櫻姫抄乱
 ~散りゆく華の如く~

 

一章 疑心 4

 

 

 

あれから数日――――

 

さくらの体調も回復し、もう起き上がっても大丈夫な様になった

食事もちゃんと取る様に言われ、起きれる様になった日から幹部の皆と一緒に食事をする様になった

 

まぁ、きちんと食べるか ていの良い監視とでも言うのか

 

土方に怒られてからは、さくらも反省した様で、大人しく従っている

食べない事での反抗もあったのだろうが、それも今では収まっている

 

そんなあくる日の朝

 

「あ・・・」

 

「ん?」

 

数日振りにばったり土方と会った

食事の時以外いこうして面と向かって会うのはあの日以来だった

 

「・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・」

 

お互い、顔を見合わせて無言になる

さくら何かを思い出したのか、サッと頬を赤らめ視線を逸らす

 

「・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・おい」

 

「・・・・え!?」

 

急に声を掛けられ、さくらはハッとする様に、声を上げた

 

「・・・・・・・・・・」

 

そのさくらの反応に、土方がムッと眉を寄せた

 

「・・・・・・おい」

 

もう一度、声を掛けられる

 

「あ・・・、はい」

 

今度は、少し躊躇いがちに顔を上げ返事をした

 

そんなさくらを見て、土方は はぁ…と息を吐いた

 

「・・・・・・お前、あの事なら気にするな。 あれはその・・・なんだ、一種の気の迷いっつうか・・・・」

 

土方が少しどもりながら、何やらぶつぶつと言い訳がましく呟く

 

「・・・・・・・・・・」

 

さくらはぽかんと口を開けたまま土方を見た

思わず、まじまじと土方を見てしまう

何故か開いた口が塞がらない感じだ

 

さくらの意味深な視線に気付き、土方は少し頬を赤らめ、ムッとした

 

「・・・・・・なんだ。何か言いたげだな」

 

「いえ・・・・・・」

 

言っていいものか・・・・

 

さくらは意味ありげにくすっと微笑んだ

更に、土方の眉間の皺が寄る

 

「何だか、土方さん可愛いな・・・・・・と」

 

そこまで言いかけて、さくらはあっと口を押さえた

ちらっと土方を見ると、耳まで赤くなって、ぷるぷると震えていた

 

「あ・・・・、す、すみません、つい・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・」

 

言い直すが、時既に遅し

 

怒髪天に達するかと思われた、土方の怒りは不意に余裕のある笑みに変わった

 

「・・・・・・ふ、言うじゃねぇか」

 

ふっと笑みを浮かべ、腕を伸ばしてくる

 

「・・・・・・・・・!?」

 

ガシッと頭を掴まれ、ぎりぎりとこめかみを絞められた

 

「・・・・・・痛っ、・・・・痛いです」

 

「痛くしてんだよ」

 

ぎりぎりと更に力を込められる

だが、立ち込める雰囲気は何処となく穏やかだった

 

単にじゃれてる様にしか見えない

 

絞められているのに、自然と笑みが零れる

 

「・・・・・・あ、あのっ、土方さん。 そろそろ、やめて頂けると・・・・」

 

そろそろ本気で痛いので止めて欲しいのだが

さくらはくつくつと笑いながら、頭を押さえた

 

「なら、あの事は忘れるか?」

 

「・・・・・・・・・・」

 

思わず、視線を逸らす

 

「ほーぉ、まだ足りねぇ様だな」

 

ぎりぎり

 

「・・・・・・忘れます。 忘れますから」

 

さくらは慌てて訂正する

「なら仕方ねぇな」と土方はようやっとさくらを解放した

 

さくらはほっと胸を撫で下ろした

 

「土方さん、冗談通じない方なんですね」

 

「ああ?」

 

「・・・・・・なんでもありません」

 

ギロッと睨まれ、さくらは口をてで押さえ、知らぬ顔で視線を逸らした

土方はふんっと鼻を鳴らし

 

「・・・・・・飯は食ってるのか?」

 

「・・・・・・え?」

 

唐突に聞かれ、さくらは首を傾げた

 

「だから、飯は・・・・・・」

 

「あ、はい。 頂いてます」

 

何を言わんとするのか分かり、さくらは返事をした

 

「そうか・・・・ならいい」

 

