櫻姫抄乱
 ~散りゆく華の如く~

 

 三章 散る花 19

 

 

―――二条城・夜

 

パチパチと至る所に篝火が炊かれている

城門や城壁など、至る所に浅葱色の隊服を来た隊士が行き交っていた

 

一刻前――徳川家茂公を三条蹴上まで出迎えた新選組は、そのまま二条城まで将軍の警護をしていた

 

そして、夜も更けた戌の刻

さくらは交代の時間を知らせる為に、城門に来ていた

 

「ご苦労様です」

 

城門の守備に付いていた隊士に、にこっと微笑みながら話しかける

 

「あ!八雲さん!!お疲れ様です」

 

隊士の1人がさくらを見てパパッと背筋を正した

ほのかに、頬が赤い

 

さくらの存在は昼間のあれであっという間に隊内に広がっていた

”女”という性別が、それに拍車を掛けたらしい

最早、隊内で知らない人は居ないのではないか というぐらいだ

 

さくらはにこっと微笑み

 

「伝言です。次の交代は亥の刻だそうですよ」

 

「は、はい!了解しました!」

 

隊士がどもりつつもハキハキと答える

その様子が可笑しくて、さくらはくすっと笑ってしまった

 

「え、えっとぉ……?」

 

「何でもありません。では、私は失礼しますね」

 

くすくすと笑いつつも、さくらは軽く頭を下げるとその場を後にした

 

「いいなぁ……」

 

隊士の1人が、さくらのその後姿を眺めながらうっとりする

すると、もう1人の隊士もうんうんと頷いた

 

「こう、女がいるとこうも潤うもんなんだなぁ~」

 

「だな。俄然、やる気も出るしな!」

 

ほくほくという顔で言う隊士等の顔は緩みまくっていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

一通り、自分の分担分を終え、さくらは走っていた足を止めた

丁度、城外へ繋がる堀がある付近だった

 

つと、そびえ立つ城を見上げた

 

―――徳川初期の頃より、将軍上洛の際、宿舎の役割を果たす為に造られた二条の城

 

将軍、家茂公が何事も無く、ここまで辿り着いたのが先刻の事

新選組が道中警備から、そのまま城周辺の警備に回って一刻あまり

 

今頃、近藤や永倉、井上達は、偉い方々に挨拶をしている頃だろう

 

さくらと千鶴の役目は、隊士に交代を告げたり、知らせを伝え走るといった、いわば伝令役の名を借りた使い走りだった

元々、そのつもりだったし、それに異論は無い

 

でも………

 

さくらにはもう一つの目的があった

 

風間千景

彼の存在

 

さくらは辺りを見回した

 

どうやら、まだ、その気配は無いらしい

 

私の杞憂ならいい

でも……もし、あの”夢”は事実ならば―――

 

バチバチと篝火の火の音が大きく聞こえた

鳥の鳴く声も聞こえない

風の音も聞こえない

 

微かだが、それに違和感を感じる

 

「……………?」

 

何故だろう

不安が過ぎる

 

何だか……

 

「静か過ぎる……?」

 

バ千バチと篝火の火の勢いが大きくなった

 

瞬間

 

ザザザザザ…

 

強い風が吹いた

思わず、手で風を遮る様に、顔を覆う

 

嫌な気配がどんどん大きくなる

 

刹那

 

「――――っ!?」

 

ハッとして、さくらは城の外壁の方を見た

 

あっちは、確か千鶴が……

ゾクッと背筋に何かが走る

 

この気配は―――っ!

 

それは、さくらのよく見知った気配だった

知った気配が3つ

風間、天霧、不知火

 

「千景……っ、来たっ!」

 

千鶴の元へ行かなければ……っ!

