櫻姫抄乱
 ~散りゆく華の如く~

 

 三章 散る花 16

 

新しい屯所の広間は、その名に相応しく、とにかく広い

隊士全員が集合しても、充分な余裕を取れる

端まで声が届くのか心配になる広さだ

そんな広々とした空間に、朗々たる近藤の声が響き渡った

 

「皆も、徳川第十四代将軍徳川家茂公が、上洛されるという話は聞き及んでいると思う。 その上洛に伴い公が二条城に入られるまで、新選組総力をもって警護の任に当たるべし……、との要請を受けた!」

 

事態を理解した隊士達が、「おお!」と歓声を上げる

 

「ふん……池田屋や禁門の変の件を見て、流石のお偉方も、俺らの働きを認めざる得なかったんだろうよ」

 

土方の言葉に、冗談めかして沖田が笑う

 

「警備中は文字通りの意味で、僕らの刀に国の行く末が掛かってる……なんてね」

 

「おぉ!」

 

永倉も意気込む様に、拳を握り締めた

 

そんな彼らの言葉を、千鶴は緊張した面持ちで聞いていた

別に、千鶴自身が警護する訳ではないのだが、俄かに緊張で握っていた手が汗ばんできた

そんな中、ぽつりと、伊東が呟いた

 

「上洛の警護とはまた。もしも山南さんが生きていれば……。本当に惜しい人を亡くしましたねぇ……」

 

ふぅ…と、残念そうに言う伊藤の表情は、少し憂いを帯びていた

……伊東は、山南は死んだと思っている

いや、と言うよりも、あの薬の件は徹底的に隠されている為、山南の生存を知るのはごく一部の人だけである

真実を隠している事が後ろめたいのか、近藤は苦い顔を見せながら口を開いた

 

「……ともあれ、これから忙しくなる。まずは、隊士の編成を考えねばなるまいな。そうだな、俺とトシ、総司……」

 

「っと悪い、近藤さん。総司は今回外してやってくれねぇか?風邪気味みてえだからな」

 

不意に土方に言われ、近藤は沖田を見た

 

「む……そうなのか?総司、大丈夫か?」

 

沖田がやれやれという感じに、肩を竦める

 

「自分では別に問題ないと思うんですけどね。土方さんは大げさ過ぎるから」

 

「問題ない、じゃねぇよ。さっきも咳してただろうが」

 

「そうなのか!?」という感じに、近藤が沖田を見た

 

それを見た沖田は、少しむっとした様に眉を寄せ土方を睨んだ

だが、土方はまったく相手にしないという素振りで、平然としている

 

「……………」

 

沖田が はぁ…と、苦笑いにも似た溜息を付いた

 

「……全く、土方さんは過保護過ぎるんですよ」

 

沖田がそうぼやいた後

ふと、もう1人意外な人が手を上げた

 

「あー……近藤さん、実はオレもちょっと調子が……」

 

それは、藤堂だった

 

「なんだ、平助も風邪か?折角の晴れ舞台、全員揃って将軍様を迎えたかったのだがなぁ」

 

近藤の残念そうな声音に、藤堂は申し訳ない―――と言うよりは、罪悪感からか、少し視線を落とした

 

「あ……すんません……」

 

藤堂のその態度に違和感を感じた千鶴は、首を傾げた

 

何故だろうか

藤堂のそれは、沖田のそれとは違う様な気がした

どちらかと言うと、もっと――――

 

平助君……?

 

「あ、いや、体調は大事だな、体調は。いずれまた機会もあるであろうし、2人はその時存分に働いてもらいたい」

 

近藤が場を変える様に、明るく声を発する

2人を気遣ってそう言う近藤からは、いかにも人の好さそうな気配が感じられた

 

そんな中、ひとりひとりの隊士を確認しながら、土方が口を開いた

 

「で、お前はどうするんだ?」

 

「……はい?」

 

一瞬、その問いが自分に向けられているものだと気付かず、千鶴は目を瞬きさせた

 

「呆けてるんじゃねぇよ。お前は警護に参加するのかって聞いてるんだ」

 

千鶴が驚いた様に、目を見開く

 

「わ、私もいいんですか?」

 

すると、近藤が目を細めながら

 

「無論、構わんとも。雪村君も今や新選組の一員と言っても過言ではない。良かったら、是非参加してみてくれ」

 

「で、でも……」

 

