櫻姫抄乱
 ~散りゆく華の如く~

 

 三章 散る花 18 

 

 

土方は自室に入ると、ドカッと腰を降ろした

そして、はーと重苦しい溜息を付く

 

一方、さくらはどうしていのか解らず、障子戸の所に立ったまま、オロッと視線を泳がせた

 

すると、それに気付いた土方が訝しげにさくらを見る

 

「何やってんだ?その戸を閉めて、お前もさっさと座れ」

 

「あ…は、はい」

 

さくらは慌てて室の中に入り、静に戸を閉めると、土方の前に座った

それを見た後、土方は小さく息を吐き、スッと視線を横にずらした

 

「で?話ってのは何だ?」

 

「え………?」

 

一瞬、何を問われているのか解らず、さくらが目を瞬きさせる

土方は苛とする様に、少し顔を顰めた

 

「お前は、話があったからわざわざあんな所に来たんじゃないのか?……それとも、ただ単に邪魔しに来たってのか?」

 

「………っ。ち、違いますっ!」

 

そうだ

伊東に絡まれて動転していたが、自分は土方に用があってあそこへ行ったのだ

 

「わ、私は……!その……土方さんに、火急の用があって……」

 

そこまで言い掛けて、さくらは俯いてしまった

 

どうしよう……何て言えばいい………?

 

正直、どう切り出していいのか分からなかった

言えば、理由を必ず問われる

だが、それが答え様が無かった

 

「……………」

 

さくらの視線が益々下に下がる

どう切り出そうか考えあぐねいていると、頭上から はーと大きな溜息が聞こえて来た

 

土方は片膝を立て、頭をかく

 

「………話があるんじゃねぇのかよ?」

 

「……………」

 

やはり、さくらは黙ったままだった

また、土方が大きな溜息を付く

 

「………ねぇんなら、俺は戻るからな」

 

そう言いながら、立ち上がろうとする土方を見て、さくらは慌てて顔を上げた

その表情は、何かを懇願する様で――― 一瞬、土方の動きが止まる

 

「あ、あの!千鶴を二条城に連れて行くのはお止め下さい!」

 

「あ?」

 

土方が訝しげに顔を顰めた

何か言おうと口を開きかけるが、そのまま閉じる

再び、大きな溜息を付くと、その場に座り直した

 

「理由は?」

 

「……そ、それは……」

 

さくらが言い淀む

一度、何かを言い掛けるが、そのまま思い詰めた様に口を閉ざした

俯いて、ギュッと膝に置いていた手を握る

 

夢で見た……何て言っても………

 

「……………」

 

そんな、非現実的な話 誰が信じるだろうか……

 

「おい」

 

「は、はい……」

 

さくらが弾かれた様に顔を上げる

心なしか、土方のそれは苛付いている様にも見えた

 

「俺は忙しいんだよ。何も無いんなら、戻るからな」

 

「…………っ」

 

さくらが何かを言おうと口を開きかける

しかし、それは音にはならなかった

そのまま俯くさくらを見て、土方はまた は-と大きな溜息を付いた

 

「……お前は何なんだ? いきなり、千鶴を連れて行くなと言ったり、自分は鬼だとか言ったり。 ……そもそも、お前はその話をどこで聞いた? 何故、俺達が二条城へ行く事を知っている」

 

さくらは、一度土方を見て、それから視線だけ落とした

 

「……千鶴の事は…先程、原田さん達に聞きました。二条城に行く事は―――………」

 

そこまで言って、言葉が止まった

どうしよう……夢の事を話すべき……?

