櫻姫抄乱
 ~散りゆく華の如く~

 

 二章 斬人 9

 

 

千鶴達が九条河原に辿り着いたのは、もう日の暮れかけた刻限になってからだった

 

伏見奉行所から追い返された後、新選組はひとまず会津藩邸へ向った

奉行所への連絡不備について報告し、どの様に動けばいいかを尋ねた

すると、会津藩邸の役人は、この九条河原へ向う様に告げたのだ

でも………

 

「新選組?我々会津藩と共に待機?」

 

会津藩士さえ、新選組を見て首を傾げた

 

「そんな連絡受けておらんな。すまんが藩邸へ問い合わせてくれるか」

 

そんな扱いに永倉も、とうとう堪忍袋の尾が切れたらしい

 

「―――あ?お前らのとこの藩邸が、新選組は九条河原へ行けって言ったんだよ! その俺らを適当に扱うってのは、 新選組を呼び付けたお前ら上司を、蔑ろにする行為だっ分かってんのか?」

 

捲くし立てられた藩士が言葉に詰ると、近藤は大らかな笑顔と共に口を開いた

 

「陣営の責任者と話がしたい。……上に取り次いで頂けますかな?」

 

―――――

 

そして……

千鶴たち、新選組は九条河原で待機する事が許された

 

今後の動きに付いて、会津側との相談を終えた局長達は、なんだか物凄く疲れた顔をしていた

その話し合いに同席した井上も、疲れた様に苦笑した

 

「………どうやらここの会津藩兵達は、主戦力じゃなくただの予備兵らしい。会津藩の主だった兵達は、蛤御門の方を守っているそうだ」

 

千鶴はびっくりして目を開いた

 

「新選組も予備扱いって事ですか?」

 

予備を使う必要さえなければ、新選組に出番は来ない

 

「………屯所に来た伝令の話じゃあ、一刻を争う事態だったんじゃねぇのか?」

 

永倉は苛立たしげに不平を洩らす

 

「状況が動き次第、即座に戦場へ馳せる。今の俺たちに出来るのは、それだけだ」

 

突然の夜襲も起こりうる

今夜は一晩中、気が抜けなさそうだ

 

「千鶴、休むなら言えよ?俺の膝くらい貸してやる」

 

「あ、いえ、大丈夫ですっ」

 

原田は笑いながら言ってくれたが、千鶴は慌てて首を横に振った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新選組は、緊張状態で夜を明かす事になる

 

千鶴は最初に気を張り過ぎたか、明け方頃には半分ぐらい眠っていた

 

でも、皆は違った

うたた寝していた千鶴が目覚めた時、厳しい顔をしたままで警戒を続けていた

 

そして……

千鶴が目を覚ました直後の事だった

 

「っ!?」

 

明け方の空に、砲声が響き渡る

 

遠くの町中から、争う人々の声が聞こえて来る

同時に新選組の隊士達は、互いの顔を見合わせると頷き合った

 

「―――行くぞ」

 

半ば呆然としていた千鶴に、斎藤が声を掛ける

 

「はいっ!」

 

慌てて千鶴も頷き返し、皆と共に駆け出そうとした時だった

 

「待たんか、新選組!我々は待機を命じられているのだぞ!?」

 

会津の役人が、横槍を入れてきた

 

……………

 

行軍の最中、土方は余り怒らなかった

むしろ声を荒げる役は永倉達に任せて、役人相手に、辛抱強い説得を繰り返していた

だが………ついに、我慢の限界が来たのだろう

土方が声を張り上げ

 

「てめぇらは待機する為に待機してんのか?御所を守る為に待機してんじゃねぇのか!長州の野郎供が攻め込んで来たら、援軍に行く為の待機だろうが!!」

 

「し、しかし出動命令は、まだ………」

 

役人の言い訳を半ばまでも聞かず、土方はぴしゃりと言い放った

 

「自分の仕事にひと欠片でも誇りがあるのなら、てめぇらも待機云々言わずに動きやがれ!」

 

「ぬ………!」

 

土方は彼らの返答を待たず、風を切る様に歩み始めた

 

「………私たち、何処に行くんですか?」

 

近くを歩いている斎藤に、千鶴は小さな声で質問した

彼は微かに目を細めながら、千鶴に答えを返してくれる

 

「敵が確実に居る場所―――、蛤御門を目指す」

 

「蛤御門………」

 

会津藩の主力も、そこに居る筈だ

 

「蛤御門では激しい戦闘が始まっているだろう。あんたも、今の内に気を引き締めておけ」

 