躊躇う千鶴に、不参加の2人が笑う

 

「まぁ、身の心配はないと思うよ。将軍を狙う不届きな輩はそうはいないから」

 

「行ってみるのもいいんじゃねーの?」

 

沖田と藤堂の2人が参加しないのに、隊士でもない千鶴が参加するのは、少し心苦しいが……

正直な話、普段の巡察では鋼道の手掛かりが掴めず、行き詰っていた

 

「……………」

 

千鶴は少し考え、それからぐっと顔を上げた

 

「はい!お役に立てる事があるなら、お手伝いさせて下さい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                        ◆          ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――……

 

俄かに、廊下が騒がしくなった

 

終わったのかしら……?

 

さくらは、障子戸を少し開けて廊下の様子を見た

向こうの方に、何人かの隊士が歩いているのが見える

 

どうやら、広間での話は終わったらしい

 

夢の事もあるし、何の内容だったのか気になる所だが……

適当に隊士を捕まえて、問いただす訳にはいかない

 

それに―――……

 

今、出て行くのは流石に不味いわよね……

 

さくらが新選組に居るのは、あくまでも”仮宿”に他ならない

多くの隊士は、さくらの存在を知らないのだ

だから、迂闊には出られない

 

ふと、目の前を原田達3人が通りかかった

 

あ……

 

さくらは、はっとして慌てて3人を追った

 

 

 

 

 

「あ、あの……!」

 

少し奥に入った所で、さくらは3人に声を掛けた

 

さくらの声に気付き、原田が振り返る

それに続く様に、永倉や藤堂達も振り返った

 

「おーさくらちゃんじゃねぇか!」

 

永倉がにかっと笑って、来い来いと手招きした

 

「……………」

 

さくらは少し躊躇いがちに辺りを見回して、他に人が居ない事を確認すると、永倉達に近づいた

 

「どうした? さくら」

 

原田が目線をさくらに合わせると、優しげな声音で尋ねた

瞬間的に、覗き込まれる様な体勢になり、ドキッとする

 

さくらは、それを悟られまいとサッと少しだけ視線を逸らし

 

「あ、あの…広間でのお話は終わったのですよね?何のお話だったのですか?」

 

一瞬、沈黙して3人が顔を見合わせた

 

「そ、それは~、まぁ…アレだな!」

 

しどろもどろになりながら永倉が口を開くが…

次の瞬間、ガシッと原田の肩を掴み小声で

 

「な…なぁ、左之。言って良いのか…?」

 

「……別に隠す事じゃねえだろ?」

 

「で、でも、一応重要な”隊務”だしよぉ~」

 

「……さくらは言いふらしたりしねぇよ」

 

「しかしなぁ…ど、どう思うよ?平助」

 

「えっ!?そこでオレに振るのはおかしいだろ!?新八っつぁん」

 

何やら3人がひそひそと小声で言い合う

 

「……………」

 

さくらは、3人を見比べてから

 

「……もしかして、二条城に行かれるのですか?」

 

 

 

 

「「「えっ!?」」」

 

 

 

 

3人の驚いた声が重なった

 

「な、何でさくらちゃんがそれを…っ!?お、俺いつの間にか口に出しちゃってたか!?」

永倉がわたわたしながら、おろおろと原田とさくらを交互に見る

原田がやれやれという感じに

 

「落ち着け」

 

「うわぁぁぁぁ~俺とした事がぁぁぁぁ~~~」

 

ウガァーと天を仰ぐ様に、永倉が頭を抱えた

 

「新八っつぁんなら、ポロッと言い零しててもおかしくねぇよなぁ~」

 

ケタケタと藤堂が面白そうに笑った

 

「うあぁぁぁぁぁ~~~言うなぁ~平助ぇ~~」

 

聞きたくない!という感じに、永倉が両の耳を手で塞ぐ

それを見た原田が、はーと溜息を付きながら

 

「いいから、落ち着けって新八。言ってねぇから、安心しろ。平助も煽るな」

 

「へいへい」と、藤堂が肩を竦める

 

その言葉に触発された様に、永倉が期待の眼差しで原田を見た

心なしか、キラキラしている

 

そして、ガシッと原田の両肩を掴むと、ズズイと顔を迫らせた

 

「本当か!?本当か、左之!?」

 

「俺は嘘は付かねぇよ。……てか、その暑苦しい顔近づけんな」

 