食事をしているかなど、普段の食事風景をよく見ていれば分かるものを…

どれ程も自分はこの人の視界に入っていないんだな とさくらは痛感した

 

それとは、逆にこうして普段以外も気に掛けてくれているんだな と感じる時もある

 

矛盾している様な…何とも言えない気分だった

 

「あ・・・・・・」

 

「・・・・ん?」

 

「あの・・・・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

春の日差しが真上に来た頃

さくらはパラッと書を捲った

 

先ほど、昼餉も食べ、少し動きたい気もしたが、下手に動けないので仕方なく部屋に引き篭もっていた

特に、やる事もないし、日な日なぼーとしているのも味気ないので、書物でも読んでみようと思った次第である

 

さて、いざ読もうと思ったものの…誰か書など持ってるのだろうか

仮にも、ここは人斬りの壬生浪士組と言われる新選組である

とても、書を読んでいそうな人など居なかった

 

どちらかというと、皆考えるより身体が動きそうよね

それも言い過ぎかもしれないが、さくらにしてみれば、誰も大差ない気がした

 

「・・・・・・・・・・」

 

少し、考え近藤に聞いてみたが、意外な言葉が返って来た

 

『書物?』

 

『はい。 時間を持て余してまして・・・・・・何か貸してもらえないかと・・・』

 

『何で俺に言う』

 

『近藤さんにお伺いしたら、そういう事は土方さんか山南さんの方が良いと言われましたので』

 

『じゃぁ、山南さんの所に行けよ』

 

『山南さんにお会いする前に、土方さんに会ったので・・・・・・』

 

『・・・・・・っち』

 

『・・・・書物お読みになるんですか?』

 

『・・・・・・悪いか』

 

そう言った、土方の顔が何とも言えず可笑しかったが…

それを指摘したらまたこめかみを絞められそうなので、黙っておいた

 

そう言う経緯でさくらは書物を読んでいた

 

土方に借りたのは、河中島合戦記や奥羽永慶軍記、太閤記など所謂”軍記物”である

様は女子が読むような源氏物語などは無いとの事だ

まぁ、当然といえば、当然なのだろうが

 

これが意外に面白かった

 

予想外にハマってしまいそうである

 

気分良く、書を読んでいると、とんとんっと戸を叩かれ、ひょっこり千鶴が顔を出した

 

「千鶴?」

 

「さくらちゃん今いい?」

 

「・・・・・・・・・・?」

 

「ふふ~」

 

千鶴はえへへっと笑い、何やら含みのある言い方をした

 

「・・・・・・構わないけれど」

 

別に、暇だから書を読んでいただけである

特にこれといって用事がある訳でも無かった

 

その一言を聞くと、千鶴は「やった」と声を上げ部屋に入って来た

 

「実はね、さっきこれを作ってきたんだ。 一緒にどうかな?っと思って」

 

そう言って、差し出したのは、練った漉し餡をを団子の上に乗せて食べる小豆餡だった

所謂、蓬団子である

それに付け加える様に、お茶が添えられていた

 

「・・・・・・頂きます」

 

その返事を聞くと、千鶴は嬉しそうに団子とお茶を差し出した

さくらは一口、お茶を飲むとそっと団子を手に取った

そして、口に運ぶ

 

その様子を、期待の眼差しで千鶴が見ていた

 

漉し餡の甘味が丁度良く口の中で広がった

 

さくらが千鶴の視線に気付き、にこっと微笑む

それを見た千鶴は、「よし!」という感じにぐっと拳を握った

 

「・・・・・・・・・?」

 

千鶴のその様子が可笑しくて、さくらはくすくすと笑った

 

「やったーさくらちゃんが笑った!」

 

突如、千鶴が嬉しそうに声を上げた

 

「・・・・・・え?」

 

不意に掛けられた一言にさくらがきょとんとする

 

「お団子作戦成功!」

 

自分の事の様に千鶴は万歳をして喜んでいた

 

もしかして・・・・・・

 

さくらは団子と千鶴を交互に見た

 

これって、私の為・・・・・・?