 

今、まさに走り出そうとした瞬間だった

 

「さくらっ!」

 

不意に、呼び止められてさくらはハッと振り返った

そこには、槍を持った原田と、後ろの方に斎藤と土方の姿があった

 

「おい、何か嫌な気配がする。お前は下がって―――」

 

「原田さん……っ」

 

説明している暇は無い

 

さくらは、踵を返すと

 

「………っ、来てくださいっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「次の交代は亥の刻でお願いします。三番組の方達は中庭に回って下さい!」

 

千鶴は夜闇の中をパタパタと走っていた

走りながら、宛がわれた所へ時間を伝えて回る

 

一通り城内を伝え終わると、城外の隊士に伝えるため、外壁の通りを走っていた

 

瞬間、ぐきっと足が攣りそうになる

倒れそうになるのを、何とかもう片方の足で踏ん張った

 

「………っ、ったぁ……」

 

ぐぐぐと堪えていると、徐々に足の痛みも引いてきた

よく見ると、草履の紐が解けている

千鶴はそれを結び直すと、はぁ…と息を吐きながら城内の方を見た

 

「………私も、お勤め頑張らなくっちゃ」

 

よしっと気合を入れると、再び走り出そうとした瞬間だった

 

「―――――っ!!」

 

ドクンと何かが体内で木霊した

 

背筋にぞくりと走る、冷ややかな感触

 

瞬間、山南に首を絞められた時の赤い瞳が脳裏を過ぎる

それから、初めて京に来た時に出会った真っ白な化け物

そして―――

 

ドクン

 

「……この感覚…」

 

覚えがあった

 

刀を向けられた時の感覚

血に狂った瞳で睨まれた時の感覚

 

出来れば一生慣れたくなどなかったが、千鶴が新選組に身を置く事になって、度々直面した記憶にある気配

 

殺意

 

千鶴は、ごくっと息を飲んでその気配のする方を見た

 

人目も届かない城の陰

篝火は遠く、月光の手も触れる限りの縁

 

―――そこに、彼らは佇んでいた

 

猫柳色の髪に白い着物の男

赤褐色の髪の大柄の男

青葛色の長い髪を高く結い上げた男

 

「貴方達は……!?」

 

そこまで言い掛けて、千鶴はハッとした

猫柳色の髪に白い着物―――

 

「あれ……?貴方、どこかで……」

 

猫柳色の髪の男がにやりと笑う

 

「………気付いたか、さほど鈍いという訳でもない様だな」

 

バラバラだが、どこか特徴的な風体の3人

 

男の鋭い視線が、千鶴の身に突き刺さる

それだけで、身が切れてしまいそうだった

 

視線に気圧されながらも、千鶴は必死に自分の記憶と、聞いた情報と、目の前の男達の顔を繋ぎ合わせた

 

風間千景

天霧九寿

不知火匡

 

池田屋や禁門の変で新選組の前に立ち塞がった、薩摩や長州と関わりがあるらしい3人の男達

間違っても、将軍の宿舎であるこの場所に、気軽に居て良い存在ではない

 

「な、何でここに……!?どうやって……っ!」

 

すると、青葛色の長い髪を高く結い上げた男―――不知火匡がにやっと笑った

 

「あ?何でって……オレら鬼の一族には、人が作る障害なんざ意味を成さねぇんだよ」

 

「鬼?……か、からかってるんですか!?」

 

千鶴が戸惑いながら声を張り上げると、猫柳色の髪の男―――風間千景はフッと笑みを浮かべた

 

「……鬼を知らぬ?本気でそんな事を言っているのか?我が同胞ともあろう者が。―――雪村千鶴」

 

「ど、どうして私の名前を……っ!?」

 

千鶴が張り上げた精一杯の声を一蹴して、風間が闇を引き連れ一歩踏み出す

 

瞬間、背後から―――

 

「君は―――すぐに怪我が治りませんか?」

 

「っ!?」

 

ハッとして振り返るも、最早そこに姿は無い

 

「並みの人間とは思えないくらい―――、怪我の治りが早くありませんか?」

 

ギクッとして声のする方を見ると、いつの間にか向こうの城門の近くに赤褐色の髪の男―――天霧九寿が立っていた

 

