一変する

土方が険しくその表情を変えた

いや、土方だけでない

他の皆も伊東を睨みつける様に見る

だが、伊東は涼しい顔で

 

「でも、剣客としては生きられなくともお気になさる事ではありませんわ。山南さんはその才覚と深慮で、新選組を充分に助けてくれそうですもの」

 

「………っ!」

 

ギリッと土方が奥歯を噛み締めた

伊東の言葉は、人の心を抉るものだった

 

山南は何も言わず押し黙っていた

腕の怪我にどれだけ苦しんでいるか

それを知っている皆は、一挙に殺気立った

 

「―――伊東さん。今のはどういう意味だ」

 

お茶を持って廊下を歩いていた千鶴は、いきなり聞こえて来た土方の怒声に思わずビクッとした

土方の口調は強く、詰問に近いものだった

 

「あんたの言う通り、山南さんは優秀な論客だ。……けどな、山南さんは剣客としても、この新選組に必要な人間なんだよ!」

 

土方は、やや声を荒げて言った

ギロッと伊東を睨む

 

山南は新選組にとって必要な存在だと、心の底から信じているから出た言葉だろう

しかし

 

「土方君…私の腕は……」

 

土方の言葉を聞いて、山南は益々暗い顔をした

 

いくら剣客として求められても、今の山南には応える術がない

何故なら、きっと山南の腕は治らないからだ

 

山南はそう言うと、ギュッと左腕を握り締めた

土方は山南を守ろうとする余り、彼を追い詰める様な発言をしてしまったのだ

 

すると、伊東は目を見開いた後、にっこりと微笑んで

 

「あら、私とした事が失礼致しました。その腕が治る様なら何よりですわ」

 

そう言って、微笑む

山南は再び黙りこくる

 

「………っ」

 

土方は小声で悪態を吐き、忌々しそうに顔を歪めた

自分の犯した失敗に気付いたのだろう

 

「……………」

 

千鶴は障子戸を開けるのを躊躇った

 

こんな土方の姿を見るのは、もしかしたら初めてかもしれない

彼はいつも先を見ているから、失言なんて滅多にしない

山南の怪我はそれだけ、彼を悩ませる要因になっているのだろう

 

皆の表情も険しい

 

「……色々意見が出たが、ここは西本願寺で話を進めてみよう」

 

近藤がその場を宥めようと、そう口にした時だった

山南はふらりと立ち上がり、そのまま室を出て行こうとする

 

「………!」

 

障子戸が開かれ、千鶴は思わず目を見開いた

山南と目が合うと、山南は寂しげに笑みを作り

 

「秀でた参謀の加入で、ついに総長はお役御免と言うわけです」

 

障子戸を閉めると、そのまま千鶴の横をすり抜けて行ってた

 

「……………」

 

千鶴は何も言えず、ただその山南の後姿をじっと見ていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……山南さんも可哀想だよな。最近は隊士達からも避けられてる」

 

夕暮れの境内

千鶴と土方、斎藤、沖田、原田、永倉の6人は寺の境内に居た

 

「……避けられてる?」

 

隊士の皆と関わらない千鶴は、原田の言葉に驚いた

 

「誰に対しても、あの調子だからなぁ。隊士も怯えちまって近寄りたがらねぇ」

 

永倉の言葉に、千鶴はぎゅっと胸元を掴んだ

それは、少し分かる様な気がした

今の山南は、とても刺々しい

 

「昔は、ああじゃなかったんだけどな。親切で面倒見が良くて」

 

「穏やかで、優しくて……表面的には」

 

「?」

 

表面的?