 

知らず、表情が硬くなっていたのか・・・・・・

千鶴は嬉しそうに微笑み

 

「やっと笑顔が見れた。良かった~」

 

千鶴はそう零すと、ほっと胸を撫で下ろした

そんな千鶴が一層可愛く見えて、さくらはくすっと笑い、千鶴をそっと抱きしめた

 

「え? え? さくらちゃん?」

 

突然の抱擁に千鶴は驚いた様にさくらの名を呼んだ

 

「・・・・・・・・・・」

 

さくらは答えなった

答える代わりに、ぎゅっと千鶴を抱きしめた

 

「さくらちゃん?」

 

千鶴がぽんぽんっとさくらの背を叩いた

さくらはもう一度、ぎゅっと抱きしめると、ゆっくりと手を離した

 

「さくらちゃん?」

 

千鶴が心配そうにさくらを見ている

さくらはそんな千鶴に心配を掛けまいと、にっこりと微笑んで見せた

 

そして

 

「ありがとう。千鶴」

 

そう呟くと、スッと頭を下げた

 

「ええ? やだ・・・・頭上げてよ」

 

急に頭を下げられた事に驚き、千鶴は慌てて手を振った

 

「さくらちゃんにそうして欲しくて作った訳じゃないんだし・・・・・・」

 

うん 分かってる

 

こうする事で、千鶴が困る事も分かっている

でも・・・・・・・・

 

「でも、お礼が言いたかったの」

 

そう言って、さくらはにっこり微笑んだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから、他愛も無い会話をして少し経った頃だろうか

 

「あっれー千鶴とさくらじゃん」

 

ひょこりと藤堂が姿を現した

 

「平助?」

 

その後から原田も顔を出す

 

「お! 美味そうな物食ってるじゃん! オレにもくれよ」

 

目ざといというか…

藤堂は、団子に目がいったらしく、「オレもオレも」と指差した

千鶴が、はいっと差し出す

 

「平助、お前はまた勝手に……」

 

原田が半ば呆れた様に声を漏らした

 

「ふふぇ? しゃのさんもたへないの?」

 

藤堂が口をもぐもぐさせながら、声を漏らす

その様子を見て、原田は はーとため息を漏らし

 

「まずは、食べるか喋るかにしてくれ」

 

「ん……もぐもぐ」

 

「食うのかよ」

 

その様子が可笑しくて、さくらと千鶴はどっと笑いだした

その様子を見て、原田がふっと笑う

 

「左之さんのせいで笑われたじゃんかー」

 

「俺のせいかよ」

 

とか言いつつ、藤堂の手が次なる団子に伸びる

 

ぱく

 

「・・・・お前、どんだけ食うんだよ」

 

もぐもぐ

 

「おい」

 

ぱく

 

「聞けよ」

 

もぐもぐ・・・・・・ぐっ!

 

「むーむー!! むひゃ! むひゃ!」

 

「あーはい。 お茶ですね」

 

千鶴がどーぞとお茶を差し出した

藤堂はそれをバッと受け取り、んぐんぐと飲み干す

 

「っぷはー! 死ぬかと思った」

 

喉に詰らせていた団子がやっと通ったのか、藤堂は はーと息を吐いた

 

「・・・・・・お前、団子喉に詰らせるとか…間抜けすぎ」

 

くくくと原田がお腹を抱えていた

 

「平助君。 そんなに急がなくてもお団子いっぱいあるから・・・」

 

「少し、落ち着いた方が・・・・・」

 

千鶴とさくらもくすくす笑っていた

「なんだよー。 皆笑いすぎ!」

 

藤堂がむぅ…と剥れてぼやいた

 

「・・・・・・ちゃんと笑えてるな」

 

「え?」

 

不意に掛けられた原田の言葉に、さくらはきょとんとした

原田も藤堂も千鶴も 皆、笑っていた

 

自然と笑みが零れる

 

「・・・・・・はい」

 

さくらも微笑み、そう答えた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅せぇよ」

 

夕餉の時間になって、皆で広間に向かったら永倉が迎えてくれた

 

「おめぇら遅えんだよ。 この俺の腹の高鳴りどうしてくれんだ!?」

 

腹の高鳴りって……

 

「新八っつぁん、それってただ腹が鳴ってるだけだろ? 困るよねぇ、こういう単純な人」

 

「なにおう!?お前等が来るまで食い始めるのを待ってやった俺様の寛大な腹に感謝しやがれ!!」

 

「新八、それ寛大な心だろ……」

 