離れろ、と言わんばかりに 原田は永倉の迫りる顔を手で避けた

 

「でも、何で分かったんだ? さくら」

 

「え……っ!?」

 

不意に話を振られ、さくらは言葉に詰った

 

まさか”夢”で見ました とは言う訳にはいかない

言っても信じてもらえない

むしろ、不審がられるのがおちだ

 

そこを突かれたら答えられない

 

「そ、それは…その……」

 

困惑した様に、さくらは視線を泳がせた

瞬間、原田と目が合い 思わずサッと逸らした

 

これでは、肯定と言っている様なものだ

 

「さくら?」

 

原田の問いに、さくらは一瞬だけ顔を上げたが、そのまま横に逸らした

 

「あ、えっと……その、う、噂で……」

 

「噂?」

 

「さ、先ほど…隊士の方達が話されているのを…少し、聞いて……」

 

ごめんなさい。と、名も知らぬ隊士に謝る

 

それを聞いて、原田が「あー」と、先ほど自分達の前を歩いていた隊士を思い出す

 

「佐々木達か……」

 

「なにおぅ!?佐々木が話したのか!?」

 

ぐわっと食って掛かってこようとする永倉の顔を、原田がバチンと叩いた

 

「ちげぇよ。お前は、先走んな」

 

「あ、あの…、私が勝手に聞いてしまっただけですから…その、彼らは何も―――」

 

彼らに罪は無い

咄嗟に誤魔化す為に上げたとはいえ、それで彼らが罰せられるのは流石に心苦しい

 

だが、さくらの予期していたものとは反して原田はふっと穏やかに笑った

 

「分かってるよ」

 

その声音が予想以上に優しくて、さくらは息を飲んだ

 

「別に、罰したりしねぇから安心しろ」

 

「あ、はい……」

 

とりあえず、その言葉を聞いてさくらはほっとした

でも――――

 

「あ…その、私が知ってはいけなかったのですか?」

 

広間での話しの事―――二条城の事

聞いてはいけなかっただろうかと不安になる

 

だが、原田は特に気にした様子もなく

 

「ん?いや、そんな事はねぇけどな。まぁ、あいつらも浮かれてたんだろうし、バレたもんは仕方ねぇって」

 

「………?」

 

浮かれる……?

 

いまいち、それが意図する理由が分からず、さくらは首を傾げた

すると、永倉が「んー」と口に手をあて

 

「今度、将軍・家茂公が上洛するって話は知ってるだろ?」

 

「あ、はい」

 

今、京の街はその話でもちきりだった

 

江戸幕府 第十四代将軍、徳川家茂

 

紀州藩主、徳川斉順の長子として嘉永元年閏5月24日に生まれた

翌年ときの藩主、斉彊の養子となる

そして、4歳で紀州藩主となり十二代将軍家慶から編諱を与えられ慶福となる

 

時の大老井伊直弼の強力な政治力を得て安政5年6月、将軍継嗣候補(将軍後継者)として江戸城に入城

十三代将軍家定が死去すると、名を家茂と改め13歳で十四代将軍に就任した

 

井伊直弼は家茂を将軍に据えると、それに反対していた一橋派(家定の後継をめぐって慶福を押す紀伊派、一橋慶喜を押す一橋派の間で政争が繰り広げられていた)の弾圧をすすめる

これが、安政の大獄である

この弾圧に激怒した水戸浪士らが井伊を暗殺(桜田門外の変)

その後を引き継いだ老中安藤信正は、一橋派の弾圧をやめ、公武合体策を推進、その具体策が家茂と皇女和宮親子内親王との結婚だった

文久2年和宮降嫁

 

朝廷、幕府における公武合体論に反し、京では長州藩を中心とした尊皇攘夷運動は高まり過激化していく中、朝廷においても攘夷論の渦が大きくなり、幕府に再三攘夷を促すようになる

文久3年家茂は上洛を余儀なくされ、諸藩に攘夷通達を行う事になる

 

「この時、将軍の身辺警護のために募集された浪士組へ俺ら試衛館も参加した訳だ」

 

「ちなみに、試衛館つーのは近藤さんの実家の天然理心流を流派とした道場な。って言っても、俺達は食客って奴だから、天然理心流じゃねぇけどな」

 

原田の言葉に永倉がニッと笑いながら答える

 