 

でも……あれは”夢”であって、”現実”ではない

必ず”起きる”という可能性がある訳では―――ない

 

ギュッと手を握る

それから、ゆっくりと顔を上げて前を見据えた

 

真っ直ぐな菫色の瞳が、さくらをじっと見ていた

 

心の中に、ほのかな”期待”が浮かぶ

いや、”希望”だったのかもしれない―――

 

―――……土方さんなら―――……信じてくれるかもしれない

 

「―――……”夢”で………」

 

この人なら―――信じてくれるかもしれない………

 

「―――……”夢”で……見たんです」

 

この人なら―――

 

「夢?」

 

土方が訝しげに眉を寄せた

 

「………二条城と、千鶴と……それから―――………」

 

千景………

 

一瞬、言うのを躊躇われた

でも―――と、さくら小さくかぶりを振る

 

ギュッと胸元の着物の衿を掴んだ

 

「風間―――千景を………」

 

一瞬、土方の表情が変わる

だが、さくらはそれには気付かなかった

 

さくらは、バッと顔を上げ

 

「千鶴が……!千鶴が危険なんです!!」

 

土方が大きく目を見開く

 

「だから……!だから、千鶴を二条城へお連れするのはお止め下さい!」

 

「……………」

 

土方が驚いた様に目を見開いた後、はっと息を吐いた

そして、目を横へ剃らす

 

「……夢、ねぇ………」

 

何かを思案する様に、そう呟いた

 

「……信じて……もらえませんか?」

 

「……………」

 

土方は何も答えなかった

そのまま、少し考える様に目を伏せる

 

「……………」

 

やはり、土方は何も答えなかった

 

「……………っ」

 

さくらは土方を見て、それから静に俯いた

ギュッと着物の裾を握る

 

………やはり、信じてはもらえなかったのだろうか……

 

心の中が哀しみで一杯になる

心のどこかで、土方なら信じてくれるかもしれない―――と、思っていたのかもしれない

でも、今は―――………

 

信じてくれる訳……ない……わ、よね………

 

”夢”だなんて、そんな非現実的な話―――………

 

でも、だからといってここで引き下がる訳にはいかない

千鶴だけでも、何とかしなくては―――っ!

 

「あ、あの―――……!信じて下さらなくても構いません。でも、千鶴だけは―――………っ」

 

「………別に、信じてねぇ訳じゃねぇよ」

 

それは、ぽつりと小さな声で呟かれた

 

「………え……?」

 

一瞬、何を言われたのか分からず、さくらは目を瞬かせた

土方がさくらを見る

 

「だから、別にお前を信じてない訳じゃねぇよ」

 

今度は、はっきりとそう聞こえた

 

「……………」

 

今度はさくらが驚く番だった

大きな真紅の瞳を見開く

 

「お前が、そんな下らねぇ冗談言うとも思えねぇしな。それに―――………」

 

「……………」

 

何も答えず、目を瞬かせるさくらに気付き、土方は顔を顰めた

 

「………何だ?俺が信じるつったのが不満か?」

 

「あ……っ、い、いえ……」

 

さくらは弾かれた様にハッと我に返った

それから、一瞬、戸惑った様に視線を泳がせた

 

頬が熱い

 

”嬉しい”と、何かが囁く

 

「そ、の……信じて下さるとは思わなかったので………」

 

一瞬、土方が驚いた様に目を見開いたが、次の瞬間くくっと笑い出した

 

「くくっ……そんなに俺は信用ないか?」

 

「あ……いえ……、そういう訳では、無いのですけど………」

 

かーと恥かしさのあまり、頬が赤く染まる

余りの恥かしさに、さくらは俯いてしまった

 

ううう…顔が上げられない………

 

だから、気付かなかった

今、土方がどんな目でさくらを見ていたのか

どんなに、優しそうな目で見ていたのかを―――

 

それから、土方はスッと眼を閉じると

 

「まぁ、話は大体分かった」

 

「でしたら……!」

 

パッとさくらが顔を上げる

だが―――

 

「それは、無理だな」

 

土方から出た言葉は、期待とは異なるものだった

 

一瞬にして、さくらの表情が曇る

 

「な、何故ですか!?元々、千鶴は隊士ではないのでしょう?でしたら―――っ!」

 

「こっちも人手が足りねぇんだよ。……まぁ、流石に警護しろとは言わねぇよ。だが、伝令程度なら出来る。 第一、もう局長の許可が下りてるんだ。あいつも、やる気だしな。今更、撤回出来るか」

 

「千鶴が危険なんですよ!?千景が―――っ!」

 

「風間の野郎が来るからか?別にあいつを狙って来る訳じゃねぇんだろ?だったら、何処に居ようが対して変わらねぇよ。それとも、何か?他にも理由ってのがあるってのか?」

 

