櫻姫抄乱
 ~散りゆく華の如く~

 

 二章 斬人 7

 

 

「さくら」

 

廊下を歩いていると、ふと風間に呼び止められた

さくらが徐に振り返る

 

風間はさくらの姿を見ると、訝しげに眉を寄せた

 

「お前は、何をしている」

 

「何って……」

 

振り返ったさくらの腕の中には、色取り取りの季節の花々があった

真っ白な霞草に青い瑠璃唐綿に白の茉莉花

そんな花々を抱えて、さくらは不思議そうに首を傾げた

 

「広間に飾ろうと思って」

 

今まで広間にはさくらが毎回花を飾っていたが、彼女が居なかった2ヵ月間は全く花は飾られていなかったらしい

久しぶりに見た広間は、すっかり寂しくなっていた

 

風間はどうでもよさげに、はぁ…と息を吐くと、徐にさくらの顎に手を掛けた

ぐいっとそのまま顔を上げられる

 

「え…?ちょ……っち、千景?」

 

いきなりの出来事に思わず狼狽してしまう

風間の顔が近づく

口付け出来そうなくらい近くなって、さくらは思わず、顔を赤らめた

心臓が早鐘の様に脈打つ

 

「ち、千景………」

 

「……今日は顔色は良さそうだな」

 

「……え?」

 

そう言うと、スッと風間はさくらから離れた

 

何を言わんとするのか分かる、さくらは照れ隠しの様にプイッとそっぽを向いて

 

「そ、そんな…別に、毎日呑まなくても大丈夫よ」

 

心なしか、早口になる

だが、風間は少し呆れた様に、はっと息を吐き

 

「どうだか。お前は自己管理一つ出来ない様だからな」

 

「あ、あれは……っ!」

 

この間の事を言っているのだろう

新選組に居る間、血を一適も呑まなかった

そのせいで、風間に迷惑を掛けてしまった

思わず言い募ろうとするが、さくらは はたっとある事に気付いた

 

もしかして………

 

「千景…心配してくれてるの……?」

 

サッと風間の顔色が変わった

不愉快だと言わんばかりに、フイッと顔を背ける

 

「フン。何故、俺が心配などせねばならぬ」

 

「……………」

 

その様子が可笑しくて、さくらはくすくすと笑いだした

風間はあからさまに不快そうな顔をし

 

「笑うな」

 

「ごめん……ごめんなさい」

 

でも、やっぱり可笑しくてさくらは笑ってしまった

それよりもなによりも風間が心配してくれたという事実が嬉しかった

 

「不快だ」

 

風間はフイッとそっぽを向くと、その場を立ち去ろうとした

 

「あ、千景、待って待って。ごめんなさいってば」

 

さくらは笑いながら、慌てて風間の袖を引っ張った

 

「引っ張るな。少しでも、謝罪の気持があるならば、その笑いを止めろ」

 

「はいはい」

 

ふふっと笑みを作りながらさくらは、袖から手を離した

その時だった

 

「あっれ~?姫さんじゃん。久しぶりだなー」

 

聞きなれた声が聞こえて来た

振り返ると、青葛色の長い髪を高く結い上げた男がひらひらと手を振っていた

男の腰にある銀色の西洋銃が目を引く

 

「不知火?」

 

男の名は不知火 匡

長州の者だった

 

不知火の後ろには赤褐色の髪の大柄の男―――天霧九寿が居た

 

そういえば、不知火と最後に会ったのは新選組に囚われる前だった(前回、不知火が来た時には会ってない)

不知火は顎に手をやりにやりと笑うと

 

「あれあれ?もしかしてオレ様お邪魔だったかな~?」

 

「え!?」

 

言わんとする事が分かり、ぱっとさくらが頬を染めた

風間は、あからさまに顔を顰めた

 

「何をしにきた、不知火」

 

不機嫌な声を出し、不知火を威嚇する様に睨み付ける

だが、不知火は特に気にした様子もなく二カッと笑い

 