過激な長州による攘夷運動をみかね、幕府は会津、薩摩と連携し、長州の動きを一時押さえることに成功

朝廷からも攘夷派の公家達を追放した(8月18日の政変)

 

翌 元治元年、長州藩は巻き返しをはかり京へ出兵(禁門の変)するも敗北を喫す

 

「禁門の後、孝明天皇から長州追討令が下されたんだ。これを受けた幕府は西国諸藩に出兵を促すけど、総督が決まらなくて揉める訳」

 

総督を依頼されたのは御三家の前尾張藩主・徳川慶勝だったが、彼は武力討伐には消極的で再三固辞していた

彼は、自分に全権を委任することを条件にして、やっと征長軍の総督を引き受ける

参謀は、禁門の変で活躍した薩摩藩の西郷隆盛

 

「でも、結局総攻撃はされず、その西郷が岩国藩主の吉川経幹と談判を行って、長州藩は降伏条件を飲んだ。これが、第一次長州征討」

 

スラスラと出てくる、永倉の言葉はまるで歴史書の様だった

 

「で、今回の家茂公の上洛は第二次長州征討の為な訳」

 

さくらは、驚いた様に目を瞬かせてその話を聞いていた

 

「………永倉さん」

 

「お?なんだ?」

 

「意外に博学なんですね……」

 

出てきた、感想はそれだった

 

永倉が不服そうに、ムッと頬を膨らます

 

「”意外”とは何だ!”意外”とは!」

 

「小難しい話はもういいだろ?新八。眠くなるぜ」

 

永倉の話が続く前に、原田がふわぁ~と、欠伸を噛み締めた

 

上洛し、二条城へ入る将軍

そこへ行く新選組

 

という事は……

 

「……もしかして、新選組はその将軍の警護を任されたのですか?」

 

さくらの問いに、永倉は照れた様に頭をかく

 

「んー?まぁ、そういうこった」

 

「オレら、新選組はその家茂公の出迎えと、滞在する二条城の警護を任されたんだ」

 

それまで黙っていた藤堂が小さく溜息を付きながらそう言った

 

「そう言う平助は、不参加だけど…な!」

 

そう言いながら、永倉が藤堂の頭を掴みぐりぐりとやる

 

「ちょっ…!新八っつぁん!何するのさー!!」

 

「え……?平助は行かないの…?」

 

てっきり、皆行くのかと思っていたさくらは面食らった様に藤堂を見た

藤堂は「うっ……」と口篭ると、もごもごと言い訳する様に

 

「いや…オレは…ちょ、調子が悪いつーか…その……」

 

「体調が悪いの?大丈夫……?」

 

心配そうにそう尋ねるさくらの視線に居た堪れなくなったのか、藤堂は「あ~」とか「う~」とか唸りながら

 

「へ、平気平気!ちょっと風邪気味なだけだからさ!」

 

余り突っ込まれたくないのか、藤堂はブンブンと手を振りながら苦笑いを浮かべた

 

「そう………」

 

雰囲気から察するに恐らくそれだけではない感じがした

だが、藤堂自身がそれ以上聞いて欲しく無さそうだったので、さくらはそれ以上追求するのを止めた

 

「しかし、近藤さん張り切ってたよな。”折角の晴れ舞台、全員揃って将軍様を迎えたい”とか言ってたし」

 

原田の言葉に、藤堂が「うっ…」と言葉を詰らせた

 

「そ、そりゃぁ…近藤さんには悪かったと思うけどさ……」

 

ぶつぶつと小声でそうぼやいた

 

「ま、近藤さんは幕府贔屓だからな。嬉しいんだろうよ」

 

「だろうなぁ~。千鶴まで連れて行くんだもんな」

 

何気ない会話

だが、それはさくらの心を揺らすには充分だった

 

え………?

 

今、何て……?

 

さくらは大きく目を見開いた

ドクンドクンと、心臓が早鐘の様に鳴り響く

 

”千鶴”

 

彼らは確かに、そう言わなかっただろうか?

 

”あの夢”が脳裏に過ぎる

 

外壁を走る千鶴

 

風に靡く、白い着物

揺れる、猫柳色の髪―――風間千景

 

そして、伸びる魔手―――

 

「―――――っ!」

 

 

 

 

―――ドクン 

 

 

 

 

    千景!