「そ、そんな事は……」

 

答えてはいけない……

そんな一心で、千鶴は肯定の形に動きかけた唇を引き結ぶ

 

それが不愉快だったのか、不知火が目を細めた

 

「あァ?なんなら、ここで血ぃぶちまけて証明した方が早ぇか?」

 

そう言って、腰の銀色の拳銃を構えた

 

「………っ」

 

千鶴は思わず、腰の小太刀に手をやる

が、震えて上手く握れない

 

「……よせ、不知火」

 

風間が制すると、不知火はニヤッと笑って、その拳銃の銃口を上げた

 

「否定しようが、肯定しようが、どの道、俺達の行動は変わらん」

 

風間のその視線が、千鶴が腰に携えた小太刀へ向く

 

「………多くは語らん。鬼を示す姓と、東の鬼の小太刀……それのみで、証拠としては充分過ぎる」

 

「……姓?雪村の姓が……、何だって言うの………?それに、この小太刀も……」

 

言葉の意味は完全に取れなかったが、冷や汗が止まらない

圧迫感で、闇そのものが迫ってきた気さえした

 

「………言っておくが、お前を連れていくのに、同意など必要としていない」

 

不意に、風間が城壁の上から千鶴の前まで躍り出る

 

「………っ!」

 

千鶴は思わず後退った

ゆっくりと、千鶴を引きずり込む様に、闇から風間の手が伸びてくる

 

 

 

 

 

 

「女鬼は貴重だ。共に来い―――」

 

 

 

 

 

 

「………っ」

 

そう言った風間の手が、今、まさに千鶴に触れそうな時だった

刹那―――闇を、白刃が切り裂いた

 

「おいおい、こんな色気のない場所、逢引きにしちゃぁ趣味悪いぜ?」

 

「あ………」

 

一閃で風間を大きく退け、槍と刀を抜き放った2人が千鶴の前に立った

風間がス…と見下した様な目でそれらを見る

 

「……またお前達か。田舎の犬は目端だけは利くと見える」

 

「……それはこちらの台詞だ」

 

「原田さん! 斎藤さん!」

 

それは、原田と斎藤だった

 

その刃は千鶴を縛る重圧さえ断ってくれたように感じる

俄かに、倒れそうになる千鶴の背をそっと支えた人物がいた

それは

 

「千鶴、平気?」

 

「さくらちゃん!」

 

さくらだった

 

さくらはサッとその背に千鶴を庇うと、目の前に居る風間を見た

それを見た風間が、面白そうに目を細める

 

「ほぅ?さくらではないか。今まで何処にいるのかと思えば……まさか、こんな田舎者の武士気取りの連中の陰に隠れていたとはな。捜したぞ」

 

「……嘘」

 

さくらはキッと風間を睨みつけた

 

「嘘? 俺が嘘を言っていると?」

 

「……そうよ、千景は私の事など捜していないわ」

 

風間が本気で捜したのなら、今頃さくらは新選組にはいない

それぐらい、さくらでも容易に分かった

 

分かっている

この男は捜さない

 

これは、そういう男だ

 

「さくらちゃん……?」

 

千鶴が動揺しているのが分かる

微かだが、原田と斎藤からもそれを感じる

 

それはそうだろう

何故なら、敵として対峙している相手と自分は会話をしているのだから

 

『―――お前、分かってるのか?』

 

昼間の土方の声が蘇る

 

分かっている

ここに来れば出自を疑われる

それは、覚悟の上だ

 

でも、千鶴を―――彼女を守れるなら、それも些細な事だ

 

「とにかく、千鶴は渡せない」

 

微かに、風間の表情が変わる

 

 

「―――姫っ!」

 

 

天霧が何かを察して、さくらを止めようと動きかけるが、それは風間によって阻まれた

 

「……構わぬ、天霧」

 

ゆらっと風間の赤い瞳が揺れた様に見えた

 