「そ、れは―――………っ」

 

さくらはそこで詰った

 

千鶴は風間に狙われている

土方達はその事実を知らない

まだ、勘でしかない 確証は無いが―――おそらく、いや、間違いなく狙って来る

その理由を言う事は、即ち千鶴の出世を言う事に他ならない

 

駄目だ……それは言えない

 

「……………っ」

 

さくらは、ギュッと着物の裾を掴んだ

 

「とにかく、この話は仕舞いだ。お前は、さっさと部屋に―――」

 

だったら………

 

「………でしたら、私もお連れ下さい」

 

「……………………は?」

 

土方が虚を衝かれた様に、言葉を洩らした

さくらはキッと土方を見ると

 

「ですから、私もお連れ下さい!!」

 

「はぁ!?」

 

今度は、驚いた様に声を発した

 

さくらはグッと前に出ると、自身の胸に手を当て

 

「人手が足りないのでしょう!だったら、私も行きます!!」

 

「ばっ……馬鹿な事言うな!!お前なんか連れて行けるか!これは遊びじゃねぇんだぞ!?女子供なんか連れて行けるか!!」

 

「何故ですか!?千鶴も行くのでしょう!?千鶴は女の子ですよ!?だったら、一緒です!!」

 

「揚げ足取るな!!」

 

お互いどのくらい言いあったのだろうか

はーはーと肩で息をしながら、2人は睨み合った

 

「ちっ……」

 

土方が舌打ちし、ぐしゃっと前髪をかく

 

「いいか、よく聞けよ!千鶴と違ってお前は一般隊士には知られてねぇんだ。 そんなお前が警護の合間をうろちょろしてみろ!怪しまれるに決まってるだろうが!第一、近藤さんが許可する訳……」

 

「………分かりました。一般隊士に知られて、かつ、近藤さんの許可が得られたならば宜しいんですね!」

 

「は?」

 

言うが早いか、さくらはバッと立ち上がるとスタスタと障子戸まで歩いて行きガラッと開けた

 

「お、おい……!」

 

「では、ご挨拶と許可を頂いてまいります」

 

そう言い残すと、スパーンと勢いよく障子戸を締めた

 

「……………」

 

一瞬、何が起きたか理解出来ず、土方はぽかーんとさくらが締めた障子戸を眺めていた

が、瞬時にハッと気付き

 

「ま、待て!さくらっ!!」

 

慌てて立ち上がった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                        ◆          ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――屯所・某部屋

 

「原田組長!こっちはこれでいいですか?」

 

平隊士の1人が原田の所に武具を持ってやってくる

原田はそれに気付くと、隊士の持って来た武具を手に取り

 

「おーしっかり手入れしとけよ」

 

「はい!」

 

「永倉組長!これは―――」

 

「何だ何だ?」

 

永倉も呼ばれて、隊士の持って来た武具を見た

 

この部屋は今、今夜の将軍護衛の準備でごった返していた

念入りに、武具や防具の確認をする

 

それを任された原田と永倉はその準備に追われていた

 

わいわいと、皆、今夜の護衛を楽しみにしている様だ

それは決して悪い事ではない むしろ良い事だ

隊務の前に士気が高い事は喜ばしい事である

 

その時だった

 

「失礼します!!」

 

いきなり、スパーンと室の戸が開いた

 

何事かと、皆がそちらの方を見る

そこに居たのは―――

 

「さくらっ!?」

 

原田の驚愕の声が響いた

 

そこには、来る筈の無いさくらが立っていた

 

ここには平隊士も多く居る

はっきり言って、拙い

 

さくらの存在を知らない平隊士達は、呆然とさくらを見ていた

というか、普段女子と関わる事の殆ど無い彼らにとって、女子とは高嶺の花だった

ある意味、至高の存在である

女子と会話する…それは、まさしく夢、浪漫、幻想

室にどよっと一気に、どよめきが広がる

 

「え……?女…だよな?」

 

「お、女が話し掛けてきた!?」

 

「お、おおおお俺どうしよう~~~!?」

 

「しかも、スゲー美人だし……」

 