「何って、決まってるだろ?勿論、話をしに来たのさ」

 

「話?俺は貴様と話す事などなにもない」

 

「風間に無くてもオレ様にはあるんだっつーの。オイ、天霧のおっさん。何とか言ってやれよ」

 

不知火が後ろに控えている天霧に話を振る

天霧は少し迷惑そうな顔をして

 

「私に言われましても、どうする事も出来ません」

 

「なんだよ~頼りにならねぇな」

 

不知火は、はぁーと溜息を付くと、今度はさくらに顔を向けた

 

「だったら、姫さんからこの分からずやの風間に言ってやってくれよ」

 

「え……?私?」

 

いきなり、話を振られ、一瞬動揺する

 

「そうそう、姫さんの願いなら風間は聞くだろ?」

 

な?という感じに不知火がパチンッと片目を瞑った

 

さくらは、少し困惑顔で風間を見る

風間は、不機嫌そうにムスッとしていた

 

「えっと……聞いてあげたら?」

 

恐る恐るそう言うと、風間が更に不機嫌になった

眉を寄せ、はぁっと大きく溜息を付く

 

「お前まで、奴の狂言に乗せられるな」

 

「なんだよ、冷てぇなぁ」

 

不知火は不服だと言わんばかりに、ぶーぶーと文句をたれた

 

「付き合いきれんな」

 

風間は、はっと息を吐き、さくらの肩を抱くとくるっと向きを変えた

 

「あ!さては姫さんとの時間を邪魔されて怒ってんなー? 心狭めぇぞ風間」

 

ギロッと風間が不知火を見た

さくらは、はらはらしながら2人の様子を見ていた

だが、不知火は特に気にした様子もなく

 

「まーまー後でたっぷり好きなだけ2人きりになればいいじゃねぇか! そん時は邪魔しねぇからよ」

 

不知火が、グッと親指を立てる

 

「し、不知火!」

 

さくらは顔を赤らめて、抗議する様に声を荒げた

風間は、更に不機嫌になり、ぱっとさくらから手を離すと

 

「馬鹿らしい! 付き合いきれん」

 

そう言い放つと、ドスドスと音を立てながらその場から立ち去ってしまった

 

「あらら、からかい過ぎたかぁ~?」

 

不知火が悪びれも無く腕を頭の腕で組んでそう言った

 

「不知火……」

 

天霧がはぁーと呆れた様に溜息を付く

残されたさくらは、少し困惑した顔で不知火を見て、小さく息を吐いた

 

「ま、いいや。そうそう、これ!ホイ、姫さん」

 

不知火は、そう言うと何やら懐から取り出しぽいっとさくらに投げて寄越した

 

「なに?」

 

風呂敷に包まれたそれを受け取り、さくらは首を傾げた

 

「まぁまぁ、開けてみろって」

 

言われて風呂敷を開ける

 

「あ………」

 

中から美しい造形の和菓子が出てきた

 

「京菓子ね」

 

練り切りや薯蕷饅頭など、色々入っていた

 

「それに熱ーい茶を用意してくれよ」

 

な? と不知火が二カッと笑った

さくらはくすっと笑い

 

「分かったわ。用意してくるから待ってて。……千景の分もね」

 

そう言って、トタトタと歩いて行く

 

「だとよー天霧のおっさん」

 

風間の事よろしく~という感じにひらひらと手を振りながら不知火は、勝手知る広間の方へ歩いて行ってしまった

残された天霧ははぁーと溜息を付き

 

「仕方ないですね」

 

そう呟いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、だ。長州はもう爆発寸前。近いうちに間違いなく御門へ攻撃するぜ」

 

広間には、風間、天霧、不知火、さくらの4人が居た

不知火、ご要望の熱い茶にお茶請けに、彼が持って来た京菓子を出した

 

不知火は、不敵に笑い、そう言い放った

口を開いたのは天霧だった

 