「………はい」

 

うろたえていた会津藩の予備部隊も、土方の一喝で目が覚めたらしい

結局、彼ら予備部隊も蛤御門まで、新選組の後を付いてきたのだった

 

だが、千鶴達が蛤御門に辿り着いた時

 

「あれ………?」

 

激しい戦闘を予想していた千鶴は、目の前の光景に間抜けな声を洩らした

 

蛤御門には金属の弾を打ち込まれた様で、至る所に傷が刻まれていた

御門の周囲には負傷者も倒れていて、辺りには焼けた様な臭いまで漂っている

 

………覚悟はしていたが、戦場の光景は胸を締め付けるものだった

 

でも、敵らしい姿は見当たらない

どうやら、既に戦闘は終わったらしい

 

情報を集めてくると言って、数人の隊士があちこちに散開する

 

はぁ…っと、近藤は溜息を吐いた

 

「しかし……。天子様の御所に討ち入るなど、長州は一体何を考えているのだ」

 

「長州は尊王派の筈なんだけどなぁ……」

 

井上も同調して首を傾げていた

 

天皇を何より敬ってる筈の長州が、何故天皇の住む御所へ攻撃をしたのか

千鶴にも、彼らの考えはさっぱり理解出来なかった

 

千鶴が長州の動きについて苦悩していると、情報を得たらしい斎藤が戻ってきた

 

「明方、蛤御門へ押しかけて来た長州勢は、会津と薩摩の兵力により退けられた模様です」

 

蛤御門は大勢に守られていた

だから長州の浪士達は、成す術も無く撤退したらしい

 

土方は、皮肉げな笑みを洩らす

 

「薩摩が会津の手助けねぇ………。世の中、変われば変わるものだな」

 

薩摩藩と会津藩は、それ程親しい間柄でもない

むしろ、元々薩摩藩は長州藩と同じで、外国の勢力を打ち払おうとしていた筈

でも、薩摩藩は英国に戦争を吹っ掛けて、大敗してしまった

それから少しは攘夷の考えを改めた らしい

 

「土方さん。公家御門の方には、まだ長州の奴ら残ってるらしいぜ?」

 

原田が洩らした一報に、土方は少しばかり表情を変えた

 

続いて、山崎が駆け込んでくる

 

「副長。今回の御所襲撃を扇動したと見られる、過激派の中心人物らが天王山に向っています」

 

天王山は、京と大阪の間にある山だ

 

大局で新選組を動きを考えるのは、いつも土方の仕事らしい

皆は自然と土方を頼るし、近藤局長もそれが当然の様な顔をしている

 

皆が、土方の発言を待っていた

 

思案を続けていた彼が、不意に淡く笑みを浮かべる

 

「………忙しくなるぞ」

 

ただそれだけの短い言葉で、隊士達は鼓舞された様に沸き返る

 

「左之助。隊を率いて公家御門へ向い、長州の残党どもを追い返せ」

 

「あいよ」

 

「斎藤と山崎は状況の確認を頼む。当初の予定通り、蛤御門の守備に当たれ」

 

「御意」

 

「それから大将、あんたには大仕事がある。手間だろうが会津の上層部に掛け合ってくれ」

 

む、と近藤が不思議そうに首を傾げた

 

「天王山に向った奴ら以外にも敗残兵はいる。商家に押し借りしながら落ち延びるんだろうよ。追討するなら、俺らも京を離れる事になる。その許可を貰いに行けるのは、あんただけだ」

 

落ち延びた長州の人達は、あちらこちらで迷惑を掛けるに違いない

それを防ぐ為には、残党狩りをする必要がある

でも、新選組の仕事は京の守護だ

その新選組が追討を行うのであれば、京都守護職である会津藩の許可が要る

 

「成る程な。局長である俺が行けば、きっと守護職も取り合ってくれるだろう」

 

昨日の九条河原までの道程を考えると、そう簡単な話じゃないだろう

新選組局長である近藤でなければ、会津藩から追討の許可が下りる所か、まともに話も聞いてくれない可能性も高い

 

「源さんも守護職邸に行く近藤さんに同行して、大将が暴走しない様に見張ってておいてくれ」

 

「はいよ、任されました」

 

土方が冗談の様な口調で言うと、くつくつと小さな笑いが隊士らから洩れる

 

近藤は、ばつが悪そうに苦笑した

……言い返したり、否定したりしないのは、暴走しかねない自信があるからなのだろう

 