原田が、あんぐりと口を開けたまま、さくらを指差している

 

「おい、どうした?左之?一体何が―――って、うぉ!? さくらちゃん!?」

 

騒ぎを聞きつけて、奥にいた永倉が出てきた

が、さくらの存在に気付き、大げさに大声を上げた

それで、ハッと原田は我に返り、慌ててさくらに駆け寄った

ぐいっとさくらを庇う様に平隊士とさくらの間に割って入る

 

「お前っ……!何やってんだ!こんな事、もし土方さんにバレたらどやされ……っ」

 

「いいんです。ありがとうございます、原田さん」

 

そう言うと、さくらはぐいっと原田を押しのけた

 

「お、おい……!」

 

原田の制止も聞かず、さくらはスッと平隊士の前に出ると、そのままゆっくりと頭を下げた

 

「初めまして、皆さん。先日より、こちらでお世話になっております、八雲 さくらと申します。ご挨拶が遅れて、申し訳ありません」

 

平隊士達がどよめきながら、お互いの顔を見合わせる

互いに、肘で突き合いをしながら、「お前が」「俺が」と言い合っている

 

「待て!お前ら!落ち着け!!」

 

永倉が、慌てて隊士達を押さえつけた

 

さくらは、にこっと極上の微笑みで

 

「これから、色々とご厄介になるかもしれませんが、皆さん仲良くして下さいね」

 

「「「「「はい!!!」」」」」

 

 

「お前ら~~~”はい”じゃねぇ~~~~~!!!!」

 

 

永倉が今にも押し潰されそうだ

 

「お、おい、さくら……?」

 

戸惑う原田に、さくらはにこっと微笑み一歩前に出る

 

「私、争い事は好みません。皆さんも新選組の隊士である事を誇りに思う、立派な殿方であらせられますと思っています」

 

瞬間、ピタッと暴動を起こしかけていた隊士達が止まる

さくらはにっこり微笑むと

 

「ですので、皆様方、”仲良く”お願いします」

 

それがトドメだった様に、隊士達がこくこくと頷く

 

「さくら?お前、一体どうし………」

 

「あっ、と………」

 

原田の問いには答えず、さくらは何かを思い出した様に、声を上げ

 

「すみません。私、次の場所へ行かなければならないので、これで失礼しますね」

 

「……は?お、おい!」

 

さくらはぺこっと頭を下げると、そのまま室を後にした

 

「……………」

 

唖然と見送る原田を余所に、隊士達は「女と話しちゃったよ~」と嬉しそうに顔を綻ばせていた

 

―――と、その時だった

 

ドタドタドタと、誰かが走ってくる音が聞こえた

 

「「?」」

 

原田と永倉が顔を見合わせる

原田が不思議そうに廊下を見た瞬間―――

 

 

 

「おい!!」

 

 

 

「うわっ!土方さん!!?」

 

室まで猛突進してきたのは、他ならぬ土方だった

その表情は怒りの形相だった

思わず、隊士達がズザッと後退る

 

「さくらはっ!?」

 

「は?あ、いや……さくらなら、たった今ここに来て………」

 

原田が頭に疑問符を浮かべながら答えると、土方が怒鳴る様に

 

「どっちに行った!?」

 

「あ、あっちだけどよ……」

 

原田がさくらが行った方を指差すと

 

「ちっ!あの、馬鹿………っ!!」

 

土方は舌打し、そのままそちらの方へ駆けて行こうとし―――

一瞬、止まると室の中をぐるっと見渡す

そして、隊士達に向かって

 

「お前ら!浮かれるなよ!!」

 

それだけ言い残すと、さくらを追う様に足早にその場から去って行った

釘を刺された隊士達は、声を揃えて「副長、怖ぇ~」と言っていた

 

「な、何だったんだ?一体……?」

 

「さ、さぁな……」

 

永倉の問いに、原田は首を傾げるのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                        ◆          ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――屯所・広間

 

「それでは、これで宜しいですかな?」

 

「いいんじゃ、ありませんこと」

 

近藤の問いに、伊東が頷いた

どうにかこうにか、話を戻した近藤は、何とか内容をまとめる事が出来たらしい

 