 

「でも、腹ん中は真っ黒で」

 

「そうそう、真っ黒」

 

そう言って、原田と永倉は笑った

千鶴は意味が分からなくて、目を瞬きさせた

 

「冗談でも言わないと、やり切れませんよね」

 

沖田がぽつりと呟いた

 

「……………」

 

千鶴は何も言い返すことが出来なかった

 

「それにしても伊東の野郎、弁が立つだけに腹が立つ」

 

「気取ってるつーか、人を見下してるつーか…」

 

原田と永倉がそうぼやくと、沖田も真っ直ぐ前を見ながら

 

「僕も好きじゃないなぁ。……相当の剣の使い手である事は認めるけどね」

 

「……気にくわねぇ」

 

それまで腕を組んで黙っていた土方が、徐に口を開いた

 

「じゃぁ、土方さんが返品して来て下さいよ。新選組にこんなの要りません、って」

 

……………

 

沖田の物言いに、土方は深い溜息を吐いた

 

「近藤さんが許可する訳ねぇだろ。すっかり伊東さんに心酔してるみてぇだしな」

 

土方の返答に、沖田は唇を尖がらせる

 

「もう、役に立たない人だなぁ!無茶を通すのが、鬼副長の役目でしょうに」

 

「だったら総司、てめぇが副長やれ」

 

「あははは。嫌ですよ、そんな面倒くさい」

 

沖田は、けらけらと明るく笑って―――はぁ、と溜息を吐いた

 

「……………」

 

やはり、皆も伊東の登場に弱っているらしい

 

「斎藤さんも、伊東さんは苦手なんですか?」

 

ふと斎藤が沈黙していた事に気付き、千鶴は彼に意見を尋ねてみた

斎藤は一瞬だけ、千鶴を見やり

 

「……様々な考えを持つ者が所属してこそ、組織は広がりを見せるものだ」

 

それは、斎藤は伊東の加入に賛成なのだろうか?

そう思って目を瞬く千鶴に、斎藤は言葉を続けた

 

「しかし、無理な多様化を進めれば、内部から瓦解を始める可能性もある」

 

「……………」

 

千鶴はやはり言い返すことが出来なかった

 

「……あの、やはり山南さんの腕の怪我は治らないのでしょうか……」

 

治るのならば、一番それがいい

だが、恐らく治らない

それが分かってるから、誰も口にしないのだろう

 

「……薬でもなんでも使ってもらうしかないですかね…」

 

沖田がぽつりと呟いた

 

薬……?

 

「総司、馬鹿言うんじゃねぇよ。幹部が『羅刹』入りしてどうする!」

 

永倉がいつにも無く、怒声を混ぜた声音で言った

 

「だって、他に方法がないじゃないですか。山南さんも納得してくれるんじゃないかなぁ?」

 

らせつ……?

 

聞きなれない言葉だった

その言葉はまるで―――

 

「あの………」

 

「総司、新八。そのくらいにとけ」

 

千鶴が問う前に、土方の怒声が響いた

 

「とにかく、その話は終いだ」

 

バッサリ切られ、それ以上は問えない雰囲気だった

千鶴はもやもやした感情を抱えたまま、小さく息を吐いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                        ◆          ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――― 薩摩藩邸

 

「風間」

 

燭台の灯りのみの室の中

呼ばれて風間は室の隅を見た

 

天霧が膝を折りそこに佇んでいた

 

「天霧……何の用だ」

 

「最近、桜姫とお話なされましたか?」

 

風間が訝しげに顔を顰めた

 

「なんだ?藪から棒に…」

 

「最近の、姫のご様子をご存知ですか?」

 

「は?」

 

何なのだ?と風間は眉を寄せた

 

「……近頃の姫はお痩せになられて、お食事も睡眠も取っていないご様子。一度、ご様子を伺いに行った方が宜しいかと」

 

「なんだ?あいつは、飯すら1人で食えんのか?」

 

「そういう事でない。と、風間ならお分かりでしょうに」

 

「……………」

 

風間は、はぁ…と大きく溜息を付くと徐に立ち上がった

 

「どちらへ?」

 

「……お前がさくらの様子を見て来いと言ったのだろう?」

 

そう言い放つと、さっさと室から出て行ってしまった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さくらは自室でぼんやりとしていた

 

ここの所、食事も睡眠も余り取ってないせいか、身体が思う様に動かない

意識すら朦朧としてくる

 

でも、仕方ない

身体が受け付けないのだから、どうしようもない

 

皆が心配してくれているのは分かるが…

 

それでも……

 

風間はきっと心配などしていないのだろうな…という事実が悲しい

 

別に、心配されたくてこんな事して訳じゃない

風間には余計な心配は掛けたくない

 