「残りの者は、俺と共に天王山へ向う。それから―――」

 

土方は、ちらりと千鶴に目を向けた

千鶴が何処の隊にも属してないので、少し扱いに悩んでいるのだろう

 

「………お前は、好きな場所に同行しろ。だが、近藤さんに付いて行くのは無しだ」

 

「あ、はいっ」

 

近藤は、会津の偉い人達と会う

隊服も着ていない千鶴が混じっていると、面倒になりかねない

 

「ええっと………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

千鶴は原田達と一緒に、公家御門へ向うことにした

千鶴達が辿り着いた公家御門では、まだ小競り合いが続いている様だった

 

蛤御門から移動して来たらしい所司代と、まだ諦めてない長州兵達が戦い続けている

 

「千鶴。あんまり前に出るなよ、危ないから」

 

原田は千鶴に声を掛けると、こちらが返事をするよりも早く駆け出す

そのまま、新選組の隊を率いて、戦場のど真ん中へ飛び込んだ

 

「御所へ討ち入るつもりなら、まず俺を倒してから行くんだな!」

 

こんな時だというのに、原田は淡い微笑を浮かべている

 

「くそっ!新選組か!?」

 

「―――死にたい奴からかかってこよ」

 

「おのれぇぇぇぇぇぇっ!!」

 

怒声が響き、乱戦が始まる

 

けれど御所防衛側は、新選組ら援軍が加わったのだ

敵味方入り乱れての戦いも、そう長くは続かなかった

 

「………最早ここまでかっ!」

 

長州の藩士達が、血を吐く様な声で唸る

 

「逃がすな、追えっ!」

 

所司代の役人達が声を張り上げる

すると―――長州勢の殿を務めていた男が、不意にこちらを振り向いて足を止める

 

「ヘイ、雑魚共!光栄に思うんだな、てめぇらとはこのオレ様が遊んでやるぜ!」

 

言うが早いか、その人は銀色の何かを掲げる

 

 

パ―――――ン

 

 

―――直後、甲高い音が公家御門の前に響き渡る

 

「な、何……!?」

 

彼の傍に居た役人の1人が、悲鳴と共にばったりと倒れ込んだ

倒れた役人の身体から、じわりと血が滲み始めるのを見て、千鶴は「鉄砲」という武器の名を思い出した

目にしたのは初めてだったが、火薬を使って金属の筒から弾を撃ち出すものだ

片手で扱う事の出来る鉄砲は、確か「拳銃」と呼ぶ筈だ

 

恐らく、蛤御門を傷付けたのも長州の鉄砲なのだろう

 

「なんだァ?銃声一発で腰が抜けたか」

 

足を止めた役人を見回して、彼は忌々しげに顔を歪めた

 

でも、違う

 

皆が彼に近寄れない理由は、鉄砲の恐ろしさよりも彼自身の雰囲気にある

彼は、多くの敵を前にしても怯んでない

 

その様子を見ていれば千鶴にだって、彼が只者じゃない事は分かる気がした

 

「遊んでくれるのは結構だが………、お前だけ飛び道具使うのは卑怯だな」

 

「原田さん……っ!?」

 

原田は、彼へ向けて間合いを詰めた

 

「はァ?卑怯じゃねぇって。そっちこそ長物持ってんじゃねぇか」

 

双方が、にやりと挑戦的な笑みを洩らす

 

 

ビュン

 

 

唐突に振るわれた槍の切っ先は、鋭く宙を切り裂いた

男がそれを紙一重でかわす

 

「………てめぇは骨がありうそうだな。にしても、真正面から来るか、普通?」

 

「小手先で誤魔化すなんざ、戦士としても男としても二流だろ?」

 

淡い笑みと共に返された原田の言葉に、ひゅぅっと彼は面白がる様な口笛を吹いた

 

「………オレ様は不知火匡様だ、お前の名乗り、聞いてやるよ」

 

「新選組十番組組長、原田左之助」

 

互いに互いを認め合った様に、2人はにやりと笑った

場の空気は相変わら緊迫していたが、2人の表情には少しの悪意も浮かんでこなかった

 

「……………」

 

でも……

どうすれば……?