「では、後はこれをトシに―――」

 

と、言いかけた時だった

 

「あの!」

 

不意に、廊下の方から声が聞こえた

振り返ると、そこには先程土方に連れて行かれた筈のさくらが立っていた

 

「ん?どうしたんだ?八雲く―――」

 

「あっらぁ~~~さくらちゃんじゃな~~~い!!」

 

近藤がさくらに尋ねようとした瞬間、伊東の桃色の声に阻まれた

 

「何々~?私に会いに来てくれたのぉ~~~~?」

 

伊東はパァァァァと分かりやすく、桃色の空気を振り撒くと、いそいそと両手を大きく広げてさくらに駆け寄った

が、スルッとさくらはそれをかわすと、そのまま近藤の前まで歩いてきた

近藤の前で、さくらは膝を折ると

 

「近藤さん、お願いがあります」

 

「む?願いとな?」

 

「はい、今夜の二条城の警護に私もお連れ下さい」

 

「うん?」

 

一瞬、何を言われたのか理解出来なかったのか、近藤が首を捻る

さくらは近藤に詰め寄ると、頭を下げた

 

「人手が足りないとの事。どうぞ、私もお連れ下さい」

 

「む?しかし………」

 

「近藤さん!!」

 

さくらの気迫に、思わず近藤がたじろぐ

 

「近藤さん!お願いしま………」

 

 

「さくらっ!!」

 

 

廊下の方から聞きなれた怒声が聞こえて来た

 

「………っ!土方さん……っ!」

 

走ってきたであろう土方は、汗をグイッと拭うと、ズカズカと広間に入ってきた

そして、ぐいっとさくらの腕を掴むと、引っ張り上げた

 

「この馬鹿がっ!こんな所まで来やがって………っ!」

 

そのまま、さくらを立たせて引きずり出そうとする

だが、さくらは引き下がらなかった

 

抵抗する様に土方の腕を抑えると、近藤に向かって叫んだ

 

「お願いします!!私も連れて行って下さい!!」

 

「お前っ……いい加減に……!!」

 

土方が止めようとするが、さくらは抗う様に暴れた

まるで、泣き叫ぶ様に近藤に懇願する

 

「近藤さん……っ!」

 

「さくらっ!!」

 

その2人のやり取りを見ていた近藤が、見かねた様に苦笑いを浮かべた

 

「まぁまぁ、トシ、いいじゃないか。折角の晴れ舞台だ、八雲君も連れて行ってあげようじゃないか」

 

「本当ですか!?」

 

さくらが嬉しそうに声を上げる

だが、逆に土方はキレた様に声を荒げた

 

「はぁ!?何、許可してやってんだ、あんた!?」

 

「む……?拙いのか?」

 

「決まってんだろう!?」

 

土方の怒りが頂点に達しそうなのに対し、近藤は至って和やかな感じでにこにこと笑い

 

「折角、八雲君も手伝ってくれるというんだ。好意は素直に受け取らんとなぁ?」

 

「そういう問題じゃねぇよ!!」

 

「……土方さん、隊士の皆さんにご挨拶して、近藤さんの許可が得られたら同行しいて良いという約束でしたよね?」

 

「そんな約束してねぇ!」

 

「トシ、約束は守らんといかんぞ?約束は」

 

「だから、そんな約束してねぇっつってんだろ!?」

 

さくらと近藤の言葉に、土方が間髪入れず突っ込む

 

「とにかく、お前は来い!!」

 

ぐいっと土方がさくらの腕を引っ張った

そのまま、ずるずる広間を出て行く

 

「ちょっ……!土方さん、痛いです!!引っ張らないで下さい……っ」

 

「うるせぇ!!」

 

言い合いながら広間を後にする2人を見て、近藤はほくほくと顔を綻ばせた

 

「2人とも仲が良いなぁ~うんうん」

 

そう言いながら、ズズッと茶を飲む

 

「………所で、伊東さん」

 

ちらっと伊東を見る

 

「………いつまでそこにその格好でいらっしゃるのですかな?」

 

近藤の言葉に先には………

両手を大に開いたまま停止している伊東の姿があった

気のせいか、まだ秋ではないのに木枯らしが見える

 