だから、これでいいのだ

その時だった

 

廊下の向こうが騒がしい

 

「何……?」

 

ドスドスと何者かの足音が聞こえてくる

その足音はさくらの室の前で止まった

 

「誰…ですか?」

 

影しか見えず誰かは確認出来ない

 

すると、スパーンと障子戸が開け放たれた

そこに立っていたのは……

 

「ち、千景…?」

 

風間は怒った様な顔をしていた

一瞬、自分はまた怒らせてしまったのだろうかと、不安になる

 

風間はズカズカと室に入ってくる

思わず、さくらは後ず去った

 

風間がさくらの目の前にしゃがみ、スッと手を伸ばしてきた

顎を持ち上げられ、顔が近づく

 

「あ、あの……?」

 

風間の行動が理解出来ず、さくらは狼狽した

 

「ふん、相変わらず顔色が悪いなお前は」

 

「え……?」

 

「食事も睡眠も取って無いと聞いたが?」

 

「あ…そ、それは……」

 

ああ…知られてしまったのだ…

さくらは力なく目を閉じた

 

「……食欲も、眠む気もないのです」

 

「それは俺に対する嫌がらせか?」

 

「………っ!?ち、違うわ」

 

そんなつもりはない

さくらは首を横に振った

 

「ふん、まぁいい」

 

風間は興味なさ気に、話を一旦区切るとさくらの胸元に手を伸ばした

そして、そこから懐刀を取り出すと、自信の手首を切った

 

「ち、千景!?」

 

さくらが慌てて手を伸ばすと、ぐっとその手首を差し出された

 

「………?」

 

「飲め」

 

「………っ!」

 

ピクッとさくらの肩が震えた

 

「で、でも……」

 

この気まずい状況のまま風間の血を飲むのは気が引けた

 

「飲めば多少は益しになるだろう」

 

「……………」

 

そうかもしれない

でも……

 

「お前が、飲まねばこの血が流れ落ちるだけだ」

 

「……………」

 

さくらは風間を見た

ごくっと息を飲む

 

そして、恐る恐る伸ばされた手に手を伸ばした

風間の手はひんやり冷たく、触れると彼の血がさくらの手に滴り落ちた

 

「……………」

 

躊躇いながらも、そっと口付ける

一口飲んだ瞬間だった

 

「………っ!」

 

ぐっと何かが喉を這い上がってくる

 

「ごほっ…けほ、けほ……っ」

 

ポタポタ…と今飲んだ血が口から零れた

 

「はぁ…はぁ…けほっ…けほっ……」

 

吐いた血がビッビッと畳に染みを作る

さくらは呼吸を整えながら、ぐっと口元を拭った

 

ちらっと、風間を見る

風間はあからさまに不機嫌な顔をしていた

 

「ほぅ…?俺の血も飲めぬという事か?」

 

「ち、違っ……!」

 

違う、そうじゃない

これは……

 

風間は不愉快そうに立ち上がると、そのまま踵を返した

 

「ふん、ならそれこそ土方とやらに恵んで貰うんだな」

 

「千景!」

 

風間はそう言い放つと、そのまま行ってしまった

 

「……………」

 

さくらは、力なくその場に崩れた

ちらっと今、吐いた血を見る

 

また…私は千景を傷つけてしまったんだわ……

 

「……姫」

 

天霧が心配そうに、こちらを見ていた

さくらは、何とか笑顔を作り

 

「大丈夫です。強すぎる薬は毒と言うでしょう?きっと、弱りきった身体には血は強すぎるのです」

 

恐らく、弱った今のさくらには鬼の血は濃いのだ

耐えられる程の、力がない

 

「体調が元に戻れば、じきに元に戻ります」

 

そう言った、さくらの横顔はなんだか苦しそうだった―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

12月になりました

1話に付き、2ヶ月ぐらい経ってますねぇ・・・

 

伊東さんは不評らしいです

 

夢主サイド・・・

血をもどしちゃっったよー

理由は書いた通りです

っていうか、ちー明らかに夢主が「土方さん・・・」と言ったの根に持ってるだろ!?

 

2010/05/31