半ば呆れたような原田の声が聞こえて来るが気のせいではないらしい

 

「まぁ、いつもの様に自分の飯は自分で守れよ」

 

「はーい」

 

「はい」

 

千鶴とさくらが返事をする

 

「ち、今日も相変わらずせこい夕飯だよなぁ…」

 

そうぼやきながら、永倉がちらっと隣の藤堂の膳を見た

の瞬間

 

「っという訳で……隣の晩御飯、突撃だ!」

 

サッと永倉の箸が藤堂の膳にある小魚に伸びる

 

「わははははは。 弱肉強食の時代、俺様が頂くぜ!」

 

「ちょっと、新八っつぁん! 何でオレのおかずばっか狙うかなぁ!」

 

「ふはははは!それは身体の大きさだぁ! 大きい奴はそれなりに食う量が必要なんだよ」

 

「じゃぁ、育ち盛りのオレはもっともっと食わないとねー」

 

「さくら、千鶴。 毎回毎回、こんなですまないな」

 

何故か原田が済まなさそうに謝罪の言葉を述べた

 

「・・・・・慣れましたから」

 

「・・・・・・あはははは」

 

千鶴、笑ってるけど笑い事じゃない気がするわ・・・・・・

 

「・・・・慣れとは恐ろしい物だな。 ・・・・・・このおかず俺が頂く」

 

すかさず、斎藤の突込みが入った

ついでに、藤堂の膳に箸も入った

 

「だからー! なんで皆してオレのおかすばっか狙うかなぁ!」

 

「平助、諦めろ」

 

原田がやんわりと藤堂を突き放す

 

いや、諦めたら終わりだと思います

 

「あれ? 沖田さんはもう良いんですか?」

 

箸が止まっている事に気が付いた千鶴が沖田に尋ねた

 

「うん。 あんまり腹一杯に食べると馬鹿になるしね」

 

そう言って、酒の入った杯を口に付けている

 

「おいおい馬鹿とは聞き捨て……だが、その飯いただく!」

 

シュパッと永倉の箸が沖田の膳に入った

 

「どうそ、僕はお酒をちびちびしてれば良いし」

 

沖田は特に気にした様子も無く、杯の酒を飲んだ

 

「んじゃ、俺も酒にするかな」

 

原田も箸を置き、自分の杯に酒を注ぐ

 

「注ぎましょうか?」

 

「お、悪いね」

 

そう言って、さくらは原田の杯に酒を注いだ

 

「あーずりぃ! 左之さん!!」

 

藤堂がオレもー!と挙手する

さくらはそれが可笑しくて、くすくす笑いながら藤堂の杯にも酒を注いだ

 

「さくらちゃんと千鶴ちゃんは、ただ飯とか気にしないで、お腹一杯食べるんだよ」

 

沖田がにこにこ笑いながら、さくらと千鶴に食を勧めた

 

「・・・・・・・・・・」

 

「・・・・わ、分かってます。でも、少しは気にします!」

 

千鶴の「気にします」に心なしか力が篭っていた

 

「気にしたら負けだ。自分の飯は自分で守れ」

 

斎藤がぼやく様に、呟く

 

「は、はい」

 

・・・・・・・・・・・・

 

何だか・・・・夕餉は1人で食べる事が多かったから、皆に囲まれて食べるって不思議な感覚だった

 

今までは、ただ帰りを待つだけで夕餉を共にする事は無かった

だからなのか、不思議と嫌な気持ちでは無かった

 

自然と笑みが零れる

 

「さくら。 最初っからそうやって笑ってろ。 俺等も、お前を悪い様にはしないさ」

 

「・・・・・・原田さん」

 

原田はさくらを見て、満足げに目を細めた

 

千鶴といい、原田といい

 

私、そんなに暗い顔してたのかな・・・・・・

 

皆、落ち込んで見えた自分を気遣ってくれていたのかもしれない

なんだか、複雑な心境になって、さくらは思わず胸を押さえた

 

半分は、申し訳ない気持ち

もう半分は、嬉しい気持ち

 

胸がぽかぽか温まって、不思議と顔が綻んだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

皆とじゃれあおうの回www

キャラ的にうちの夢主はあまり、じゃれあうという事をしませんがねー笑

 

 

 

 

 

2009/07/12