「それはその女の為か?それとも保身か?さくら……お前は、自分の立場というものが分かっておらぬ様だな……」

 

瞬間、風間が闇に紛れる様に消えた

―――と、思った刹那

 

 

 

 

ガキィィン

 

 

 

 

剣戟の音が夜の闇に響き渡った

 

風間の抜き出した白刃がさくらを襲ったのだ

だが―――

 

「貴様……っ」

 

それを防いだ者がいた

 

「―――土方さんっ!」

 

それは土方だった

土方は背にさくらと千鶴を庇うと、その刃で風間の刀を受け止めたのだ

 

それが不快だったのか、風間がギロッとその目を光らせる

一瞬、その風間と目が合ってさくらはギクッとした

俄かに、土方がそれに反応する

 

「……余所見……してんじゃねぇよ!!」

 

土方が一気に、刀を振り切った

だが、風間は いとも容易くそれを避けると、そのまま横から自身の刀を土方目掛けて振り上げた

 

 

ギィィィン

 

 

土方が瞬時に、刀を縦にしてそれを受け流す

と、思った瞬間―――

 

「――――っ!?」

 

僅かに開いた土方とさくらの間に、風間の手が伸びてきたかと思うと、そのままさくらの腕を掴んだ

 

 

引きずられる!

 

 

そう思った時だった

 

 

「さくらっ!!」

 

 

土方がそう叫ぶのと、風間に腕が引かれるのは同時だった

 

「土方さ……っ!」

 

風間が僅かに笑っているのが、土方には見えた

土方はギリッと奥歯を噛み締めると

 

 

「………っ!伏せろ!!」

 

 

「…………っ!」

 

瞬間、何かを悟ったかの様に、さくらは立て直せない体勢を無理矢理 出来るだけ低くした

刹那、頭上を土方の刀が閃光の様に走る

 

「――――っ!」

 

風間が一瞬顔を顰め、その手を離した

そのまま、後ろへ飛び下がる

 

土方は素早くさくらの手を引くと、自分の後ろへ回らせた

 

「ふん……将軍の首でも取りに来たのかと思えば、こんなガキに一体何の用だ?

 

「将軍も貴様らも、今はどうでもいい。これは、我ら鬼の問題だ」

 

「鬼だと?」

 

土方の目が細められる

その眼光は、ひどく鋭い

 

「……土方さん」

 

「……下がってろ」

 

さくらを押しのける様に前に出ると、土方は刀を構えた

同時に、斎藤と原田が動こうとした瞬間、2つの陰も動いた

 

天霧が斎藤の前に

不知火が原田の前に立ち塞がる

 

「―――引いていただけませんか?禁門の時と同様、私には君と戦う理由がない」

 

「生憎だが、俺にはあんたと戦う理由がある

 

斎藤が柄を握る手に力を込める

すると、天霧は少しだけ目を閉じ

 

「―――仕方ないですね」

 

そう言うが、早いか

 

じゃりっと爪先に力を入れると、一気に斎藤の傍の段まで跳躍した

だが、直ぐに斎藤は天霧に居合いの構えで対峙する

 

 

 

 

 

「へっ……てめぇのツラ拝むのは、禁門の変以来だな……」

 

原田が槍の穂先を動かすと、不知火はその手に持っている拳銃の銃口を原田へ向けた

 

「ハッ!オレ様の銃と、お前の槍。この距離でどっちが有利か分かんねぇのか?」

 

「不知火とか言ったか……余裕かまして油断してんじゃねぇよ!」

 

不意に、原田が下げていた槍の穂先を更に下へ、地面を抉る様にしてから跳ね上げる

瞬間、転がっていた小石が跳ね飛ばされて、不知火の銃に襲い掛かった

 

「―――面白えッ!」

 

僅かな動きで不知火がその小石を避けるのと、原田が槍を走らせたのは同時だった

原田の槍が不知火を襲う

しかし、不知火は面白そうに笑みを浮かべながらそれを紙一重でかわしていった

 