「その情報なら我々も察知しています。既に我等薩摩が後日御門へ赴く事が決定しております」

 

それを聞いて、不知火は一瞬目を見開き、次の瞬間盛大に溜息を付いた

 

「なんだよーもう知ってんのかよー。折角、オレ様が貴重情報を持ってきてやったのに。あ~つまんね」

 

不貞腐れた様に不知火は、大の字のなって床に転げた

 

「行儀が悪いですよ、不知火。姫の御前です」

 

「へーへー天霧のおっさんは忠誠心旺盛な事で」

 

不知火はやれやれという感じに、起き上がりその場に方肘を付き、胡座をかいて座った

 

「でも、今まで長州が攻めるという確証があった訳ではないのでしょう?あくまでも、可能性がある…というだで」

 

さくらが不知火を庇う様に付け加えた

天霧は静かに頷き

 

「はい。でも、不知火の話によってそれは確実に変わりました。長州は間違いなく攻めてくるでしょう」

 

「そーいうこった。だから、敵になってもオレ様は手を抜かねぇからな!風間!」

 

不知火が風間目掛けてビシッと指差す

それまで黙っていた風間が、眉間に皺を寄せ茶を飲んだ

 

「俺は行かん」

 

「はぁ!?」

 

不知火が、素っ頓狂な声を上げた

 

「ちょ…本気かよ!風間!!オレ様が直々に相手してやるっつーのによ!」

 

「そんなものに興味は無い」

 

一刀両断にされ、不知火はガバッと天霧を見た

 

「おっさんは!?おっさんは行くよな?」

 

天霧は静かにお茶を飲み

 

「私は蛤御門へ向います」

 

それを聞いてがくーと不知火が肩を落とした

 

「なんだよーそっちかよ……」

 

はぁーと盛大な溜息を付く

 

「オレ様は武家御門に行く予定なんだよなーなんっだよー天霧のおっさんも風間の居ねぇのかよ」

 

不貞腐れた子供の様に、不知火は出された京菓子を穿った

 

「少しは楽しくなると思ったのによー」

 

ぶーぶーと不知火は薩摩の判断に不服そうだ

 

「で、でも!皆戦わないならいじゃない」

 

さくらが場を和ます様にそう言う

すると、不知火はチッチッチと人差し指を立て

 

「分かってねぇな、姫さん。強敵と戦う。これ戦いに置ける最高の醐醍味な」

 

「そ、そんなものなの?」

 

「そ!そんなものなのです」

 

そこへ天霧が口を挟んだ

 

「新選組が来るのではないのですか?」

 

ピクッと不知火が反応する

 

「新選組?」

 

「ええ、腕は確かだと聞いています。良い相手になるのではないのですか?」

 

「へぇーそうか!」

 

不知火はわくわくした様に目を輝かせた

それとは裏腹にさくらの顔は沈んでしまった

 

新選組……

 

一瞬、脳裏に彼らの姿が過ぎる

 

不知火は、新選組と戦うの……?

 

すると、それまで黙っていた風間がダンッと杯を床に置いた

 

「千景?」

 

風間の唐突な行動に少し驚いて、さくらは風間を見た

風間は面倒くさそうに、はぁーと息を吐き

 

「それで?貴様の話は終わったのだろう」

 

そう言うと、ぐいっとさくらの腕を引っ張った

 

「え……?ちょっ……ちか…っ!」

 

急に引っ張られたので、思わず前のめりになり、風間の胸へ激突する

何が起こっているのか分からず、さくらは困惑した

いきなり、風間の腕の中に捕まり、思わず赤面してしまう

 

「終わったのなら、さっさと帰れ」

 

そう言い放つと、風間はさくらを捕まえたまま立ち上がった

そして、そのまま広間を出て行こうとする

 

「あ、あの……!」

 

さくらはしっかり掴まれた風間の腕から顔を出し

 

「不知火、良かったら夕餉も食べて行って」

 