そんな伊東を気にしてか、気にしないでか、近藤は茶をのんびり飲んでいた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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――――屯所・土方私室

 

腕を組み、ムスッとした表情で座っている土方―――と

その土方の前に、ムッとした表情で座っているさくら

 

2人の間には、何とも言えない空気が漂っていた

 

「土方さん………」

 

「あ?」

 

「土方さん、隊士の皆さんにご挨拶して、近藤さんの許可が得られたら同行しいて良いという約束でしたよね?」

 

「……そんな、約束してねぇ」

 

さくらが更にムッとする

 

「しました!」

 

「してねぇ!!」

 

先程から、これの繰り返しであった

さくらはムゥ…とすると、キッと土方を睨んだ

 

「どうして駄目なんですか!?千鶴には許可だしたじゃないですか!!」

 

「それとこれを一緒にするんじゃねぇ!」

 

「何ですか、それ……意味分かりません!どうして、”私は”駄目なんですか!?」

 

「そんなの決まってるだろう!?風間の野郎に―――っ」

 

”会わせたくないからだ”

 

と、言いかけて止めた

というより、言葉が出なかった

 

「ちっ」

 

土方は舌打ちすると、苛立たしげに前髪をぐしゃっと握る

だが、さくら本人はその意図が掴めず、目を瞬きさせた

 

「千景? 千景が何なんですか……?」

 

さくらをチラッと見る

さくらは、意味が分からないという感じに首を傾げていた

 

その鈍感さが、余計に土方を苛立たせた

 

「お前は―――………」

 

一瞬、一年前……あの葉桜の下でさくらが口にした言葉が脳裏を過ぎる

 

『千景が必要としている限り、千景の傍に居ます』

 

そう言った、さくらの表情は穏やかだった

 

じっと、さくらを見つめる

さくらがそれに気付き、不思議そうに首を傾げた

 

 

「お前の………」

 

”お前の気持ちは、あの時と変わらないのか―――……?

 


”お前の中での1番はあの風間なのか―――……?”

 

 

「お前は、あいつが来たら………」

 

 

 

 

 

 

 

       ”一緒に帰るのか―――………?”

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ああ!くそっ!」

 

そうぼやくと、土方はまた前髪をぐしゃっと掴んだ

苛々する

 

どうして、こうも苛々するのか

 

「あの……?土方さん………?」

 

土方の異変に気付いたのか、さくらが様子を伺う様に土方に問い掛けた

土方は一度さくらを見て、それから視線を逸らすと、はぁーと大きな溜息を付いた

 

「……ったく、もういい。勝手にしろ!」

 

だから、もう行けと手で払う

その合図を知ってか、知らずか、さくらはその言葉を聞くとパッと顔を綻ばせた

 

「本当ですか!?ありがとうございます!」

 

嬉しそうにそう言う

 

「あ!じゃぁ、私、千鶴に報告してきます」

 

そう言って立ち上が時だった

 

「―――お前、分かってるのか?」

 

一瞬、さくらが表情を消す

そして―――少しの沈黙の後

 

「……分かってます」

 

ふっとさくらが微笑んだ

 

「……だから、心配しないで下さい」

 

そして、一度頭を下げるとそのまま、室から出ていってしまった

残された土方は、はぁーと重い溜息を付くと、再び前髪をぐしゃっと掴んだ

 

「ったくよ……人の気も知らねぇで……」

 

何かが心の中を燻っている

それが何なのか……

ある程度、察しは付いている

だが―――

 

「くそっ……」

 

気付きたくない

 

気付いてはいけない

これは、”新選組”の為には必要ない

 

 

 

         だから、俺は”これ”に”蓋”をするのだ―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

土方さんと大口論www

ある意味、最強伝説を作ったと思います

 

そして?あらあら、何やら気付いた?様な?

どうですかねー

でも、まぁ、今の彼なら間違いなくこうなるだろう的行動ですね…

言い訳はしません すいません

いや!でも、ある程度自覚があった方が、この先面白いのよ!

きっと、ひた隠しにすると思います(節々に駄々漏れすると思いますけど!←え?)

 

2010/09/27