 

「―――あの!」

 

「千鶴、お前……」

 

千鶴が声を張り上げると、原田は驚いた様に目を見開いた

 

「不知火さんでしたよね?………そろそろ退いてくれませんか?」

 

「あァ?何言ってんだ、てめぇ。ふざけてんなら、ぶっ殺すぞ」

 

正直言えば、とても怖かった

でも、原田が認めた相手だと思うと、千鶴の言い分も分かってくれる様な気がした

 

背中にじっとりと嫌な汗が流れる

 

蛇に睨まれた蛙の気持ちが、今の千鶴になら良く分かる様な気がした

それでも、千鶴は精一杯の勇気を振り絞る

 

「あ、あのっ……。長州の人達、もう全員逃げちゃってるじゃないですか」

 

不知火は彼らを守ろうとしている

それは彼が逃げる長州勢の最後尾を務めている事からも明白だ

 

「まだ不知火さんが戦う必要、あるんですか?」

 

そんな千鶴の言葉に、不知火が驚いた様な顔をしていた

 

「わ、私達の仕事は御所防衛です。そ、そちらが退いてくれるなら、その………」

 

不知火が、不機嫌そうに息を吐き出す

 

そして

 

「!」

 

不知火は、その拳銃を収めた

 

「中々腹の据わったガキじゃねぇか。面白い奴らに会えて今日のオレ様はゴキゲンだ。 ―――だが、いい気になるなよ。お前も、原田も、次があれば容赦しねぇぞ」

 

原田はさり気なく、自分の背に千鶴を庇う

 

「俺達も長州と馴れ合うつもりなんざないさ。ま、お楽しみは素直に取っておくんだな」

 

「あー、お前とは相容れねぇな。俺は『好きなものは最初に食う』派だ」

 

不知火は、けたけたと笑いながら後退する

原田も充分な距離を取ると、ひらりと手を振って踵を返した

 

「……………」

 

ほっとする千鶴の頭を、ぽんっと原田が軽く叩いた

 

「………無茶はするな」

 

「………はい」

 

原田が心配してくれていたのだと、短い言葉からも伝わって来る気がした

 

「……ありがとうございます」

 

千鶴がお礼を言うと、原田は少しだけ目を細めた

 

「いや、お前の判断は正しかったと思う。こっち余計な怪我人を出さずに済んだ。副長の指示は長州を追い返す事だしな。………奴らの追討は、俺達の仕事じゃない」

 

「……はい」

 

そして、去り行く長州勢を見ながら、原田は少しだけ悲しそうな顔をする

 

「……今更逃げたって、ただ辛くなるだけなんだろうけどな」

 

「え……?」

 

千鶴は思わず目を瞬き、そして気付いた

 

あの人達はこの戦の為に、わざわざ長州から来たのだ

でも、負けてしまったら、そう簡単に藩に帰る事は出来ない

つまり……彼らには戻る場所がもうない

 

「不知火の奴とは、また会う事になるかもな。………そんな気がする」

 

何故かは分からないが、千鶴もそんな気がした

 

「……出来れば、会いたくないです」

 

次に会う時も間違いなく、原田と不知火は敵同士だ

原田が新選組の幹部で、不知火が長州に属している以上、2人の敵対は定められた未来なのだろう

 

「ま、俺の槍も避けられたしな。あいつの相手は、ちと骨が折れそうだが―――あいつが敵なら、戦うだけだ」

 

「原田さん………」

 

原だの声音には、揺るがない覚悟が感じられた

 

不知火は、本当に強敵だろう

だが、原田の微笑みを見ていると、なんだか安心出来た

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                        ◆          ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――蛤御門

 

「………まずは新選組の者として、会津の責任者に挨拶をすべきか」

 

斎藤がぽつりと呟きを洩らした

 

新選組は、待機を命じられていた

結果的に勝手な行動と取った事になる

 

「宜しければ、自分が動きます。 ……今は、上層部も混乱していますから、我々の行動を見咎める事もないでしょうが」

 

山崎の言葉に、斎藤は即断した

 

「会津藩の対応は山崎に一任しよう。 問題が生じれば俺を呼んでくれ」

 

山崎は黙礼すると、指示を果たすべく駆け出した

 

……………

 

ふと、何かに気を留められた

最初、周囲の状況を探っていたが、険悪な空気を感じてそちらへ足を向ける

 

「……………」

 

斎藤が少し呆れた様に息を吐いた

会津藩と薩摩藩とで、小競り合いが起きているらしい

 

今は協力関係にあるが、決して仲が良い訳ではない

 

「なにが、原因ですかね?」

 

隊士の1人がふとした疑問を呟く

斎藤は微かに目を細めた

 

「恐らくは手柄の取り合いだろう。………愚かな事だ」

 

「……成る程」

 

隊士が小さく頷き返した時、渦中にいた薩摩藩士がこちらに気付いた

 