「誘うな。 酒が不味くなる」

 

ピシャリと風間は止めた

 

不知火は、にかーと笑い

 

「おいおい風間、せっかく姫さんがこー言ってくれてんだから、無下には出来ねぇよな」

 

くくくっと笑いながら不知火は、手で酌をする真似をする

 

「姫さんのお酌、楽しみだぜ」

 

「こいつはお前になど酌はせん」

 

またまたビシャリと風間が言い放つ

 

「えーなんでだよーツレねぁなぁ~あ!さては!」

 

ピンと何かを感じ取ったのだろう、不知火はにやっと笑い

 

「風間~お前、姫さんのお酌独り占めする気だなー?」

 

風間は勝ち誇った様にふっと笑い、そのままさくらを連れたって出て行ってしまった

 

「ちぇ~風間の奴」

 

不知火は、不貞腐れた様に片肘を付いた

その時、それまで黙っていた天霧が口を開いた

 

「なんでしたら、私が酌をしましょうか?」

 

「……おっさん。それ、笑えねぇから」

 

勘弁してくれという感じに不知火が顔を顰めた

天霧は特に気にした様子もなく

 

「そうですか、残念です」

 

そう言って、ズッとお茶を飲んだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                        ◆          ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「土方君」

 

廊下を歩いていると不意に山南の呼び止められ、土方は足を止めた

 

「どうした?山南さん」

 

「その後、どうですか?」

 

「どう…とは?」

 

「池田屋後の事後処理や隊士達の…とりわけ沖田君の様子…それに…」

 

「それに?」

 

少し、言い淀んで山南は続けた

 

「八雲君の行方なのどです」

 

「……ああ」

 

言わんとする事が分かり、土方は少し口を閉じた

それから息を吸い

 

「……総司は、まぁ、今はあまり無理はさせられねぇな。 事後処理は何とかしてる。 さくらの件は―――」

 

そこまで言いかけて、土方は言葉を止めた

 

正直、芳しくなかった

行方所か、手がかりすら掴めていない

 

「まぁ、何とかするよ」

 

そう言うのが精一杯だった

山南もさくらの件で罪悪感があるのだろう

放っておけば、手伝うと言いかねなかった

しかし、そこは試衛館からの付き合い

山南がそう申し出る事は無かった

 

「それにしても―――」

 

山南は一度、言葉を切り

 

「やったのですね………」

 

そう呟いた

 

何を?と聞かなくても分かる

 

「ああ」

 

土方は短くそう答えた

 

「これで、新選組は間違いなく認知されたのではないでしょうか。皮肉な事ですが、まず倒幕派に認知され、会津藩など仕方なく追認するという事になるのでしょうね」

 

「会津藩は、争闘の結着が付くまで遠巻きに眺めていただけだった。会津藩にしてそれだ。駆り出された他の藩兵は、ただ見物するという気分しかなかっただろう」

 

「それが、新選組を利する事になった。今のところは…だ」

 

「今のところは…ですか…」

 

山南は少し考え

 

「こういう時勢では、あまり先まで読めません。土方君も辛いでしょう。新選組は抗い様も無くひとつの方向に向いつつあります」

 

ふと、山南が庭先を見る

つられて土方も庭先を見た

 

新緑は終わり、初夏の光に満ちていた

 

土方は、山南と並んで暫く深くなった樹木の緑を眺めていた

 

「沖田君……心配ですね」

 

「………ああ」

 

土方は短くそう呟いた

 

「池田屋では、血を吐いた。危ない所だった。 会津が加わっていれば総司がそん目に遭う事も無かった」

 

「会津藩を、あまり責め無い事です。土方君」

 

「俺は、京都守護職が本来やるべき事を、きちんとやって貰いたいだけさ。 今のままじゃ、幕府方の軍勢が京にいて、他藩に睨みを利かせているという事にすぎねぇ」

 