ビュンと突いた原田の槍の穂先が不知火の額を掠める

同時に、不知火の銃も原田の額に突きつけられていた

 

―――この瞬間、2人はまるで鏡合わせの様によく似ていた

 

にじみ出る殺気も

命を奪うに足る凶器が、互いの額に突きつけられているのも

 

「……何故、撃たねぇ?」

 

にやりと原田が笑うと、不知火も唇を歪めて笑った

 

「は!銃声を聞きつけてきたつまんねぇ奴らに、水を差されたくねぇからな」

 

 

 

 

一色即発だった

 

 

「…………」

 

さくらはギュッと唇を結ぶと、震える手で胸元の懐刀を取り出そうとする

……と、その手を止める、押し殺した声が聞こえた

 

「その必要はない」

 

「や、山崎さん!?」

 

その声は山崎だった

その背には千鶴もいる

 

「君達は、このまま俺と屯所に戻れ」

 

山崎がさくらを背に守る様に、移動する

それを、確認した土方は少しだけ前に出た

 

風間にはそれが不快だったのか

目を細めると、土方にその視線を突き刺し

 

 

 

 

 

「武士気取りの……田舎者がぁ!!」

 

 

 

 

ガキィィィン

 

 

つば鳴りの音と、互いの刀が闇に躍るのは、同時だった

 

「――――っ!」

 

ふたつの刀がかみ合って、絶叫を上げた様に感じる

 

離れたさくらの頬にさえ伝わる程の衝撃の中、風間は涼しい顔で前髪をそよがせていた

土方は一瞬、後方のさくらと千鶴に視線を向け、ギリッと刃を押し込みながら声を絞り出した

 

「てめぇらは、何だってこんなガキに用がある………っ!」

 

「……お前達には過ぎたもの。だから、我らが連れ帰る」

 

にやりと風間の唇が歪んだ

 

「それだけだ」

 

カチカチカチと刃同士が軋む音を立てる

土方が持ち手に更に力を入れた

 

「どういう……意味だ…っ!?」

 

そのまま、一気に押し返す

 

風間はそれをあっさりかわすと、そのまま自身の刀を横に振り切った

土方はそれを読んでいたかの様に、その刃を刀で受け流すと、そのまま振りかぶった

 

 ギン

 

   一合

 

 ギィイン

 

   二合

 

 

それらは速過ぎて、さくらの目では2人の動きなど殆ど見えなかった

ただ、月の下で踊る光と音―――

それだけが、彼らの戦う様を伝えていた

 

不意に、後方の門からバタバタと人が来る音が聞こえて来た

 

一瞬、風間がそれに視線を送った瞬間を土方は逃さなかった

打ち合っていた刀を一気に、振り上げる

弾かれた風間の刀が上に上がる

 

「――――っ!」

 

そこへ、間髪入れず土方は風間の首めがけて刀を横に振り切った

それを風間は紙一重でかわす

―――が、かわしきれなかったのか、風間の髪が数本、宙に舞った

 

「………ほぅ」

 

あと一寸で斬り裂かれていたにも拘わらず、風間のその瞳には恐怖の色など欠片もなかった

瞬き一つせず、その刀が自分の目の前を通り過ぎていくのを見ていた

 

「……これ以上の戦いは無意味です。長引いて興が乗っても困るでしょう」

 

天霧の声に呼応する様に、不知火が居心地悪そうに頭を掻いた

 

「……オレ様の事言ってんのか?オイオイ、引き際は心得てるつもりだぜ?」

 

そう言うなり、にやりと笑うとその引き金を引いた

 

バンッ

 

銃声が木霊する

 

原田はそれを読んでいたかの様に、横に避けると、そのまま槍を一気に上から振り下ろした

だが、不知火もそれを読んでいたかの様に、飛び退く

 

「……確認が叶った以上、長居は無用だ」

 