「何かと思えば新選組ではないか。こんな者共まで召集していたとは………。 やはり、会津藩は腑抜けばかりだな! 浪士の手を借りねば、戦う事も出来んのか!?」

 

「なっ………!?」

 

薩摩藩士の無遠慮な言葉に、斎藤の率いて来た隊士達の表情が強張る

だが、斎藤だけは平然としていた

 

「世迷言に耳を貸すな。ただ己の務めを果たせ」

 

斎藤が苛立つ隊士に静かな視線を投げて、状況確認の任務を徹する様に呼びかける

だが……

 

「おのれ、愚弄するつもりか!?」

 

自分の藩を貶された会津藩士が、声を荒げ刀を抜いた

あわや殺し合いが始まるかと思われた瞬間

薩摩藩士の列を割って、背の高い男が姿を見せた

 

「貴様が相手になるか!」

 

会津藩士は怒鳴り声を上げながら、その人に向けて斬りかかろうとする

その時、斎藤が双方の間に踏み込んだ

 

「―――やめておけ。あんたとそいつじゃ、腕が違い過ぎる」

 

男がゆったりと、居並ぶ新選組隊士達に目を向けて来た

 

「池田屋では迷惑を掛けましたな。 確か……、藤堂と言う名の青年にお相手頂きましたが、怪我の治りが良くないのであれば、加減を出来ずにすまなかったと伝えて下さい」

 

そんな言葉を伝えれば、藤堂が余計に激怒するだろう

斎藤はスッと目を細め

 

「池田屋で平助を倒したのは、あんたか。………成る程、それなら合点が行く」

 

斎藤は彼の謝罪には触れず、淡々と事実だけを取り上げた

 

「大方、薩摩藩の密偵として、あの夜も長州勢の動きを探っていたのだろう」

 

鋭い口調で語る斎藤に対して、その男は何も否定せずに沈黙した

 

斎藤は、不意にその距離を詰めた

そして瞬きの間も空けず、刀を抜き放った

 

凄まじい速度で放たれる刀の軌跡は、目では到底捕らえる事も出来ないものだった

白刃を晒す切っ先は、ぴたりと敵の眉間に狙いを定めて止められた

 

しかし、その男は身動き一つしなかった

凪いだ眼差しで、斎藤を見返している

 

「………あんたは新選組に仇を成した。俺から見れば、平助の敵という事になる」

 

斎藤の声音には、ぴりぴりしたものが混じっていた

 

「………しかし、今の私には、君達新選組と戦う理由がありません」

 

男は、穏やかな口調で返答する

 

斎藤は男に刀を向けたまま、相手の出方を伺う様に沈黙した

けれども男もまた、微動だにせず斎藤を見返している

 

「……………」

 

斎藤は冷徹に見えて、優しい所もある

池田屋では大怪我を負った皆の事も、本当はとても心配していただろう

けれど、斎藤は自分の仕事を良く知っている人だ

先ほども、感情に流されかけた隊士達を、とても静かな眼差しで押さえつけていた

 

「俺とて騒ぎを起すつもりは無い。 あんたらとは目的を同じくしている筈だ。 だが侮辱に侮辱を重ねるのであれば、我ら新選組も会津藩も動かざるを得まい」

 

斎藤は釘刺す様な物言いをした

男も納得した様な素振りで深く頷く

 

「こちらが浅はかな言動をした事は事実。 この場に居る薩摩藩を代表して謝罪しよう」

 

斎藤は頷き返すと、そのまま静かに刀を納めた

 

薩摩の藩士は複雑そうな顔をしているが、男の力量を知ってか、何も言えないらしい

 

薩摩側に謝罪させる事で、斎藤は会津の面目を保ったのだ

会津藩の誇りも守れた

無用な戦いも避けられたのだった

 

「私としても戦いは避けたかった。そちらが退いてくれた事に感謝を」

 

そう言って、男は深々と頭を下げた

 

「私は。天霧九寿と申す者だ。次にまみえる時、お互い協力関係にある事を祈ろう」

 

天霧……そう名乗り終えた彼は、ゆるりとした動作で斎藤に背を向ける

そして薩摩藩士達を掻き分け、隊列の奥へと消えていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夢主全然出てきませんでした…(-_-;)

夢なのにー夢のなのにぃぃぃぃぃ

 

とりあえず、禁門(蛤御門・武家御門)終わり

後は、天王山・・・あ!

屯所の風景忘れてたー∑( ̄△ ̄)!!

 

2010/04/17