「薩摩など、実に巧妙に立ち回っていやがる。呆れるほどだ。 俺は、会津候は、薩摩を敵と思い定めるべきだと思う。 二本松の薩摩藩邸に浪士が逃げ込んでも、抗議すらしねぇんだ」

 

「……そういう事ですか」

 

「政争は、上でやればいい、そこで薩摩と組んで、長州を追うのもいいさ。 しかし、京都守護職は、藩邸に浪士が逃げ込む事については、厳重な抗議をすべきだろ? 薩摩はいずれ、幕府の敵に回る。 それは、明らかだ。 右手と左手を使い分ける薩摩の、どちらかの手は切断するべきだ」

 

「上で結び、下で対立する…それも、またいいでしょう」

 

「俺は、薩摩藩士をなんとかしろ、と言っている訳じゃねぇ。 脱藩した倒幕派の浪士を保護する事をやめろと言ってるんだ」

 

「しかし、それは戦になりかねませんよ?」

 

「やるなら、早くにやった方がいい。 戦うのは、求心力でもある。 今なら幕府に集まる藩を多く出来る。 それで、薩摩や長州と決定的に対立させてしまえばいい」

 

「ふふ…土方君らしいですね」

 

山南が笑った

 

「沖田君は、血を吐く程に酷いのですか?」

 

江戸に居た頃から、山南と沖田はよく出稽古に一緒に出かけていた

沖田の剣が、意表を衝く様な感性的な剣ならば、山南の剣は理論的で正統な剣だった

そして、2人とも、非凡な腕前を持っている

 

山南は北辰一刀流で、試衛館の食客という恰好だったが、沖田は天然理心流かというと、必ずしもそうとは言い切れなかった

近藤の剛剣とは、どこか筋が違う気がする

天然理心流を学びながら、自分で何かを得たという所があっただろう

 

山南と沖田が、何度か道場で対峙している所を見た事がある

お互いに認め合っている様で、どちらも打ち込まなかった

土方と対峙した時、沖田は遠慮なく打ち込んで来る

江戸を発とうという頃には、その打ち込みを凌ので土方は精一杯だった

 

「沖田君は江戸へ帰した方がいいのではないのでしょうか?」

 

「受け入れる訳がない。 山南さんなら分かるだろ?」

 

「まぁ、そうですが」

 

「それよりも、山南さんが江戸へ帰ると事を考えたらどうだ?」

 

「ふふ、私なら受け入れるとお思いですか?」

 

「さぁな」

 

土方はおどけた様に、笑って見せた

 

「――――それより、嫌な事が起きそうな気がします」

 

山南がそう呟いた

 

江戸を出る時、人斬りの集団になる、という気はなかった

浪士組を組織した、清河八郎に利用されたくないという思いで、袂を分かち、芹沢鴨らと壬生浪士組を結成して会津藩預かりという形で、京の警備に当たる事となった

規律、と土方が言い山南が強調したのは、芹沢鴨らを抑える為ではなかった

もともと規律を守る事とは無縁の集団であったが、芹沢一派を粛清する為に規律を持ち出したに過ぎない

芹沢は粗暴だったが腕は立っち、また、人を魅きつけるものを持っていた

土方と山南が担ごうとしていた近藤勇は、腕は芹沢と互角だと思えたが、人の好きさと地味な性格で、頂点に立つ男としては見劣りすると思えた

壬生浪士組を自分達のものにする為の、規律だったと言っていい

壬生浪士組はやがて新選組となり、禁門の変を迎える事となる

 

芹沢一派の排除は、粛清というより暗殺で、周到に準備を整えたのが土方と山南だった

あの時から、手は汚れていた、と土方は思っている

 

「私の怪我の事を思っているなら」

 

山南が土方を見てふふふと笑った

 

「前よりは、大分マシになってますよ。前ほどの動きは出来ませんが、剣を取る事は出来ます」

 

「そうなのか」

 