風間がそう呟くと、そのまま外壁へ飛び退いた

 

「……むざむざ逃がすと思うか!?」

 

斎藤が居合いの構えから一気に抜刀する

そのまま、天霧を捕らえる―――と、思われたが、天霧はそれを残像のみ残し消えた

 

次の瞬間、天霧が立っているのは風間の横だった

風間はスッと目を細めると千鶴を見て、それからさくらを見た

 

 

 

 

 

 

  「さくら」

 

 

 

 

 

 

ピクッとさくらがその肩を震わせた

 

―――離れているのに、頬に触れられた様な錯覚を覚える

 

 

その感覚がふと離れる

 

 

 「もう、お前は用無しだ」

 

 

———―――――え…?

 

 

 

 

 

 

       「お前など、もう 要らぬ」

 

 

 

 

 

 

「――――っ!」

 

ビクッとさくらが何かに恐れる様に肩を震わせた

 

 

    ”要らぬ”

 

 

「――――っ!」

 

反射的に、さくらは風間を見た

その目は―――月の影に隠れてよく見えなかったが……冷たい瞳の様な気がした

 

あ――――

 

さくらはその目を知っていた

風間家に引き取られてまもない頃、義母がよく言っていた

 

『どうして、混血の子なんて引き取ったのかしら。あんな子”原初の鬼”でなかったら、要らないのに』

 

ああ、自分は要らない子なのだと 思った

人と交じり合った血の子など、”要らない”のだと

 

作法や習い事が上手くいかなくて、周りと馴染めなくて、よく1人で家を飛び出していた

そんなさくらを迎えに来るのは、決まって風間だった

 

『心配をかけるな』

 

と、よく怒られた

 

『お前はお前だろうが』

 

そう言って、頭を撫でてくれた

 

この人は”私”を”私”と見てくれるのだと思った

だから、この人の為にあろうと

この人の支えになろうと

 

なのに―――

 

その、風間が 私を 要らない と

 

             要らない と――――

 

 

 

 

「あ………」

 

さくらはガクガクと震える手で、自分の頬をに触れた

もう、そこには何も残っていない

 

「ま、待って……っ」

 

千景………

 

 

「待って!千景!!」

 

 

知らず、言葉が出た

 

風間が一瞥する様に、さくらを見た

そして、そのまま闇に消える

 

 

   「ちか………っ!!」

 

 

 

 

「さくらっ!!!!」

 

今にも追いかけそうな勢いのさくらの手を、不意に土方の手が掴んだ

 

「…………っ!」

 

さくらがハッとして土方を見る

土方の掴む腕に力が篭った

その目は微かに揺れている

 

さくらは、もう一度城壁を見た

そこには、もう風間達の姿は無かった

 

 

 置いて行かれた

 

 

 

 

       置いて行かれたんだ―――

 

 

 

 

 

 

さくらはガクッとその場に力なく崩れた

今にも倒れそうになるさくらに、土方と原田が手を伸ばす

 

「おい、さくらっ!?」

 

「さくらちゃん!!」

 

遠くで、原田や千鶴の呼ぶ声が聴こえる―――

だが、もうはっきりと聞き取れない

 

 

     そのまま、プツリとさくらは意識を手放した――――・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

色々、手間取りました…二条城

いやー戦闘シーンがね…

ゲーム見ても、アニメ見ても、言葉じゃ全然表されてなくて…

殆ど、絵で表現されてたから、それをいかに文章にするか…ですね

半分以上、想像の賜物です(笑)

特に、前半とか、凄くオリジナルです

 

てか、書いてたら…ちーは結局どっちが欲しいんだ?と疑問になりましたww

でも、実は…ちーの台詞は、とある所に意識して書いています

その事に、気付いたら、拍手!

全然、作中ではその事は触れていないので、スルーされる方も多いかと…

さて、何でしょう~?

 

答えは…作中の中を読み返すとわかります(*´ω`*)

2010/09/27