 

 

 

 

 

 

 

「さくら!?」

 

ガクッ

 

瞬間、意識が飛んでいたのか……

さくらは、原田の呼び声と共に我に返った

 

気が付けば、いつの間にか原田の腕の中に居る

 

未だに、心臓がドクドクと鳴り響いていた

 

「…………」

 

私………

 

いまいち現状が理解出来ず、自分を支えてくれている原田を見やる

原田は、はーと安堵した様に息を吐いた

 

「驚かせるな。いきなり倒れる奴があるか」

 

「倒れ……?」

 

「覚えてないのか? さくらちゃんは、急に倒れたんだぜ? 貧血か?」

 

永倉も心配そうにさくらを見ていた

 

「………すみません」

 

「立てるか?」

 

「……………」

 

原田の問いにさくらは答えず、ゆっくりと自分の足で立った

だが手は離れず、掴んでいた原田の腕に力を込めた

心なしか、震えている

 

「……………」

 

「さくら?」

 

さくらの様子がおかしい事に気付いたのか、原田がさくらを支えていた手を止めた

 

「どうした?お前、震え……」

 

「………か」

 

ギュッとさくらの手に力が篭る

 

「さくら?」

 

聞き取れ無かったのか、原田がもう一度さくらの名を呼んだ

 

「………千鶴も行くというのは、本当…ですか……?」

 

今にも消えそうな声で、さくらがそう呟いた

思わず原田が永倉と顔を見合わせる

 

「千鶴?―――いや、そんな事より今はお前の―――」

 

 

 

「そんな事じゃありません!!」

 

 

 

 

叫び声と共に、さくらがバッと顔を上げた

 

その反応は予想していなかったのか、原田が驚いた様に目を見開く

さくらのそれは、緊張とも困惑とも取れるものだった

 

「お前、ど―――」

 

「教えてください!千鶴は…千鶴は行くんですか!?」

 

さくらが詰め寄る様に、原田の腕を掴んだ

それに気圧された様に原田が「あ、ああ……」と答える

その答えを聞いた瞬間、さくらの表情がみるみる変わっていった

血の気は薄く、最早青ざめているというより、蒼白だった

 

「おい、大丈………」

 

「あ、の―――それを、取り止める事は………?」

 

 

 

止めないと

 

 

 

――――現実になる

 

 

声が震えた

 

身体が思う様に動かない

 

 

 

 

止めなければ

 

 

 

 

――――あの”夢”が ”現実”に―――

脳裏にあの”夢”が過ぎる

 

 

 

 

――――このままでは、千鶴が―――っ!!

 

「千鶴が…千鶴が行くのを止めさせる事は出来ないのですか!?」

 

原田と永倉が顔を見合わせた

それから、「うーん」と永倉は唸りながら頭をかいて

 

「一応、正式に局長の許可が下りてるからなぁ……今から俺達が言って何とかなるかどうか……」

 

「……………」

 

「そうだな…。まぁ、土方さんならどうにかなるかもしれねぇが……」

 

土方さん………

 

さくらはギュッと手を握り締めた

 

―――迷っている暇はない

 

「……あの、失礼ですけど、土方さんは今どちらに?」

 

「土方さんか?土方さんは今、広間で―――」

 

「広間ですね?ありがとうございます」

 

原田が言い終わらない内にさくらはパッと原田から離れると、軽く頭を下げた

 

「すみません。失礼します」

 

「お、おい!さくらっ…!?」

 

原田が静止するのも聞かず、さくらはパタパタとその場から走り去ってしまった

 

「おいおい、何だってんだ?ありゃぁ……?」

 

永倉が意味が分からないという感じに、首を傾げた

 

「あいつ、たった今自分が倒れそうになってた事、忘れてるんじゃないだろうな……?」

 

原田が心配そうにそう呟く

その時だった

 

「あ―――!!」

 

不意に、藤堂が声を上げた

 

「んだよ、平助。いきなり叫びやがって……」

 

永倉が訝しげに藤堂を見る

しかし、藤堂はそれを気にした様子は無く、むしろ聞き流すと

 

「オレ…やばい事に気付いちゃった……」

 

「は?」

 

永倉と原田が藤堂を見る

藤堂は顔を引き攣らせながら

 

「今、広間に伊東さんもいる」

 

 

 

「「あ」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三馬鹿との話に1話消費してしまった…(T^T)

予定とはまったく違います

そして、これが後々尾を引くんですね?分かります

 

2010/09/27