山南が戻ってくれば、新選組にはもう1本しっかりした柱が通る事になり、新しい隊士の受け入れもやりやすくなる筈だった

しかしやはり、土方にはどこか危惧があった

なにがどうとは言えないが、妙に不吉な気がしてならなかった

 

「とにかく、沖田君はしばらく休ませる事です」

 

「あんたの様に、しっかり休んでくれればな」

 

土方の言葉を皮肉と取ったのか、山南は何も言おうとはしなかった

 

動乱の中に身を置きたい

江戸で、浪士組と微募に応じた時は、皆同じ気持ちだった

政治というものは甘くない、と思いしらされたのが、微募の中心人物でたった清河八郎の動きだった

なんと、清河は勅定という手段で、浪士組を勤皇に取り込もうとした

江戸での動きを考えていたのだろうが、清河に倒幕という考えがあったかどうかは分からない

将軍家警固の為の浪士組であるので、幕府の許可が無い限り江戸へは戻れない、というのが清河に対して取り得た、唯一の政治的手段だった

京に残ったのは僅か二十数名で、会津藩に頼るしかなかった

 

確かに、動乱の中に身を置いた

新選組として、その存在は多少は認められはじめていた

どういう認められ方かははっきりしたのは池田屋だったと、土方は思う

それは、山南も同じだろう

手柄を立てたと、単純に喜んでいる近藤とは、その辺りの考え方は根本的に違っていた

新選組は、極論すれば、人を斬る事によってこれから存在を認められていく

池田屋で、その方向ははっきりしたと言っていいだろう

その先には、何があるのか……

 

「もう、京もすっかり暑くなりましたね……」

 

「暑い夏か。二度目になるな」

 

江戸から上京して、また二度目の夏を迎えようとしている

 

芹沢鴨の一派を暗殺して新選組の主導権を握ってから、まだ一年経ってない

もう何年も京に居る様な気分だ

 

「長州は、夏の間に動くでしょうか?」

 

「どうだろうな。俺は、意外に早く動く気がする。人間の激情は、それ程抑えられねぇよ」

 

山南が低い声で笑った

 

「私も、怪我の養生で、気が長くなったのかもしれません」

 

「相手が浪士ではなく、長州藩という事になれば、新選組は会津藩の指揮下に組み入れられるだけだろ」

 

「……土方君。 貴方は何を望んでいるのですか?」

 

自分でもよく分からなかった

これからも、浪士狩りを続ける事となるだろうが、そこに活路はあるのか

 

もともと、土方も山南も浪士である

幕府に恩願を受けている訳ではない

それでも、会津藩は幕府への忠誠を求めてくる

 

「なぁ、山南さん。清河は何がしたかったんだろうな」

 

「私も時々考えますが、私もよく分かりません。 詐欺師の様でもあり、誰よりも遠くを見ていたという気もします。 将軍家が、何も勤皇に反するという事ではありません。 清河は早すぎた……という気もします。 公武合体の動きに上手く乗れば、何か私達が思いつかない様なものを作る事が出来たのかもしれません」

 

「俺達は、早すぎたのか、遅すぎたのか?」

 

「遅すぎた…。 土方君はそう思っているのでしょう? 芹沢さんなどを始末するのに、時を掛けすぎたのではないでしょうか。 いえ、はじめから芹沢さんとは違う道を選ぶべきだったのかもしれません」

 

「俺は、遅すぎたとは思ってない。道は、まだある筈だ」

 

言ったが、空しさに似たものを土方は感じていた

自分の様な田舎侍が泳いでいくには、時勢の流れが早過ぎる

 

新選組も会津藩にうまいものを食わされていくのかもしれなかった

それに毒が混じっているとしても――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

不知火登場シーンです

というか、これは何夢だ・・・??

イマイチ、不知火のキャラが掴めません

合っているだろうか・・・_(‘ω’;」∠)

 

土方さんと山南さんの真面目な話

要は薩摩は信用ならないって事です

 

2010/02/11